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見知らぬ戦利品

 頭が痛い。酷い頭痛が俺を悩ませる。

 頭痛を感じながら俺は目を覚ます。見覚えが無い景色が広がる。ここはどこだ。見た感じは馬車の中、見たいだが。目の前にちらりと見えた馬を見て俺は馬車の中に居ると推測する。


「──やっと、目を覚ましたみたいね」


 同じく馬車の中に居た赤色の髪の毛をしたツインテールの女が目を覚ましたばかりの俺に話しかけてきた。


「ああ、目を覚ました」


「あら、思ったより冷静ね。もう少し暴れると思って一応縛って置いたのだけど……」


 俺はその言葉を聞き自身の手や足が縄により縛られている事に気づく。


「どうして、俺は縛られているんだ?」


 当然の疑問だ。俺は女に冷静に尋ねる。すると女は素直に答えた。


「それはヨイドレキノコを食べた貴方が非常に凶暴で目を覚ましたら暴れると思ったのよ」


「ヨイドレキノコ? 俺達が食べたキノコの事か? やっぱり毒だったのか……ムツキ! ムツキはどこだ! 無事なのか!?」


 俺は慌ててムツキの姿を探す。狭い馬車の中だ。直ぐにムツキは見つかる俺の直ぐ横にムツキは寝ていた。


「ヨイドレキノコは一本で一樽分のお酒ができるの。それを何本も食べて無事な貴方たちは相当の酔い耐性がありそうね」


 キノコは「調節アジャスメント」で可能な限りは毒などの成分を少なくしたからな。酔いはしたが、能力でアルコール分量を少なくできたのなら無駄では無かったのだろう。


「俺が縛られている理由は解った。お前が俺とムツキを助けてくれたのか? ありがとう礼を言う」


 俺が女に礼をすると女は慌てながら否定し話す。


「いやいや、礼を言いたいのはこっちの方よ。貴方は私達を巨大なキングボアから助けてくれたもの」


 キングボア? 全く身に覚えがない。俺は少し考え込む、だがまるで記憶に存在しない。


「……勘違いじゃないか? 俺はその……キングボアとやらからお前達を助けた覚えが無いが?」


「間違いないわよ。貴方がその木刀で、キングボアを綺麗に真っ二つにしたの見てたもの」


「……冗談だろ? 木刀で生物を切れる訳無いだろ。間違いなく人違いだ」


 俺は呆れながら言う。俺の持っている木刀は木のため刃など無い、そのため物を切る事など勿論不可能だ。それもこんな木刀で綺麗に真っ二つになど剣の達人でも何でもない俺にできるはずが無い。

 それに俺が人を襲う野獣から危険を犯してまで人を助ける何て事あり得ない。


 この女は嘘を付いているのは間違い無いな。理由は解らないが。


「酔っぱらってた見たいだけど間違いなく貴方のお陰で私達は助かったわ。キングボアはとても危険な魔物であの個体はその中でも特に巨大だったわ。十メートル級のボアなんて聞いた事ないもの。貴方が居なければ死人が間違い無く出てたわ!」


「いや間違い無く人違いだ。俺は人を助ける様な人間じゃない。そんな危険そうな魔物に例え酔っていても近づきはしない」


「貴方の妹さんのご飯にするって言ってたけど?」


 ムツキの事か、俺は横に眠るムツキを見る。スヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。食事にする為に十メートルもある生物に。しかもこの世界で初めて見る魔物に近づくか? 

 俺は自分自身の事を考える。間違い無く近づかない。この女は間違いなく俺達を騙すつもりだ。俺は警戒を強める。この世界の何もかもが俺にとっては初体験となることばかりだ。選択肢を一つ間違える事で俺とムツキの命は短くなるだろう。

 しかも俺は既にこの女により両手、両足を縛られ拘束されている。非常に不味い状況だ。俺がキングボアとやらを倒したことにしてこの女は何を企む。


「尚更、あり得ないな。たかが飯の為に命を掛けて魔物を倒す? しかも俺とムツキが兄妹だと何故解った? 俺とムツキの髪色は全く違う。それなのにどうして兄妹だと思う?」


「どうしてそんなに否定するの? 妹さんが貴方の事をお兄ちゃんと言っていたから私は兄妹だと思ったわ。髪色だって事情が有るのでしょう? それに命を掛けるなんてとんでもない。瞬殺だったわよ。その木刀で綺麗に真っ二つ一撃でね! 怪我一つ無い大勝利だったわ!」


 十メートルも有るイノシシを瞬殺? 一メートルぐらいしか無い木刀で? 物理的に無理だろう。嘘を重ねて無理が出てきたな。

 それに一番無理な嘘を付いている。それはムツキが俺のことをお兄ちゃんと言っていた事だ。ムツキが俺の事をお兄ちゃんと言う事はあり得ない。そんな事は俺が居る限りあり得ない事だ。俺の事をお兄ちゃんと言うのは今までもこれからも無月だけだ! これで解った間違い無くこの女は俺達の敵だ。


 だがコイツから逃げようにも、俺は拘束されているまずはこれを何とかしなくてはいけない……。


「こんな木刀で十メートルも有る魔物を切れる訳無いだろ」


「切ってたものは仕方ないじゃない。何故切れたか何て私には解らないわよ! 貴方の方が知っているんじゃない?」


 そんなの俺が知る訳がない。


「そんな嘘より俺をいつまで拘束しているつもりだ? お前は何が目的で俺達を捕まえている?」


「何で私が誘拐犯扱いされなきゃいけないのよ! 拘束なら直ぐに外してあげるわよ!!」


 そう言い女は俺に近づき拘束を外していく。俺は自由の身となった。直ぐに俺はムツキの無事を確認する。良かった怪我は無いみたいだ。


「よっぽど、その妹さんが大切みたいわね。聞き忘れていたわ! 貴方の名前は? 私はアーチェ・エルドリティス! 今後ともよろしくね」


 アーチェは俺に握手を求める。俺はそれを払いのける。


「…………ユヅキ・サヤマだ。だが俺はお前とよろしくするつもりは無い」


 俺はアーチェを拒絶する。


「……貴方、酔ってる時も面倒な性格してたけど。正気の時も別次元でめんどくさい性格してるわね」


 アーチェは呆れ気味に呟く。


「……この馬車はどこに向かっている?」


「私の故郷のアストージ国に向かっているわよ。聞いた事無い?」


「…………知らない国だな」


 まあ俺にこの世界で知っている国などないが。


「うーん。ユーステュラーネ同盟国の一部と言った方が解るかしら?」


 俺達が向かおうとしていた同盟国の事か。


「ああそこか。俺達が行こうとしていた所だ」


「そう、それはよかったわね。私としても都合が良いわ。貴方に助けてもらったお礼をしなくてはいけないからね」


「だから、助けた覚えなどないと言ってるが?」


 ぐぅー。その時俺の腹が鳴った。

 キノコじゃその場しのぎにしかならなかったか……。今は寝てるがムツキが目を覚ましたらお腹を

空かしている事だろう。

「その辺に生えてるキノコ食べるぐらいだものね。貴方たち」


 アーチェはそう言いこちらに干し肉を渡す。


「食べなさい。妹さんの分もあるわ。私の家に着けばまともな食事は出すから。助けて貰ったお礼にね」


 俺は干し肉をそのまま食べる。うん、美味しい。


「……私の事やたらと疑う割には素直に食べるじゃない」


 呆れ気味にアーチェは言う。


「提供された物は有り難く頂く。それが礼儀だ」


「その干し肉はキングボアから助けて貰ったお礼に入ってるの。それを食べたという事は、そういう事でいいわね」


 ハメられた。この女それが狙いだったか、食べてしまった以上仕方ない。


「俺はキングボアを倒した訳じゃない。どうしても俺がキングボアを倒したことにしたい訳はなんだ?」


「だ か ら、貴方がキングボア倒したって言ってるじゃない! どうしてそこまで頑なに否定するの!? もういいわ。その干し肉を食べた以上貴方はキングボアを倒したそれでいいわね! 貴方は私たちを助けてくれたお礼を受けるのいい!」


 お礼の押し付けだな。そこまで俺がキングボアを倒した事にしたい訳か。それだけの理由がある訳か。それがコイツの罠だとしてもあえてはまろう。どんな手を使ってでも俺とムツキの食事は手に入れる。


「……ああ解った。目的は解らないが俺はお前の礼を有り難く受け取ろう」


「目的なんてないわよ! 助けて貰ったお礼って言ってるでしょ! よろしくね! ユヅキ」


アーチェは怒り気味に俺に握手を求める。俺はその手を握り握手をした。

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