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拝啓、旦那様。


 アイリス様は語り始めた。貴族学院で何があったのかを。


「ーー私はどう接すれば良いかわからなくなり距離をあけてしまった。それが原因で殿下に見放され、最後には婚約破棄をされてしまった」


 アイリス様と王太子殿下の関係は成長するごとに変わっていってしまったとのこと。

 婚約したばかりの頃は一緒に良い国を作ろうと励ましあっていたが、年月が経つにつれてアイリス様を邪険に扱うようになった。意見に耳を傾けなくなった。

 

 貴族学院の高等部3年の時には一切口を聞いてもらえなくなったそうだ。

 自己主張が激しくなり、婚約者はお荷物、そう考えるようになったらしい。

 

「殿下に近づくだけで暴言を吐かれたり……やってもない冤罪の容疑もかけられたわ」


 いつしか王太子殿下は平民上がりの男爵令嬢に興味を示した。

 その王子の行動によく思わない連中が現れ陰湿ないじめや嫌がらせを始めた。

 その犯人にアイリス様は疑われたそうだ。


 それがきっかけで仲の良かった友人からも距離を取られいつしか一人になった。

 たった一つの変化により周りは変わってしまった。


「……不安で全てが分からなくなった。……みんなが変わってしまって」


 だからアイリス様は変化を嫌った。

 

 高等学院で過ごしたわずか3年で周りの取り巻く環境が変わっていってしまったから。


「それで思い悩んでいた時にお父様に一度領に戻ってクラウスとバカをやって来なさいって言われたの」


 全てがわからなくなってしまった時、俺と再会した。

 婚約破棄をされた後、旦那様からアドバイスをされたそうだ。


「変わらずにいてくれて嬉しかったわ……泣いてしまうくらいにね。……だから、甘えすぎてしまったわ」


 そういうことか。

 全てを聞いて納得した。


 旦那様の手紙も、初日のアイリス様の態度も。

 

 全てを聞いて俺はアイリス様に一つ言いたいことができた。


「アイリス様」

「……何?」


 俺は名前を呼び椅子から立ち上がる。

 右手をアイリス様の頭の上に持ち上げて頭を軽く手刀で叩いた。

 

「な…いきなり何をするの!」


 俺は訳もわからずポカンとするアイリス様の頭の上に置いたままにする。

 

「勘違いしてるようなので訂正しますが」


 アイリス様の頭を優しく撫でる。


「俺はいつまでも変わりませんよ。疑うこと自体間違ってます」

「ク…クラウス?」


 今だに戸惑うアイリス様。

 俺はさらに安心させるため、言葉を紡いだ。

 

「俺はアイリス様に救われました。死にそうだった俺にあなたは手を差し伸べてくれた。……そんなあなたに一生の忠誠を捧げているんですよ」

「……重いわよ」

「心中してくれと言えば共に死ぬことも厭いません!」

「だから重いって!」

 

 アイリス様はだんだんと調子を取り戻していく。

 俺には返せないほどの恩がある。

 だからどんなことがあっても味方だ。


「だから、いつでも頼ってください。些細なことでも言ってください。昔からそうだったでしょ?貴方が旦那様に迷惑かけるたびに毎回俺怒られたって言いましたよね?それでも俺が貴方の行動を咎めたことありましたか?」


 何があっても俺はアイリス様の意思を尊重した。


「確かに……その通りだったわね」


 思い出に浸るアイリス様は俺の言葉に納得してくれた。

 

 だが、俺はまだ言いたいことがある。

 アイリス様は俺は変わってないと言った。

 周りが変わっていくのが怖いと言った。


「人って成長して変わるんですよ。俺も少しは成長しました。それで3年経ってアイリス様への態度変わりましたか?」

「確かにそうね。3年前よりも行動力上がっていたわよね。でも貴方そこまで変わってないわよ。……私も……少しは成長したかしら?」


 まぁ、そこまで変わってないかもしれないな。

 だが、アイリス様の場合はむしろ。

 

「いや、アイリス様は後退しました」

「何よそれ?」

「だってそうでしょう?淑女としての振る舞い一切なくなり昔に戻ってますし。搦手とか権力を盾にするようになりました。むしろマイナスですよ」

「えぇ……もっと他の言い方はないの?」


 アイリス様はなんとも言えない表情をした。否定することは出来ないらしく難しい顔をしている

 俺も成長してない。アイリス様は後退している。

 

 俺とアイリス様が納得する言い方。


 当てはまる言葉が思いつかない。

 アイリス様は心配そうに見られる。

 うーん……あ、そうか。


「俺たちの関係は元に戻った……でどうでしょう?」


 俺とアイリス様は大人になるにつれて成長していった。

 専属から外れてからはただの令嬢と執事、なら今の関係を一言で表すのはこれだと思った。

 

「……確かにそうかもね。ここで過ごした一月、子供の頃に戻ったみたいに楽しかったわ……そうね。私と貴方は元に戻れたのね……うふふ」


 アイリス様は咲き誇るような笑みをした。


「ありがとうクラウス」


 その後、俺とアイリス様は夕暮れになるまで話をした。

 空白の3年間の時を埋め合わせるように。


















 それから一月が経った。

 

「ここのコーヒーとケーキは美味しいです」

「え…ええ。そうね」


 俺はアイリス様と相も変わらず喫茶店に訪れていた。

 

 あれから王都では一波乱あった。

 王太子殿下は王位継承権を剥奪され、現在監視下に置かれている。

 男爵令嬢の修道院送り及びアイリス様に冤罪容疑をかけた連中へ慰謝料請求。

 旦那様が訴訟を起こしたとのこと。


 それを聞いてアイリス様はやりすぎだと言っていたが、俺からしたら当然の報いだと思った。


 婚約破棄されたアイリス様はしばらくは婚約ができない。

 訳あり令嬢は貴族界ではいい噂が立たないのだ。


 アイリス様は気にしていないようだが、俺は心配だ。


 旦那様も孫が早く見たいと言っていたし。


 どうにか説得できないものかと悩むもアイリス様次第なのでお手上げである。

 

 そんな心配をする俺だが、最近一つ悩みができた。

 アイリス様が俺によそよそしい態度を取るようになったのだ。


「あ…あのクラウス。話したいことがあるんだけど」

「なんですか?」


 こう、目を合わせてくれないところとか。

 話を切り出すときに気を使ってるところとか。


「私と貴方の関係は変わらず親友……なのよね?」

「まぁ、親友兼主従関係ですかね……それが何か?」


 目が合うと……すぐに離され、顔が少し赤くなる。

 俺何か嫌われることしただろうか?

 

 どうすれば良いかわからず、言葉を待つ。


「私って今、婚約の話全然来てないのは知ってるわよね」

「はい。旦那様も嘆いておりましたし。……もしやとうとうアイリス様も危機感をお持ちに?」

「いや……そうじゃなくてね……その問題が解決するいい方法を思いついたというか」

「そ……それは本当ですか。ああ。よかったです。旦那様もお喜びになりますね」

「やっぱりそう思う?」

「はい!」


 俺は期待に胸を膨らませた。

 やっと旦那様の悩みもなくなると。


「もう私の全てを受け入れてくれる人ってそういないと思うのよね」

「確かにアイリス様は今やすっかりお転婆令嬢ですからね」

「そう!そうなの。やっぱりクラウスもそう思うわよね!もう貰い手はいないんじゃないかって!」

「あの……一生独身とか言いませんよね?」


 まさか、生涯独身宣言をする訳じゃないですよね?

 旦那様号泣しますよ。しかもアイリス様がこのように成長した大元の原因俺ですから、俺のクビが社会的にも物理的にも飛びかねませんよ。

 

「安心して。私、結婚願望あるから。だって子供欲しいもの。それにもう相手は見つけてあるから」

「……それを聞いて安心しました」


 まったく……不安にさせないでくださいよ。

 アイリス様も水くさい、そんな人いるなら俺に言ってくれてもいいじゃないですか。


「して、そのお相手は?……どこの家の方なんですか?紹介して下さいよ」

「わかったわ……驚かないでね」


 アイリス様は大きく深呼吸をする。

 そして、ゆっくりと右手の人差し指を俺に向けた。


「……あの…なんで俺を指差してるんですか?」

「クラウスって昔から鈍感よね」


 アイリス様の顔がだんだん真っ赤になる。

 あの、なんですかその表情。


 ……その疑問はすぐに解消することになる。

 

 先程まで感じていた期待と喜びはーー。


「クラウス……私と……結婚しない?」

「……は?」

 

 ーーアイリス様の爆弾発言により爆散した。

 

 拝啓、旦那様。

 俺はこの件をどうご報告すれば良いのでしょう?











 追伸。

 俺に求婚発言をしたアイリス様の顔は、りんごのように真っ赤に染まりながらも咲き誇るような笑みをしていた。


 その笑顔を俺は一生忘れません。





 

最後まで読んでくださりありがとうございました。


これで完結となります。


もし、少しでも面白いと思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントはモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。

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