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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
客体:疑義放免

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118/200

118_継暦136年_冬

 ガルフ氏の目的はダルハプスの情報。

 拙者の目的はシメオン男爵の情報。

 利害の利については折り合う、害は特にないとなれば手を取り合う頼みも頷いてもらえた。


 正確なことを言えば拙者の仕事はシメオン卿の情報そのものではなく、

 おそらくは彼が関わっているであろう研究の、その成果を片っ端からいただいていくこと。

 拙者では何がザールイネス殿の望むものかまで判断はできんでゴザルからな。


 とはいえ、いきなりそこに向かうのは難しいだろうという判断。

 地道に一歩目から、ということでシメオン男爵のアレコレを調べることにしたわけでゴザルよ。


 ルートや監視に関してはガルフ氏があれこれと手を回してくれている。

 全面的に信頼しているわけではないので、脱出ルートなんかの準備はバッチリしている。何せニンジャでゴザルからな。


「ガルフ様」


 メイドのフリをするために口調も改める。思わずいつものクセで敬称を『氏』を使わないようにしなければならぬのだ。


 事前の話し合いをするべく、昼食時を狙って落ち合う。


「なんだ」


 傍目からは警備責任者とゲストの名代という風にしか見えないだろう。


 潜入について濁したり、筆談であったりによって意見をすり合わせたあとに拙者はちょっとした疑問をぶつけることにした。


「シメオン男爵は貴方にとってどのような方なのですか?」

「危なっかしいが、夢を見せてくれるお人ってところさ。

 男爵が成り上がってどこまで行けるのかを見たいんだ、俺は」

「果ては伯爵に、と?」

「王になってほしいくらいだがね」


 口ぶりこそ冗談めかしているが本心からの言葉だ。

 これも一種の忠誠心ってやつなのでゴザろうな。


「そこまで惚れ込むになにか理由がおありなのですか?」

「踏み込んでくるねえ」

「ご気分を害したようでしたら言い方を改めます」

「聞くのは止めねえんだな。ハハハ、おもしれえ。

 いいよ。その面白さに免じて答えるさ」


 ───────────────────────


 ガルフを雇用するには第三者なり、何かしらの組織なりに渡りを付けるのが近道である。

 冒険者であれば冒険者ギルドがあるように、血錆(ブラッドタグ)などと呼ばれるものたちに仕事を手配するものは少なからず存在していた。

 ただ、今回に限って言えば、ガルフがシメオンに雇われたのはそうしたルートからではなかった。


 夜。その日は雨が強く降っていた。


 ガルフは仕事半分、趣味半分で受けた仕事──押し込み強盗に見せかけて男爵を殺せという依頼──を進めるためにシメオンの邸へと踏み込んでいた。

 その当時から既に邸を回す人員は隷属によって殆どが完結している。

 護衛は数名いたものの、ガルフが本気になるまでもない相手だった。


 雨という条件もガルフにとって都合がよかったし、或いはただでさえそれほど優れた兵士でもない邸の守りは雨によって襲撃者を察知するまもなく斬り伏せられた。

 立ちふさがった中で生き残っているものは一人もいるまい。それがガルフの判断であった。


 彼の目の前には椅子に座り、書物をしている貴族。

 シメオンであろうものに対して刃を向けると、押し入りらしい言葉をガルフは吐くことにした。


「金目のものをよこしな。そのあとに命も貰うが、死んだ向こう側じゃこっちの資産は使えないだろう」


 或いはその言葉は押し入りよりも攻撃的なものであったか。


「待ち給え。

 ……よし。ああ、ええと。

 ガルフ君だったね」

「俺を知っているのかい」

「当然さ。男爵の多くは君のファンだからね。勿論、私もさ。

 こうして静かな夜に君と邂逅できること、雨に感謝するべきかな」

「ファン?」


 まったく臭い言い回しをする男だとガルフは思うも、貴族とはそういうものだという認識もある。

 ファンであると言われなければ、

 『そういうセリフはどこぞの御婦人にするんだな』と刃とともに一蹴していただろう。

 だが、この状況でファンなどと言ってのける男が何を言うかの興味が勝った。


「自由に生きることのできる存在はね、

 我々のように些事に縛られている男爵にとっていつだって憧れを向ける対象なのだよ」

「言うほど自由じゃあないさ。

 今もこうしてお前さんから金と命をせびらないと明日の酒も飲めるかわからない。

 金に縛られた俺が自由だと」

「それでも貴族たちのくだらない慣習に比べれば」


 それと比較されれば、流石のガルフも肩をすくませて、

「持ち出すのは反則だろ、それは」

 と、おどけながら言うのが精一杯になる。


「外で戦ってきたものたちはどうだったかな?」

「そこらの老人のほうがマシだな」

「手厳しい。

 戦闘に関しては中々うまくいかないものだ。

 かつての時代に存在したオートマタを復元しようとは思っているのだが、やはりベースを人間にする時点で話にもならないのだろうか。

 オートマタは人の似姿であるなら、人間もオートマタの似姿というわけだし、成果になるものが出てくると思ったが……」

「賊の一人も倒せないようじゃ、失敗だったな。何かまではわからんが」

「だが、完璧でもあったと思わないかね」

「完璧? ……まあ、たしかに統率は異常なほど取れていたな。まるでソシアルダンスを見ているかと思うほどにな。

 で、それがどうした」

「ふふ、そうか。いや、今度はいい言葉をもらえたと思ってね。

 ガルフ君。

 殺すか殺さないかの前にもう少し話をしてみないか」


 棚に飾られていた酒を掴む。

 ここでシメオンを殺そうと、雨が上がるまでは邸にいたほうが何かと楽ができるからこそ、その雨上がりまでは時間はあった。

 酒の瓶をあけ、一舐めして毒かそうでないかを確認しながら、


「お前さんの運命は変わらんと思うがな」

「では、続けさせてもらうよ」


 脅しに近いガルフの言葉にも動じず、言葉を続ける。

 シメオンの度胸にガルフは苦笑いすら浮かんだ。


「都市や街は非効率的だと思わないか。

 それぞれの意思で動き、最低限の仕事と、最高率の趣味を繰り返す日々。

 もしも民草が全員、主のために働き続けたならどれほど巨大な国を作れると思う」

「そこで好き勝手する王様になりたいってことか」

「そこまでの欲は私にはないよ」


 今までも多くの人間が『自分には欲がない』などと言ったのをガルフは聞いていた。

 男爵や子爵であれば多くがそのようなことを言って、美徳としていた。

 ただ、美徳とは多くの場合建前であり、建前とは実際的な状況になればあっさりと剥がれ落ちる。


 しかし、シメオンの口ぶりは本当に欲がないようにも感じた。

 その欲のなさは、例えば下戸に酒を勧めたときや、肉食を好む相手にサラダを勧めたときのような。


「じゃあ、なんだ」

「私もその機構(システム)の一部となることを望む。

 その中枢にあるものを王と呼ぶならば、そうだな……前言を翻すことになるだろう」

「果てになにがある、その統治に」

「絶大な秩序と平和だよ。

 私はそれを志向する。だからこそ、その対局にいる自由である君のファンなのだよ」


 内容が繋がらないなと言わんばかりの表情を見ながら、シメオンは言葉を続けた。


「自由だとされる君こそ、自由を一切許さない私の理想を観測するに相応しいと思っていた。

 私の首を穫るでも構わないが、それで得た金で酒を飲むよりも楽しい時間を提供できると思うよ」


 自由を自分で失おうとするシメオンを理解できない。

 ガルフの考えはそこに一貫している。


 だが、そこに凝り固まるほど視野が狭いわけでもない。

 むしろ彼にとっての自由とは生存競争の中で培われた能力である。信条というよりも機能なのだ。


 であるからこそ、

『楽しそうなことであれば、それに乗る』という享楽的な心理的刺激だけで判断することもある。

 シメオンの命を奪わず、彼の目的を知った上で領地を見渡せば実現などできるとも思えなかった機構(システム)の理想は、むしろ単純に世界を支配したいなどと夢想することよりも現実的にすら思えた。


 流行り病が人々に感染するように、シメオンの隷属を広げることができるならば。

 戦いには向かずとも淡々と命じられたままに領地に尽くし、繁栄させられるならば。

 今までの歴史に現れなかった恐るべき大国が出現する可能性は否定できない。


 普通ならば不可能だとも思えることを、シメオンであればやりかねないと思わせる魔的な魅力が彼にはあり、だからこそガルフは理想を手伝った。

 自由が消え去るとしても、自由というものの最後の所持者になれるならばそれはそれで自由という機能を生得した人間の敗北ではないか。

 そうした敗北を得る自由も楽しそうだと考える妙な感覚をガルフは癖として持っているところもあった。


 だからこそ、ガルフは許せなかったのだ。

 機構による秩序、自由なき国の王を作ろうとするシメオンが、誰とも知れぬ不気味な存在に操られているのが。

 それはシメオンが求めている秩序の美しさを汚すものだ。


 ガルフの自由は生物としての機能ではある。

 そして、生物であればこそ本能のなかで不快であると考えたものを理屈抜きで排除しようとする。

 シメオンに考えがあろうと、ガルフはあくまで自由のもとに協力しているに過ぎない。

 厄介な男をシメオンは味方に付けたわけだが、それも含めて、ガルフを雇うことを求めたのもシメオン自身の判断であった。


 ───────────────────────


「難儀な人ですね」

「俺がか、それともシメオンの旦那がか?」

「両方です」

「言うね」

「性分ですので」


 性分と言われれば抗えない。

 ガルフが裏切りをしているのとて性分であると言われればそうなのだから。


「そういうメイドさん、アンタは?」

「ガルフ様が本能や機能としてシメオン男爵の生存を求めたように、

 私も抗えぬもののために行わねばならないことがあります」


 それについての答えはもらえないのだろう。

 言葉尻からそれを判断するガルフは、女が秘密にすることを無理に聞き出すほどの無粋を好まない男でもあった。


「そうかい。

 それじゃあ、お互いの理想のために気張るとしようや」


 そういうことになったでゴザル。

 ……問われたときの言い訳に頭を悩ませずに済んだ。


 ───────────────────────


 探索初日。

 シメオンが仕事場にしているところへの潜入。

 まー、依頼の上で見るべきものはないでゴザル。流石に研究関係のものは持ち込まないでゴザルよね。


 ただ、結構な資金の流れがビウモードへとあるというような内容の書類を見つけたでゴザル。

 資金の出処は同盟の男爵から吸い上げたものっぽいけど、

 そこから読めるものは今のところはないので、今日は撤退。


 ───────────────────────


 探索二日目。

 ガルフ氏が目星を付けていた倉庫へ侵入。

 書類がたくさんあるらしいでゴザルが、その通り。

 ただ、量が多すぎるでゴザル。


 幸運が舞い込んでも来た。

 書類は『どこになにを運べ』とか『どこになにが足りないから買って欲しい』といった依頼書のようであり、その一部一部から読み取り、組み合わせることで得られるものがあった。


 組み合わせた結果として浮かび上がってきたのは邸の見取り図。

 どうにも拙者が記憶しているものとも、ガルフ氏が渡してくれたものとも違う。

 翌日にそのことをガルフ氏と相談した結果、そこが研究所ではないかという予想が立った。


 着実な前進をしているでゴザルね。

 よい兆候。


 それに加えて、前日の資金の流れに関して、どうにも帳簿をイジっているというか、金の流れを不透明にしている部分があるようにも感じる。

 シメオンはビウモードへ金を流しているのはもしかして同盟に無断でやっていることなのでは。


 ───────────────────────


 探索三日目。

 当主殿が本格的に会議に参加しはじめたそうでゴザル。

 タイムリミットが近づいてきたってことになるのでちょっと焦り。


 研究所と目されるところはシメオンに大いに立ち入りを禁じられている付近にあるらしく、

 今後の信用問題を考えるとガルフ氏も手伝えないということなので、単身で昼も使って下調べ。

 現状でもガルフ氏の動きが雇用主にバレておらず、このままバレずに進行するなら確かに下手に信頼度は下げたくはないでゴザろうな。


 スキマ時間の有効な活用ってヤツに成功しているでゴザルよ。拙者は働きものだなあ。

 元々存在した地下壕か、地下水路か何かを再利用しているらしく、逃げ道として困ることはなさそうでゴザった。

 もしかしたら、そもそもがそういう用途の場所に研究所を新たに置いたって話なのかもしれないでゴザルなあ。


 研究所自体は、術を研究している施設であればよくある感じ。

 仕事柄この手の施設はよく見ているし、知っているでゴザル。


 そこに非合法って側面を足すと、あるものと言えば……人体実験でゴザルよなあ。

 結構エグめの実験がされているっぽい。

 研究者の数はそう多くないのは数を絞っているのでゴザろうなあ。

 信頼できるものがあまり見つけられなかった様子が伺える。


 施設の中央には少年の亡骸が大きなガラス容器(フラスコ)に眠っている。

 全体像を見なければ眠っているようにも見えるが、首は胴体から離れていて、明確に死を迎えているのはわかる。


 パっと見るのであれば、顔立ちこそ整っているものの、どこにいてもおかしくはない少年の亡骸でしかない。

 ただ、因果な商売(ニンジャ)をしている拙者からすると、それは少し違和感を受ける。

 断面から見えるものがいずれも精巧にして精緻なる作りをしていた。

 人間の断面過ぎた。人は、誰もが同じ作りをしているわけではない。どこか歪なのが人間というものだ。

 であるのに、この亡骸は人間として完璧すぎる。それがどうにも引っかかった。


 本邸の真下に隠していることや逃げ道があること、

 調べてもここ以外に研究所についての言及は見当たらなかったことから、この研究所以外に目当てにする場所はないと考えてよかろう。

 であれば、ここの資料を持ち出す手段を整えれば依頼はバッチリ。


 ダルハプスのことを探る前にザールイネス家の依頼を達成することになってしまったようでゴザルな。


 ただ、こっちの都合であっさりガルフ氏との約束を違えて去っていくというのはニンジャの沽券に関わる。

 もう少しばかりその辺りのことをここで調べ回ってみよう。


 ───────────────────────


 ニチリンが研究所を探っている一方。


 夜を徹す勢いで会議は踊っていた。

 そして、ようやく男爵たちは踊り疲れたのだ。


 元々は男爵同盟が今後どのように各地に働きかけるか、資金調達はどうするかなどが主だった内容であった。

 男爵の多くは経済的か軍事的に追い詰められているケースが多く、自領の繁栄のため、最低でも存続のためともなれば資金調達辺りの話は大いに盛り上がり、或いは足を引っ張り合っていた。


 ビッグウォーレンをはじめとした、同盟の参加にあまり積極的ではない男爵はいたものの、あまり裏のない、いうなれば本当にただの男爵の互助であることがわかると途中で離脱するようなものはいなかった。


 弟たちが被害を受けている以上、ビッグウォーレンは諸手を挙げて協力するような態度にはなりはしないものの、彼もまた利があるのであれば協力に応じるつもりではある。

 食わせなければいけない領民がいる以上は私情だけで動くわけにもいかないのだ。


 ある程度話が纏まった頃に一人の男爵が発言の許可を求める。

 進行係がそれを認めると男爵がゆっくりと立ち上がる。


「兄上に代わり名を引き継いだタッシェロだ。

 先代タッシェロは多くの方に世話をかけてしまったと思う。

 それについて謝罪と感謝を」


 ささやかな拍手。

 幾名かは涙を見せた。演技ではない。前タッシェロは愛されていたのだろう。


「来場している何名が男爵同盟が行おうとしている、まことの目的を知っているだろうか」


 その言葉に表情を変えたのは数名。

 シメオンは変えなかったが、瞳だけはタッシェロを見据えていた。


 数名はなんのことやらわからず、ひとまず清聴の姿勢を取っている。

 ただ、そこに含まれるビッグウォーレンは周囲の男爵と違い、危険臭を感じ取っていた。


 タッシェロが続ける発言がこの会議を荒らすようなものな気がしている。

 そして、その荒らし方は刃傷沙汰に発展しかねないのではないか、と。


(若い頃に冒険者身分を楽しんでいた頃、酒場で感じた喧嘩が始まる空気感。

 あのどこかピリついた、誰かが機会を睨んでいるような……あの気配に似ているが)


 武器の類は会場には持ち込めない。

 以前にしたシメオンとの話し合いの場よりも制限は強く、武器だけでなくいずれの配下も連れ立ってはいけないとされていた。

 寸鉄の一つも帯びていないビッグウォーレンはその(いかめ)しく、何事にも動じることがなさそうな外見とは裏腹に、少しだけ不安感を募らせた。


「男爵同盟はただの互助をするための関係ではない。

 我らはカルザハリ王国が三賢人が遺したとされる永遠の命について研究をしていたのだ」


 同盟にもヒエラルキーじみたものがある。

 多くの知識、資金、武力があるものは階梯を上がる

 タッシェロはその点で言えば武力以外は持ち合わせている家であり、シメオン家との繋がりも古くから存在している。

 だからこそ、同盟の存在、その中核についてほぼ全てを理解していた。


「その成果は華々しいものとなった。

 我ら男爵家には秘術がある、しかし、その秘術を他の血統に渡すことができぬような仕組みとなっていた。

 しかし、永遠の命の研究の途中でそれらを突破する術も見つけることができたのだ」


 理解していたつもりだった、というべきかもしれない。


「これは魔術、請願に並ぶ偉大な力となる可能性のあることである」


 一同からは「おお」と賛同や称賛めいた声が漏れる。


「そうした未来を作り出したのは他ならぬ、我らが盟主と言って差し支えない人物……シメオン卿の功績だ!」


 万雷の拍手。

 しかし、それを返すように「だが!」とタッシェロは声を張る。


「シメオン卿!

 貴方に問いたい!貴方は我らを裏切ってはいないのか!

 ダルハプスというアンデッドについて、何かご存知ではないのか!

 そのアンデッドに我らの功績を売り渡している嫌疑が貴方にはあるぞ!!」


 拍手は一点、沈黙へと変わる。

 進行役は重苦しくなった空気に耐えながら、


「シメオン卿、発言を」


 そう促した。


 ゆっくりと立ち上がったシメオンは焦る様子も、追い詰められた様子もなかった。


「まずはタッシェロ卿。兄上に弔意を」


 ふてぶてしいと言えるほどに丁寧な態度でそれを示した後に、彼は言葉を紡ぐ。


「ダルハプスというアンデッドについて、貴卿の云うように協力体制にある。

 黙っていたことを謝罪しよう」


 タッシェロを向いていた瞳はそれから一同を見渡す。

 有用だったもの、有能だったもの、無用だったもの、無能だったもの。

 いずれもが同盟という大樹に育とうとするものの幹にしがみついていた協力者たちを見ていた。


「技術を渡していたかということについては否定するが、否定に足るものは持ち合わせていない。

 むしろあちらの持っていた知識を吸い上げたことで秘術に関することや、永遠の命に関わることへの進捗を得たと言ってもいいだろう」

「何故、そのことを共有しなかったかを伺いたい」

「諸君らを信用していないからだ。

 正確には、諸君らの盆暗ぶりを信頼していたからこそ、本当に重要なことを共有するつもりはなかった」

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