第21章 戻りたい、戻れない***
コスモの絆☆☆☆ 第21章 戻りたい、戻れない***
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Scene.37
私はかつては「愛」を選んでいた。
そうだろ、幸恵・・・教えてくれ、遠のいてゆく余韻。
その時私のエゴだけが、誰を求めるでもないままに漂って・・・
そして時は理不尽にも私を、そして地球をも変えてしまって・・・
だが、あの頃は忘れない。
決して私は忘れたわけではない筈。
そう自負したい。
あの頃に戻りたい、でも戻れないに決まっている。
そう、私には今がある。或いは今の連続しかなかろう・・・
ダーザイン、私はこうして時を越え、空間を超えて何処までも存在してゆく、
存在の連鎖が私を象っている―――
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そう、私はついに「炎の鳥」の内部にまで到達することが出来たのだ。
未だ雲の中にいるような曇った頭のままではあったが立花博士は感慨深く回想を繰り返す。
そして、目の前には幸恵が出迎えている・・・
「お帰りなさい、貴方。」
間違えない、その声も姿も未だ虚ろながらも幸恵のものだった。
嗚呼、生き返るわけもない筈の地球においていった幸恵が。
「これはどういうことだね?」
「貴方、お帰りなさい。」
幸恵と思しき目の前のそれは尚も繰り返す。
「オマエ、まさか宇宙人では?」
「お帰りなさい、貴方。」
立花は確信の持てない目の前の幸恵に戸惑いながら質問を続ける。
「オマエ、どうやって此処に?ここは「炎の鳥」の中だぞ。」
「お帰りなさい、貴方。」
「それは分かった。それよりオレの返答をしてくれないか?」
「お帰りなさい、貴方。」
「そうしたというんだ、それではまるでロボットのようだが・・・」
「お帰りなさい、貴方。」
これは一体どうしてしまったと言うのだ・・・立花は虚ろに映る辺りを見回す。
真っ白な室内には私の寝ているベットのみが置かれている。
そして白いワンピースを着た幸恵が目の前に突っ立ってこちらを覗き込んでいる。
他に人影もなく。
何故に幸恵は「お帰りなさい、貴方。」と繰り返す?
まるでオウム返しのように、私の質問に答えるでもなく。
本当にアンドロイドか何かなのだろうか?
私の記憶を読み取って、一番親しいものにこの「炎の鳥」の案内役として設定したのか?
或いは、幸恵は宇宙人に連れ去られた挙句、記憶を消去され、指令のみを伝えるアンドロイドのようにされてしまったのか?
そんな幸恵に動揺を隠せず、ただ見つめるのみだった。
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「私達どうすればいいの?」
「立花博士は私達の制止を振り切ってこの「炎の鳥」に乗船してしまったけど、私達はこれからそうしたら良いの?」
「それにしても博士は鳥の奥へと消えてしまったままだが・・・安否は?」
「ええ、今脳波を追っているのだけれど、一向に察知できなくて・・・」
「シェルター船のAIから何か情報は?」
「いえ、ダメです。どうやら鳥から妨害電波か何かが出ているようで、こちらも受信できません。」
「さて、どうするかな・・・」
シェルター船に取り残された植物たちの不安は続く―――――
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Scene.38
「そうだ、ここはナティス君の意見を聞こうではないか!」
そういうや相馬船長は流石助手にナティスを呼ぶように告げる。
「船長、私の「マヤの古文書」の解釈として、どうやら我々はこの「炎の鳥」は、とどのつまり、神のような存在なのかもしれません・・・目下鳥は我々のことを全て把握しているだけではなく、我々を手の中に委ね、時代をも超越し、我々の運命全ての左右を執り行う事ができるのです・・・・・ですから、やはりここは鳥に従うべきかと。」
相馬はナティスの言葉に全てを理解することはできなかった。
既にこの状況下で鳥の思うままに運命は委ねられているのであるから依存は無いが、我々の今後の運命まで左右すると言うのは納得できる筈もなかった。
流石が切り出す。
「ナティスさんの解釈は分かりますが、それはどうかと。いくら宇宙空間で行く先未開の事象が起きたとしても、全て科学的な知見によって分析可能なのでは有りませんかねぇ。もっとも私は神を信じないと言うのでもないですが、宗教には染まっていませんので。」
その言葉にさすがを睨むナティス。
「君の理解の範疇は分かりました。ただ、誤解していただいては困りますので弁解しますが、この鳥に関する古文書に詠われている事象は全て宗教ではなく、そのような人間のエゴの解釈とは次元の異なるものであるのですよ。
もう少し噛み砕いて申しますと、人類やAIが分析している科学的な根拠についてもこれまでの全てが把握しつくされたわけでもなく、物理学等の最新の見解では、どうしても神のような存在に操られているのでなければ説明がつかないようなものが実存しているとの見解なのです。
もっとも私の古文書の解釈については、立花博士や他の研究者の思考形態に準じておりまして、私の一存では御座いませんのでその点についてはご承知置き頂きたく。」
ナティスの熱い語り口調には相馬も当惑を憶える。
ということは、この鳥は神であって、我々はこの神によって次の次元にでも到達しようとしているのであろうか・・・そして今、目の前で周回を繰り返している「惑星ムソルグスキィ」にはその回答となる事象が待ち受けているのであろうか・・・
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ナティスたちの会話は全て宇宙線トルストイの放送としてLIVE配信されていた。
それはこの治外法権的な船内の中においてのルールとして「知る自由」を尊重してのものだった。
船内で固唾を呑んで議論している一同の不安が一気に高まる。
「どうしましょう、大変なことになってきましたね。」
「ううむ、宗教では説明できないレベルだろう。」
「それどころか、最先端科学や物理学において、神の存在が作用しているというふうにしないと説明できない事柄が五万とあるだろうことは皆さんもご存知の通り。我々人類の知見なんてものはこの宇宙での人類の歴史同様、その程度にちっぽけなレベルではないでしょうか。」
「そう、そのとおり。哲学的な見解においても、決して語られないのは「存在」がどこから派生しているのか誰も突き詰めてはいないことからも伺い知れます・・・・それぞれの存在について、相対的な立居地の違いからの議論は行われますが、根本的部分である我々が何故存在しているのか、と言う事については、誰もが答えを持っていないのでしょう----物理的に神が存在しているかはさておいて、神による作用が無ければ、何もかもが説明がつかないのも事実なのでしょう。我々がどうして生きて死ぬのかという日常でさえ、誰も答えを持っていないのですからね・・・」
////// To Be Continued ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆