プロローグ
蝋燭の明かりだけが照らす暗闇の中に一人の金髪の男がいた。
「神墜としの準備はこれで全て整ったな。」
暗闇の中で一人男は喋り続ける。
「この時のために俺は何年も何十年も何百年も何千年も耐えて耐えて耐えて耐えて耐えたんだからなぁ──!!!」
男はその怒りを下に有る人の死骸に向けて蹴り放った。死骸は他の死骸にぶつかり
もう閉じることのない口からまだ生暖かい血を吐き出した。
「儀式の準備も全て順調だ、問題はもうヤツが覚醒してるかどうかだが、
なに、俺なら覚醒してようがしてまいが上手くできるさ。そのために耐えてきたんだからな」
そう呟き男は次元の裂け目を創り出しその中に入っていった。
男が入ってすぐ次元の裂け目は消え、残ったのは十数の死骸だけだった。
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「お前が能力を使って屋敷に火を放ったんだろ!」
クラスメイトの一人が俺に言い放った。
「有月すまないが俺にはこの状況をどうにも出来そうにない」
親友の神道一真が能力の糸を使い他のクラスメイトに気づかれないように
こっそりと耳打ちをする。
「異世界にきて間もないのに放火するとは、私は思わないな~
春馬くん。少しは落ち着いたら~」
「だがな杏、火系の能力を持ってるのは、そこの地味野郎だけなんだぜ。
百合が風の能力で消火しなきゃあな。俺たちは今頃全員燃え死んでたかもしれないんだぜ」
斎藤春馬はおおげさに言い放つ。
「そうっすよ。そこの地味野郎のせいで俺たち死にそうになったんすよ。
重罪っすよ。重罪、死刑しかないっすよね。春馬さん」
春馬の取り巻きの一人が便乗した。
取り巻きを無視し百合と呼ばれた少女が口をだす。
「春馬、わたしのこと気安く下の名前で呼ばないでくれる? 私のことを下の名前で呼んでいいのは咲夢ちゃんだけなんだから。それにその……彼が火の能力者だとしても火を付ける理由がないじゃない」
「理由なんてどうとでも言えるだろ百合ゆり、能力の試し打ちだとか自分の火の力を見て、つい火を付けたくなったとかさ。放火魔のやりそうなことなんていくらでもさぁ」
「私さ下の名前で呼ぶなって言ったの聞こえなかった? それとも死にたいから、わざと呼んだわけ? その耳の穴が飾りなら増やして聞きやすくしてあげましょうか?」
百合の周りに風が集まりだす。
「おいおい百合冗談だろ? その風止めろよ?」
「また言った」
風の塊が春馬に襲い掛かろうとしている。
「おい有月。これはチャンスだ、このままいけばお前は拘束されて国に罰せられるだろう。異世界の法律は知らないが放火はいつの時代だって重罪だ。最悪死刑になるかも知れない。今のうちに逃げろ」
一真は俺に耳打ちする。一真の言う通りだ。クラス内で地味な俺の発言力は皆無だ。
このまま数の暴力で死刑にされるのはごめんだな、ここは言われた通りに逃げるか。
「あっ春馬さん地味野郎が逃げますよ。春馬さん!」
「蒼生今はそれどころじゃあねぇ、白石俺が悪かった、だからその風を止めてくれ」
風は勢いを止めようとせず逆に勢いを増し、今にも襲い掛かろうとしている。
「白石ィ──! その風を止めろォォォ──!!! 蒼生てめぇの能力でその女ァ止めろォ!その風を止めさせろォォ──!! 蒼生ィィィ──!!!」
その悲鳴を背に俺はその場から逃げ出すことに成功した。
「俺の能力は火じゃないんだがな……」
月明りだけが灯す静かな中世ヨーロッパ風の街の中で俺は呟く。