私のお父様、フルーリー伯爵
お父様の執務室の扉をノックする。
コンコンコココンと軽く叩くと私だと分かってくれるはず。
「チェリーか? 入りなさい」
ふふっ。やはり分かってくださったわ。
「はい。お父様失礼します」
入室するとお父様と執事が書類と戦っていました。我が家の領地では葡萄が栽培されていて、ワインの名産地でもあります。
赤ワインは隣国の王室にも重宝されていて、王子様が視察にも来たことがあります。
その際にお礼にと王子様に我が家でも貴重な年代物のワインをお渡ししたら相当喜んで頂いて、隣国が産地のブルーダイヤをプレゼントしていただきました。
お母様と私には素晴らしいネックレスを、お父様とヒューバードにはネクタイピンと、カフスでしたわ。
ワインにはそれほどの価値があるようでした。それから年に二度、父は直接隣国の王室に出向いてワインを納めに行くようになりました。
もちろん我が国の王室も御用達ですので、国内貴族に流通するのはほんの僅かです。
王室が優先となってしまいますもの。
「座りなさい」
父が立ち上がり、応接用のソファーに腰を掛けたタイミングで私も父に向かい合うように腰掛けました。
「お茶のご用意をして参ります」
執事が頭を下げて、退出をしました。父が最も信頼している執事で、私も小さい頃から大好きな執事です。
いつも執事服はピシッと立ち姿は凛としていてます。
「どうかしたか?」
「はい、実は……」
今日ユリシーズ様に言われたことを話し始めました。話の途中に執事が戻ってきて、そっとお茶を出してくれました。
話の腰を折らないようにと、お茶の準備をしたら机に戻り書類に目を通し出しました。ちゃんと聞いてはいるものの邪魔をしないようにとの配慮だと思います。
「そうか……。チェリーはユリシーズ殿のことをどう思っているんだ?」
「嫌いでは無いのですが、今回の事で自分勝手な方だと思いました。ご自分にしか興味がないと言うか……お好きにどうぞと思ってしまいました」
ふむ。とお父様が言って
「あちらがどう出るかだな。もちろん婚約破棄はうちからしてもいいよ。
ユリシーズ殿の心変わりが原因だ。侯爵殿と話をするからあまり深く考えなくとも良い」
「政略結婚なのではないのですか? そんな簡単に?」
「まぁ……な。でもまたすぐに婚約の話が出るという可能性もあると言う事は覚えておいて欲しいんだ。絶対に悪いようにはしないと約束するよ。チェリーが嫌なら断っても構わないから。私たちはチェリーの幸せを願っているんだよ」
お父様は席を立ち頭を撫でてくださりました。
「さぁ、そろそろ部屋に戻りなさい」
「はい、お父様お話を聞いてくださりありがとうございました」
お父様にハグと頬にキスをして退出しました。
部屋に戻りふぅ。と一息吐き
「婚約破棄しても良いんだ……」
と安心しました。怒られるかと思っていましたのに、お父様は寛容でした。