お姫様
車に乗せられてしばらくたった。
僕は幾分か落ち着いて騒ぐのをやめた。
車が止まった。
男が僕の入った檻を開け僕を抱き抱え口の中に何か美味しい物を入れた。
微かに大豆のような、きな粉のような、餅のような物。
きび団子……?
空腹だった僕は何も考えず一気に飲み込んだ。
毒かも⁈って考えが一瞬頭をよぎったけど、食欲に負けて素直に食べてしまった。
次の瞬間、強い眠気が襲って来て一気に意識が飛んでしまった。
どのくらい時間がたったのだろう。
暖かい、柔らかな光を感じて目が覚めた。
心地いい……毛布が柔らかい。清潔な石鹸のいい匂いもする。
ここは、どこ?天国?僕、死んだの?
僕は真っ白な部屋のベッドの上に寝ている。
ん?ベッドの横に人がたっている
心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
誰?え、なんか知っている顔。僕の顔?
「わー!何で僕の横に僕がいるんだ?」
僕の横にいる僕は、フリフリのピンクのドレスを着ている。
お姫様みたいな膨らんだフワフワの膝丈のカート。
腰にウサギのぬいぐるみが複数張り付いている。寄生?
頭にはなんかでかいリボンをつけている。
無茶苦茶かわいい!僕、かわいい!僕、女装もイケル?
いーーや、違う!今は、それじゃない‼︎
僕の身体を乗っ取った白犬に文句を言いたい。
「ワンわ?ワンワワワワワワンワン!ワンワワワワワ!ワワワワンワ!
(何で?何で僕の身体を乗っ取った!僕の身体を返せ!元に戻せ!)」
「なんで、吠えるの?……?もしかして、犬人間?中身は犬?犬として育てられたの?」
女装の僕は怯えて僕から離れて部屋の隅に逃げてしまった。
「僕だって、好きでこんな姿になった訳じゃない!なんで僕の身体を乗っ取ってドレス姿になってるんだ?どういう事だよ?元に戻してくれよ。家に帰してくれよ!何が目的だよ!」
「そんなの、知らないし!乗っ取ってないし、あんたこそ誰よ!気持ち悪い」
お姫様姿の可愛い顔は、ありえないぐらいエグイ表情になっている。
今まで生きて来て、人からこんな酷い事を言われたり、冷たい視線を浴びせられたことはない……
僕は絶望的な気持ちになってベッドの上で膝を抱えた。
「佐藤、助けて……」
あれ、手?手……僕の目に僕の手が見える。人間の手!
え⁈人間に戻れた!
「やった!僕は人だ!犬じゃない!戻ったー」
僕はベッドに立ち上がって大喜びした。
「え、喋れるじゃない……どういう事?あなた誰?」
「僕は犬になっていたんだよ。やっと人間に戻れた。」
僕は部屋中を走った。
「やめて、変態!服を着て!」
僕は全裸だった……犬だったから仕方ない……許して