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怪談演説  作者: 早見なつき(水無月龍那)
2.夕暮れ迷宮の包丁さん
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2.夕暮れ迷宮の包丁さん 3.5

「あれ?」

 その変化は、瞬きひとつの間でした。


 今日は梅雨明けが近いなと思わず考えてしまうほどの良い天気でした。

 出たばかりの部室はまだ明るかったですし、日が落ちきるにも少し早い時間だったはずです。

 なのに。

 そこは、夕焼けの終わりのような薄暗さでした。


 部活の終わりを知らせるチャイムが鳴って。全員が部室の外に出て。

 桜井先輩が鍵を閉めるのを待っている間。

 たったそれだけの時間で、あたりの景色がすっかりと変わってしまいました。


 部室の方を振り返ります。

 さっきまで後ろにいたはずの先輩の姿がありません。

 前を向いても、誰もいません。


「えっ。あの。だ、誰か……居ません、か……?」


 声は思った以上に小さくて、震えていました。


 返事はありません。

 私ひとりです。


 空は赤黒く濁っていて、灰色の雲が流れています。

 影は真っ暗で、底がないようにも見えます。

 辺りは薄暗くて、空気はしっとりと重くて、澱んでいて。吸うとなんだか苦い気がします。

 そのまま座り込んでしまいたいのを堪えるために、両手をぎゅっと握りしめて。


 

 ふと。先日和泉くんとした話を思い出しました。

 


 気付けば校内が薄暗くなっていて、黒い影に追いかけられる。

 その影に捕まってはいけない。

 迷い込んでしまったら、ある物を見つけないといけない。


 きっと私は、その話に出てきた空間に迷い込んでしまったのでしょう。

 どうしてかは分かりません。

 怪我は……していません。

 おまじないをしたら、という話もありましたが、何かした覚えもありません。


 でも、この薄暗さは。空気の重さは。

 立っているだけで身体が重くなっていくような、何かが纏わり付いてくるような。

 そんな気がする、明らかにさっきまでとは違う異質なもの、でした。 


 そして、さっきから頭の中でずっと感じている事があります。

 このままここに居てはいけない。逃げなきゃいけない。見つかっちゃいけない。

 この場所から。この空間から。

 逃げ出さないと、■■■に捕まってしまう。

 

 ええと。そのためには。そのためには……。

 

「そうだ。探さなきゃ……」


 ある物を見つけることができれば、この空間から抜け出すことができる。

 そんな話でした。


 一体何を探せば良いのだろう?

 それはすぐに分かりました。


 黄色い星が真ん中に描かれた、黒い鳥居のマーク。


 最初からどこかで聞いた話だったかのように、それを思い浮かべることができました。

 それを見つけたら、ここから出られるはずです。

 

「……さがさ、ないと」


 きっとここには、私以外誰も居ません。

 気を抜いたら涙が出てきそうでしたが。泣いても座り込んでも、好転なんてしないでしょう。


 人気のない学校は、とても怖い物でしたが。 


「帰ってこなかった人は居ないはず……うん。大丈夫」


 だから、きっと見つけることができる。帰ることができる。

 そう言い聞かせて、リュックを背負い直して。


 私はそれを探すことにしました。

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