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第12章 新世界へのディスタンス◆◆◆

コスモの絆☆☆☆   第12章 新世界へのディスタンス◆◆◆



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~~


Scene.22 振り向かぬ君が美しい



ナティスの心は銀河系と同じくらいの範囲で彷徨っていた。

果たして浮谷教授から引き継いだ大きな命題は、私にとって意味のあるものなのか、と。

そして、途絶えながらも無事を確認した浮谷教授の師匠である立花博士からの声。

彼らから引き継がれた「マヤの古文書」、それに纏わる「炎の鳥」の存在。

放浪から始まった宇宙船「トルストイ」の運命。

全てが空回りしているようでならない。

そう、私の心そのもの。

興味本位から物事が始まるのは世の常であろうが、今のこの状況下において、

果たしてその興味の意味に自分なりの回答を持ち合わせていなかった。



古文書の解読という作業の大部分は、机上の論争で終始することが多い。

ましてや研究者人口の少ない命題に関しては解読者の個人的観測による場合も否めない。

もちろんこれまでの事象によって定義付けがされるべきではあるが、時に個人の意思が大半を牛耳ってしまい、ともすると空想の産物によって構成されがちになる。

それでいいのか?果たしてそれを新たな伝承として後世に展開する事は正義なのか。

深い疑義が生じるたびに眠れぬ夜が続いてゆく。



「炎の鳥」の一節に戻ろう。

この鳥が降り立ったマヤの時代に、人々は希望を失いかけていた。

そしてそれ様の鳥型の飛行物体が私達の行く手を今、牛耳っている。

確かに私たちも宇宙空間での放浪の果てに希望を失いつつある状況はかつてと等しい。

そして飛行物体の容姿も似通ってはいる。

だからといって、古文書にあるような「新世界の幕開け」的な希望的観測は?

古文書にある限りの内容において、このテーゼの回答は何処にもない。

新世界が果たして私達にとって幸福であるとも限らない。

私達の思考を超越した世界が展開されていても不思議ではない。


この解は、やがて訪れる現実として証明されよう。

そうなれば既に机上の論争からも開放されることになる。

そして、私の選んだライフワークの古文書の解読。

そう、かつて地球という星の中である時期を歩んだマヤ文明。

大よそこの宇宙空間においても宇宙の偉大な時間軸においてもちっぽけなもの。

既に此処は地球上ではないのも事実。

人類として今行われている事象は全てかつて無く新しい世界。

そう、ある意味新世界はとっくに始まっているのだ。



ここに生きる残り少ない我が人類の末裔にとって、全てが新しい。

そう、一寸先は闇。地球上でもそれは同じ。

誰も未来予想図なんて描けない。いや、単に予想でしかないのだ。

しかし、現在私達が持ち合わせている数少ない英知として、これらの尺度を測る術としては残念ながら狭い範囲での過去の事象に頼るより他ならない。

そう、僕らが想像できる範囲は、これまでの英知を利用することでしか表現は不可能なのである。

そして、これから巻き起こる事象をそこに追加することで術を増やすより他無い。

一つづつでいい、宇宙よ私に英知を与え続けておくれ。

そこから私達はそれぞれの未来予想図を描きつつ、新世界へと昇華していくのであるから。



古文書の内容についても未解決な要素は山積している。

第一人者として経験知を積んできた立花博士からの言葉は何より重い。

私にとって難解な躓きでさえ、彼にとっては複数の解を持ち合わせていよう。

そのための交信履歴は全て時間軸的に彼の人生を費やした貴重な軌跡そのもの。

そう、私にとって現状何よりも貴い。



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~~



「ア~ア~、立花だ。ナティス君、応答せよ!」


唐突に、まるで私の願いが届いたようにも思える奇跡が繋がった。


「はい、ナティスです、どうぞ。」


「え~、笑わないで聞いておくれ。とうとう私はこの歳になってからの初体験をしてしまったのだよ。私も始めは何かの幻聴か錯覚かと病んだのだが、間違いではない!」


「と、申しますと?」


「君はご存知であろうか、このシェルターには私達が生命活動を維持するために植物プラントを構築していることを。そしてついに、独自の発達を遂げたその植物達が新たな領域に達したのである。或いは未だかつて人類が知りえなかった、元来植物が持ち合わせていた高度な機能がこの環境下において開花したといっても過言では無かろう。」


「はぁ、理解に苦しみますが、それで。」


「実は・・・恐るべきことに、植物達がAIからの教育を習得し、人類同様の、或いはそれ以上に高度な様式を体得してしまったのだ。それは、脳波の検知とその読解だ。」


「なんですって!」


「驚いたろう。しかもだ、それによって私と会話をすることさえ出来、私の考えている事を口に出さずも読み取ってしまうのだよ!」


「何ということでしょうか!」


「更にもう一つ、私も君達の宇宙船トルストイと同じ状況にある。」


「と、申しますと?」


「驚く無かれ、何とあの古文書の「炎の鳥」が現れてだな、危機迫る地球上の環境下から連れ出してくれたのさ。」


「という事は・・・今宇宙に?」


「ああ、そうだよ。軌跡だよな。」


「という事は、「炎の鳥」は複数存在しているということですね?」


「何!君達は惑星ムソルグスキィに既に到着していたのではなかったのかね?」


「ええ、「炎の鳥」の誘導で徐々には接近していますが、未だ惑星の大気圏外に居ります。」


「何だと?鳥が複数存在しているということか!てっきり君達を誘導した後に・・・」



ナティスにとって博士からの交信の話は一欠けらも理解することが出来ないで居た。

尋常な見識の範疇を遥かに超えた2つの事象に息をすることさえまま成らなかった。

博士の交信は続く。



「信じるも信じないも君次第なのだが、私も歳のせいで耄碌してとうとう幻覚を覚えたのだと何度も自問自答してみたのだ。しかし、これは全て事実なのだ。」


「ええ、重々承知しています。私の目の前で起こっている事実と酷似していますし、ただ、植物の新たな進化については耳を疑います。何と申しましょうか、余りにも進化の速度が超越的に思えてなりません。ともすれば意志を持った植物であることで、博士の脳波を読み理解された暁に起こりうる事象が、勿論私個人の考察ではありますが・・・危険に思えて。」


「君もそう思うかい?実は植物との会話の中でひとつ気になったことがあってね。」


「と、申しますと?」


「私がその植物に、君の目的は?と質問した際に、「人類との共存」と言ったことなのだ。普通の解釈の範囲では、地球上での共存共生は人類の出す二酸化炭素を吸収してもらい、酸素を供給してもらう事は周知の事実。人間の出す糞尿を栄養として採取している。そして人間の生きた暁に肉体が腐食し、そして分解されたものもやがて栄養としている。勿論、人間も養分を得るために植物を捕食している・・・何、もしや・・・・」


「お気づきですか?そうです。私が危険だと思った部分がそこにはあります。」


「すると、君が言いたいことというのは、私が捕食される可能性が?」


「極論ですが、そのまま食べられることは無いでしょう。それともう一つ・・・」


「な、何だね?」


「その植物はAIから教育を受けたといっているのですね。そして意志を持っていると。」


「ああ、そうだが・・・」


「AIには様々な人類の思考形態がインプットされつつ、逐次計算能力を高めながら高精度化されていますよね。

勿論善悪の判断も。

それは時と場合によってそれが引っくり返ることさえ有りうる・・・

つまり、基準線の持って行き方次第によっては悪事も正当化されてしまうということです。例えば先ほど申しました「共存」の解釈の違いによっては、共存の名の下に捕食さえ正当化してしまうということにも成り得るのではないでしょうか。

ましてや既に人間のIQを遥かに超えた領域に達していた場合、人類と植物とで高等生物としての優劣が入れ替わっている可能性も考えられます。

無論、人間心理の倫理的善悪も備わっているでしょうが。

そして最も重大なのは・・・既に博士の脳波が読まれている。

しかし博士には彼らの脳波は読めない。

それが最も危険な状況だと考えるのですが・・・・」



ナティスの言葉によって博士は言葉を失った。

暫くの間、沈黙が続く。



「ナティス君、私も君も、一瞬先は闇なのだよ。

そう危惧してばかりでは、一歩も先には進めやしない。

増してや新たなテーゼを探求する私達研究者にとって危険は付き物だよ。

心配は要らないよ、既に幾つもの危険な状況はクリアしながらこうして生きてきたのだから。

さぁ、そろそろ長話のせいで私も疲れてきた。歳には勝てないね。ではまた!」



そう言うと、博士から一方的に交信が切れる。

ナティスは大きな不安の闇に落とされたように虚空をみつめる・・・・









~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~~


////// To Be Continued ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

























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