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子は親を選べない。親も子を選べない。

気持ちの転換日

作者: 中嶋 千博

「わたしなんて産まなきゃよかったのに」

 中学三年になる娘が絶望的な悲鳴をあげるように叫んで、リビングから出て行った。階段を上がる音がして、激しくドアを閉める音。自分の部屋に閉じこもったのだ。

 その間、わたしは動くことができず、言葉を発することもできなかった。

 昼近くになり、近所に住んでいる母がやってきた。ときどき母は、コンビニで買ったお菓子や、大量に作った煮物などのタッパなどをもって、様子を見に来る。母にさっきの娘とのやり取りを話していて、泣けてきた。

「産まなきゃよかったのにって言われた」

「感情的なっただけだよ。あの子も反省しているはずだよ」

 そんなわけがないと思った。あの子はなんでもかんでもわたしのせいにする。学校でいじめられていることも、引っ込み思案な性格のことも。

「わたしがこんな性格なったのは、お母さんの育て方が悪かったからだ。こんな思いをするなら、わたしなんて産まなきゃよかったのに!」

 その子は二度目の子だった。一度目の子は、流産だった。当時の夫の暴力が原因だと今でも思っている。だから、二度目にできたときは慎重に大事におなかをいたわった。赤ちゃんが無事生れたときは、全身が震えるほど感動した。

 ほんとうに全部、わたしのせいなのか。そんなことはない。わたしだって、娘があんな子になるとは思わなかった。もっとかわいい子になると思っていたし、もっと活発な子になると思っていた。けれど、人見知りをするのに、家では暴言を吐くという内弁慶の性格。そして相手をいたわることができない自分勝手な性格の子だ。

 祖母が帰って、夕食の時間。気まずい雰囲気のまま夕食をすまし、後かたずけをしようとしたときに、娘はいった。

「さっきのは、はずみで言っただけ。忘れて」

「え?」

 顔をあげたときは、娘顔をそらして、リビングを出て行くところだった。耳が真っ赤になっていた。

 わたしは再び泣いた。謝れたわけではない。顔をみてしっかりと言われたわけでもない。

 けれどあの子の気持ちが伝わってきて、嬉しかった。きっとこれからもひどい言葉を投げかけられるだろう。それでもわたしはあの子を愛しいと思うだろう。

 そう確信した、日常の中の一時の出来事だった。


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