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05話「後編」

メシアがちょうど、ファーストフード店でハンバーガーを頬張っていた時だった。


 「メシアー、メシアー」


 「ピクッ…親父か?」


 何処からともなく聞こえてきた神の声に、メシアと側にいたガブリエルが反応した。


 この時のメシアの格好は変身前なので、白いシャツ、細身のビンテージジーンズに茶色の革靴、そして、真っ赤なテーラードジャケットの姿をしていた。


 「んだよ。今、飯食ってんだ。要件なら手短に頼むわ」


 そう言いながら、ハンバーガーを咀嚼する。


 「マタイとヨハネがそっちに行ったぞ」


 「「ぶっ」」


 メシアとガブリエルが思わず吹き出し、むせた。


 「ちょっと待て、なんで二人が人間界こっちに来てるんだよ⁉」


 その場の周囲なぞ気にせず、思わず叫んでいた。勿論、周囲は何事かとメシアに視線を集中させた。


 「ちょっと、メシア様、皆、見ています。僕のスマホをお使いくださいっポ」


 「お、おお」


 ガブリエルが差し出したスマートフォンを奪うと、それと話すように、父親との会話を小声で再開する。


 「なんで、二人がこっちに来てるんだよ」


 「そんなの、おまえを追いかけるために決まってるだろう。しかも、『ペンテコステ』を勝手に持ち出していった」


 「はぁ⁉」


 「メシア様、メシア様、皆が見ていますっぽ」


 「あ、ああ……それじゃあ、あいつら戦う気満々ってことかよ…」


 「ああ」


 「何で止めなかったんだよ⁉」


 「あいつらが私の言う事を聞くと思うか?」


 「無駄だった、と」


 「ああ」




 「全く、困った妹達だ…」




 「まぁ、ラファエルとウリエルもついていったみたいだから問題はないと思うが…」


 「…二人の居場所は?」


 「待ってろ。今、情報をガブリエルのスマホに送る。そこに迎えに行ってーー」


 「ーー二人を追い返すぞ」


 「待て。味方は多い方がいい。マタイとヨハネと協力してーー」


 「ーーあんた、それでも親か⁉ 二人の身に何かあったらどうするんだ‼」


 「そうかもしれないが、そんなことを悠長に言っていられる状況じゃない。もう一度言うが、味方は多い方がいい。なんとしても悪魔共を浄化し、世界を救わねばーー」


 「ーーもういい‼ とにかく、二人を見つけて送り返す! 以上‼」


 ここで、メシアはスマートフォンの通話ボタンを切る動作と同時に、“父”との意識の接続を切った。その直後に、メッセージが飛んできた。勿論、開くと、中にはマップデータが。しばらく見ていたが、二人は動く様子もないらしい。それはそれで都合がよかった。


 「ちっ。行くぞ、ガブリエル」


 「クルッポ‼」


キンコンカンコーン♫


 下校の鐘が鳴る。さぁ、お楽しみはここからだ。


 「ルッシフェルく~ん!」


 「ちっ…なんだい、マルコ」


 「ねーねー、一緒にカラオケ行こうよ!」


 「いや、僕はルカと…」


 「じゃあねー、マルコー」


 「うん、じゃあねー」


 「ルカ!…ルカは何処に?」


 「ルカはね、今からボランティア活動しに行くの」


 「ボランティア?」


 「そうそう。ルカね、昔っからボランティア好きなの。今日は何処に手伝いに行くのか知らないけれど」


 「へぇ…(くそ、めんどくせぇことしてんだな、あの女)」


 「それよりさ、カラオケ行こうよ! 一緒に歌おう⁉」


 「…いいよ。行こう」


 よしよし。さぁ、どんどん彼(ルシフェル君)とお近づきになっちゃうぞ♫



「あーもう、パウロってやつの家どこなんだよっ⁉」


 青空の下、ベンチに身を投げ出したマタイが叫んだ。隣には苛立ちを隠せないヨハネが、腕を組んで貧乏ゆすりをしている。その脇にはラファエルがいた。


 ここは駅前の大きな公園だ。大きな池と庭園まであるので、相当、歴史がある公園だ。


 二人は迷い、疲れ果ててしまって公園にたどり着くことになっていた。人間界についたのは良いものの、何も手がかりが無かったものだから、こうなるのは当然の成り行きだった。一応、父親である神から“お金”なるものは持たされて、否、くすねてきたから食うのには困らなかったものの、地図とか交番とかいう概念が無い二人と一頭と一羽にとっては、探し当てることなんて無理難題だ。もっとも、あったとしても、幾ら現代が情報化社会だからと言って、一個人の家を特定するなんて、相当なスキルでもない限りは不可能に近いが。


 「マタイお嬢様~ヨハネお嬢様~」


 そこにバサバサと羽を鳴らせて脚に買い物袋をぶら下げたウリエルがやってきた。


 「遅い‼」


 ヨハネがギン、とウリエルを睨む。


 「ひっ、サ、サーセン、ちょっと選ぶのに手間取っちゃって…さ、どうぞどうぞ」


 ウリエルが買い物袋を差し出した。それをぶんどり、中をのぞくヨハネ。


 「これっぽっちだけ…?」


 「はい!」


 「おにぎり四つなんて少なすぎる…アタシ、もっと食べたい…」


 「無茶言わないでくださいよ。“お金”ないんですから」


 「えっ⁉」


 ここでマタイが割り込むように驚いた。


 「無いの⁉ “お金”っ⁉」


 「はい」


 「なんで! なんでなんでっ⁉」


 「そりゃあ、お二人がメシア様を探すという名目の下、あっちこっちに観光して、食べ歩きまくって、ホテルに泊まったからですよ」


 「そんなぁ…」


 首をがっくり下げてうなだれるマタイ。


 「とりあえず、何か食べよう…」


 「…そうだねっ」


 全員がおにぎりに手を伸ばす。そして、食す。


 「もぐもぐ…これ、具が入っていない…」


 「もぐもぐ…塩むすびですから」


 「…もぐもぐ…おかずが欲しいですね」


 「あ~、喉乾くっ」


 「もぐもぐ…マタイお嬢様、どうぞ」


 「サンキュ。ぐびぐび…ってーー牛乳⁉」


 「お気に召しませんでしたか?」


 「合う訳ないでしょ⁉ おにぎりに牛乳なんて! ってか、ラファエルのこと考えなさいよっ‼」


 「…わたくしは気にならないのですが…」


 「いや、気にしなさいよ! あんた、牛なんだから‼」


 「…牛ではありません。天使です」


 「なに、コレ…不味い…」


 「ヨハネお嬢様、それは青汁です。健康にイイらしいですよ?」


 「なんでそんなの買ってくるの…⁉」


 「ひっ、ヨハネお嬢様、あんまり目くじら立てないでください!」


 「マタイ姉、それ頂戴…」


 「別にいいけど、あんた、よく人が口付けたものを飲めるわよね。昔っから…」


 「ぐびっぐびっ…」


 「…しかしーー」




 「「「「ーーお腹すいた…」」」」




 「ん…?」


 「…どうかされましたか?」


 「どっからかイイ匂いが…」


 「ホントだっ。あー、あそこあそこっ‼」


 マタイが指を指す方を見ると…そこには遠目からでもわかる人の列。並んでいる人々は言葉は悪いが汚い身なりの人、いかにも貧しそうな人々ばかりだ。列の一番奥には小さなテントが張られた屋外スペースが設けられ、そこから匂いが漂ってきている。


 「なに、あれ…?」


 「炊き出しっすね」


 「…なんの炊き出しでしょうか?」


 「多分、ホームレスとかのだよーーって、ヨハネっ⁉」


 「ご飯…ご飯…」


 「あぁ⁉ ヨハネが行っちゃ行けない世界にっ‼」


 「…マタイお嬢様、こうなれば背に腹は代えられません。分けてもらいに行きましょう」



「あー、歌った歌った! 次は何処へ行こうっか?」


 駅前のカラオケ屋からウキウキしながら出てきたワタシに対して、ルシフェル君は浮かない表情をしていた。カラオケ行ってた時もあんまり歌わなかったし、歌うの嫌いなのかな?


 「じゃあ、次はゲーセン行こうよ! って、あれ、やっぱりああいう場所は苦手だった?」


 「うん、まぁ…(ちっ、まだ行くのかよ)」


 「あ、ごめんね。ワタシ、つい、相手を振り回しちゃうんだ」


「そうなんだ。大丈夫、気にしていないよ(めんどくせぇ女だな。まだ僕を連れまわそうってのか)」


 そう、笑顔をむけるルシフェル君。きゃー! 最高っ!


 「そ、そうだ! そこのコンビニでアイスでも買おうよ! 近くに公園もあるからさ、そこでゆっくりーーん?」


 ここで、ワタシはスマホを片手に右往左往している、いかにも海外からやってきただろう、カジュアルな服の白人の青年を見かけた。なんかあったのかな。


 「Excuse me. what's happened?(失礼します。どうかされましたか?)」


 気づくと英語で話しかけているワタシ。


 「Can you speak English?(英語話せるんですか?)」


 と、相手。会話開始。


 「Yesはい


 「I heard there's a big park near here, but I don't know where to go on the way...(この近くに大きな公園があるって聞いたんだけど、途中でどう行けばいいかわからなくなって…)」


 「What is the name of that park?(なんて名前の公園ですか?)」


 「It's a park called Yasuragi Park(やすらぎ公園っていう公園だよ)」


 「It's close. Shall I guide you?(近くですね。案内しましょうか?)」


 「Really? thanks(ホント? ありがとう)」


 「マルコすごいなぁ。喋れるんだ(そのくせ、人の心はわからないんだな)」 


 「えへへへ。ルシフェル君、この人と一緒に公園に行かなーい?」


 ここで隣にいたルシフェル君に話しかける。


 「良いけど…」


 「よっしゃ。じゃあ。皆で行こう!」


 こうして、ずんずかワタシ達は駅前の大きな公園、『やすらぎ公園』に向かうのだった。



「離すっぽ! 離すっぽ! 暑苦しい‼ ってか、なんで、途中からついてきたっぽ⁉」


 「イイじゃない~俺とガブの仲ガオ!」


 「ひぃぃぃ!」


 「あ~はいはい。相変わらず仲良しさんなこと」


 ここはやすらぎ公園だ。ガブリエルのスマートフォンに送られてきた情報を頼りに、メシアとガブリエル、そして、どうして彼等の動向が分かったのか、途中からミカエルがやってきて、ここに一人と一羽と一頭が姿を現した。神(親父)の情報によると、マタイとヨハネはここにいるらしい。


 「確か、この辺に…うん? あれはルカか…?」


 遠くに目を向けると、目線の先にはテントが張られた屋外スペースが。そこにはいかにも貧乏くさい人々が列をなし、一番奥から料理…恐らくは豚汁だろうを配給の人達が配っていた。


 その豚汁を鍋から容器に移す人々の中にルカがいた。


 「はい、どうぞ。次の方~」


 「何、してんだ、あいつ」


 気になったメシア、ガブリエル、ミカエルが近付いていく。


 「よぉ、何してるんだ?」


 「あ、メシア君。あ、ちょうどいいところに来た‼ ねぇ、手伝ってよ!」


 「はぁ? だから、何を…」


 「炊き出しのボランティア! 生活に困っている人や、ホームレスの人達に食べ物を配っているんだ! 今、人手が足りないから手伝ってよ‼」


 「はぁ? なんで、俺が?」


 「いいから、いいから」



「……んで、何をすればいい?」


 「そうだね。それじゃあーー」


 「大変!」


 ここで、後ろにいた女性ボランティア職員が口を開いた。


 「どうかしたんですか?」


 「配るパンが足りないの。これじゃあ、皆に配れないわ」


 「…」


 「あ、メシア君?」


 「おい。そのパンを俺によこせ」


 「え?」


 「良いから」


 メシアは女性職員から菓子パンを奪い取ると、びりっ、と袋から取り出し、手に取った。


 「ちょっと、メシア君⁉」


 「黙ってろ。




 一言祈りましょう。愛する天のお父様。どうか、このパンに無限の恵みをお与えください」




 メシアがそう祈るや否や、手の中の菓子パンが温かい光に包まれた。そして、光はすぐに止んだ。


 「奇跡を見せましょう。ここにいる人々全員にパンを配らせましょう」


 メシアがそう言うと、並んでいる人々一人ひとりの下にやってきて、菓子パンをちぎって渡していった。すると、どうだろうか。ちぎって渡されたパンのかけらがたちまち一つの大きな菓子パンになった。


 「「「⁉」」」


 全員が度肝を抜く中、メシアは一人一人にパンのかけらを配っていく。メシアがかけらを配る度に、ちぎられたパンは再生していき、ちぎったパンのかけらは一つの大きな菓子パンになっていく。


 「ほら、ほら」


 ルカと他の職員が、ホームレスや貧困層の人々が呆気にとられる中、次々とパンは無限に増殖し、人々の手に行き渡っていく。


 「パンが…無限に増殖していってる…⁉」


 「これは…一体…」


 ルカと先程の女性職員が自分の目が信じられないといった様子で呟いた。


 「さっすがメシア様っぽ」


 「相変わらず、すごいガオ」


 ルカの側にいつの間にかガブリエルとミカエルがいて、感嘆の声を上げた。


 「ガブリエル、ミカエルもいつの間に!」


 「「えへへ…」」


 こうして、次々とパンを並んでいる人々に渡していっている最中だった。


 「ほら、ほら、ほら…」


「うぅ…早く、来てくれないかなぁっ…」


 「お腹、空いた…」


 「ほら、ほら、ほらーー」


 「「「ーーうん?」」」


 ここで、パンを配っていたメシアと、列に並んでいたマタイ、ヨハネの目が合った。


 「…」


 「…」


 「…」


 一瞬の沈黙。そしてーー


 「マタイ! ヨハネ!」


 


 「「お兄ちゃぁぁぁん(兄貴ぃぃぃ)‼」」



二人の妹が思い切りメシアに抱き着いた。あまりの勢いにメシアが思わずよろけそうになる。


 「二人ともこんな所にいたのか!」


 「それはこっちの台詞っ!」


 「私達、散々探したんだから…」


 「それよりお兄ちゃん、何してんのっ⁉」


 「見りゃわかるだろ。ボランティアだよ。ボランティア」


 「え~、そんな事より早く帰ろうよっ」


 「うんうん…」


 「んなこと言われてもさーー」


 「…メシア様。お元気そうで何よりです」


 「メシア様、お疲れ様っす!」


 そこへいつの間にいたのか、ラファエルとウリエルも顔を出す。


 「ラファエル、ウリエル。おまえらもか」


 「「…はい(ちーっす)」」


 


 「…ちょうどいい、おまえ達四人とも天界に帰ってくれ」




 「「「「え…ええええええっ⁉」」」」




 「なんでっ! なんでなんでっ⁉ お兄ちゃんと一緒にいたいのに‼」


 「そうっすよ! 俺らここまでくんの大変だったんすよ⁉」


 「本当だよ、本当だよ兄貴、私達に帰れだなんて、兄貴、何考えてるの…?」


 「…うんうん」


 「ハッキリ言おう。おまえらは足手まといだ。戦いに巻き込むわけにはいかねぇ」


 「「「「ええええええっ⁉」」」」


 「足手まといって、そんなぁっ!」


 「そうっすよ! マタイお嬢様も、ヨハネお嬢様も力になれますよ!」


 「そうだよ、兄貴、私達、強い…」


 「…たぶんですけどね」


 「とにかく、駄目なものは駄目だ。とっとと帰れ」


 「「え~⁉ ヤダヤダ! お兄ちゃん(兄貴)と一緒にいるぅ‼」」


 「いい加減にーー」


 「ーーごほん」


 ここでようやく口を挟む者がいた。振り向くと、そこにはわざとらしく咳をするルカと、ガブリエル、ミカエルがこちらを見つめていた。


 「あ、ガブリエル先輩、ミカエル先輩、ちーっす」


 「…お久しぶりです。ガブリエルさん、ミカエルさん」


 「久しぶりガオ」


 「珍しく、天使が全員揃ってるっぽ」


 天使達が顔を合わせる一方で、ルカはやや顔を曇らせたまま言う。


 「そんな事よりも! メシア君、後ろがつかえているから、内輪もめは配り終えてからにしてね!」


 「あ…ああ。ルカ、すまねぇ」


 そう言われ、メシアがパン配りを再開する。「ほら、ほら」と配る度にパンは無限に増殖していった。


 「あなた達も、メシア君を困らせちゃだめだよ!。今、彼、仕事中なんだから」


 と、ちょっと怒った感じでルカはマタイとヨハネ、ラファエルとウリエルに言った。しゅんとなる四人。


 「メシア君、家にいるときもあんな風に手伝ってくると良いんだけどね~」


 その一言に四人の眉がピクリと動いた。


 「…失礼。お嬢さん、今、なんとおっしゃいましたか?」


 「え、メシア君、家にいる時ももっと手伝ってほしいな~、と」


 ラファエルの質問にきょとんとした表情でルカは答えた。


 「家に…?」


 ヨハネが思わずつぶやいた。


 「どういうこと…? あなた、兄貴と一緒に住んでいるの…?」


 「そうだけど?」


 その言葉が姉妹の起爆剤となってしまった。ガタガタと震えだす姉妹。


 「どういうこと、どういうこと、どういうこと…お兄ちゃんが女と暮らしている…?」


 「兄貴が…兄貴が…私の兄貴がぁ…」


 「…わ~お」


 「こりゃまずいっすね」


 と、そこに、タイミング悪く、件の人物が返ってきてしまった。


 「今、戻ったぞーー」


 「「ーーお兄ちゃん(兄貴)」」


 「あん?」


 ぐるりと姉妹が戻ってきたメシアに首を回した。


 「「この女、誰? お兄ちゃん(兄貴)とどういう関係…?」」


 二人とも無表情だが、目は笑っていない。いや、それどころか殺意のようなものまで感じられた。


 「何って…こいつはパウロの娘だ。だから一緒に住んでいる」


 その言葉を聞くなり、姉妹は卒倒しそうになった。


 「嘘、嘘、嘘、うそうそうそうそ、お兄ちゃんが、私のお兄ちゃんがぁぁぁ⁉」


 「兄貴…兄貴…私の兄貴が…私の兄貴が他の女に取られちゃうぅぅぅ‼」


 「…わ~お」


 「こりゃ、まずいっすね」


 すると、絶望の矛先は今度はルカに向かう。


 「あんた、名前はっ⁉」


 「え、ルカ」


 「ルカぁ! あんた、お兄ちゃんとどういう関係っ⁉」


 「え、ただ一緒に住んでーー」


 「ーーどこまで進んだのっ⁉」


 「答えによっては雷落とすよ…?」


 ヨハネがそう言うや否や、何故か、彼女の身体がバチバチと帯電し始めた。どうやら、雷を落としたりできるらしい。


 「え、ええっと…」


 ルカは状況がつかめていないようで、何と答えればいいかわからないようだ。それを遠目で天使達が見つめている。


 「…わ~お」


 「こりゃ修羅場っすね」


 「久しぶりにこのやり取り見たガオ」


 「クルッポ。本当に何もないんだけどなぁ…」


 「…え、本当に何もないんですか?」


 「「クルッポ(ガオ)」」


 そんな天使達の声を聞いたからだろうか。


 「男と女が一緒に住んでて、何もないわけないでしょぉぉぉっ⁉」


 「正直に言って…正直に言って…」


 「え、ええっと…」


 詰め寄られて、ルカは困り果てた。もう、何が何だか…。



「Thank'sありがとう


 「You are welcome!(どういたしまして!)」


 『やすらぎ公園』に着いたワタシとルシフェル君は外人さんと別れると、早速、公園は二人きりで座れる場所を探す。


 あ、でも、まず最初にコンビニかな? 先に場所をとっといても良いかもしれない。


 「ねぇ、ルシフェル君は普段、どんなことしてるの?」


 広い園内を歩きながら聞くワタシ。


 「え…う~ん、読書かな(うっせ)」


 「そうなんだ! どういうの読むの⁉」


 「ちっ…古典かな」


 「へ~。古典なんて読むんだ。アタシ、ああいう難しくてダサいの苦手ぇ~」


 「あははは(はっ、そうだろな。おまえみたいな軽い頭の奴にとっては)」


 「え、でも、ルシフェル君が読んでいるヤツなら読んでみたいかも! なんか、おすすめのあるーーうっ」


 言いかけた直後、頭に鋭い痛みが走った。


 「どうかした?」


 「え、ううん、何でもない! それよりさ」


 思わず笑顔で返す私。何だろう、今の痛み。風邪でも引いたかな? ま、いっか。すぐに痛みは引いたしーー


 『ーーここが~人間界~どこかに~良い獲物は~』


 突然、聞き覚えのない声が脳裏をかすめた。


 「え…」


 『面白そ~う…行ってみるか~』


 頭の中に声が響く。何故だろう、この声…人間の声じゃない。そんな気がする。


 「マルコ?」


 ルシフェル君がワタシの顔を覗き込む。いかんいかん。ここで彼を幻滅させちゃ。


 「な、なんでもない。なんでもないよ! あははは…」


 そう言うけれども、なんでもなくはなかった。


 (今の声…もしかして…悪魔?)



「ねぇ! どういう関係っ⁉」 


 「聞いているんだけど…」


 「え、ええ~」


 ぐるぐる目を回し始めるルカ。もう、端から見てもどうしたらいいかわからない状況だった。


 その時だ。その助け船、否、厄介事が舞い降りたのは。


 ヒュー~


 上空からそれは振ってきた。


 「「「え」」」


 その場にいた全員が黒い影となったそれを…自分達の真上に落下しようとするそれを見つけた。気づくや否や、真っ青になる。


 「「「う、うわああああああ‼」」」


 蜘蛛の子を散らすように全員が逃げる。と、彼等のいた場所にそれは落下してきた。


 ズドーン。


 「到着~」


 そう、レヴィアタンだ。


 「何々⁉」


 「悪魔‼ どうしてここに⁉」


 ルカとメシアが叫ぶ。そんな事なぞ露知らず、レヴィアタンはきょろきょろと周囲を見渡した。


 「どこかに~闇を抱えている人間は~うん?」


 「あわわわ…」


 「ひいぃ…」


 レヴィアタンの目が悲鳴を上げている内の二人…エプロンをつけた気の強そうなおばさんといかにもなホームレスとに向けられた。レヴィアタンの目がギン、と妖しい光を放つ。すると、その光を通じて睨まれた二人の心の声がレヴィアタンの脳に響き渡った。


 『なんで私がこんなボランティアやらなきゃならないのよ…ご近所付き合い、めんどくさいわ~』


 『腹減ったなぁ~ってか、前の奴もパン配るヤツも遅ぇよ! そんな事より、早く飯よこせよ!』


 それを聞くなり、レヴィアタンはにんまりと嗤ってみせた。


 「めんどくさがり~自分勝手~いいねぇ~実に良い~おまえ達~レギオンにする~」


 すると、レヴィアタンの首にかけられたどす黒いクリスタルが妖しく光り始める。そしてーー






 「こぉころの闇よ、け~んげんせよ! 出でよ、レギオォォォォォォン‼」




 レヴィアタンの耳をつんざくような大絶叫が木霊した。それと同時に、レヴィアタンの首にかかったどす黒いクリスタルから黒い閃光が放たれた。閃光はいかにも気の強そうなおばさんとホームレスを包み込む。


 「「きゃああああああ(うわああああああ)」」


 光を浴びた二人は一瞬でその姿を変えた。


 両者共に身長は五メートルはあろう、頭部が豚の豚人間になった。かたほうの豚人間はボロボロの、みずぼらしい服装をしていて、もう片方の豚人間はエプロンをした専業主婦の姿になった。


 そして、


 「「レ~ギオ~ン‼」」


 変わり果てた姿になった両者が公園全体に響き渡る大声で叫んだ。


 「「うわああああああ‼」」


 「「きゃああああああ‼」」


 当然、その場にいたボランティア団体の人々、貧しい人々は声を上げて逃げまどい始めた。


 こうなれば後はお決まりの展開だ。


 「「レ~ギオ~ン」」


 二体のレギオンーーホームレスレギオンと主婦レギオンは早速暴れ始めた。大地を踏みまくり、腕を振るいまくり、遊具を、テントを、公園の樹木を殴り倒していく。


 「あはははははは‼ やれ~やれ~」


 それを見て、レヴィアタンが哄笑した。


 「暴れろ~暴れろ~」


 当然、目の前にいたルカ達もまた戦闘態勢に入る。


 「ちっ…ルカ! マルコはいないが戦うぞ‼」


 「うん‼」


 メシアの声にルカは頷くと、変身ロザリオ『ペンテコステ』を取り出し、レヴィアタンに突き付けた。そして思い切り叫ぶ。




 「「変身! Veni,Sancte,Spritusu(ヴェ二・サンクテ・スピリトゥス)‼」」




 刹那、ルカ達は変身した。ロザリオの放つ閃光の中で、見る見るうちに姿が変わっていく。


 ルカの髪型は黒髪ロングから金髪のロングヘアに、着ていたエプロンと制服はカラフルな魔法少女服に、そして何処から出現したのか、大きな白いベレー帽と、少し大きめの白衣がそれを包む。そして、それを合図に手にしたロザリオが巨大化、大きな、真ん中に水晶が埋め込まれた十字架の杖へと変わった。


 もう一人のメシアの姿も変わる。赤いテーラードジャケットは一瞬のうちにワインレッドの膝より長いロングTシャツ一枚に。続いて、履いていた茶色い革靴はベージュの紐が蝶々結びになった茶色いブーツに。そして、何処から出てきたのか、紫の大きなローブがばさりと音を立て、彼の肩にかかる。そして、ローブが身体を包み込むと同時に、頭部に茨の冠が出現。更に、珠が木でできた儀礼用のシルバーのロザリオが首にかかった。


 「…おお」


 「すげぇ…」


 その変身を口を開けて見入るのはラファエルとウリエル。そしてーー


 「お兄ちゃん…」


 「兄貴…カッコイイ…」


 妹姉妹もまた二人の姿に釘付けになっていた。そして、目線の先の二人は叫ぶ。


 


 「神の子、メシア、見参‼ 『喜べ、神の国は近付いた!』」




 「わ、私は…ルカ! 魔法少女ルカ‼ ここに見参‼ 『さぁ、悔い改めなさい‼』」




 「「「おお~」」」


 その場にいた全員が感嘆の声を上げた。


 「だいぶ様になってきたな! ルカ‼」


 「うぅ…やっぱ恥ずかしい…」


 笑顔のメシアにバシバシ背中を叩かれるルカ。こんな時も決め台詞にこだわるなんて、メシアはやっぱり、何を考えているのやら。


 そしてーーそれに気づいたレヴィアタンが二人に睨みを利かせた。


 「で~たな~神の戦士~わ~たしが相手だ~」


 しかし、そんな言葉に怯む二人ではない。


 「へっ。覚悟しな! ぼっこぼこにしてやるぜ‼ ルカ、おまえはレギオンを頼む! 俺はこいつをぶっ倒す‼」


 「オッケー!」


 そう言うや否や、メシアとルカが各々の方に思い切り駆けだした。二手に分かれる一方で、メシアは渾身のパンチをいきなりお見舞いした。


 「どりゃあああ‼」


 ところが、だ。


 メシアの拳が、否、正確にはメシア自身がレヴィアタンの身体をすり抜けた。


 「え?」


 驚くメシアに間髪入れず、レヴィアタンの尻尾がメシアをひっぱたいた。


 「ぐふっ!」


 「「お兄ちゃん(兄貴)!」」


 妹姉妹が叫ぶ中、メシアは地面に叩きつけられた。


 「どうした~?」


 「まだまだ! うおおおりゃあああ‼」


メシアのパンチが、キックが、次々とレヴィアタンの身体に襲い来る。しかし、どの攻撃も当たらない。それどころか、すり抜けていく。


 「ふんっ!」


 業を煮やしたレヴィアタンが再度、メシア目掛けて尻尾を叩きつけた。もろに食らったメシアの身体が地面に沈み、それと連続するように、方向転換したレヴィアタンの尾が今度はメシアを跳ね飛ばした。


 「ぐはっ!」


 吹っ飛び、地面に身体をこすりつけるメシア。


 「無駄無駄~私に物理攻撃は効かないんだよ~」


 「な、に…」


 勝ち誇ったレヴィアタンに、メシアがよろめき立ち上がりながら呟く。


 「だから~何発殴っても無駄~その代わり~」


 言うや否や、レヴィアタンがすごい速さでメシアに接近、そのままぐるりと身体を回すと、メシアを締め上げた。


 「こちらの攻撃は効く~」


 「ぐ、か、は…」


 身体全体を半透明の大蛇の身体が縛り上げる。初っ端から大ピンチだ。


 「「「「メシア様‼」」」」


 「「お兄ちゃん(兄貴)‼」」


 天使軍団と妹姉妹が叫ぶ。


 「おまえら、手を出すな‼」


 メシアがありったけの声で叫んだ。


 「こいつは…俺一人で、片づける…‼」


 苦しそうに喚くが、どう考えても大丈夫じゃない。


 「余裕だね~なら、も~っと締め上げてやる~」


 ぎりぎりと、全身を巨大な万力で締め上げられるような痛みの中で、メシアはもがくが、何故か、こちらの攻撃はすり抜けていく。


 「くっそ、どうすりゃ…」



『無駄無駄~私に物理攻撃は効かないんだよ~』


 嫌な予感がした。何故か私の頭の中にまだ見ぬ悪魔の声が響き渡る。


 「おい、マルコ! 急に走り出して、何処へーー」


 ルシフェル君の声が背後から聞こえたが、そんな事なぞ、ワタシはお構いなしだった。声のする方に走る、走る。


 そしてーー見つけてしまった。


 「っ‼」


 そこには、公園の開けた場所で、大蛇のような悪魔に全身を締め上げられるメシア君と、二体のレギオンと戦うルカの姿が。


 「な、何だあれ…(レヴィアタン…!)」


 ルシフェル君が叫んだ。


 しかし、そんなことお構いなしだった。大変だ。早く、“変身”して加勢しないと。でも…


 ワタシはルシフェル君と苦戦するルカ達を交互に見て、瞬時に棒読みの芝居をした。


 「た、たいへーん、怪物だ! 早く逃げよう‼」


 「え?」


 「ルシフェル君、ごめん! ワタシ、これから用事があったの思い出した! ってか、あんな怪物がいるなんて危ないから、別々に逃げよう⁉」


 「え…」


 「…」


 見つめあうワタシとルシフェル君。お願い、早く帰って!


 「…わかった。気を付けて帰れよ」


 「うん! ルシフェル君も‼」


 そう言うのを合図に私達は正反対の方向に奪取した。


 ワタシは大急ぎで近くの草むらは大きな木の後ろに隠れると、『ペンテコステ』を取り出し、“変身”した。


 「変身! Veni,Sancte,Spritusu(ヴェ二・サンクテ・スピリトゥス)‼」


 刹那、『ペンテコステ』からの閃光がワタシを包む。


 やや水色がかかったショートウルフカットヘアは一瞬で金髪に染まり、服装は黒のセーラー服から蒼いシャツ、細身の白いパンツに変わり、履いていた革靴は革靴は革靴でもローファータイプの茶色いものに。そして、何処から出現したのか、背中に黄色いライオンがデザインされた巨大な茶色いチェスターコートがばさりと彼女にかかり、それと同時に十字架のシルバーアクセサリーと灰色のレザー・フィンガーレスグローブが装着。そして、彼女の持っていたロザリオは真ん中にサファイアが埋め込まれた十字架の杖へと変わった。


 「よぉし、変身完了! 待っててね、ルカ‼」



一方のルカはルカで大苦戦していた。


 「レギッオン!」


 「レ~ギオン!」


 次々と、ホームレスレギオンと主婦レギオンが息の合ったコンビネーション攻撃で四方八方から殴り、蹴りまくっていたのだ。こいつら、本当に赤の他人の、単体レギオンなのか、と思うくらいに。


 「わ! きゃ! くっ!」


 ルカは悲鳴を上げながら攻撃をガードし、いなし、避けまくるが、何せ二対一だ。どんどん追い詰められていく。


 ルカも反撃していくが、確かに攻撃は効いてはいるものの、相手の防御力が高いのか、ダメージは微々たるものの様だ。


 「レギレギレギレギレギレギ!」


 ホームレスレギオンの連続パンチがルカを襲う。それを何とか防ぐが、手数が多いためか、全てを防ぎきれない。


 「く、く、く、く…」


 「レギッ!」


 刹那、レギオンの右フックがルカの左肩に直撃した。


 「きゃあ!」


 吹っ飛ぶルカ。地面に身体をこすりつけた。


 「いったたた…はっ!」


 「レ~ギオンッ‼」


 転ぶと同時に、主婦レギオンがルカ目掛けて踏んづけようとした。ただでさえの巨体だ。あんなのに踏まれたらひとたまりもない。だがーー


 「はああああああ‼」


 そこに助け船がやってきた。


 マルコだ。変身したマルコが横合いから飛び出し、思い切り、杖で主婦レギオンを殴り飛ばしたのだ。


 「レギッ…オン…!」


 ぶっ倒れる主婦レギオンとルカの間にマルコが降り立つ。


 「マルコ!」


 「遅くなってごめん!」


 今度はマルコに気づいたホームレスレギオンがこちらに振り向いた。


 「よぉし! 後はこいつだけ‼ ルカ、この主婦レギオン? が復活する前に叩くよ!」


 「オッケー」



「ほらほら~どうした~?」


 レヴィアタンが更に締め上げる。


 「くそ…このままじゃ…くっ…」


 メシアは足掻きに足掻くが、何をしてもすり抜ける大蛇の身体にお手上げ寸前だった。意識は朦朧とし始め、このままだと敗北必至だ。


 「「お兄ちゃん(兄貴)‼」」


 妹姉妹が叫ぶ。二人もまた、どうしたらいいかわからなかった。このままだと兄が絞殺されてしまう。何かないか、どうすればいいか、あたふたし始めてーー


 「…マタイお嬢様、ヨハネお嬢様。加勢しましょう」


 ラファエルが呟いた。


 「はっ、そうっすよ! 俺ら『ペンテコステ』持ってたの忘れてたっす‼」


 続けてウリエルが叫んだ。


 「今更過ぎるガオ!」


 「クルッポ! 早く変身して助けにいくっぽ!」


 「そ、そうだった!」


 「兄貴を助けよう…」


 ミカエルとガブリエルの突っ込みもあって、二人はここで、ようやく、自分たちにできることを思い出したのだった。


 二人はポケットから『ペンテコステ』を取り出すと、レヴィアタンに向けて突きつけた。


 「…変身呪文はわかりますか?」


 「「うん!」」


 「後、お二人は三分しか変身できませんから、速攻でやっちゃうことを意識してくださいっす!」


 「あ~もう、わかってるってばっ!」


 「早く、変身させて…」


 「「じゃ、行ってらっしゃ~い(っす)」」


 ラファエルとウリエルに後押しされる形で、二人は変身呪文を叫んだ。




 「「変身! Veni,Sancte,Spritusu(ヴェ二・サンクテ・スピリトゥス)‼」」




 叫ぶや否や、二人の持つロザリオが閃光を放ち、二人を包み込んだ。


 するとどうだろうか。まずはマタイからだが、着ていたデニムジャケットが横に黄色い線が入った赤いダウンジャケットのような魔法少女服に変化。続いて、白のワンピースが短くなり、白いミニスカートになる。それを合図に、白いベールが付いた輪っかがマタイの額に装着され、続いて白い手袋が出現。更に、履いていたニューバランスのスニーカーが茶色のロングブーツに変化。持っていたロザリオはメシアが付けているのと同じ、珠が木でできた儀礼用のロザリオになり、首にかかった。すると、今度は手の中から十字架に近いデザインの、シトリンが埋め込まれた槍が出現した。


 一方、ヨハネも変身する。着ていたデニムジャケットが黄色に染まったかと思えば、今度はそれが燕尾の長くて丸い黄色いジャケットになる。続けて、白いワンピースはまるで女子学生を思わせるデザインの水色の魔法少女服に変化。更に、足には青色の二ーソックスが、続けて履いていた白いコンバースのスニーカーは革靴に変化した。そして、フィニッシュといわんばかりに、首に青いチョーカーが巻き付き、持っていたロザリオはメシアが付けているのと同じ、珠が木でできた儀礼用のロザリオになり、首にかかる。と、同時に、首に青いチョーカー、今度はヨハネの中指にオニキスの指輪が嵌められ、手に革表紙の聖書が出現した。


 光が止み、そこから赤い魔法少女と黄色い魔法少女が姿を現す。それに気づいたレヴィアタンが首をもたげた。


 「なんだ~おまえたち~?」


 その台詞を待ってましたと言わんばかりに、二人は交互に叫んだ。



「魔法少女マタイ見参! 『悪しき者よ、神の権威にひざまずけ!』」




 「魔法少女ヨハネ見参…『耳ある者よ、神の言葉を聴け!』」




 「「おお~(っぽ!)(ガオ!)」」


 「「わ~お(すげぇっす!)」」


 天使達の歓声が響いた。しかし…ここで二人の表情ががらりと変わる。マタイは急に陰鬱とした表情に。ヨハネはいきなり溌溂とした表情になる。しかし、二人とも目が笑っていない。


  


 「ふふふ~…よくもお兄ちゃんをいじめたなっ…」 




 「ぜ~ったいに許さないんだからね!」




 おかしい。何かがおかしかった。何か、二人に取りついているかのような…


 「何か様子がおかしいっぽ」


 「ガオ。何か二人の性格が入れ替わっているような…」


 「…そうなんです。変身すると二人の性格が入れ替わります」


 「ついでに、戦っている記憶が無くなるっす」


 「「えっ」」


 ラファエルとウリエルの発言にガブリエルとミカエルがびくりと反応する。


 「ぽぽぽ…それって大丈夫なの…?」


 「何か、急に心配になってきたガオ」


 「…とにかく」


 「マタイお嬢様、ヨハネお嬢様、とっととやっつけるっす‼」




 「「オッケーっ…(オッケー‼)」」




 すっかり性格が真逆になった二人は返事をするや否や、一気に突撃を開始する。


 先行はまずはマタイからだった。槍を頭上でくるくると大きく振り回す。


 「無駄無駄~私に物理攻撃はーー」


 そこまで言った直後、マタイの槍にいきなり炎がまとった。


 「っ⁉」


 レヴィアタンが驚くと同時に、メラメラと燃え盛った槍ーー“炎の槍”は火炎の弧を描き、レヴィアタンの身体を傷つけた。


 「ぎゃあああっ!」


 レヴィアタンが叫ぶ。しかし、マタイの攻撃は止むことはない。“炎の槍”は何度も大きくレヴィアタンの身体を傷つけまくると、今度は連続で刺突に変わった。先程からの攻撃が効いているという事は、どうやら物理は無理でも、属性による攻撃なら効くらしい。


 思い切り身体に突き刺した。


 「ぎゃああああああ‼」


 「お兄ちゃんを…離せぇぇぇ…」


 レヴィアタンの絶叫の中、声は本気なのにどこか消え入りそうなマタイの声が響き渡る。


 すると、レヴィアタンの方も我慢できなくなったのか、メシアを巻きつけていた胴体がゆるくなった。これをチャンスと見たメシアは何とか身体を持ち上げると、拘束から抜け出した。


 「よっと!」


 「お兄ちゃん…!」


 マタイが安堵の声を漏らす。しかし、それとは正反対に、レヴィアタンは当然、ご立腹だった。


 「おのれぇぇぇ!」


 レヴィアタンが咆哮した。


 「おまえ達~許さない~覚悟しろよぉぉぉ⁉」


 レヴィアタンの声がびりびりと空気を震わせた。が、


 「それはこっちの台詞っ…」


 「許さないんだから!」


 妹姉妹が腰に手を当て威嚇する。


 「ほ~ざ~けぇぇぇ‼」


 レヴィアタンは口が裂けんばかりに再度咆哮すると、間髪入れずに襲い掛かった。だが。


 「…まずは私からっ…必殺技! Goゴー‼」


 マタイが槍を空にかかげ、言い放った。刹那、槍の穂先から火球ファイアーボールが生み出され、すごい勢いでレヴィアタン目掛けて射出された。


 当然、レヴィアタンは避けられるはずはない。そのまま火球が直撃し、火だるまになった。


 「ぎゃああああああ⁉」


 燃え盛るレヴィアタンはグネグネ動き回る。更にさらに、そこにヨハネが言い放つ。


 「次は私! いっくよ~必殺技! Eveniteエヴェニテ!」


 ヨハネが言うや否や、ヨハネの指輪が、続いて聖書がキラリと光りを放った。次の瞬間、


 カッ! ドーン‼


 一瞬、レヴィアタンの頭上に黒い雲が発生したかと思うと、そこから雷が落ち、レヴィアタンに直撃した。


 「あべべべべべべ⁉」


 落雷をもろに浴びたレヴィアタンはたまったもんじゃない。一瞬で真っ黒こげになり、そのままーー


 「ぎゅうぅぅぅ…」


 と、その場に倒れてしまった。


 「「や、ヤッター(ヤッター…)」」


 妹姉妹が歓喜の声を上げながらジャンプした。これで、とりあえずは一安心だ。


 「ねぇ! 兄貴! 私の活躍見た⁉ 見たよね⁉」


 「え」


 「そうだよっ、私達、お兄ちゃんの役に立てる…」


 「え…おまえら、さっきから性格がーー」


 「「そんなことはどうでもいいのっ‼ 私達、お兄ちゃん(兄貴)の役に立ったよね⁉」」


 「え…え~っと…そ、そうだ! ルカを助けなきゃ…!」


 「あーっ!」


 「逃げた…」



ワタシはルカと戦っていた。しかし…


 「レギッ! レギッ! レギッ‼」


 ホームレスレギオンは二対一だというのにほとんど隙を見せない。おまけにその拳と蹴りは一発一発が非常に重く、当たるだけでどんどんダメージが蓄積されていく。長期戦は難しいのは間違いない。


 「くっ…これじゃあ倒せない!」


 ワタシの口から思わず弱音が飛び出した。そして、更に追い打ちをかけるようにーー


 ピコン、ピコン、ピコンーー


 ワタシの杖が点滅、アラームを響かせる。戦闘から5分が経とうとしている。まずい、このままだと変身が解けてしまう!


 「マルコ!」


 杖に気を取られている最中、ルカが思わず叫んだ。


 「え…」


 しまった! そう思った時にはもう遅い。


 「レギオン!」


 ホームレスレギオンの拳が綺麗にワタシの胸に直撃した。吹っ飛ぶワタシ。そのまま地面に身体をこすりつけた。


 「マルコ!」


 ルカが叫ぶ。しかし、ワタシは戦闘での久々の痛みに軽くショックを受けていた。あまり戦闘で怪我をしたことがないから、どこか甘く見ていたところがあった。いつもの通りだ、と。しかし、それが仇になり始めようとしていた。


 ピコン、ピコン、ピコンーー


 杖が鳴り始める。まずい、これはまずすぎる。


 「はあぁぁぁ!」


 そこにルカが殴りかかる。だが、


 「レギッ!」


 振り向きざまにホームレスレギオンがルカに裏拳を喰らわせた。


 「きゃあっ‼」


 殴り飛ばされるルカ。そして、再度、ホームレスレギオンがこちらに振り向いた。何故だろうか、その目は笑っているかのようにも見えた。


 「レ~ギオ~ン」


 ホームレスレギオンが拳を振り上げる。まずい、何とか逃げなきゃ。しかし、その判断を下すには遅かった。


 「レギッ!」


 レギオンの拳が襲い来る。


 「きゃーー」


 思わず目を瞑る私。そして、敵の拳が本当に、ワタシに当たるか当たらないかという距離まで迫った瞬間、助け船がやってきた。



GOゴー‼」


 響き渡ったのは見知らぬ女の子の声だった。強気なのにどこか暗い雰囲気が漂う声が響くと同時に、ホームレスレギオンの横っ面に火球ファイアーボールが直撃した。


 「レギィィィ⁉」


 ホームレスレギオンが痛みと熱さに叫んだ。それを合図に、今度はーー


 「Eveniteエヴェニテ!」


 別の、明るい感じの女の子の声が響く。すると、ホームレスレギオンの頭上に雷が落ち、直撃した。


 「レギギギギギギ⁉」


 雷をまともに浴びたレギオンは一瞬で真っ黒こげになり、そのままドン、とぶっ倒れた。


 「ルカ! マルコ! 無事か⁉」


 そこにようやく見知った顔と天使軍団。更に見知らぬ二人の顔が駆けつけてきた。一人目は言わずもながらのメシア君。残るもう二人は、一人は金髪にポニーテールで槍を持った赤い魔法少女と、残る二人目はツインテールヘアで手に大きめの本を持った黄色い魔法少女だ。一瞬で彼女らが魔法少女となんで見抜けるようになっていたのか、自分でも謎だ。


 「うん、ありがと」


 ワタシがお礼を言うと同時に、


「レギィィィ‼」


 真っ黒になったレギオンが復活したのだ。


 「うわぁっ⁉」


 マルコが悲鳴を上げた。


 「しつこいっ…」


 「なら、もういっちょ! Evenitエヴェニーー」


 妹姉妹がそこまで言った直後ーー


 ピピピピピピーー


 二人の杖の宝石が鳴り始めた。


 「「あ」」


 マタイとヨハネが思わず呟いた。すると、


 キン!


 という金属音と共に、二人の変身が解けた。二人ともデニムジャケットに白のワンピースに戻ってしまい、そのまま、


 「「きゅ~」」


 と目を回してその場に倒れてしまった。


 「あぁっ! 時間切れっす‼」


 「…どうしましょう」


 ウリエルとラファエルが焦る。更に追い打ちをかけるように、


 ピコン、ピコン、ピコンーー


 今度はワタシの杖の音が加速し始めた。時間切れまでもう、少ししかない。まずい! まずすぎる。


 どうしよう、どうしたらいい⁉ 一応、必殺技はあるが、威力がありすぎる上に対消滅させてしまう。考えろ、考えろ、考えーー


 


 その瞬間、ピキン、と、脳が何かを叫んだ。




 (え…)


 ドクン、ドクン、ドクンーー


 何故か、杖のアラーム音に交じり、心臓の音が大きく高鳴る。


 そして。脳裏に謎のビジョンが浮かぶ。


 それは先端が巨大化した杖で、敵を殴り飛ばす映像ビジョン


 それを直感的にワタシは感じた。そして、思う。


 これを使えば、ホームレスレギオンを殴り飛ばせる、と。


 (なに、何なのこれ…)


 驚くワタシ。そして、何故かスローモーションで動いて迫ってくるホームレスレギオン。


 ドクン、ドクン、ドクンーー


 心臓は高鳴り続ける中、全てが何故かスローモーションで動く。だからといって迷っている暇はない。


 こうなったら一か八か。


 ワタシは杖を強く握りしめると、今のビジョンに沿うように、それと同時に、突然頭に呪文が浮かぶ。とにかく、これを唱えて、思い切りホームレスレギオンをぶん殴ればいい。そう、直感した。



vigilateヴィジラテ‼」




 そう判断すると、思い切りホームレスレギオン目掛けて杖を振りかぶった。


 刹那、時が元に戻る。そして、杖が一瞬で巨大化した。


 巨大化した杖はホームレスレギオンに吸い込まれるように、また、飛んできたボールをバットで打つように殴り飛ばした。


 「「「⁉」」」


 ここにいた全員が、ぶん殴ったマルコ本人も、殴り飛ばされたホームレスレギオンさえも驚愕に目を見開いた。


 「レギィィィィィィ⁉」


 殴り飛ばされたホームレスレギオンは悲鳴を上げながら、見事にホームランよろしく空に吹っ飛ばされる。しかし、重量がかなりあったらしく、空の彼方までは飛ばなかったもようだ。


ホームレスレギオンは空高く途中まで飛ばされると、そのまま引力にしたがって地面に吸い込まれていきーードスン、と地面に叩きつけられた。今度こそ、相手は目を回す。


 「今だよ! ルカ‼」


 ワタシは思い切り叫んだ。


 呆気に取られていたルカが我に返る。そして、思い切り必殺技を叫んだ。


 「オッケー! Tace,ut,ex.hoc.homineターチェ・ウ・テクス・ホ・ホーミネ‼」


 ルカの必殺技が炸裂した。ルカの十字架の杖が銀色の閃光を放ち、辺り一面を包んでいく。ぶっ倒れて目を回す主婦レギオンとホームレスレギオンは光に飲み込まれーー元の人間に戻った。


 「「「ヤッター‼(っぽ)(ガオ)(っす)」」」


 ルカとメシア君と天使達が歓喜の声を上げた。それと同時に、変身が解け、元の女子中学生の姿に戻った。本当にギリギリの戦いだった。


 「はぁ~…何とか倒せた…」


 へなへなと崩れ落ちるワタシにルカとメシア君、天使達が駆け寄った。


 「すげぇなマルコ!」


 「ほんとほんと! 今の技何なの⁉」


 メシア君とルカが興奮して話しかけた。


 「え…うん、何かよくわからないけど使えちゃった。あははは…」


 ワタシが照れながら答える一方で、それを無表情に見つめる者がいた。ラファエルだった。どうやら、思うところがあるらしい。


 「どうしたっすか、ラファエル先輩」


 「…いえ、なんでもありません」


 横目で見ている中で、ウリエルの質問に、ラファエルは無表情のまま答えていた。端から見ても意味が分からない、といった様子がうかがえた。


 その一方で、ガブリエルとミカエルがはっと我に返った。


 「そうだ、メシア様、早く、祈ってあの二人の悩みを解消するっぽ」


 「そうガオ。早く元に戻して、プラスエネルギーをーー」


 ミカエルがそう言った直後だった。


 元に戻った二人の身体から、黒い煙が湧き出てきた。


 「え…」


 ルカが、続いて全員がそれに気づいた。


 そんな事なぞ露知らず、黒い煙は見る見るうちに外野へと流れ出る。


 全員がそれを目で追うと、そこにはーーいつの間にか意識を取り戻した、火傷と半分真っ黒こげになったレヴィアタンがおり、レヴィアタンの胸にぶら下がっているどす黒いクリスタルにその黒い影が吸い込まれていった。やがて、クリスタルは黒い煙を全て吸い込むと、妖しく光り輝いた。



「マイナスエネルギー~ゲット~」


 全員が怪訝そうな顔で見つめる中、レヴィアタンはにやりと嗤う。


 「マイナスエネルギー?」


 ルカが怪訝そうな顔を張り付けたまま呟いた。


 「くっくっく~おまえ達を倒せなかったが、これは回収できた~」


 その言葉を聞くや否や、メシアがはっと我に返った。


 「マイナスエネルギー…そうか!」


 全員の目がメシアに集中する。


 「俺が人間からプラスエネルギーを回収しているのなら、逆もあって当たり前だ! それを悪魔(奴等)が集めているってことは…」


 「そう~全てはサタンの復活の為~」


 その発言にメシア君、マタイ、ヨハネ、天使軍団の顔が凍り付いた。何ききづいたのだろうか・


 「サタンが復活すれば~おまえ達など敵じゃない~笑っていられるのも今のうち~」


 「なんてことだ…おい、皆…って、全員が変身できないか。ルカ! ヤツを逃がすな! あの黒いクリスタルを壊すぞ‼」


 「う、うん‼」


 メシア君に促されたルカが杖を持って、また、メシアは拳をもってレヴィアタンに殴りかかった。しかしーー後ほんの少しの所でレヴィアタンの姿が宙に浮いた。慌ててブレーキを踏むと、彼等の頭上でレヴィアタンが空を飛んで逃げようとしていたところだった。


 「じゃあな~神の戦士共~」


 「待てーー」


 そう言い切らないうちに、レヴィアタンは姿を消した。


 「くそ、逃げられたか!」


 メシア君が歯噛みして、苛立ちを隠さずに、こちらに戻ってきた。


 「クルッポ。大変なことがわかりましたね」


 「ああ。まさか、奴らがマイナスエネルギーを集めてサタンを蘇らせようとしていたなんてな」


 「…しかし、裏を返せば、サタンはまだ、復活していない、という事です」


 ここで、ラファエルが言う。


 「…ならば、サタンが復活する前に、レギオンの浄化をしつつ、敵の持っているあの黒いクリスタルを破壊せねばならないということです」


 「そんなことできるのかガオ?」


 「…できるのか、ではありません。やらねばならないのです。サタンが復活したら、大変なことになりますから」


 ミカエルの心配そうな言葉に、ラファエルはぴしゃりと言い切った。


 「何はともあれ、今日はこれで終わりだ。今後の方針を決めるためにも、とっとと帰るぞ」


 ここでメシア君が言い、ワタシに手を伸ばしてきた。


 「大丈夫か? 立てるか?」


 「へ…あ、うん」


 メシアがへたり込んでいるマルコに手を伸ばし、思い切り引き上げた。その直後だった。


 「あれ…私達っ」


 「変身してたんだっけ…」


 先程まで倒れていた二人の魔法少女が目を覚ました。


 「…お目覚めですか?」


 「え…うん。ありがと、ラファエルーーって、ああああああ⁉」


 突然、魔法少女の内の、一人、赤い魔法少女が大声で叫んだ。


 「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、知らない女と手ぇ繋いでるぅぅぅっ‼」


 それに気づいたヨハネが絶句した。


 「兄貴が、私の兄貴がぁぁぁ…」


 それに続くように、黄色い魔法少女もまた絶句した。一体、何かあったんだろうか。


 「おいおい。俺はただへたれ込んでいたマルコを立たせただけでーー」


 「マルコ⁉ マルコって言うのね⁉ ちょっと、マルコ! あんた、お兄ちゃんとどういう関係⁉」


 「正直に答えないと、雷落とすよ…」


 どうやら、この二人はメシア君の妹らしい。


 「あ? こいつは俺の仲間だ」


 「そうそう」


 至極、当たり前のことを言ったつもりなのに、二人は納得できてないらしい。


 「仲間⁉ 仲間なのに手ぇ繋ぐんだっ⁉」


 「兄貴…本当の事言って…」


 「え~、だからこいつとはなんにもないってーー」


 「「ーー嘘だ‼」」


 この二人、どうやらかなり嫉妬深いみたい。


 「…わ~お」


 「この姉妹(二人)、かなりめんどくさいっすからね」


 「ブラコン、ここに極まれりっぽ」


 「ガオ」


 視界の端で不思議な四匹の動物が無表情にワタシを見つめていた。


 誰でもいいから、ワタシを助けて〜


「へぇ…やるじゃん。レヴィアタン」


 薄暗い悪魔の城の中、玉座に座ったまま、ルシフェル及び、ルシファーはレヴィアタンが持ってきたどす黒いクリスタルを手の中でもてあそびながら呟いた。


 「そうでしょ~」


 ベルゼブブとベリアルが嫉妬のまなざしを注ぐ中、レヴィアタンがしてやったりの顔で呟いた。


 「けど~また、神の戦士が増えた~しかも、手ごわい~」


 レヴィアタンの口調が悔しそうなものに変わる。それに対し、ルシファーは軽くため息をついたのち、やれやれといった口調で呟いた。


 「…まぁ、いいさ。マイナスエネルギーは着々と集まり、復活まであとちょっと。サタンさえ復活させれば、後はどうとでもなるさ」



「ありがとうございましたー」


 店員の声を背後に聞きながら、制服と私服に戻ったワタシ達はコンビニエンスストアから出た。


 歩くワタシ達のそれぞれの手にはアイスキャンディが握られている。


 「レギオン達も無事、戻って良かったね」


 ワタシはメシア君に投げかけた。


 「今日の御言葉。




 『善い行いと施しとを忘れないでください。このようないけにえこそ、神はお喜びになられる(新約聖書 ヘブライ人への手紙 十三章十六節)』」




 我ながらいいチョイスだったな。ボランティアはやりたい奴だけやりゃいい。あのホームレスに関しては御言葉なんぞもったいない。もうちょい我慢しろで充分だ」


 メシア君は自分に酔いしれながら呟いて見せた。


 「しかしながら、マルコは抹茶味か。なかなか渋い味を選ぶんだな」


 メシア君がワタシのアイスキャンディを見ながら言う。


 「いいじゃん。好みなんて人それぞれだよ。そういうメシア君なんてソーダ味なんて子供っぽい」


 「わかってないな。棒アイスはこれが一番なんだよ」


 「ルカはオレンジ味だっけ?」


 「そうだよ。私にとってアイスはやっぱりコレ!」


 メシア君もルカもアイスを口に含みながら自論を展開する。ホント、抹茶の味を理解できないなんて子供なんだから…


 「ところでさ…さっきからあの二人の目線が怖いんだけど…」


 ワタシの視線の先には明らかに敵意をむき出しにしているマタイちゃんとヨハネちゃんの顔があった。当然、二人の手には同じアイスキャンディが握られている。確か、マタイちゃんがマンゴー味で、ヨハネちゃんがラムレーズン味のアイスキャンディを買ったはずだ。まぁ、どうでもいいけれど。


 「あったりまえじゃない! お兄ちゃんと手を繋いだ女なんて敵よ敵っ!」


 「そうそう…あと、兄貴と一緒に暮らしているルカも油断できない…」


 うわぁ…完全に目をつけられている。困ったなぁ…


 「ってか、おまえら、俺と同じ方向についてってるけど、何処に向かうつもりなんだ?」


 至極当然の問いに、話しかけられたマタイちゃんとヨハネちゃんは勢いよく答えた。


 「決まってるでしょ! ルカの家よ! 私達も住むって決めてんだからっ!」


 「そうそう…兄貴に間違いがあったら困る…」


 その答えにルカは当然、仰天した。


 「え、ちょっと待ってよ! あの家に二人も来るの⁉」


 「そうよ! なんか、文句あるっ⁉」


 「文句しかないよ! 大体、何処で寝るつもりなの⁉」


 「そんなもの、兄貴の部屋に決まってる…」


 「「ねー?」」


 絶句するルカに、妹姉妹は笑顔で兄の顔を覗き込んだ。メシア君はルカの事情などお構いなしにはぁ、とため息をついた。


 「…というわけだ。よろしく頼むぞ。ルカ」


 「ガーン…」


 ルカがショックに打ちひしがれた。本当にお気の毒だ。


 しかし…


 沈み始めた夕日に向かいながら、ワタシは先程のことを思い出していた。


 


 『vigilateヴィジラテ‼』




 なんだったんだろう、ワタシはなんであんな技が使えたんだろう。それに、その前後の遅くなった時間。耳の鼓膜を破らんばかりの心臓の音…


 何かがおかしくなり始めている。そんな気がする…


 そう、




 その予感は後々になって確信に変わることをワタシはこの時は気づかなかった。



 マルコ達がアイスキャンディを食べ歩きながら帰路に就く一方で、先にルカの家に帰っていた天使達だけが知る上下関係によるやり取りが始まっていた。


 「ガブリエル先輩! ミカエル先輩! ラファエル先輩! ジュース買ってきたっす‼」


 「わ~い、紅茶ガオ~」


 「…私はミルクティーです。ありがとうございます、ウリエル君」


 「ガブリエル先輩もどうぞ!」


 「クルッポ。ってーーなんでお茶なの⁉」


 ここでガブリエルが怒りに任せて手渡された中サイズのペットボトルのお茶をウリエルの足下に投げつけた。


 「ひぃっ⁉」


 「私はコーヒーって言ったっぽ!」


 「い、いやぁ…コーヒー買いたかったんだけど、お茶しかなかったから、お茶にしたっす」


 「はぁ⁉ それなら、コーヒーが売られてる場所が見つかるまで走り回るべきっぽ‼」


 「そんな無茶な…」


 「言い訳はいいっぽ‼ とにかく買ってくるっぽ! 三十秒以内に! ダッシュ‼」


 「は、はい~」


 ウリエルは猛スピードでその場を後にした。


 「まったく、しょうがない後輩っぽ」


 「ガオ、ガブはいつもウリエル使いがあらいガオ」


 「…これ、立派なパシリですよ」


 「パシリじゃないっぽ! 愛のムチっぽ‼ あんなんじゃ立派な天使になれないっぽ‼ でも…まぁ、飲んでやるっぽ。ぐびぐび…」


 「「飲むんだ…」」


 


 コンビニにて。


 「店員さ~ん、早くして欲しいんっすけど~」


 「もう少々お待ちください~」


 「イライライラ…(っち、あと十秒しか時間ないっすよ~)」


 「お待たせしました~」


 「よっしゃあ! ありがとうっす‼」




 ルカの家にて。


 「ガブリエル先輩! 戻ってきたっす‼」


 「遅い! 十秒オーバーっぽ‼」


後半パート 了


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