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1話:「前編」

挿絵(By みてみん)

貧しい人々は幸いである、


 神の国はあなた方のものである。


 今、飢えている人々は幸いである、


 あなたがたは満たされる。


 今、泣いている人々は幸いである、


 あなたがたは笑うようになる。


新約聖書 ルカによる福音書 六章 二十~二十一節


「うぎゃああああああああああああああああああ‼」


 血のように染まった空、真っ黒になった大地。そこに人なるざるモノの王、魔王サタンの大絶叫が、耳をつんざかんばかりに木霊した。


 今、ようやく、ようやく神と人類が率いる正義の軍勢と、悪魔が率いる悪の軍勢に終止符が打たれた瞬間だった。


 どす黒い、邪悪な影は見る見るうちに縮小し、空間にできた亀裂に吸い込まれていく。


 「おのれぇ、おのれ人間どもぉぉぉ、おのれ神ぃぃぃ、


 おのれパウロぉぉぉ‼」


 サタンの目の前にはサタンと同じ悪魔であろう、魔界の騎士が剣を構えて息を切らしていた。


 「この裏切り者がぁぁぁ! 許さん、許さん、許さぬぞぉぉぉ‼」


 サタンの憤怒の叫びが更に木霊す。


 「必ずだ、必ず蘇り、この世界に舞い戻ってやるぞぉぉぉ‼ ふはははははは、あっはははははは‼」


 絶叫は哄笑、否、狂笑へと変わり、それに伴い、サタンは小さくなっていく。そして、キン、という金属音とともにーー


 サタンは「封印された」。

サタンが封じられた空間から一本の禍々しい剣が出現し、くるくると音を立てて回ると、勢い良く、地面に突き刺さった。


 それを合図に、血塗られた空に光が差す。次々とその光は大きくなり、空は青を取り戻していく。そして、大地は木々を取り戻し、草花を咲かせていく。


 「やっ…た…」


 魔界の騎士、パウロが呟いた。そして、


 「やったぞぉぉぉ‼」


 パウロが歓喜の声を上げた。


 それを呼び声に、次々と後方から歓喜の声が木霊していく。そして、その背後から次々と軍隊が、兵士たちが顔を出し、同じく歓喜の雄たけびを上げる。


 そしてーー


 「パウロー‼」


 響き渡る歓声の中、遠くから女性の声が響いた。それは彼、パウロにとって愛しい女性の声だった。


 「パウロー! パウロー‼」


 女性の声は人ごみをかき分け、近付いていく。そして、遂に、その姿を現した。


 青い瞳に栗色のポニーテール。身にまとうのは女医の制服。


 「ヘレナ‼」


 パウロが叫んだ。叫ぶや否や、身にまとっていた甲冑は白いシャツ、黒いズボンへと変容し、そこからスポーツ刈りの端正な顔立ちが顔を出す。そして。


 「パウロー‼」


 「ヘレナー‼」


 二人は全力で駆け寄り、力の限り、思いきり抱き締めあった。


「パウロ、パウロー‼」


 「ヘレナ! ヘレナー‼」


 二人は抱きしめあいながらお互いの名を呼び合った。


 「やった、やったよ! 遂に、遂にサタンを倒したんだ‼」


 「ええ、ええ‼」


 「これで君とずっと一緒にいられる…ずっと、ずっと!」


 「ええ、ええ‼」


 「ヘレナ…」


 ここで、二人は向き合った。


 「何?」


 「愛している」


 その言葉に、彼女、ヘレナは顔を真っ赤にした。しかし、すぐに、その表情は涙をにじませた、しかし、優しいものへと変わる。


 「私も…私もよ。パウロ…」


 「ヘレナ…」


 「パウロ…」


 かくして。神と人類が率いる悪魔との戦いは幕を閉じた。


 物語はこの十五年後から始まる。


「うきゃあああ‼ 寝坊したぁぁぁ‼」


 びっくりした私は急いでベッドから飛び出し、制服に着替えると、カバンを片手にドタドタと二階から一階への階段を駆け下った。


 「おはよう、ルカ。朝から元気ね」


 そこに優しい声がかけられる。


 「元気じゃないわよ! なんで起こしてくれなかったの⁉」


 お門違いだってわかってはいるものの、私は思わずリビングにいた両親。母ーー長谷川ヘレナ(旧姓ヘレナ=ガヴラス)に向かって叫んだ。


 「だって、もう十四でしょ? いい加減自分で起きなさいな」


 「そうだぞ。いつまでも甘えていちゃ駄目だぞ」


 母を庇うように、父、長谷川パウロも呆れた口調で言う。


 「だって! だってぇ‼」


 「言い訳している暇があるなら、お弁当をもって急ぎなさいな」


 「あ、そうだった‼ いってきまーす‼」


 すぐさま我に返った私はテーブルの上にあったお弁当を掴むと、それをカバンに入れながら大急ぎで家を飛び出した。


私、ルカ! 長谷川路加‼ 皆からはルカって呼ばれています‼


 私立バプテスマ学園に通う中学二年生!


 誕生日は十月十八日。


 とにかく優しい日本人のお父さんと、ギリシャ人のお母さんとの間に生まれた、所謂、ハーフです。お父さん譲りの黒い髪と、お母さん譲りの青い瞳がお気に入り。自分で言うのもなんだけど、鏡を見るたびに産んでくれてありがとう、って感謝しています。


 趣味はアニメと漫画とボランティア。あと、牛が好きです。ちょっと変わっているかな?


 将来の夢は漫画家! 自分の世界を絵と物語で表現できたらな、って思ってます。


 そして…


 「うぇぇぇん、ママ、ママ~」


 駅に着いた時、幼い子供の泣き声がした。見ると、四歳位の女の子が泣いていた。


 「どうしたの?」


 思わず、しゃがんで声をかけていた。


 「ぐすっ、ママとはぐれちゃったの~」


 「あらら…大丈夫! お姉ちゃんが見つけてあげる‼」


 「え?」


 「お名前は?」


 「かな」


 私は急いでかなちゃんの手を握ると、立ち上がって駅全体に響くように大声で叫んでいた。


 「すみませーん! かなちゃんのお母さんはいませんかー? すみませーん‼」


 すると…


 「かなー‼」


 「ん? ママ‼」


 駆け寄ってきたかなちゃんのお母さんらしき方が、かなちゃんを抱きしめた。


 「ママ!」


 「かな…どうも、ありがとうございます」


 「いえいえ」


 「では…」


 「お姉ちゃん、ありがと~」


 そう、親子は人ごみの中へと消えていった。私はそれを見送りーー


 「はっ! 遅刻しちゃう‼」


 急いで定期券を取り出すと、改札口へと急いだ。


 そう、私は困っている人が見過ごせません。自分そっちのけで相手を助けちゃいます。そのせいで自分が損をすることもあるけれど、それでも、皆が喜ぶ顔が見れれば、それで幸せです。


「長谷川さん! また遅刻⁉」


 教室に到着するなり、担任の女性教師、白川先生が呆れた口調で口を開いた。


 「ふぇ~、すみませぇ~ん」


 「もう、早く席に着いちゃいなさい!」


 教室中の視線が集中する中、私は席に着く。


 「何? 今日もなにかあったの?」


 隣の席に座る、やや水色がかかったショートウルフカットヘアの女子が、教師同様、呆れた口調で話しかけてきた。


 「実はかくかくしかじか~」


 「あらまぁ…ほんと、ルカらしい。そんなの駅員さんに丸投げすりゃ良かったじゃない。ってか、寝坊する方が悪い!」


 「うぅ~」


 「こら、天日さん! 長谷川さん! 授業を始めますよ‼」


 「「あ、はーい」」


 白川先生に怒鳴られ、私達は黙った。


 この話しかけてきた隣の席の女の子は天日馬可。馬可って呼びづらいから、皆からはマルコって呼ばれてます。


 幼稚園の頃からの幼馴染で、親友です。


 とにかく、前向きで、明るくて、口より先に手足が出ちゃう、行動重視の女の子。


 語学力が凄くって、英語は常に満点。書くのは勿論、喋れちゃう。おまけに、英語だけでなく、イタリア語も喋れるっていうのがすごいところ。何でイタリア語かって言うと、イタリアが好きで、よくイタリアに旅行に行くから、自分で勉強したからなんだって。すごい。


 担任の白川先生が授業を始めるってことは、今日は一時間目から数学ってこと。まぁ、私は理系だから、数学はなんてこともないけれど、文系であるマルコはちょっと苦手な顔をしている。親友なのに、こういうところは真逆っていうのは面白いところかもね。


 「さぁ、来週は中間テストですよ。皆、出題範囲は教えるので、そこを中心的に頑張るように!」


 「「「え~」」」


 「え~じゃありません!」


 そうだった。来週はテストだった。テストって嫌い。大っ嫌い!でも、それを除けば、私は学校が好き。皆と一緒にワイワイガヤガヤして、いろんなイベントを皆と共有するの。どれもこれも素敵な思い出ばかり。これからも、皆と、色んな思い出を作って行きたいな。


ルカ達の住む街の外れ。そこには東京ドームと同じくらいの荒野が広がっている。


 その荒野には誰も近寄らない。いや、近寄らないように金網が張られている。


 この荒野は誰が言ったか知らないけれど、エクシウム。意味はラテン語で「終焉」と呼ばれている。その荒野はかつて、神と人類の連合軍が悪魔と戦い、勝利した場所。しかし、神と人類が勝ってから、この荒野にはぺんぺん草一本生えなくなっている。そんな様子から、街の人々は『呪われた荒野』と呼ぶようになった。


 その荒野に足を踏み入れようとしている者が三人。


 「ちょっと、やめようよ…」


 「いいっていいって。どうってことないって。所詮は作り話だろ!」


 「そうそう」


 街の近所の悪ガキ三人組だ。と、一人は気が弱いみたいだが、残る二人はかなり強気だ。


 二人は金網をよじ登ると、猛ダッシュで荒野を駆け巡った。気の弱い方は金網に登ることを躊躇してか、そこにとどまっている。


 「ほら! なんてことない、ただの荒野だろ!」


 「あははは! 何が『呪われた荒野』だ。大げさすぎだって‼」


 「ちょっと! 早く戻ってよ‼ 怒られるよ‼」


 気の弱い子供の事など気にも留めず、二人ははしゃぎまわる。


 とーー


 「ん? 何だ? 荒野のど真ん中に何か刺さってる」


 「ホントだ! 行ってみようぜ‼」


 「ちょっと二人とも‼」


 二人は駆け足でそこに近付き、“ソレ”の前に立った。


 禍々しい、古びた剣だった。しかし、その剣は明らかに雨風に晒され、風化してもおかしくないはずなのに、確かにそこに存在し、妖しく刃が光っていた。


「すっげぇ…これ、剣だぜ!」


 「ホントだ。かっこいいな~」


 「なんで、こんな所に剣があるんだろ」


 「さぁ?」


 「……おい、抜いてみようぜ!」


 「いいね。なんか勇者ごっこできそう‼」


 遠くから三人目の子供が「ちょっと! やめようよ‼」と叫ぶ。しかし、二人は相変わらず、それを気にすることなく、まずは一人目が剣の柄を握った。


 「よっと…あれ、これ、結構、固いな…」


 「ちょいと貸してみ。う~ん…本当だ。固いや」


 「なら、二人でだ‼」


 「「う~ん、しょ‼」」


 二人は剣の柄を握ると、全力をもって引き抜こうとした。だが、剣はびくともしない。それに反比例するように、二人は力を更に入れる。


 「「う~ん! うぉぉぉ‼」」


 二人の努力のかいもあってか、剣は初めて動きを見せた。徐々に地面から引き抜かれていく。


 「「うぉぉぉりゃぁぁぁ‼」」


 そしてーー


 ドサ、という音と共に剣は「引き抜かれた」。


 「「やった! 抜けたぜ‼」」


 剣を握ったまま、二人は歓喜の声を上げた。刹那、


 ガシャン‼


 剣の刃が粉々に割れ、巨大なガラスが割れる音を耳をつんざかんばかりに荒野全体に響き渡らせた。


 「「え」」


 二人は素っ頓狂な声を上げる。そして、それを合図に、粉々になった剣の破片は網膜を破らんばかりの光を放ち、宙を舞うと、見る見るうちに破片は三人と一匹の姿へと姿を変えた。


 「「うわぁぁぁ‼」」


 子供達がその変容に悲鳴を上げる。


 そして、変容した光は次々にその姿を露わにし、声を上げた。



「う~ん! やっと出られた…」


 一人はかなりグラマラスな、ウェーブがかかった黒いロングヘアの美女だ。茶色いシャツワンピースに黒のトレンチコートを羽織っている。


 「まったくですね」


 もう一人はメガネをかけた、スポーツ刈りのスーツの男だ。手には何故か、分厚い法律書を持っている。


 「妬ましい…妬ましぃ~」


 次は人ではなく、全長十メートルを超える、半透明な蛇だ。何故か、頭部を空想の動物の骨であろう、ドラゴンの頭蓋骨を被っている。


 「…」


 もう一人は赤い瞳に赤いネクタイ。黒のスーツを着用した、黒い髪の十五歳くらいの少年、それも美少年だ。端正な顔立ちの少年なのだが、笑顔を貼り付けている。どこか無機質な印象だ。


 「「う、うわぁぁぁ‼」」


 少年たちは当然の悲鳴を上げた。


 それに三人と一匹は気づくと、クスリと笑みを浮かべて見せた。


 「ボク達なのね。私達の封印を解いてくれたのわ。ありがとう。感謝するわ」


 「「ふふふふふふ…」」


 美女のなまめかしい声と、メガネ男と蛇の妖しい声が響き渡る。


 「な、なんだ‼ なんなんだ、お前らは‼」


 少年の一人が脅えながら叫ぶ。すると、美女の声が冷たさを帯び、言葉を紡いだ。


 「いきなり“お前”呼ばわりは酷いわね。私にはベルゼブブっていう名前があるんだから」


 それを合図に次々と自己紹介が始まる。


 「私はベリアル。世界で一番、頭のいい悪魔です」


 「レヴィアタン。憎い~、妬ましい~」


 「「う、うわぁぁぁ‼」」


 自己紹介が終わるや否や、少年達は悲鳴を上げ、逃げ出した。


 「おや、逃げ出しましたね」


 と、ベリアル。


 「どうする? ルシファー?」


 と、ベルゼブブ。 


 二人と一匹は笑顔を張り付けた美少年に首を向ける。


 「…そうだね。ここに僕がいるっていう事はサタンは復活していないってことだから…早速、彼等からマイナスエネルギーを貰っちゃおうか」


 「「「だな」」」


 三人と一匹は意見が一致するや否や、右手を少年に向け(レヴィアタンは見ているだけ)、


大声で叫んだ。


 「「「心の闇よ、顕現せよ! 出でよ、レギオン‼」」」


 叫ぶと同時に、三人の手が黒い光を放ち、二人の少年に浴びせられた。


 「「うわぁぁぁ‼」」


 光を浴びた少年達は一瞬で光に包まれると、いきなり、その姿を変えた。


 豚だ。二人は身長は五メートルはあろう、頭は豚で、身体は西洋の甲冑を身に着けた、異形の怪物へと姿を変えたのだ。豚の怪物は一人は剣と盾を持ち、もう一人は斧を持っている。そして。


 「「レ~ギオ~ン‼」」


 豚の騎士達はその姿を露わにすると、荒野全体に響き渡る、大きな声で叫んだ。


 「あわわわ…」


 それを遠くから見ていた気の弱い少年はガタガタと全身を震わせると、「うわぁぁぁ」という悲鳴を上げながらその場から全速力で逃げ出した。


ちょうど、その頃、ホームセンターで働く従業員が一人。パウロだ。彼は街のホームセンターで店長を務めていた。


 「店長。注文の品が届きました」


 同じ同僚の社員が声をかける。


 「わかった。すぐに行くよ」


 そう言って、店の倉庫に向かおうとしてーー


 「パウロよ。パウロよ‼」


 唐突に、耳に声が響いた。


 「え…」


 「パウロよ! 聞こえているか、パウロよ‼」


 それは聞き覚えのある声だ。この中性的な声色の、命令口調の声は…


 「この声…まさか…」


 「そうだ、私だ。神だ‼」


 神…そう、何度も聞き、従った、天の声。


 「神…神様ですか⁉」


 思わず、その場で叫んでいた。


 「そうだ。私だ。神だ‼」


 「な…何事ですか⁉」


 「パウロよ…聞け! 大変なことになった‼ 封印が、悪魔共の封印が破れたのだ‼」


 「え…」


 「悪魔共が、悪魔共がまた、この地上を我が物にしようと暴れようとしている‼」


 「な…‼」


 「事は一刻を争う事態となった。パウロよ、すぐに戦いに備えるのだ‼」


 「し…しかし…そうは言われても、私は十五年前の戦いで、力を全て封印に使ってしまいました。最早、どうすることもできません‼ 貴方様もそうです。神は『命を生み出すこと』、『アドバイスをすること』、『天候を操ること』しかできない存在です。どうしようもないのでは⁉」


 叫ぶパウロ。そうだ。自分にも神にできる事も限られている。ましてや、十五年前に全てを出し切ったパウロにとってはどうすることもできない。


 「いや。まだ手はある」


 「え…」


 「先程、私の息子と使者を地上に遣わした。行って息子達と共に戦うのだ‼」


 「し、しかし…」


 「急げって言ってるだろう‼」


 「は、はい‼」


 神がいきなり砕けた口調になる。それにパウロは勢いよく返事をした。


「ふんふふんふ~ん♫」


 「ルカ…随分ご機嫌ね。ってか、何処に向かっているの?」


 「アニ〇イト!」


 「は?」


 「今日はお気に入りの新刊の発売日なんだ‼」


 「はぁ…呆れた。そんな事で上機嫌なんて羨ましいわ…」


 「そんな事言わないでよ。早く、続きが読みたいんだからーーうん?」


 ここで、ルカとマルコが空から振ってきた“それら”に目を奪われた。


太陽が燦燦と空を、街を照らしていた。


 その太陽の中からその“神の息子”と“その使者”は飛び出し、地上へと落下した。


 「うわぁぁぁぁぁぁ‼」


 「ポッポォォォォォォ‼」


 “神の息子”と“その使者”はものすごい勢いで地上へと落下していく。そしてーー


 ドシーン‼


 という音と共に地面に叩きつけられた。


 「「痛ぁ~」」


 “神の息子”と“神の使者”は激痛に耐えながらもゆっくりと起き上がる。普通の人間なら死んでいる高さからの落下だった。


 “神の息子”は文字通り、息子…つまりは人間の姿をしていた。十五歳くらいの少年で、金髪のスポーツ刈りに白いシャツ、細身のビンテージジーンズに茶色の革靴。そして、真っ赤なテーラードジャケットを着用していた。


 “神の使者”に関しては最早、人ですらない。雪のように真っ白い鳩だ。そして、何故か、首にスマートフォンをぶら下げている。


 一人も一羽もかなりカジュアルな格好をしていた。


 「はっ! 大丈夫ですか⁉ メシア様‼」


 鳩がメシアと呼ばれた少年に、大慌てで声をかけた。


 「大丈夫だ。ガブリエル」


 今度はメシアがガブリエルと呼ばれた鳩に安否を告げた。


 メシアとガブリエルはゆっくり起き上がり、身体のほこりを落とすと、街中は人通りの少ない道路から周囲を見渡した。見たところ、まだ、特に変化は見られないようだ。


 「ここが人間界…なんだ、見たところ、特段、変わったことはなさそうじゃないか」


 メシアが呟く。


 「クルッポ。しかし、悪魔が復活してかなり不味いことになっていると…」


 「とりあえず、パウロとかいう男の下に行くーー」


 ここでメシアとガブリエルが周囲を改めて見回しーー目の前で固まっているルカとマルコの存在に気が付いた。


 二人とも固まっており、一人と一羽から目が離せないでいる。


 「クルッポ! ちょうどいいところに。お嬢さん、パウロという男の家を知りませんか?」


 「「あわわわ…」」


 「「?」」


 「親方ぁ! 空から男の子がぁ! ってか、鳩が喋ってるぅぅぅ‼」


 ルカがありったけの大声で叫んだ。


前編-了-



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― 新着の感想 ―
[良い点] 宅録声優の真白かな様がTwitterでご紹介していたのを見て、作品を読ませていただきました。 大きな戦いを予感させる始まりながらもパロディネタで笑わせる緩急の付け方がお見事です。
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