第2章 さらば◆地球よ・・・
コスモの絆☆☆☆ 第2章 さらば◆地球よ・・・
こんなにも、私の人生の中で宇宙空間で暮らす時の永さを感じようとは想像だにしなかった・・・ナティスにとってこの現状は果たして何を意味しているのであろう。
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Scene.05 博士の思惑
「宇宙病」の急激な発症者数によって乗員は既に1/20にまで減少している中、助教授ナティスは翻弄されていた・・・浮谷博士より古文書データを授かった今、その内容を解読することが今後の人生の中での新たなテーマになることに相違ないであろう。
「浮谷教授、アナタの正直な話、この古文書の内容から何を得たか話していただけないでしょうか。」
「おやおや、ナティス君。ようやく君も興味を持たれたようだね。これはね、私の旧友の、そう、今となってはあの赤々と燃え滾っている地球のシェルターに引きこもっている、いや、残念ながらとうに溶岩に攻められて溶けてしまっていよう立花博士から引き継いだものなのだ。
立花博士は地球環境の宇宙からの影響についての研究の第一人者であることは君もご存知であろう。彼は最終的に地球の進化においての植物による活動の影響がキーを握っていることにたどり着いたのであるが、そのヒントは此処にあるこの「マヤの古文書」からの解釈によって導いているそうだ。そして、マヤ起源の遥か昔の人類の営みが、どうやら宇宙からの影響なしに証明することが出来ないことを悟ったのだ。私の話はかなり抽象的で申し訳ないのだが、なにせ私の解釈の範囲を遥かに超えているため、私にとっても解など持ち合わせては居ないのだから・・・そこまでたどり着いただけでも人類にとっては飛躍的なことだと考えられるのだ・・・」
そういうと、「マヤの古文書」が保存されているデータカードをナティスに手渡す。
「ナティス君、後は君のお楽しみ!」
宇宙病の餌食となった浮谷教授はそういうと、神に召された。
すさまじく、あっけなかった・・・
人生と言うのは、そんなものかもしれないが。
ピラミッドの頂点を司っているというオンボロ宇宙ステーション船の機能の低下は理不尽にも続いている。選ばれたエゴの塊である人類の成れの果ては徐々に人数を減らし続けている。
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Scene.06 地球時間西暦3001年
この1年というもの、宇宙病により召された浮谷教授から託された、立花博士からの「マヤの古文書」の解読にいそしむ日々を続けていた。解読にあたって、様々な従来言語及びAIによる解釈ソフトを使用しながら独自の研究理論を構築しながら丁寧に解きだす時間は止め処なく無限にさえ感じられる作業であり、ある意味途方もない執念が要求された。違う、そうではない、を繰り返しながらもこの宇宙ステーション船「トルストイ」は宛ての無い行く先へと進路を取っていた・・・
「相馬船長、あの星はどうでしょう。」
「何がだ。」
宇宙病によりこの「トルストイ」に残されたエゴ人類は既に50人にも満たなかった。
無論、エゴのピラミッドに人選された中には医学博士も存在していた。博士の時を忘れたたゆまぬ研究により宇宙病のワクチンは既に効を奏しているようであった。なんとか自給自足による食料及びそれに付随した食物連鎖環境による酸素自給もこの人数にとって最適な状態となっていた。今のうちは・・・
「ですから、あの星は地球環境に近いのでは?」
「データからすると可能性はあるな。」
「でしたら、着陸してみては?」
「そうだな・・・よかろう。」
この「トルストイ」の旗振り役である相馬船長は機体を着陸態勢に保ち始める。
船長に促されるままに流石助手は係員に指令を出すことに暇がない。
「おい、機体があの星に向かっている様だぞ!」
「ナニィ、いよいよ着陸か?」
「おお、いよいよたどり着いたか!よし、前祝と行こうか。なぁ、みんな!」
取り残された暗い面持ちの乗客たちにどよめきが巻き起こる。
人々に久方ぶりの希望が見え始めていた。
と、ガタン!と大きく機体が揺れる。
「だ、ダメです!」
「何がダメなんだ!」
「機体が・・・この星の重力の影響か・・・操舵が利きません!」
「なんだと、よし、変われ!」
相馬船長がコントロールパネルに釘付けになりながら操縦を司る。
「ううむ・・・巻き込まれているな。」
「と、申しますと?」
「磁気嵐、或いはこの星の引力が悪さをしている。このまま漂うか・・・」
「いずれ、この星の恩恵に身を委ねるしかありませんね。」
「これはこれは、流石君。君も一端の口をきくようになったな!ハハッ!」
「いえいえ、船長の受け売りです。」
「いやいや度胸が据わったものだ!天晴れ!よし、それならばこの星に命を委ねてみるのもいいかもしれない!いざ出陣!」
長旅ですっかり希望が失せていた二人に新たな希望の笑みが浮かぶ。
乗客たちは揺れ続ける「トルストイ」の機体の動きに身を委ねながらも、先ほどまでの希望などとうの昔のことのよう不安な面持ちが浮かんでいる。
ナティスは自分のワークとなった古文書解読作業に時を忘れたかのよう没頭し始める。
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Scene.07 惑星~ムソルグスキィ
「嗚呼、なんてこの星は美しいのか・・・まるでかつての地球ではないかい、なぁ流石君!」
「はい、そうですね・・・しかしこの揺れはいつ収まるというのでしょうか。」
「ハッ、そんなこと知るか!きみも初心者だな!」
「しかし、AIの分析結果では・・・」
「はい?そんなものくだらん。いずれそれは人工物だ。勝手な捏造とも言える!」
「それもそうかも知れませんね・・・」
相馬船長と流石助手が語らう中、AIが他の星からのデータの受信を告げる。
それはこの星からではなく、いまや遥か離れた地球からのようである。
AIが受信電波を解読し、言語データに置き換えている。
そして・・・解読は完了した。
「流石君、再生したまえ。そうだ、これはこの「トルストイ」に運命共同体となっている輩である乗客たちとの共有財産でもあるから・・・よし、館内放送として流せ!」
流石は華燭を加えるまでもなくこの送られてきた言語データをそのまま館内放送へと切り替えて再生する・・・・
「応答せよ、応答せよ! 私は・・・・地球に残された立花博士と申すものであります・・・もし受信が叶った暁には、ぜひともアナタの星の皆様においてご清聴いただきたく存じます。 この星の名は「EARTH」と申します。私はこの星の将来について研究を続けてまいりまして、未だこの星の唯一となりつつある生命体として存在して居る者であります・・・
この星は私ども最期の生命体である人類にとって生存するための全ての要素を失いました。そして私の知りうる限りでは、この星に生存している生物はついに私一人となってしまいました。この星の各地点に据えてある情報収集に掛かる装置から送信されたデータを分析することで、私が最後の生命体となったことを知ったわけでもあります。かといってこれ以上、高齢の私の命がいつまで続くかも判りません。
この宇宙において高度文明として我ら人類が最期に生きた証として、これをもって伝えることが一つの教訓となり、伝承と言う意味においても寄与することと思います。もう一方で、「トルストイ」という人類が築いた最期の高度文明とでも申しましょうか、我が星から放った宇宙ステーション船にも、この星の人類が存在しています。あと何年存在するかは不明ではありますが・・・嗚呼・・・神よ・・・」
そして地球からの受信は途絶えた。
館内はどよめきに渦巻いていた。
無論、ナティスもこの放送に耳を傾けていた。
何と・・・浮谷教授が言っていた、かの立花博士からの受信・・・彼は生きていたのだ!
とすればだ、この「マヤの古文書」に対する博士の解釈についても今後聴取することも可能となろうか・・・そうなれば宇宙理論や我ら人類の将来に対しての指標をも見出せるやもしれない!しかし・・・浮谷教授は個人の解釈に対しての疑義や曲解についても不安を募らせていたっけ。しかし今となって僕にとって必要な事は、この私の知見範囲よりも遥かに長期間研究に携わってきた先人の意見が如何に糧になるだろうと考えるべきである。その上で、私なりの解釈を合算していけば良いのではないか・・・・
惑星~ムソルグスキィは未だ遠く静かに佇んで居る。
尚も理不尽にも宇宙ステーション船「トルストイ」を引き込み続けながら・・・・
/////// To Be Continued ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆