別れ
怪しい二人組はジープから降りて僕らの方にゆっくり歩いて来た。
小さい方の人物は華奢な女性で大きい方は20代前半くらいの屈強な男だった。
二人を見たおじいちゃんの膝はガタガタ震えている。
初めて見た、人間って、本当に怖い時はこんなふうになるんだ……
あ、おじいちゃん、多分、漏らしてる……
「なんで、、なんで来た?何にもしとらん、わしゃ知らない。わしゃ善人だ。
犬助けるくらい良い人間だ。金なら全部渡す。本当に全部、持ってるもの全部渡す!!!」
女が言った。
「連れて行け!」
「うわー嫌じゃー!」
近寄る男、悲鳴をあげて座り込むおじいちゃん、何も出来ずその場に固まる僕。
消えた隣のお爺ちゃん……あれ、どこ行った??
次の瞬間、屈強な男は僕を抱え上げた。
おじいちゃんはビックリして叫んだ。
「え、、そっっち?」
僕も吠えた。
「ワ、ン???(え、僕??)」
え、え、なんで?
女は言った。
「この野犬はもらっていく。この地区で犬の放し飼いは禁止だ。始末する。」
始末?始末?始末って言った?なに?始末って?
女は言葉を続けた。
「だいたい、何が『金は全部渡す』だ、金などないだろう?この貧乏人が!
金があるならさっさとたまった家賃と通信費を払え!」
こいつら、あれの存在に気づいてないんだ……大判小判インゴット。
ネコババはバレていない。
おじいちゃんは震えながら言った。
「犬だけか?わしは、どうなる?犬を渡したら|お咎め無しか?」
「は?なんか捕まるような事をやったのか?」
「いや!!野良犬を拾っただけだ。なにもしとらん。知らない。
ポチはわしの犬じゃない!」
おじいちゃん、ひどいよ……ポチって名前はあんたがつけたよね!?
自分が捕まらないとわかったおじいちゃんは少し安堵したのか、
ここでやっと隣のお爺ちゃんがいなくなっている事に気がついたようだった。
「あれ、お隣さんは、どこに行った?」
女が呆れた顔をして小さくため息をついた。
「あいつ、私の顔を見るなり何やら荷物をまとめてサッサと帰ったわ。相変わらず気が小さい!」
おじいちゃんは小声でぶつぶつ言った。
「そりゃそうだ。自分を裏切った嫁さんの顔なんか見たくないよ…こんなに怖いし……」
「何かいったか?」
女がおじいちゃんを睨んだ。おじいちゃんは誤魔化すように言った。
「何も……あー今日は天気がいいのう……」
え、嫁って言った?隣のお爺さんが『カミさん』て言ってた人ってこの人?
この人、いくつ??若すぎ。迫力あるし怖いよー
いや、そんなことより野良犬の僕はこれからどうなる?
害獣駆除?殺される?元々は人間ですよ〜 今も中身は人間ですよ〜犬じゃないから!
犬でも殺処分ダメーーー絶対、ダメーーー
「ワオオーん!!!ワオオーん!!!ワオオーん!!!」
僕の言葉は届かない。犬だから、吠えるしかない。
あーーーー怖いよーーー
泣き叫ぶ僕は檻に入れられ荷台に積み込まれた。
僕を乗せたジープは深い山の中に入って行った。