5話:「前半」
次の世に入って死者の中から復活するにふさわしいとされた人々は、めとることも嫁ぐこともない。この人たちは、もはや死ぬことがない。天使に等しい者であり、復活にあずかる者として、神の子だからである。
新約聖書 ルカによる福音書 二十章 三十五~三十六節
太陽が燦燦と空を、街を照らしていた。
その太陽の中からその二人は飛び出し、地上へと落下した。
「「きゃああああああ‼」」
二人はものすごい勢いで雑居ビルの一つ、屋上へと落ちていく。そしてーー
ドシーン‼
という音と共に屋上に叩きつけられた。
「「痛ぁ~」」
二人は激痛に耐えながらもゆっくりと起き上がる。普通の人間なら死んでいる高さからの落下だった。
そこに、その奇妙な動物と一羽の鷲が姿を現し、二人に近づいた。奇妙な動物の方はどこからどう見ても牛…牡牛だ。しかし、二足歩行で、背中から白い羽が生えている。おまけに大きさが子猫ほどと、どう見ても、どう考えてもありえない生物だった。もう一羽の方は何の変哲もない鷲。特にこれといった特徴もない。
「…大丈夫ですか?」
と、牛。
「マタイお嬢様、ヨハネお嬢様」
と、鷲。
「う~ん…大丈夫~」
二人のうちの一人ーーマタイお嬢様、と呼ばれた少女が顔を押さえながら答えた。歳は十四歳くらい。ほどけば腰まで伸びるであろう、金髪の長髪をハイポニーテールヘアにし、雪のように白いワンピースを着用、その上から青色のデニムジャケットーーただし、左側にしかポケットがない、ファーストタイプのデニムジャケットを羽織り、足下は灰色のニューバランスのスニーカーを履いていた。
「平気、平気…」
続いて、最後の一人ーーヨハネお嬢様、と呼ばれた少女が目を回しながら答える。歳は十三歳くらい。ほどけば腰まで伸びるであろう、金髪の長髪をハイツインテールヘアにし、雪のように白いワンピースを着用、その上から水色のデニムジャケットーー世間では広く浸透している、代表的なサードタイプのデニムジャケットを羽織り、足下は白いコンバースのスニーカーを履いていた。
やがて、二人は正気に戻ると、屋上から街を見下ろした。
「ここが人間界…」
「ここに兄貴がいるんだね…」
マタイ、ヨハネが街を睥睨しながら呟いた。
「…問題は、何処にいるのか、です」
と、牛が口を開いた。
「そうっすよ。手掛かりっていえば、パウロっていう男の家にいるっていう事だけじゃないっすか」
と、鷲。それに対し、マタイはにかっと、ヨハネは薄く不気味に笑って見せた。マタイはともかく、ヨハネはこれでも自然な笑みのようだ。
「大丈夫、大丈夫! きっと何とかなるよっ‼」
「うんうん、兄貴を探すの、得意。それに、マタイ姉もラファエルもウリエルもいる…」
「「それはそうですが…」」
ラファエルと呼ばれた牛、ウリエルと呼ばれた鷲が口をそろえて心配そうに呟く。しかし、そんな事なぞ、どこ吹く風、マタイとヨハネは湧き上がる元気を隠すことなく、改めて街に目を向けた。
「よし! そうと決まれば、さっさと行くよっ! おーっ‼」
「おー…」
やる気満々の姉妹が拳を空に向ける。こうして、今回のエピソードは幕を開けた。
「「はああああああ‼」」
魔法少女に“変身した”ルカ(長谷川路加)とワタシはありったけの大声で私服を着たレギオンに殴りかかった。
ルカは白いベレー帽に白衣を着た金髪ロングヘアの魔法少女で、ワタシは金髪ショートウルフカットヘアに、背中に黄色いライオンがデザインされた、巨大なチェスターコートを着ている。
私達の拳がレギオンのお腹に直撃する。思わず句の字に曲がるレギオン。そこに、間髪入れずに、ワタシ達は連続パンチをお見舞いした。
「「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」」
「レギッ! レギッ! レギッ! レギッ‼」
「「おりゃあぁぁぁ‼」」
ぼこぼこに殴られた所の最後に、渾身のパンチをお見舞いすると、レギオンは思い切り、電車が走る陸橋の柱へと吹っ飛ばされ、柱に激突。川の中にその身を横たえた。
「ルカ! 今だよ‼」
「オッケー! Tace,ut,ex.hoc.homine‼」
ルカが大声で叫んだ。
刹那、ルカの持っている十字架の杖が銀色の閃光を放ち、辺り一面を網膜が潰れんばかりに照らし出しす。
すると、レギオンから黒い影が滲み出て次々と空へと昇っていったのだ。それに合わせ、レギオンたちの身体は見事に変わっていきーー川の中に横たえる青年へと姿を変えた。
「「や、やったー‼」」
思わず喜びの叫びをあげるワタシ達。しかし、安心してはいられない。
「ーーって、安心してる場合じゃないっぽ‼」
「このままじゃ、あの人、溺れちゃうガオ‼」
そこに突っ込みを入れるのはガブリエルとミカエルという天使だ。
ガブリエルは首から紐付きのスマホをぶら下げた白い鳩で、ミカエルは背中に白い羽が生えた、子猫程の大きさのオスのライオンだ。そして、ワタシ達のパートナーである。
大急ぎでワタシ達は川に飛び込むと、気を失っている青年をひん掴み、力任せに岸へと引っ張っていく。
その一方で、青年の身体から黒い影が滲み出て、空へと立ち上がりーー
滞空している悪魔の持つ、どす黒いクリスタルへと吸い込まれていく。
「くっ…またしても…」
悔しそうに呟く悪魔はこの間、ベリアルと名乗った、メガネをかけたスポーツ刈りの、二十代くらいの青年で、片手には分厚い法律書が、もう片方にはどす黒いクリスタルをを持っている。
「まぁ、良いでしょう…マイナスエネルギーは集まったことですし、ここらで退散します! 覚えていなさい‼」
そう捨て台詞を吐き、ベリアルは姿を消した。
「おい、大丈夫か⁉」
川岸に寝かせた青年の下に、もう一人の人物が姿を現す。茨の冠を被った、金髪のツーブロックヘアに、ワインレッドの膝より長いロングTシャツ、ベージュの紐が蝶々結びになったブーツ、その上から紫のローブを着用し、首には珠が木でできた儀礼用のロザリオがぶら下がった姿の、十五歳くらいの少年だ。この子はメシア君。自称、神の子で、ワタシ達の仲間だ。
「ごほっ、げほっ…」
ずぶ濡れになった青年がむせた。
その様子に、ワタシ達はほっとする。
「良かった…生きてる」
安堵するルカ。
「メシア君、この人を浄化してあげて!」
「ああ」
ワタシの頼みに、メシア君の手が淡い光を放った。彼の光を浴びると、レギオンという怪物になった人は悩みが解決して元に戻り、しかも、プラスエネルギーという物を出すらしい。なんだかよくわからないけど。
まぁ、いいや。とにかく、この人は助かりそう。
あ、ワタシの名前は天日馬可。皆からマルコって呼ばれている、私立バプテスマ学園に通う十四歳の女の子。それがワタシ。
「ペロペロ…何? また失敗したの?」
手にしたペロペロキャンディを舐めながら呆れた表情で呟くのはベルゼブブという悪魔だ。ウェーブのかかった黒髪ロングヘアの、グラマラスな美女で、黒いトレンチコートに茶色いシャツワンピースを着ている。
ここは悪魔達の住まう城。薄暗く、玉座の前にベリアルの前に三体の悪魔がいる。
「失敗~、失敗~」
こののんびりとした口調で話す悪魔はレヴィアタン。ドラゴンの頭蓋骨を被った、全長十メートル位の、水色で半透明の大蛇だ。
そして、玉座に座り、肩肘をついて冷めた目でベリアルを見つめる悪魔は赤い瞳に赤いネクタイ。黒のスーツを着用した、黒髪の十五歳くらいの美少年だ。名前をルシファーという。
「うるさいですね! 失敗なんて誰にでもあることでしょう‼」
ベリアルは反射的に抗議するが、二匹と一匹にはただの言い訳にしか聞こえていなかった。
「ペロ…それにしても失敗しすぎじゃない? 出かけて暴れるのは良いけれど、エネルギーを集めるだけで精一杯。ルカの情報を集められていないじゃない」
「そう~そう~」
「仕方がないでしょう! まさか神の戦士が二人も増えるなんて思いもしなかったんですから‼ そういうベルゼブブだって、出撃する度にやられて帰ってくるじゃないですか! そっちもマイナスエネルギーを集めてくるだけで精一杯。人の事言えますか⁉」
「うっ…でも、でもよ、失敗の回数はあんたに比べれば少ない方よ。それに、マイナスエネルギーだって、あんたに比べれば多いし!」
「それを言ったらエネルギーだけの量はこっちだって負けていませんよ! なにせ、こちらの方が集めるレギオンの数は多いんですからね!」
「そう~そう~」
「数が多けりゃ良いってもんじゃないわよ! エネルギーの質ってもんが違うわ! 母体となるレギオンの闇が深けりゃ深いほどマイナスエネルギーの純度が高くなるのは承知の上じゃない⁉ 私のレギオンの方があんたのレギオンの質より優れているし‼」
「質より量ですよ! 確かに、私のレギオンはしょうもない理由のものが多いのは認めましょう。しかし、私のマイナスエネルギーの方があなたのエネルギーより多いのは事実です。だから、あなたにとやかく言われる筋合いはない! ってか、何なんですか、そのキャンディは! あなた、出撃する度に食べ物を取ってきているでしょう‼」
「そう~そう~」
「良いじゃないの食べ物くらい! 自分へのご褒美よ‼ ってか、それとこれとは関係ないでしょうが‼」
「いいや、関係ありますね。そんな物をいちいち持ち込むくらいの余裕があるなら、もっとエネルギーを集めてきていただきたい! ついでにルカの情報も集めてほしいですね‼」
「そんなこと、失敗続きのあんたに言われたくないわよ‼」
「それを言ったら、私だって言われたくないですよ‼」
「そう~そう~」
「「おまえはどっちの味方だ⁉」」
ベルゼブブとベリアルの突っ込みにレヴィアタンは思わず口をつぐむ。とーー
「まぁ、いい」
ここでルシファーが割って入った。
「とにかく、ここにいる全員が煮え湯を飲まされているのは事実だ。確かに、戦闘では負けているが、マイナスエネルギーの搾取という点では目的は達成しつつある。サタン復活の準備は着々と進んでいるという事だ。事実、マイナスエネルギーは満タンまであと少しだからな。問題はーー」
ここで、ルシファーは目を細めた。
「ーールカの情報どころか、向こうに厄介者が増えたという事だ。あいつらがいて邪魔をしてくる限りは、スムーズに事を進めることはできない。なんとしても、奴らを叩き潰さねばこちらの気が収まらん」
ルシファーの口調は淡々としていたが、その口調の中は憎悪と怒りで満ちていた。それは、レヴィアタン、ベルゼブブ、ベリアルが思わず押し黙ってしまうくらいに。しかし、ここでベリアルがその暗い空気を破るように呟いたことで、流れが変わった。
「その点ですが、ご心配なく。先程の戦闘で、ルカともう一人の戦士…マルコが何処にいるのかがわかりました」
「「「ええっ⁉」」」
思わず、ベリアルの方に全員の目が集中する。
「ええ」
空気の流れが変わった。ベリアルはかけていたメガネをくいっと上げて見せる。
「何処? 何処にいるの⁉」
「ふふ…学校ですよ」
ベルゼブブの質問にベリアルは得意げに答えた。が、その返答に全員の肩が落ちる。
「そんなの百も承知よ。問題はどこの学校ーー」
「ーーにいるか、ですよね。わかったんですよ。何処の学校にいるか」
「「ええっ⁉」」
再度、全員の目が改めてベリアルに注がれる。
「…どこだ」
ルシファーがベリアルを睨みながら聞く。
「私立バプテスマ学園」
いきなりの、ピンポイントの返答だった。
「…どうして、そこだといえる?」
「制服ですよ」
「制服?」
「そうです。ご存じの通り、人間の子供は所属する学校の制服を着用します。それでピンときました。彼女達の着ている制服から所属している学校を割り出せるのではないか、と」
「なるほど」
ルシファーが感嘆の声を呟いた。そうか。その手があったか、と。
「一応、念の為、彼女達の後もつけましてね。そしたら、案の定ですよ」
「「お~」」
レヴィアタンとベルゼブブもまた、感嘆の声を上げた。
「珍しいわね。あんたが役に立つなんて! 制服とは盲点だったわ‼」
「すごい~すごい~」
「ふふ…」
しかし、
「なぁ、一つ良いか」
「なんでしょう、ルシファー」
「おまえはルカともう一人の戦士の通っている場所を突き止めたんだよな? と、いうことは、何処の家にいるのかもわかっているんだよな?」
「え…」
「「「え?」」」
沈黙。
「……まさか、それを忘れていたんじゃないでしょうね?」
ベルゼブブが恐る恐る聞いた。その質問に、ベリアルは、
「…」
冷や汗を垂らしながら沈黙するしかなかった。どうやら、本当に忘れていたらしい。
「ああっ、もう‼ 前言撤回! あんたはやっぱり使えないわ‼」
「残念~残念~」
「う、うるさい‼ 誰にだって失敗はありますよ‼」
ベリアルが言い訳するが、ベルゼブブとレヴィアタンは呆れるばかりだった。しかし…
「だが、敵の情報の半分はこれで得ることができた。これでようやく、動き出せる。よくやった、ベリアル」
ルシファーは半ば呆れながらも、感謝の言葉を述べた。
「さて。どうしたものかな」
ルシファーは頭をひねる。とーー
「ここで、私から提案があります。ようは、ルカ達に近付けば良いわけです。なら、どうすればいいか。答えは必然的です」
「ほう…聞こうじゃないか」
ルシファーの質問に、ベリアルはにやりと笑って見せた。
キンコンカンコーン。
始業の鐘が鳴った。一日が始まる。そう、今日に“限って”とても、期待に満ちた一日が。
教室中はガヤガヤと落ち着きはなく、誰もかれもがその“噂”で持ちきりだった。
そう、ワタシもワクワクする“噂”が。
「おはよー」
そこに、隣の席のルカが登校する。当然、変身前の姿だから、黒髪ロングに青い瞳のハーフ顔、そして、私と同じ、黒のセーラー服を着用している。
「おっはよー! ねぇ、ルカ、聞いた聞いた⁉」
「ほえ?」
半分興奮しているワタシにルカは頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「今日、この教室に転校生がやってくるんだって!」
「転校生?」
「そう! なんでも、すっごいイケメンらしいよ⁉」
キラキラと目を輝かせるワタシに、ルカはふ~んと無関心な表情を浮かべながら、カバンを机に置き、座り始める。
「イケメンって…マルコ、昔からイケメン好きだよね…」
「そうよ! 外見大事‼」
「でもさ、所詮は噂でしょ? 実際に会って確かめた子がいるかどうかわからないじゃない」
「それがさ、阿部っちが職員室で見かけたんだって。すっごいイケメンだったらしいよ!」
「はぁ…」
と…
がらりと教室のドアが開き、担任の白川先生が顔を出した。全員が大急ぎで席に着く。
「皆さん、授業を始めますよ。あと、それと…今日は皆さんに転校生を紹介します」
待ってました! 私は勿論、ここにいる全員が胸を躍らせる。イケメン…イケメン…どんなイケメンだろう。想像するだけでワクワクが止まらない。
「明星君、どうぞ」
全員が息をのむ中、その転校生は姿を現した。
入ってきたのは…想像をはるかに超えるイケメンだった‼
つやつやの黒髪に端正な顔立ち。いや、端正どころか整いすぎている。切れ長のきりっとした赤い瞳に、つややかな唇。まるで、男性アイドル、いや、人形と見間違うほどの美少年だ。残念なのは少々、背が低いくらいだけれど、それを補うくらいに、黒い七つ星の金色のボタンをあしらった詰襟の制服を着用したルックスが良く似合う。同い年とは思えないくらいに男子としての色気が、オーラが滲み出ていた。
キャー‼
クラス中の女子の黄色い声が教室中に木霊した。当然、ワタシも例外ではない。こんなイケメン、目の保養どころではない。これで一緒にいられると思うと、幸せすぎる。
ざわつく教室の中、白川先生が自己紹介を促した。
「明星君、自己紹介を」
「明星天魔です。皆からルシフェルって呼ばれています。よろしくお願いします」
キャー‼
天魔君がにこりと笑う。それに対し、再度、黄色い声が上がった。その表情もその声も、爽やかさ満点で、尚更、ワタシ達に黄色い声を上げさせるには充分だった。顔だけでなく声すらもイケメンとか反則過ぎる。
思わずキラキラ目を輝かすワタシをさておいて、白川先生は再度、天魔君、改め、ルシフェル君にこれからの事を促した。
「それでは、明星君、長谷川さんの前の席がちょうど空いているから、そこに座りなさい」
「はい」
「へ?」
全員の目がルカに注がれる。そして、ざわざわとざわつきが再開する。
ルカの前の席っていう事は…私の斜め前になるってことで…おお、おおおおおお!
興奮しっぱなしのワタシ達の下に、ルシフェル君が近付いてくる。ヤバイ、いい意味でヤバすぎる。
そして、
「初めまして。ルシフェルです。長谷川…何さん、って呼べばいいのかな?」
「ル、ルカ…」
横のルカを見ると、ワタシほどではないけど、やっぱり緊張している。いや、そうだろう、こんなイケメンを前にして、興奮しない方がおかしい。
「よろしくね。ルカ」
で、ここで爽やか笑顔! キャー‼ はっ、こうしちゃいられない‼
「よ、よろしーー」
「ーーハイハイハーイ!」
ワタシは気づけば二人に割り込んでいた。
「君は?」
当然の質問。当然、ワタシは答える。
「ワタシ! ワタシはマルコ! 天日馬可‼ よろしくね! ルシフェル君‼」
「あははは。よろしくね。マルコ」
再度、爽やか笑顔キター‼ 幸せ、マジで幸せデス…
「よろしく! あ、わかんない事とかあったら遠慮なく聞いてね‼」
「…ならーー」
「潜入?」
ベリアルの提案に、ルシファーは眉を潜ませた。それに、ベリアルはくいっとメガネを上げてみせた。
「ええ。相手の通っている学校はわかっているのです。ならば、転校生として潜入し、隙を見てやってしまえばいいのではないかと…」
「…それなら、登下校の際に襲えば良いじゃない」
「そう~そう~」
と、ここでベルゼブブとレヴィアタンが口を挟んだ。それに対し、ベリアルはやれやれと言った感じで提案を続ける。
「確かに、それもイイ線ですが、それと同時にマイナスエネルギーを集めるという点でも学校は最適です。なにせ、学生は大人ほどではありませんが、心に闇を抱えている子が多いですから」
「…つまり、ルカの居場所を突き止めながらも、マイナスエネルギーをそこで大きく回収しろ、と?」
と、ルシファー。
「そうです」
ここで提案は終わった。これに対し、ルシファーはふむ、と軽く考えたのち…
「いいだろう。もう、そろそろマイナスエネルギーも満タンになる。そのついでの娯楽とでも考えよう」
「でも、どうやって転校生に? 親とか手続きとかあるんじゃないの?」
ベルゼブブの言う事ももっともだった。しかし、
「お二人とも。ルシファーの能力…催眠術を忘れていませんか?」
「「あっ‼」」
ベリアルの言葉にベルゼブブとレヴィアタンが思わず声を上げた。
「ええ。ルシファーの能力を使えば、学生になることなんて簡単。簡単」
ベリアルがにやりと笑い、それに対し、ルシファーはふぅ、と嘆息をついた。
「…名前…どうしようかな?」
わざとらしく、呟いた。
「では…あなた様が天使だった頃の名前を、それらしく文字ってはいかがでしょう? 明けの明星ルシフェルを」
その言葉を聞くや否や、ルシファーの額に青筋が立った。一瞬、その変化に、ベリアルは勿論、ベルゼブブとレヴィアタンがびくりとする。まずい、地雷を踏んだか。
しかし、その青筋も、何事もなかったようにすぐに引く。
「……いいだろう。明けの明星か。それにこの世界の悪魔の一つである天魔を文字って、明星天魔とでも名乗ることにするよ」
そう、薄く笑って見せた。そのことばにほっとする一同。しかし、彼の眼が笑っていなかったことには誰も気づかなかった。
「…ならーールカと一緒にこの学校を案内してくれないかな?」
「「えっ⁉」」
改めてざわつく教室。しかし、そんな事なんてワタシにはどうでもいい。こう言っちゃあれだけど、二人きりにはなれないのが残念だけど、一緒に行動できるなら口実なんて、何でもいい。
「勿論! じゃあ、昼休みとかに行こう⁉ ね、ルカもイイよね⁉」
「え、う、うん…」
あまりの展開に思考がついてきていないのがよくわかった。だけど、そんな事なんて、ワタシはお構いなしだった。で、色々妄想する。こんなイケメンと一緒かぁ~いいなぁ~一緒に学食食べて、一緒に部活とかやって、一緒に遊んで、一緒に…一緒に…ぐへへへ。
あれ、今、一瞬、ルシフェル君の目が妖しく光ったような…まぁ、気のせいだよね。
前半パート了




