菊ちゃんへ
不透明な部屋は、明かり取りの窓からさし入る光線の部分だけが、金いろに暈されて透明になった。その光の道の尽きた所に、菊ちゃんが光あるうちに光を集めているのを想像したとき、私はそれを見守っている刹那々々を、理由もなく幸福に感じた。
それでも模索し続けるのです。これほどまでに私がかくありたいと願っている人間にどうしたらなられるのかを。きっとそうなれるはずなんです。それはアンネの言葉をキティーちゃんのぬいぐるみに刻むような刹那だった。
濃密な雲は、広い眺望のかなたにレプリカのように凝固している。対岸のビルを抜きん出て、空中観覧車の赤い椅子が何か天から降りてきて座る人を待ちあぐねているのように掛かっている。その頂きの小部屋で独り菊ちゃんが青い涙を流しているのを想像したとき、私はそれを認めている一瞬一瞬を、理由もなく哀切に感じた。
それでも嘘を摘み続けるのです。新緑のローマでサンタ・マリア・イン・コスメディン教会の真実の口に手を入れるときには。きっとドラえもんの手のように本当が嘘を曇らせるはずだから。それはロンサール古詩の詩想をキティーちゃんのぬいぐるみに託すような一瞬だった。
菊ちゃん、昨日ピッコロ大魔王が、ポール・ジャンの「ナメック星人の常緑について」という本を読んでいる夢を見ました。今までそうあったというよりも、これからもそうであるというよりも、今ある緑にグリーン・グリーンしたいと思いました。