001_継暦4年_春/00
よっす。
オレは賊だぜ。盗賊でも山賊でもないぜ。それ未満だ。
だが、街道やら雑木林やらで幅を利かせているぜ。
賊が幅を利かせているってことは、治安が終わってる証拠だぜ。
『この世界は~』なんてデカいことは言えないが、この辺りは全体的に治安が終わってるのさ。
理由は様々さ。
国家間の戦争があって、事実上国家は崩壊。
その後に爵位持ちどもが王国の版図を切り取る戦の残り香、
食糧難から始まった骨肉の争い、
戦争に負けて解体された軍閥の所属者の『野伏せり』化、
混沌とした時代故の暴力的刹那主義の跋扈。
明日を夢見るのは馬鹿の昼寝によく似ている、なんて謡ったのは誰だったか。
計画性もなく暴れた連中のお陰で治安は黄金よりも高い価値になったってわけさ。
治安が悪けりゃ、明日が来る保証もなくなっちまう。未来の価値も今や黄金並だ。
ともかく、この時代ってのは争いにゃ事欠かない。
人間同士ってだけじゃない。
人間よりおっかない猛獣たちや怪物もいる、人間以上の存在だってゴロゴロしている。
だってのに人間は賊をやって人間と殺し合っている。
終わっている時代にようこそって奴さ!逃げたい!消えたい!帰りたい!
なんてな、叫んだところで助けは絶対に来ない。
じゃあ与えられた命を求めるままに生きるしかないってもんだ。
オレの名前?
名前なんて教える必要もないだろう。
だって、オレは──
おっと、その話は追々わかるってもんだ。
今は『お客さん』が来やがった。
とりあえず周りを見渡してみようか。
街道沿い、横合いに生えまくっている木々から少し入ったところがオレたちの隠れ家だ。
『たち』ってなんだって?
そりゃあ、馬鹿な賊の集まりさ!
メンツはと言えば、
三つ歩いたら獲物の顔すら忘れるカス!
女のケツしか見てねえカス!
殴る蹴るしか興味がねえゲボカス!
やってきたことを連ねるのを控えたくなることが趣味のドゲボカス!
そしてこのオレ!以上だ!
来やがったのは……一人だ!
性別は女、年齢は若い、背丈は今のオレよりは低い。背中に大剣。
身なりはそこそこで、旅歩きし易い軽装備。うん! 絶対に勝てなそうな相手だ!
おっと、大の大人、
それも荒事に慣れてそうなオレたちが勝てなそうなのは何故かって?
こういうときに見るべきところはなにか教えておくぜ。
アンタが賊を目指すならきっと役に立つ情報さ!
そいつはずばり、装備の重さと人数だ!
軽甲冑であればあるほど強い!
何だったら普段着みたいなのに武器を帯びてるような奴が一番やべえ!
なにせ防御が薄くたって問題ないってことを暗に示しているんだからな。
過度な重装備の奴もあぶねえけどな。
ここは普通の道で、戦争に行くでもねえのに歩く城壁でござい、って感じの鎧来て歩いてるとか体力バケモンなのはひと目でわかるだろ?
で、人数だな。
一人が一番やばい。
だってよお、こ~んな危険な世界を一人で歩くんだぜ?
実力が伴ってないアホならもう死んでる。
つまり生き残ってる時点でやばい。
次に六人、いわゆる一党で最も効率的な人数を維持できていることを示す、安定性がやばい。
特に一番前と一番後ろに前衛を置けている連中は不意打ちにも目を光らせているエキスパートであることが多い。
次に四人、かなり安定した一党だ。熟練者が多い。
大抵、人数が増えたり減ったりを繰り返した結果でウマの合う連中で集まるのがこの人数なんだろうな。
コンビネーションってのが恐ろしいんだ、こういう連中は。
狙い目は二人か三人か、七人以上だな。
二人はまだ一党組めてないような奴らか、その価値がわかってない奴だ。
三人ってのは経験で、女を両脇に侍らせてるような奴が多い。
そういうのはええかっこしいなだけでちょっとビビらせてやるとすぐに戦闘能力を失うんだ。
七人以上は乱戦になりやすい。
命が軽い賊とやり合うなんてしたくねえだろうし、つまりは士気が低くなりやすいんだよな。
しかしそこは愛すべき賊、彼我の戦力差なんて考えもしないぜ。
一人なんて一番やべえのにな。
「おい、そこの姉ちゃん!止まりな!」
「ここは通行税が必要なんだよなあ」
「尻以外はイマイチな発育だなあ」
「へへへ、武器も防具も荷物も全部──」
四人目が言葉を終える前に、勝てなさそうな相手が剣を引き抜いた瞬間には吹き飛ばされていた。
「え?」
他の三人は呆気にとられ、そのまま細切れにされちまった。
オレか?
オレは勿論……ダッシュで逃げようとしたその気配を感知されて、
剣を振られて、
そいつは『飛んでくる刃』になって真っ二つにされたに決まってるぜ!
大体この間二秒弱!やっぱりやばい相手だったじゃねえか!
オレは死んだ!
グッバイ人生!
そう、これが『ザコの人生』って奴だぜ。
な?オレの名前なんて聞いたところで意味がないのさ。
こんな感じで路傍の石を蹴るより容易く飛んで消えていく命なんだからな。
オレは、こんなクソみたいな人生を送っている。
もう数えちゃいないが、きっと百万回は死んでいる。