ユリシーズとエイラ
「ユリシーズ、それにベッカー子爵令嬢、君達は侯爵家を任せるに相応しく無い」
厳しい口調の侯爵に項垂れるユリシーズ。
「これ以上騒ぎを起こすと侯爵家から除名とする。おまえは平民になって生きていけるか?」
【平民?】無理だ……。侯爵家の嫡男として生まれ育ち輝かしい人生を歩んできたユリシーズ・ウォルターには屈辱的だ……
「おまえはこの侯爵家の嫡男として、惜しみなく教育してきたつもりだった。少し道を外してしまったが、おまえは出来る、おまえは誰よりも優秀なのだから」
優秀……。たしかに私は優秀である。
侯爵家の嫡男として育ち、幼い頃から高名な教師に学び、貴族の学園もそこそこの好成績で卒業をした、ユリシーズ・ウォルターだ。
ここで侯爵がニヤリと笑った事に、気がつかなかったユリシーズ。
「愛を貫き、子爵家に婿に行ったと言う話が広まったらおまえ達は社交界から羨望の眼差しで見られるだろうな。中々出来る事ではないのだから」
侯爵家の嫡男が格下の子爵家へ婿に行ったとなると、通常は家から用無しにされたと思われ、幻滅される事案だが、違うのかもしれない……いや違う!
「おまえも知っての通り、社交界とは噂好きだから色々尾鰭がついておまえ達の運命の愛を語り出す事だろう。しばらく忙しいだろうなぁ」
そうか……。そう言う考えもなきにしもあらずだな。
「おまえ達の運命の出会いは皆に語られ、吟遊詩人の耳に入ればたちまち他国へもおまえ達の愛は語り継がれるだろうな」
そうか。これは浮気ではない! 愛があってのことだ。身分も厭わず愛を貫いた結果だ。
「シリルをこれ以上怒らせたら支度金がなくなってしまうが……。今なら私の采配で支度金額をアップする事ができる。
その金でおまえが子爵領をどのように経営していくのか、楽しみだ。なんせおまえは優秀だからな」
私しか子爵領を上手く経営するものがいないのだから、そうなるよな……今まで領地経営について散々学んできたのだから。
侯爵の問いかけにぶつぶつと小さな声で答えるユリシーズ。
「エイラ嬢は、運命の相手に出会い、その相手には婚約者の伯爵令嬢がいたのだが、君が選ばれたんだ。運命の愛、いや……真実の愛と言うやつだな」
そうよ。私が選ばれたの、あの女じゃない!
「相手は侯爵家の嫡男。だが嫡男は家よりも子爵令嬢との愛をとり、子爵家へ婿に入ることになる、愛ゆえの行動だ。中々出来たことではない。嫡男として育てられてきたのだから」
私のために侯爵家の嫡男がたかが子爵家へ婿入り……
「過度な贅沢をせず、愛のために生きる二人は社交界から持て囃される事だろう。一気に人気はうなぎ上りだな」
そうよね。急に贅沢をしたり派手に着飾ると、変に思われてしまうわ。愛よりもお金だなんて思われるとマイナスだもの。
「相手の元婚約者の、有名なブルーダイヤを着けているところを見られようものなら、王家からも隣国の王家からもお咎めを受けるだろうな。不敬罪だと言われ、家の存続に関わる問題になる」
そんな目立つものを着けていたら、私たちの真実の愛が台無しになってしまうわ! せっかく良い風が吹いているのに……。たかが子爵家であっても貴族は貴族よ。
侯爵の問いかけにぶつぶつと小さな声で答えるエイラ。
ここで侯爵と夫人がニヤリと笑った事に、気がつかなかったエイラ。
「エイラさん、元気な子を産んでちょうだいね。子爵家の大事な宝ですもの。体を大事にしてちょうだい。ユリシーズ、きちんと支えて差し上げるのよ? 貴方しか出来ませんからね。支度金の用意を急がせます。子爵家の改築を急がせなくてはなりませんね。家族が増えるのですものね」
「「はい」」
目をキラキラさせたユリシーズとエイラ。
「父上、母上。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。私は運命の相手エイラと子爵家に行きます。さぁエイラ行こうか?」
「はい。ご迷惑をおかけしました、失礼いたします」
「あぁ。健闘を祈る。急いで用意をさせて子爵家へ運ぶように言っておく」
「エイラさん、ベビーベッドその他は私から贈らせてね。すぐに手配しますからね」
「「お気遣いありがとうございます」」
そう言って二人は満足した様に侯爵家を後にした。
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