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3話:「後編」


「メシア様! メシア様‼」

 「なんだよ、ガブリエル、今、いいとこなんだよ」

 「テレビなんて見ている場合じゃありません! レギオンが現れたっぽ‼」

 「…何⁉ マジか⁉」

 「マジっぽ! その証拠に、スマホの悪魔出現アプリが鳴っているっぽ‼」

 「場所は⁉」

 「ここからそう遠くない、結婚式場っぽ! あれ? ここってルカがいる場所っぽ‼」

 「急ぐぞ‼」

 「っぽ‼」


「「レ~ギオ~ン‼」」

 わあぁぁぁぁぁぁ‼

 きゃああああああ‼

すっかり豚の怪物と化した夫婦はまずは披露宴会場へと突撃した。ガラスが割れる音を響き渡らせながら、式場に侵入、拳を、足を振り回し、破壊の限りを尽くし始めた。当然、式場の人からすればたまったもんじゃない。ひたすら夫婦から悲鳴を上げながら逃げまどうのが精一杯だった。

 「レ~ギオ~ン」

 「レ~ギオ~ン」

 夫婦が無感情の声を上げまくる。

 「あはははははは‼ やれやれー‼」

 そんな中で高らかに哄笑する人物はベルゼブブのみ。彼女は無人と化したテーブルの脇に立ち、暴れまわる夫婦を見物していた。

 「ん? あれは…」

 そんな中で、彼女の視線があるものに止まった。

 「人間の食い物か」

 出されたばかりの前菜が顔を出していた。

 「そういえば…人間共の食い物は食ったことがなかったな。どれ、ちょいと味見してみるか」

 そう言うと、彼女は料理に手を伸ばし、無造作に口に放り込んだ。すると…彼女の眼が一気に輝いた。

 「うん⁉ 美味い! 美味いぞこれは‼ こんなに美味い物を人間共は食っているのか⁉ バクバク、バクバク…」

 ベルゼブブは夫婦レギオンが暴れまわる中、次々と色々なテーブルを回り、次々と放り出された料理に片っ端から手を伸ばし、口に放り込みまくった。最早、レギオンの事なぞそっちのけで、食べることに完全に心を奪われていた。

 「レ~ギオ~ン」

 「レ~ギオ~ン」

 「バクバク…バクバク…美味すぎる、手が止まらん! 人間共め、こんなに美味いものを食っているとはけしからん! モグモグ…」


「ちょっと、どうなってんの⁉」

 「悪魔の仕業だよ! 悪魔が石田先生達を怪物にしちゃったんだよ‼」

 駆けるマルコも私も焦りを禁じ得ない。まさか、結婚式に敵が現れるなんて予想すらしてなかった。しかも、よりにもよって自分の身内が怪物レギオンになるなんて。

 私達は暴れる夫婦の背後に飛び出すと、ありったけの声で叫んだ。

 「石田先生! 茉奈さん! もう止めて‼」

 その声に反応した二人はゆっくりと私とマルコの方へと振り向いた。

 「お願い! 元に戻ってよ‼」

 「バクバク…無駄よ。レギオンは一度なっちまったら浄化以外で元には戻らない。レギオン、暴れまくってマイナスエネルギーを育てるんだよ!」

 「「レ~ギオ~ン」」

 私の叫びなどお構いなしに、料理を咀嚼しながらその様子を眺めつつ、恐らくは悪魔だろうーー美女は命令する。

 それに答えるように、今度はレギオンはこちらに向かってのしのしと近付いてきた。どうしよう、今日は変身ロザリオ持ってきてない。このままだと、二人ともやられちゃう。思わず、身構える。っていってもどうしようもーー

 

 「ーーってことは俺とルカがいりゃ、レギオンは倒せるって訳だな」


 そこに力強い声が響いた。声のする方を向くと、そこには真っ赤なテーラードジャケットに細身のビンテージジーンズを履いたメシア君が、その横には雪のように白い鳩、ガブリエルがレギオンを睨みつけていた。

 「メシア君! ガブリエル‼」

 「待たせたな! ルカ! 忘れ物だ‼」

 そう言い放ち、私に変身ロザリオ『ペンテコステ』を投げてよこす。私はそれをぱしっと受け止めた。

 「今度から肌身離さず持っておけ!」

 「え! う、うん…!」

 「さ、変身して戦うっぽ‼」

 「わかったーーって、あれ? マルコがいるんだけど…」

 「そんなこと気にすんな!」

 「え、でも…」

 「いいから‼」

 「う、うん!」

 「え、何、メシア君だっけ…ルカも…“変身”ってどうゆう…」

 流れるようなやり取りに、マルコはついていけない。しかし、そんなことはお構いなしに、私達は夫婦レギオンの前に立ち塞がると、、ロザリオを敵に突き付け、思い切り叫んだ。


「「変身! Veni,Sancte,Spritusu(ヴェ二・サンクテ・スピリトゥス)‼」」


 刹那、私達は変身する。ロザリオの放つ閃光の中で、見る見るうちに姿が変わっていく。

 私の髪型は黒髪ロングから金髪のロングヘアに、着ていたパーティドレスはカラフルな魔法少女服に、そして何処から出現したのか、大きな白いベレー帽と、少し大きめの白衣がそれを包む。そして、それを合図に手にしたロザリオが巨大化、大きな、真ん中に水晶が埋め込まれた十字架の杖へと変わった。

 もう一人のメシア君の姿も変わる。赤いテーラードジャケットは一瞬のうちにワインレッドの膝より長いロングTシャツ一枚に。続いて、履いていた茶色い革靴はベージュの紐が蝶々結びになった茶色いブーツに。そして、何処から出てきたのか、紫の大きなローブがばさりと音を立て、彼の肩にかかる。そして、ローブが身体を包み込むと同時に、頭部に茨の冠が出現。更に、珠が木でできた儀礼用のシルバーのロザリオが首にかかる。

 その変容に悪魔と夫婦レギオンも、何よりは隣にいたマルコも私達に釘付けになった。

 特にそう、マルコに至っては、

 「ええええええええええええ⁉」

 と、驚愕の悲鳴を上げていた。そりゃそうだ。

 「何、何、何、何が起きてるの⁉」

 訳が分からないといった様子でマルコが絶叫する。

 そんな事なぞお構いなしに、メシア君は叫ぶ。


 「神の子、メシア、見参‼ 『喜べ、神の国は近付いた!』」


 言い放つが、そこに違和感がある、一瞬の沈黙が流れた。

 「…おい、ルカ、おまえもこないだのヤツ叫べ」

 「え…ちょっと待って! なんでアレ言わなきゃならないの⁉」

 「いいから。そうしないとこの場が締まらないだろ」

 「え、えええ…私は…私はぁ~……ル、


 ルカ! 魔法少女ルカ‼ ここに見参‼ 『さぁ、悔い改めなさい‼』」


 うおぉぉぉ…恥ずかしすぎる…なんで、こんな事言わなきゃならんのだ…しかも、メシア君、親指立てないでよ…ってか、なんでノリノリなのよ…


「モグモグ…出たな、神の戦士共。レギオン! やっちまいな‼」

 「「レ~ギオ~ン」」

 ベルゼブブの命令に、夫婦レギオンはゆっくりと拳を振り上げ、私達めがけて襲い掛かった。

 「「ふっ‼」」

 「うわあああ‼」

 その拳を私達は飛んで、マルコは走って回避すると、そのまま各々の行動に移る。私はまずは新婦レギオンに向かって、メシア君は新郎レギオン目掛けて駆ける。マルコは一体、何処に行ったんだろう。まぁ、いいや。

 「「はあああ‼」」

 私はまずは新婦レギオンの懐に飛び込むと、がむしゃらに連続パンチをお見舞いした。

 「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃ‼」

 「レギッ! レギッ! レギッ!」

 雨霰の如くの私のパンチは無茶苦茶ながらに胴体に当たりまくり、一瞬で、その身体をぼこぼこにしていく。そして、

 「どりゃあぁぁぁ‼」

 ここでありったけのパンチを新婦レギオンの胸部にお見舞いした。

 「ギオーン‼」

 まともに打撃を浴びた新婦レギオンはそのまま吹き飛び、会場の壁を突き破って庭まで吹っ飛んだ。庭に破砕音を立てて地面に背中を叩きつける新婦レギオン。そこにとどめを刺さんと、私は一気に追い打ちをかけようとした。

 「これで、終わりだぁぁぁ‼」

 が、

 「おっと、待ちな‼」

 新婦レギオンと私の間に美女悪魔が立ち塞がった。美女悪魔は口の中に食べ物を咀嚼しているらしく、くちゃくちゃ下品な音を立てているが、その空いている両手は片方はかなちゃんを、もう片方は食事用のナイフを持って、かなちゃんに突きつけている。

 「くっちゃくっちゃ…この女の子がどうなってもいいのかい⁉」

 「ぐすっぐすっ…」

 「かなちゃん‼ ~この、卑怯者‼」

 「なんとでも言え! 私は悪魔よ‼ やれ、レギオン‼」

 「レ~ギオ~ン」

 かなちゃんを人質に取った美女悪魔の背後で、新婦レギオンはゆっくりと立ち上がると、ギン、と、怒りの眼を光らせ、私に襲い掛かってきた。新婦レギオンは私がやったように懐に飛び込んでくると、まずは腹部に、重い一発を浴びせた。

 「かはっ…!」

 思わず句の字に曲がる私。更にそこに追い打ちをかけるように、新婦レギオンは何発も何発もがむしゃらに私に連続パンチを浴びせまくった。

 「く、く、く、く、く、くーー」

 「レギッレギッレギッ‼」

 「おーっと、反撃なんかするんじゃないよ⁉ したらこの子の命はないよ⁉」

 「お姉ちゃーん‼」

 かなちゃんの悲痛な叫びを聞きながら、私はなすがままに殴られまくる。そして、

 「レ~ギオン‼」

 二発目の重い拳が私の顔面に当たり、披露宴会場に引き戻される形で殴り飛ばされた。吹っ飛び、盛大に、会場のテーブル群をなぎ倒し、転がる私。ふと、横目を見るとーー

 ーー情けないことに、メシア君はひたすら新郎レギオンにぼこぼこにされ、げしげしと蹴りを入れられていた。当のメシア君は目を回している。情けないったらありゃしない。

 「おーっほっほっほっ‼ 神の戦士もここで終わりよ‼ とどめを刺せ‼」

 「「レ~ギオ~ン」」

 夫婦レギオンがとどめを刺そうと、新郎レギオンは足に、もとい、脚に力を込め、新婦レギオンはのしのしと近付き、私の胸倉を片手で掴んで持ち上げると、もう片方の手に力を籠め、殴りかかろうとした。

 「くそ…」

 もうだめか、そう思った時だった。


「う、うおりゃああああああ‼」


 遠くから聞き覚えのある声が響いた。その声に、全員が一瞬、呆気にとられる。

 マルコだ。マルコの声だ。

 視界の端に映ったマルコは全速力でかなちゃんを人質に取った美女悪魔に突進すると、ありったけの力をもって、二人に体当たりを喰らわしたのだ。

 「ぎゃあっ⁉」

 盛大にコケる二人。そこに間髪入れずに、マルコはかなちゃんを急いで抱き起すと、かなちゃんを抱きしめ、思い切り、距離を取った。

 「ルカ! 今のうちにやっちゃいな‼」

 マルコが叫んだ。

 その叫びにすぐに我に返った私は胸倉を掴んでいた片腕をひん掴むと、体重をかけて下に引きずり下ろし、捻り上げ、拘束を解く。そして、自由になると同時に、全力で新婦レギオンの懐に飛び込むと、

 「てりゃああああああ‼」

 新婦レギオンの腹部目掛けて拳を放った。

 「レギッ⁉ オーン‼」

 殴られた新婦レギオンはメシア君を踏みぬこうとしていた新郎レギオン目掛けて吹っ飛んでいき、そのまま激突。二人まとめて巻き込んでその場に盛大にぶっ倒れ、目を回し始めた。

 「ル、ルカ‼ 今だぁ‼」

 ぼこぼこにされ、ぶっ倒れた体勢のまま、メシア君が叫ぶ。それに答えるように、私は叫んだ。

 「うん! いくよ~‼ Tace,ut,ex.hoc.homineターチェ・ウ・テクス・ホ・ホーミネ‼」

 刹那、前回、前々回と同じく、私の十字架の杖が銀色の閃光を放ち、辺り一面の網膜を潰さんばかりに照らし出した。

 思わず目を瞑る一同。すると、夫婦レギオンの身体から黒い影が滲み出て、披露宴会場の外へと吸い込まれていった。それに合わせ、夫婦レギオンの姿も見事に変わり、タキシード姿の石田先生とウエディングドレスを着用した茉奈さんの姿に戻る。

 やがて、閃光は止み、レギオンが壊した披露宴会場はビデオの逆再生のように元に戻り、まるで最初から何もなかったかのように、その姿を取り戻した。

 「よし!」

 メシア君がガッツポーズを取った。

 「さて…残るは…」

 そして、そのまま私、メシア君、マルコとかなちゃんが美女悪魔に目を向ける。

 当然、相手は、悔しさを顔に浮かべていた。

 「観念するっぽ‼」

 「ルカ! こいつを浄化しろ‼」

 「うん! ターチェーー」

 「ーーふん‼」

 次の瞬間、美女悪魔が片手を私に突きつけた。刹那、美女悪魔の片手が大量の蠅になり、私は勿論、メシア君もマルコもガブリエルも、、かなちゃんにも襲い掛かった。

 「きゃっ‼」

 「ちょっ…」

 「うわ~ん‼」

 「くっ‼」 

 「ぽぽっ‼」

 私達が次々に悲鳴を上げる。すると、突然、蠅の襲撃は終わった。いきなり消えたのだ。

 恐る恐る私達が目を開けると…蠅は消え去り、美女悪魔も消えていた。

 「くそっ! 逃げたか‼」

 メシア君が歯噛みした。


結婚式場から遥か上空。そこにベルゼブブが“空中に立っていた”

 「集まれ。マイナスエネルギー」

 ベルゼブブが命令がする。すると、どうだろうか。先程の夫婦レギオンの身体から出た黒い影が彼女の持っている黒いクリスタルに吸い込まれていった。やがて、全ての影がクリスタルに吸い込まれ、妖しく、どす黒い宝石は光を放った。

 「覚えてなさい…」

 そう言うと、ベルゼブブは姿を消した。


「仕方がない…この二人を助けよう」

 そう言うと、メシア君は二人の下に歩み寄った。

 「何する気?」と、マルコ。

 「浄化するんだ。この二人をレギオンにさせた原因を治す。そうしないと、いつまでもこの二人は元に戻らないからな」

 そして、倒れ、気を失っている二人の間にしゃがみこむ。そこに私、マルコ、かなちゃんが近付く。

 「まずはこの女からだ」

 メシア君はそっと、横向きに倒れる茉奈さんに手を当てた。


 拍手が聞こえる。結婚式だ。そこで拍手が盛大に響き渡る。

 「茉奈さん、結婚おめでとう」

 「おめでとう!」

 「ありがとう! 私、幸せになるわ‼ ね、良哉!」

 「ああ、任せとけ!」


 赤ちゃんの泣き声が響く。

 「見て私達の子供よ」

 「ああ。可愛いな…」

 「名前、どうしようか」

 「かな、ってどうかな? 茉奈の子だから、かな」

 「かな…良い名前…」


 「良哉…最近、帰り遅くない?」

 「仕事なんだよ、仕方ないだろ」

 「にしても…」

 「疲れてるんだ。寝かせてくれ」

 「う、うん…」


 「何、これ…」


 「良哉、この女、誰なの?」

 「おまえ、人の携帯を勝手に見たのか⁉」

 「誰かって聞いてんの‼」

 「友達だよ。それ以上でもそれ以下でもない」

 「友達ですって⁉ このメールは何⁉『月曜日、楽しかったね』って‼ 月曜日、出張だって言ってたじゃない‼」

 「人のメールまで見やがったのか…‼ それ、人としてどうなんだよ⁉」

 「何、言ってんのよ‼ 仕事だって嘘ついて、他の女と遊んでる人に言われたくない‼」

 「うるせぇ‼」

 「信じてたのに…良哉の事、信じてたのに‼」


 扉が閉まる音がする。

 「ママ…泣かないで、ママ…」

 「大丈夫よ、大丈夫だから。これからは二人で生きていこうね…かな…う、うぅ、うぅ…」

 「ママ…ママぁ…ぐすっ、ぐすっ」


 「初めまして。今日からこの学校で働く、鈴木茉奈です。よろしくお願いします」

 パチパチパチパチパチ。

 「じゃあ、鈴木先生、君のデスクはそこだから」

 「はい」

 椅子に腰かける音がする。

 「初めまして。鈴木先生。石田です」

 「初めまして」

 「わからないことがあったら、何でも聞いてくださいね」

 「はい」

 (うわ~、かっこいい人だな~)


 「うわっと」

 大量の紙が散らばる音がする。

 「大丈夫ですか?」

 「大丈夫です。あははは…」

 「石田先生、もっとしっかりしないといけませんよ?」

 「わかってます。わかっているんですが…あははは…」

 (こんなにかっこいい人なのに抜けてるなんて…くすっ)


 「鈴木先生。良ければ、今度、食事に行きませんか?」

 「それって…」

 「あ、いや、そういう事じゃ…」

 「くすっ、良いですよ」


 「楽しい映画でしたね」

 「ええ」

 「次は何処に行きましょうか?」

 「私、水族館に行きたいです」

 「良いですね。行きましょう」

 (本当に優しくて誠実な人…この人だったら…でも)


 「鈴木先生! 僕と…僕と結婚してください‼」

 「…っ‼」

 「……駄目ですか?」

 「…私、娘がいるんです」

 「え?」

 「前の旦那との間にできた娘なんです。バツイチってやつです」

 「…そうなんですか…」

 「石田先生、あなたは本当に素敵な人です。まじめだし、誠実だし、だから、私なんかより良い人がきっといるはずです。だから、だからーー」

 「ーーそんなの関係ないです!」

 「え…」

 「僕が好きなのは鈴木茉奈先生なんです。例え、娘さんがいても、一緒にいたいです‼」

 「~っ‼」

 「だから、だから僕と結婚してください‼」

 「……でしたら、一つだけ、約束してください。浮気だけはしないで。お願いです」

 「はい‼」


 「信じてたのに! 今度こそ、裏切らないって信じてたのに‼」


ベルゼブブの声が響く。

 「ふふっ。良いこと思いついた。よっと」

 「ふふ。付いてっちゃおーっと」

 「私? 私は悪魔よ‼」

 

 「これは…」

 光の中で純一郎と茉奈は先程の光景を見ていた。

 純一郎に抱き着くベルゼブブ。

 その光景に耐えきれず、飛び出す茉奈とかな。

 「そんな…私、飛んだ勘違いを…」

 光の中で映し出される光景に、茉奈は口元を抑え、驚く。

 「わかったか」

 映像が止み、そこに、メシアが姿を現した。

 「女よ。最初からこの男はおまえを裏切ってなんていなかったんだ。辛い経験をしたのはよくわかる。それがトラウマになるのもよくわかる。だが、どうして相手を信じてやれなかったのか」

 「だって…だって…もう、あんな思いしたくないんだもの。あんな裏切られるような、傷つくようなこと…」

 茉奈の目から涙が零れ始めた。

 「大丈夫だ。この男は誠実な男だ。でなきゃ、なんで、子を持つおまえを選ぶんだ? それはおまえの事情を全部ひっくるめて愛してくれている証拠じゃないか」

 「っ‼」

 「そもそも、こんな気弱な男に浮気なんてできる甲斐性があると思うか?」

 「…そうだけど」

 「大丈夫だ。なぁ、男?」

 「…茉奈、僕は情けない男だ。でも、茉奈を傷つけるような真似はしない。これは約束する」

 「こう言っている」

 メシアが小さく笑う。

 「大丈夫。この男なら、きっと、おまえを傷つける事はしない。だって、こんなに心優しい男なんだから」

 「…ホントに?」

 そう、茉奈は純一郎に顔を向けた。

 「ああ。約束する」

 純一郎のその顔は先程までの気弱な顔から、少し、強気な、自身を奮い立たせたような顔立ちだった。

 「僕は決して、君を泣かせない。神に誓うよ」

 その言葉に茉奈の目が決壊する。涙が止まらなかった。嬉しくて。嬉しくて。

 「幸せにしてね…‼」

 「ああ」

 そう言うと、純一郎は茉奈をそっと抱きしめる。茉奈もまた、それに答えるように抱きしめた。その様子を見ていたメシアは安心し、優しく微笑んだ。

 「最後にこの言葉をおまえ達に送ってやる。


 『愛は忍耐強い。愛は情け深い(新約聖書 コリントの信徒への手紙の一 十三章四節)』


 男よ、妻を自分のように愛せ。女よ。男を信じ、仕えろ」


 そして、静かに“祈り”の言葉を紡いだ。


 「一言祈りましょう。愛する天のお父様。どうか、この二人に永遠の祝福を与えてください」

 

 刹那、光が止んだ。


それを合図に、ゆっくりと、“夫婦”は目を開けた。二人の目からは一筋の涙が流れていた。

 「あれ、私達…」

 「ママ‼」

 そこにかなが茉奈に思い切り抱き着いた。

 「ママ! ママ‼」

 「かな…かな‼」

 それに答えるように、茉奈はかなを抱きしめた。

 「茉奈…かなちゃん…」

 「純…」

 その二人を石田先生はそっと抱きしめる。

 その光景を見て私もマルコも二人に何があったのか、何が起こったのかを察した。そうか。二人のわだかまりは消えたんだ、と。

 そして、三人から何処からともなく、光の球体が転がった。それをメシアは見つけると、そっと、自分の胸に当てた。すると、光の球体はすっとメシアの身体の中に消えていった。


「プラスエネルギーゲット、と。幸せになれよ、お二人さん」

そう、メシアは優しく微笑んだ。


ガランガランと、チャペルの鐘が鳴り響く。その音に合わせ、大勢の鳩が羽ばたき、宙を舞う。

 「茉奈! 結婚おめでとう‼」

 「石田ー、幸せになれよー‼」

 青空の下、チャペルから出てきた純白の衣装を身にまとった石田先生と茉奈さんを出迎えるのは、たくさんの笑顔と拍手の嵐だ。祝福の嵐は優しく、二人を包みこむ。

 「ありがとう、ありがとう皆!」

 「ママー!」

 「かな! おいでーっ‼」

 満面の笑顔を浮かべる夫婦の下に駆け寄るをかなちゃんを、茉奈さんはそっと抱き上げた。かなちゃんも満面の笑顔を咲かせた。

 「ママー! おめでとう‼」

 「うん、ありがとう。ありがとう、かな‼」

 幸せがそこにあった。なにものにも代えがたい、優しくて温かい幸せ。

 それを遠巻きに見ていた私、マルコ、メシア君にガブリエルも、思わず笑顔にならざるを得なかった。

 「良かったね」

 と、マルコ。

 「ほんと、一時はどうなることかと思っちゃった」

 と、私。

 「さ~て、そろそろどういう事か説明してもらおうじゃないの」

 「ふぇ?」

 マルコが私の顔を覗き込む。私は思わず素っ頓狂な声を上げた。何を説明してもらうつもりなんだーーあ。

 「あ、いや、あの、あれはその‼」

 あたふたする私にメシア君が言い放つ。

 「こいつは“魔法少女”。“魔法少女ルカ”。悪魔退治の為に俺が変身させた」

 「ちょっと! メシア君‼」

 「“魔法少女”?“悪魔”?」

 「そうっぽ。今、世界は危機に瀕してるッポ。だから、ルカの力が必要なんだっぽ」

 畳みかけるように次々と一人と一羽がネタ晴らしをしていく。私の慌てっぷりははた目から見ていて面白いくらいだろう。

 「ルカ…この二人の言っていること、マジ?」

 「え、あの、それはぁ!」

 「「マジ(っぽ)」」

 あちゃ~。私は思わず、頭を押さえる。もう、ここまで来ると誤魔化しようがない。

 「ほんと。そういうこと…」

 「ふ~ん…」

 「お願い! このことは人に言わないで! ってか、忘れて‼」

 「は? なんでだよ?」

 「そうっぽ。仲間は多ければ多いほど良いっぽ。変身できないけど」

 メシア君とガブリエルが怪訝そうな顔を浮かべる。

 「仲間って、何、言ってんのよ! マルコは一般人なのよ⁉ あんなのに巻き込ませる訳に行かないじゃない‼」

 

 「私はいいよ。別に」


 「「「え」」」

 「うん」

 思わず私は固まった。

 「ちょっと、マルコ! どんだけ危険な事かわかってる⁉」

 「う~ん…まぁ、なんとかなるっしょ。私、逃げ足早いし。それに、いざとなればルカと…そこのメシア君が守ってくれるだろうし」

 「おいおい、俺らをあてにすんのかよ」

 「なかなかに図太い娘っぽ」

 「そんなぁ…」

 思わずがっくりくる私。

 「ルカ、私達の間に隠し事はなしよ。これまでの事も、これから起こる事もみーんな白状してもらいますからね!」

 「え、ええええええええええええっ⁉」

 そんなこんなで、私達にマルコという仲間…というか、事情を知る人間が増えたのだった。

非日常に親友が巻き込まれる形になるなんて。これから一体、どうなっちゃうの~⁉


後半パート 了


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