今一番欲しい物
アーチェの案内を受け城の奥に進む俺達。廊下をいくつか進むと一つの大きな広間へとたどり着く。
「……ここよ! 食事の準備はもう出来ているわ。お父様が来られるまで先にご飯にしましょう! 貴方達はさぞお腹を空かしているでしょうから」
広間にある机には豪勢な食事たちが置かれている。ありがたい俺達は三日間キノコしか食べていない。まともな食事を食べれずに森の中で飢え死にしそうになってたからな。
キングボアを倒してくれた礼とか言ってたな。俺には関係無い話だがムツキも俺も腹を空かしている。ここは遠慮せずに頂くとしよう。
「…………すごい……いっぱい……ある」
ムツキは無表情のまま目を輝かせている。おそらく、これまでの食事で、ここまで豪勢で量が多い物を見たことが無いのだろう。
俺も転移されて食事を提供されて以来だ。
「ありがたく、頂くとしよう」
「好きなだけ食べるといいわ。これは貴方に対するお礼だもの。ムツキちゃんも遠慮せず食べていいからね」
俺達は用意された席に座り食事を始めた。ムツキは目を輝かせ小さな口に様々な料理を詰めていく。俺も色々な料理に手を付ける。
異世界の料理を食べるのは二度目だな。帝国で提供された料理は肉が多く魚が無かった。だがここ同盟国の料理は魚系の料理が多い。
刺身まである。俺は刺身に醤油を付け食べる。新鮮な魚だ。異世界は建築関係から文明があまり進んでいないと思っていたが、食事は科学調味料などに慣れている俺の口にも問題無く美味しく頂ける。魚などをおかずに白米を頂く。
まさか異世界で日本食に近い料理を食べれるとはな。帝国とはまるで食文化が違う。海が近いのだろうか? それで魚やそれに合う食材や調味料を作られたのだろうな。
俺はそれを舌で分析しながら、食事を楽しむ。ムツキはハムスターみたいに口を膨らませている。よほど奴隷生活が長かったのだろう……。
「……ムツキそんなに慌てて食べなくても誰も取らないぞ」
ムツキは口に蓄えた料理を飲み込み小さく頷き。再び食事に集中している。まあ、仕方が無いか。俺達にとっては久しぶりの食事だ。
「どう? 美味しい?」
「ああ、とても美味い」
アーチェは俺に聞く俺は素直に答えた。
「それは良かった。これはお礼だからね。お父様が来てから自分はキングボアを倒して無いとかいわないでよね。いちいち訂正するこっちが面倒なんだから」
「俺がキングボアを倒した事にしておきたいのだろう。解っている食事を提供してくれた礼だ。話を合わせよう」
「だから貴方が倒したんだって! もういいわ! 話を合わせてくれるならそれで」
アーチェは切れ気味にこちらに言う。俺はそれを無視し食事を続けた。
それからしばらくして、痩せ気味の中年が現れた。
服装はかなり豪華な物でそれなりの地位であることが解る。髪は白髪交じりで目には隈が出来ている。相当疲れてそうだ。一目見ただけで直ぐに解るほど体調が悪そうだ。周りには複数の護衛らしきものを連れている。そんな中年が俺達に話しかけてくる。
「いや、この度は私の一人娘の命を救ってくれてありがとう。礼を言おう」
中年は頭を下げる。すると部下らしきものが口を挟んだ。
「クリシュ様! 例え王女様の命を救われたとは言え。一国の王が頭を下げるとは!!」
どうやら、あの中年はアーチェの父親でこの国の王様らしい。面倒なことになったな。それなりのお偉いさんなら敬語を使わずに済むと思ったが。
相手が国王となると不敬罪で首が飛びかねない。あの横に居る臣下は礼儀に五月蠅そうだ。幸い俺もムツキも口数が少ない方だ、ここはボロが出ない様に出来るだけ無言を貫こう。
「何を言う! 妻が亡くなって以来。私は男で一つで娘をここまで育ててきた。お前にもそれは解るだろう!」
アーチェの父は声を荒立てる。他人の俺にもよほど娘を大切にしているのが伝わってくる。それに対し娘のアーチェが反論する。
「お父様! お父様は職務にかまけて私の世話はメイドに任せっきりだったでしょ!!」
「アーチェ! 私は何時もお前の事を思って……」
「それは解っているのだけど。お父様一人で育てた訳ではありません!!」
娘にそう言われ王はぐぬぬと口を閉める。ムツキはその騒動を見ず食事を続けている。俺もムツキを見習い食事を続けた。
親子の言い争いは数十分続いた。俺達の食事が終わったころと同じくらいに親子喧嘩は終わった。
「お父様! そんな事より、この人! ユヅキ・サヤマが今回、突然発生したキングボアから私達を守ってくれたのよ!」
声を枯らしながらアーチェが俺を紹介する。
「ご紹介に預かったユヅキ・サヤマだ。キングボアを討伐して貴方の娘を助けた」
それを聞きアーチェの父親も声を枯らしながら話す。
「おお、ユヅキ・サヤマ殿! 私の名はクリシュ・エルドリティスだ。一応この国の王をしている。この度は娘を助けて頂き。本当に助かった! 何か礼をしたいのだが、何か欲しいものは無いか?」
「礼なら既に受け取っている。この食事とても美味しく頂いた。それだけで有り難い」
「いやいや! これはホンの挨拶の様な物。娘の命に比べたら全然足りない。どうぞ遠慮なく申し上げてください!」
この親子お礼の押し付け方がしつこいな。多分この父も娘と同じく少しも引く気が無いだろう。なら素直に今欲しい物を言った方が良いだろう。
「なら、俺の職と俺と妹が住める程度の場所が欲しい」
今欲しいのは何処かに長期滞在できる場所だ。俺とムツキには自分たちの身一つしかない。この世界の金どころか、何かを売って金を得たりする物さえ無い。
「そんな事で良いのか?」
クリシュは俺に確かめるように聞く。俺はそれに答えた。
「俺達は行き場も無く旅をしている者だ。落ち着いた場所と職が今一番欲しい」
「居場所なら近くに私の別荘が有る。既に住み着いている者も居るが。部屋数は多い別に気にはならないはずだ。そこで良ければ使うと良い。好きなだけ居てくれて構わない」
他に住人が居ようと住む場所が得られたのは大きい。俺は有り難く受け入れる。
「それと、職の方についてだが……。ユヅキ君、君はキングボアを一人で討伐をしたそうだね?」
記憶に全く無いが……。アーチェが隣で凄い睨んでくる。俺はその目に負け頷いた。
「それほどの実力が有るのならば私の私兵として働かないか?」
「私兵? 軍隊とは違うのか?」
「軍とは違い基本的には私の指示を聞き、単独あるいは他の私兵と共に活動してもらう。その任務は色々有るが君にはその腕を見込み帝国軍の精鋭の無力化や重要施設の攻略などを頼みたい」
俺は少し考え込む。
「……それは俺に人殺しをしろと言う事か?」
俺の出した問いにクリシュは笑顔で答える。
「いいや。別に君に人を殺して貰う必要は無い。私達同盟国は別に帝国と戦争がしたい訳ではないのだ。ただ帝国軍は我々に対する攻撃を止めないため。その攻撃を抑止する強力な存在が欲しいのだ。十メートル級のキングボアを倒した君は他の二つ名持ちと合わせて、我々、同盟国の為の抑止力となる」
帝国に対する抑止力。それになる事が俺とムツキの居場所を作ることになるなら……。
「……それならば、問題無い。それで頼む」
「わかった! それならば君は今から私の私兵だ! だが別に敬語などは使わず気楽にしていい。帝国の抑止力と成っている他の者も大変個性的なメンバー揃いだ。無礼など、私は気にはしないからね」
こちらが礼儀を全く知らない事に気づいての事だな。細かい事を気にせずに済み有り難い。
こうして俺はこの異世界にて人生初の職と異世界で初の住処を手に入れた。




