第68章 さらば「惑星ムソルグスキィ」Ⅴ ∑∑∑
コスモの絆☆☆☆ 第68章 さらば「惑星ムソルグスキィ」Ⅴ ∑∑∑
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Scene.93
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雪はみるみるうちに3人の足元に降り積もっていった。
明日は真っ白な素敵な世界になっているに違いないと一同は夢見心地だった。
高台を来たときと同じように右へ左へと下って行く。
不意に先導するミチヨが二人に振り返ると、そっと呟くように言う。
「あなた達、本当はこの星の人じゃないんでしょ?私には判るの。でもね、私は決して密告とかしないから安心して下さいね。そして詮索もしませんから・・・」
ナティスはその言葉にしばし言葉を失う。何故解ったのだろうか。
そして彼女の言う「密告」とは何だろう?
するとリードの先で見上げる植物星人犬・桜が脳波でアクセスする。
「大丈夫。ミチヨはきっと密告はしないわ。」
「密告って、尋常じゃないな?」
「ええ、私にも未だ解析はできていないけれども、どうやらこの星にも統治の概念があるのかもしれないわね。今に嫌でも解る筈よ、きっと。」
何だか意味深に聞こえる桜の言葉が重く響く。
やはり何処に存在していても「統治」の権力からは逃れられないのであろうか・・・
「モモ地区」の先ほどまでの雑踏が嘘の様にちらほらと人もまばらな市外に降りると、ミチヨは帰路に着いた。ナティスはミチヨに聞いた違うルートでホテルへの帰路に着く。この星の探索もかねて。
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やがてミチヨのインストールしてくれたデータナビどおりに駅舎に着いた。
此処「モモが丘」の駅には帰路に着く人々でごったがえしていた。
雪の降りしきる中、ナティスの頬はすっかり凍えてしまっていた。
やがてリニアが到着すると乗り込む。
このリニアは何故か古風な地球の山手線によく似た車両となっている。
満員御礼で席に着く事ができなかったナティスは、桜が人混みに踏みつけられないように抱きかかえる。桜はすっかり冷え切っていた。
「ナティス、ありがとう。どう言う訳か先ほどから今まで途絶えていた人々からの脳波が受信できるようになったの。」
「へぇ、それで?」
「ほら、ミチヨはこの星のアンドロイドだからかもしれないわね。多分私達の周りにいる人々は星人よ。」
「それで、どんな事を考えているんだい?」
「至って普通の思考。いつもの星人の日常といった形で。」
「それにしても何故此処は星人のみが乗り込んでいるのだろうね。」
「ほら、地球でもあったでしょ。アパルトヘイトとか。」
ナティスはギクリとした様子で抱える桜を見つめる。桜はそれをそらすように眼を瞑る。
そして呟き始める。
「この星「名もなき影」の由来がどうもありそうね。ここにも地球上で起きたような差別意識が存在しているのでしょう。私達には判らないけれどこの列車にもアンドロイドたちが乗ることができないような何かしらの制御機能があるのよ。」
「それって・・・なんて理不尽なんだ・・・」
桜はそれっきりナティスへのアクセスを打ち切った。
リニアでの帰路はあっという間であった。まるで瞬間移動のようだ。
駅を出るとそろそろ見慣れた海沿いの道を通りホテルに到着する。
雪空から開放されてロビーに入ると暖房の熱気に解かされる思いがした。
そして部屋にたどり着くと、ナティスは倒れこむようにベットの上で寝入ってしまった。
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ナティスは夢を見た。多分そうに違いない・・・
そこは果てしない砂漠。ジリジリとナティスの肌を太陽は容赦なく焼き焦がしてゆく。
余りの日差しのハレーションに眼をやられたナティスは、跨ったラクダを停めると熱波の砂の上に降り立つ。
後どれ位歩き続ければいいのだろう――――
すると何者からかナティスの脳波にアクセスしてくる声が聞こえるのだった。
「君は果てしなく遠くまで旅してきたものだね。立派な事だよ。だがね、人間には予測不能な事が伴って生きているものだよ。そう、君にはもう直ぐお迎えが来る。この運命には私でさえも抑止することなど出来やしないのだ。何とも残酷な事ともいえるが、もう旅に疲れて辛い思いをする事もなかろう。少なくともこれは君が望んだ世界でもあるのだから。」
一体これは何を意味するのであろうかと、ナティスは回想してみたものの、何も思い返す事などできなかった。まるで何もインストールされていないかのように。僕のデータは何処に存在しているのだろうか?
いいや、きっと暑さにやられてしまっただけなのであろう。この脳波に訴えかけた主の言葉でさえ幻の成せることなのだろう。或いは白昼夢というところか。
そのうち桜からのアクセスがあるものと信じようか。
ナティスはラクダに括り付けてある積荷をほどいて飲み水を探す。そしてそれぞれの鞄の中を探ってみる。おかしい――――
一つは空っぽなもの、もう一つには砂がたっぷりと封入されている。何なんだこれは?
ナティスはこれまで辿ってきた砂に描かれた軌跡を眺めてみる。直ぐそこのラクダの足元にある筈の軌跡が無い事に気づいた。そんな筈は無いと近づいても見たが、彼方までそれを見つける事は出来なかった。
もう一度、もう一度と繰り返しこれまでの道のりの事を思い返してみるものの、先ほど到着した段階の過去が記憶の中から忽然と消えているのだった。もしくはもともと入っていなかったのだろうか?すると私は何を目的に、そして何処に向かっているというのだろうか・・・・しかし答えは見つからず、それどころか先ほど脳波にアクセスしてきた不思議な主からの言葉でさえ虚ろに消えようとしているのだった――――
そして・・・・自分の存在が此処までかも知れない、という焦りだけが何もない砂漠の上に漂っては、儚い夢の如く忽然と消えようとしている気がするのだった―――
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///// To Be Continued ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆