第6話 転生傭兵のスタート
……俺は生きてるのか? 死んでるのか?
今度は首が締まっていないことを祈りつつ俺はベッドの下で目を覚ます。
咄嗟に隠れたのは、敵に襲われることを警戒しての行動だった。
しかし、今はこの身体の本来の持ち主、伏見甚太の記憶からここが『自分の部屋』だということが分かっていた。
気を失っている間に記憶が定着したのかもしれない。
さっきの頭痛は2人分の記憶をこの身体に同期させる為の負荷だったのだろうか。
信じられないことだが、現実を整理するとそう推察できる。
ベッドの下から這い出すと、痛む身体で軽くストレッチをする。
とにかく俺はこいつ(伏見甚太)の身体に転生していて、自由に動かすことが出来ている。
「あ~、あ~、ゴホンッ。"9mm弾をくれ"、"仲間の居場所を吐け"、"右前方に敵発見"、"クソッたれめ"、"地獄で会おうぜ"」
英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語。
傭兵をしながら覚えた各国の言葉をいくつか一人で話してみる。
日本人の高校生でここまで話せる奴はいないだろう。
ということは、やはり傭兵だった俺(宮本龍二)の記憶も人格と共に残っている。
声がまるっきり違うのは違和感だが……。
伏見甚太。
何の縁もゆかりもないはずのこいつの身体に俺の魂がなぜ乗り移ったのかは分からない。
いや、あるいは記憶にある首を吊る前のこいつの願いがキッカケだろうか。
(『生まれ変わったら無敵の、龍みたいな強い生き物になりたい』……か)
無敵の龍、傭兵として俺は確かにそう呼ばれていた。
でも本当に無敵ならミサイルの爆発なんかじゃ死なないだろう。
(とりあえず……安全なことは分かったし、この糞ダセェ髪を切るか)
伏見甚太の髪は長くて視界を遮っていた。
そして何よりも、この髪が冴えない風貌の一番の原因だった。
短くしない理由は『堂島に生意気だと言われて殴られるだろうから……』か、奴隷根性が染みついてんな。
いつこの身体を伏見甚太に返すのかは分からないが、それまでは俺の身体だ。
こいつは捨てようとしていたわけだし、ある程度は俺が好きに使わせてもらう。
俺は命を救ってくれたハサミを手に取る。
そして、洗面台に行くとそのハサミでチャキチャキと髪を短くしていった。
(でも、妹や母親のために……か)
せっかく俺が命を賭して日本をミサイルから守ってやったのに自殺なんてしてんじゃねぇ。
そう思ったが、伏見甚太の記憶を見てみるとこいつはこいつなりに家族を守ろうと頑張っていた。
そこだけは、日本にいる家族を守るために傭兵になった俺は共感できた。
自殺も酒の勢いだったしな、大目に見てやるか。
髪を切り終えると、洗面台に映った自分。
伏見甚太の顔になった傭兵、宮本龍二はニヤリと笑う。
「……なんだよ。結構良いツラ構えしてんじゃねぇか」
伏見甚太の記憶の中にあった冴えないはずの自分の顔。
しかし、今は傭兵としての鋭さが瞳の奥でギラリと燃えていた。