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異世界転移で召喚する側の王が凄い苦労してる話

作者: 釜蔵

 召喚士が準備に入ると、王は――王座で肘をついて、楽にしていた姿勢を伸ばす。

 ずんと、重い空気が辺りを支配している。


 ここにいるのは王様。その周りを、親衛隊がまるで人形の様に身動きせず護衛している。

 更に国政を取り仕切る宰相。そして召喚士。これだけだ。


 傍から見れば不用心極まりないこの状況であるが、勇者の召喚は機密事項である為、ごく限られた者のみが立ち会う事を許可される。



「宰相、次は大丈夫なんだろうな?」

「……問題ございません。必ずや、勇者に相応しき者が呼ばれるかと」



 以前召喚された勇者。それはそれは……愉快な人物であった。

 態度が悪い、反抗的。そう言うモノではなく、単に頭が悪すぎた。


 曰く、歩きながらスマホ見てたら車に轢かれてそのまま転生したそうなのだが。

 それを散々注意した後、「平気平気!」と言ってここを離れた三日後、歩きながらステータス確認してたら馬車に轢かれたらしい。



「バカじゃん……二回も同じ死に方するとかバカじゃんよ……」

「そりゃ、死んだくらいじゃ阿呆は治りませぬよ。ハハ」

「なにわろてんねん」



 そういう訳なので再召喚。因みに4回目である。



「次訳分からんの引いたらマジで承知せぬからな」

「王よ。そう申されましても、彼等にはどのような人物が召喚されるか分かりませぬゆえ。召喚士殿に当たらない様に」

「頼むぞ。ホントに」



 苦笑いしている召喚士と親衛隊長。

 召喚士が魔法陣を引き終えると、詠唱に入る。


 王は詠唱の内容を毎回聞いているが、何を言っているか全く分からない。



「これホントに合ってる? 間違って変な奴来ない?」

「大丈夫です。適当言ってる訳じゃないのですから」

「だってホニャララホニャララって言ってるじゃん。絶対おかしいよ」

「おかしいのは王の耳です」

「ええ……」



 王と宰相が言い合っている。そうにしか聞こえなくなった親衛隊長は顔を下に向けて震えている。

 そんな中でも、止めずに詠唱を続けた召喚士は素晴らしい腕だと言えよう。


 その詠唱が止むと、魔法陣が光りだす。

 4回も見ているので既に嫌気が差している。無駄に光るなよと王は眉間に皺を寄せた。


 その光の中から現れた一人の男。

 見た所、20代前半だろうか。黒髪、短髪。以前来た勇者の様に、見ただけで分かる様な、気品のある装いをしている。

 その男が冷静に、しかし訝し気に辺りを見回している。



(……どう思う?)

(取り合えず第1段階は合格じゃないですか? ホラ、2回目の勇者は来た瞬間叫んでいましたし)

(あれヤバかったよなー!)



 思い出したくもないので王と宰相は切り替えて、目の前の男へ声をかけた。



「あー、うむ。お主、儂の言葉が分かるか?」

「……ああ」



 男はすぐに反応して見せる。

 あくまで冷静。狼狽えている様子は無いが、王を見て何かを考えている様子。

 やがてその男が前髪を払って、微笑を浮かべる。



「フッ、成程な」



 なんか一人合点し始めたぞ。と、王様は訳分からない事を言われる前に自分で話を始める。



「いきなりの事で困惑していると思う。まずは儂の話を――」

「ああ、大丈夫だ。言わなくても分かる」

「はー?」



 いきなり話を遮られて困惑する王。始まった…! と身構える宰相。吹き出すのを必死に堪える親衛隊長。帰り支度を始める召喚士。

 それぞれが別々の反応をしつつ、男は続ける。



「異世界転移という奴だろう。俺は差し詰め、てい良く使われる『勇者』と言った所か」

「うんまぁ……いや、体良くとかそういう感じ悪い言い方良くないと思うけどね。勇者なのは合ってるけども」

「大丈夫だ、問題無い」



 既に問題だらけなのだが、男は構わずに続ける。



「要は勇者として、魔王を倒す為に呼んだ……って所だろう?」

「そんな所だ。当然、すぐに、一人で向かえ等とは言わぬ。まずは――」

「断るッッ!!!」

「あーん?」



 思わず声が出る王。逸材だわ……とある意味楽しみな宰相。腿を抓っている親衛隊長。帰った召喚士。

 無礼以前に突拍子もないので、怒るよりもまず困惑が出てくる。

 そんな王の内情を気にせず、男は自信満々に語り始める。



「何故なら、俺に『勇者』は務まりません」

「なんでいきなり畏まった?」

「ステータスを見れば分かります。大した事が無い、『ハズレスキル』を得ているでしょうから」

「そうなの?」



 なんか俺は分かってるぜオーラを醸し出しながら、男はどや顔で宣言する。

 どや顔で言う事じゃねえだろとか思いながら、王はステータスを確認させた。



「どうだ宰相。彼の……お主、名前は?」

「ショウヤ」

「ショウヤのステータスはどうだ宰相」

「……確かに、際立って強い訳ではありませんな。弱い訳でも無いですが」



 大したスキルは持っていないらしい。だが、その程度で見捨てる訳にはいかない。

 異世界から召喚された『勇者』は、潜在能力が高いという言い伝えがあるので、王は元より初期の能力など気にしていないのだ。

 そんな王を余所に、ショウヤは相も変わらずどや顔で口を開く。



「フッ、慢心してくれ王よ」

「『安心してくれ』って言いたかったのか?」

「俺は戦いに於いて『クズ』『ゴミ』『ハズレ』『役立たず』『出涸らし』だが……」

「なんでそんな嬉しそうに自分を卑下するの?」



 自信有り気に自分をボロクソ言ってるので若干恐怖を感じながらも、王は話を聞く。



「俺が窮地にさえ追い込まれれば、力が覚醒する筈ッ!! という訳で、俺を追放してくれッッ!!」

「宰相、これクーリングオフ出来ぬか?」

「無理です。ムーリングオフです」

「何も上手くねえんだよな」



 宰相のクソみたいな返しにイラッとしながらも、王はショウヤを宥める様に言う。



「ショウヤよ。儂はお主がクズゴミのカスでも追放などせぬよ。まずはこの王宮で切磋琢磨してだな――」

「ダメだッ!! 俺を追い出せッ!! 俺を追い詰めろッ!!」

「おかしいよこの人……」



 既に追い出したい気持ちが出てきているが、そう簡単にはいかない。

 勇者召喚自体が機密事項であるので、そう簡単に国の外へ出す訳にも行かない。


 かといって幽閉したり、処刑など以ての外である。いくらヤバそうな奴でも、だ。

 王は頭を抱えながらも、説得を試みた。



「ショウヤよ。追放される前に一度、己の力を確認した方が良いのではないか?」

「……それは一理ある。王の前でスキルを披露して、馬鹿にされる流れも必要だからな」

「儂、お主を馬鹿にしなきゃいけないの?」



 どんな流れだと思いつつも、一度落ち着かせることに成功したのでそのまま続ける。



「宰相。ショウヤのスキルはいったいどのような物だ?」

「魔法で、エネルギー弾を手から飛ばすスキルです」

「おお、良いではないか。攻撃出来るスキルというだけでも当たりではないのか?」

「……」



 途轍もなく不満そうな顔をしているショウヤ。何故コイツはここまで捻くれているのか。



「すげぇ微妙だ……なんだよエネルギー弾って……」

「いいじゃんエネルギー弾。ゴブリンとか一撃でやれそうだろう?」

「どうせなら、手からハッカ飴が出せるゴミスキルとかが良かったわ」

「何だ薄荷ハッカって。意味わかんねえな」



 ハッカ飴に対する侮辱を吐きながら、ショウヤはため息をついた。

 何にせよ、そのスキルを一度見せてもらわなければならないので、王はショウヤにスキルを使う様に催促する。



「ここで使っても大丈夫か?」

「そうじゃな、親衛隊の盾を壁に掛けて、それに当ててみるが良い」

「――王宮ごとぶち抜いても知らねえぞ」



 何故かイキり始めたのを王はスルーした。

 頬を上げて下唇を噛んでいる親衛隊長に指示し、盾を用意させ準備を整える。

 ショウヤは左手で右腕を抑え、右手を前に出すとスキルを使う。



「では行くぞ――ンンングゥァンッハッカァッッ」

「なんだその気持ちわりい声」


 

 喉を絞って出したような気色悪い声をあげて、ショウヤはスキルを行使する。

 手から青白く、神々しい輝きを放つ。青海の様に蒼く、透き通るような光に王は目を奪われた。


 その手から、白い光弾が発射された。そのまま直線に飛び、盾に当たる。

 ガツリと強い衝撃が起こり、破壊はしないまでも、盾が壁にめり込んだ。



「おお、中々良いスキルなのでは無いか?」

「威力はともかく、速さは申し分ありませんな……ん?」



 めり込んだ盾を確認する宰相が、何かに気づく。

 何故か、盾がねっとりとした液体にまみれていた。



「……なんだろうかこれは」

「俺のエネルギー弾だ」

「いや、何故こんなねっとりしているのか」

「俺のアレだ」

「アレだ、じゃねえよ何なんだよこれ……」



 ショウヤのアレが付いた盾を、宰相は汚いものを見る目で注視している。

 妙に粘度の高いアレなので、顔が渋面になっていくのが分かる。



「アレはともかく中々のスキルだと思いますな。後、決して人には撃たぬ様に」

「ああ、俺だってアレをとやかくぶちまけたく無いからな」

「親衛隊長。ショウヤのアレがついたアレを回収するように」



 ショウヤのアレがついたアレを、親衛隊長がここにきて初めて見せる真顔で回収しに行った。

 否、足で蹴飛ばしながら移動させた。王は見て見ぬふりをした。



「ショウヤよ。これで分かったであろう? お主はそこそこ有用だぞ」

「いや、こんなんじゃだめだ。早くバカにしてくれ。俺を半殺しにしてボロ雑巾みたいに魔物領へ捨ててくれ」

「言ってる事が拷問官より怖いんだよな」



 王がドン引きしながら見ていると、ショウヤが不意に黄昏る様にうつむいた。



「思えば、俺も兄貴も出来損ないだった――さらにこんな世界に呼び出された上、手に入ったキモいスキル一つで死地へ放り出されるなんて……」

「キモいスキルとか言ってやるなよ」



 謎のプロローグを語り始めたショウヤに、都度ツッコミを入れる王。

 既に疲労が物凄いので、この召喚された男を落ち着かせて今日は休みたい。

 そう思い、落ち着きそうな話を振るべく王は口を開く。



「さっきの話だと、お主には兄がいるのか?」

「ああ。スマホ片手に『平気平気!』と言いながらあの世に旅立った愚かな兄がな……」

「そ、そうか」

「もしかしたら、兄貴もこの世界に来てたりしてな。ハハッ」

「お、おう」



 御明察の通り、多分そいつここに来たよ。そんでまた旅立ったよ。

 話がややこしくなりそうだったので、王と宰相は言わない事を固く誓った。



「とにかく、お主を追放する訳にはいかぬ。今日の所は、諦めてこの王宮で休め」

「ああ、厄介になる」

「くれぐれも、抜け出そうなどと考えるなよ?」

「……オゥクァァン゛ッンハッカァァッッ!」

「アレを飛ばすんじゃねーよ!!!!!」



 王は親衛隊長を盾に、親衛隊長は親衛隊を盾に、親衛隊は宰相を盾にした。

 後日、王はいっそう疲れた様子で国政を取り仕切り、宰相は休みを取り、ショウヤはスキルを禁止された。


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