第1章~もう地球には戻れないね・・・
コスモの絆☆☆☆ 作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)
第1章~もう地球には戻れないね・・・
そう、あれからどうやら大分月日は流れていったものだなぁ・・・
今はこうして時の行く末を案じるほか無くなってしまっている。
果たして私の見解は正しかったのであろうか。
誤っていたとしてこの現状を打破する術もなく、唯、この星の行く末をみつめている。
若気の至りと人の言う、孤独な研究の成果など金輪際私が目にすることも無かろう。
時は理不尽にも私のちっぽけな考えや未来など忘却の彼方へと放り出してゆく。
その放物線の彼方さえ一寸の光として輝くことも無く、漂うばかりか・・・・
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Scene.01 地球時間西暦3000年頃
私の研究と言うのは、かれこれ50年前からそれは始まった。
そしてこれまでの実績すらなく、ひたすら時を忘れて没頭している日々。
というのも、地球の温暖化研究から派生した大気変動と宇宙環境についてのレポートに胸を打たれたことから始まった。
その時分はひたすらそのレポートに感銘していたわけだが、時々刻々と変動する地球環境の中でふつふつと私の中では疑義が生じていた。
まるで地球環境は永続的に続いてゆくように、まるで情報を操作された内容で有るかのごとく綴られている。
果たしてそれは正解であろうか。そして人類がそれをあたかも生物界のピラミッドもしくは神の如く中心的な存在として論調が終始していることに気がかりでならなかった。
或いは既存の生物界のみで宇宙が支配されており、宇宙空間全ては高等生物の支配下にあるという認識についても不条理でしかなかった。
研究の筋である自然現象は宇宙とのかかわりの中で引き起こっていると言う部分については一理あろう。
しかし果たしてそれが人類が今後も宇宙空間におけるピラミッドの頂点であり、それに取って代わるものでさえも人工的メカニズムにより発動し、やがて宇宙環境さえも支配していくと言う道筋に納得などできよう筈もなかった。
おそらくこのレポートの執筆者は既存判りうる範囲内での生物の進化及び没落、新たな文明の成り立ちの知識範囲での事柄を昇華した上での見解なのであろうが。
もちろんこうして私たち研究人でさえも進化の道筋を基調とした一本の筋の中で膨らむ範囲での方向性のみを頼りにするよりなす術も無いのではあったが。
人類の成り立ちの不思議、地球の自然環境の変化に恐れを抱き縋るものが必要となったことで、気休めのツールとして仮想現実的に宗教が発生し、それによりひと時の安らぎを得るために人々は信仰を始めた。
不安意識の中で己の中から明日への希望を見出すことができなかった民衆は、神を崇めることによってその不安を取り除いていた文明の時代が長く続いた。
産業革命以降は技術革新の波によって人々の生活様式がより便利なものになって行った。
科学的な進化に伴い、誰もがそれぞれの理論によって現象を理解し続けていった。
人々の生活はこの世紀で急激に豊かになった。その稀で安泰な地球環境の時期において誰もが疑う余地など無かった筈だ。
人類の織り成す文明のなかで人々は盲目になっていったーーー
そして愚かな競争化社会の中で本来の生命の営みから大きくズレていったことも忘れていった。確かに人々は物理的にあるカテゴリーの中で豊かさを享受していた。生命の根源を医学の中で解き明かしてゆく中で生命を構築する現象をメカニカル的な見解の中で立証することによって誰もがまるで人類が神の領域まで把握しきってきたような錯覚を覚え、その起源について触れずにピラミッドの頂点を司っていると自負していった。
そう、予測しえた時代の賜物。それもそろそろ終焉を迎えることになろうとは・・・・
「博士、火山活動がまた活発化してきています。衛星データの解析においては南半球はほぼ壊滅的、私達の北極圏のこのシェルター周辺の酸素濃度についても残りあとわずかとなっています」
「シェルター内の酸素濃度は?」
「現在は正常に製造が行き届いていますが、予備の備蓄も機能低下により望めないかと」
「計算上何年持つ?」
「ええ、実は・・・」
「何だ?」
「あと数日となります」
「な、ナニィ!!」
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Scene.02 数日後
このシェルターの研究員も残りわずかとなっていった。
我が研究に携わってくれた大事な清栄たちを看取りながら涙を呑んで屋外へと放出しなければならなかった。
こうしてまでも私が存命していることに悔いと無念を飲みこんでいた・・・
確かに放出しなければシェルター内の酸素濃度が低下してしまうため使用が無いと。
このオンボロシェルターの機能は当然30年前のまま更新していないのであるからいつ停まるかわからない酸素生成機が頼みの綱だった。
植物プラントからも酸素を補ってはいるが、循環までは到底追いつかない。
そう、ここはある意味ノアの箱舟。私の使命である地球環境の回復はとうの昔に途絶えていたのだ。無理を言って物資や設備投資をしていただき今日に至るのであったが、それも後数日で事切れてしまうだろう。
屋内には研究員と共に綴った研究データがギッシリと詰まっている。
これはある意味私達人類の生きた証であり、そして次の文明への助け舟となるようにとの望みがたくされているいわば宝の山。そう、未だ見ぬ次の高等生物へと託そうとする私の最期の仕事となろう・・・・
それにしても先ほどから目の前が霞む。研究員を呼ぶが応答が無い。どうしたことか。
息苦しさも増している気がする。私も歳だなぁ。何やら昔懐かしい大地の草むらの風景が記憶の底からふつふつと湧き上がる。そんな幻覚が私の体力を幾分楽にしているようでもあるのだが・・・眠気が襲う。
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ああ、あの頃は良かったなぁ。若き日々。熱心に研究員達と語り合っていたっけ。
大学の八ヶ岳合宿所での夏の日差しの中、美味しいチーズケーキを頬ばりながら未来の地球と宇宙への思いについて熱く眼を輝かせながら過ごした日々、忘れたくはない・・・
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Scene.03 数か月後
シェルターまでは火山活動は届かないものの、既に地球の大気の中で生物が生存可能な場所などは微塵もなくなっていた。
私はこの宇宙ステーションから終わり行く地球を眺めている。かつての青き美しい星では既に無く、光をも携えることが不可能なほどに赤黒く淀んだ塊となっている。時折火柱が立ちあがり、私達の戻る術などとっくに存在していないことを暗示している。
「博士からの連絡は未だ入らないのか」
「ええ・・・もうだめかと」
「いや、あきらめてはいけないよ」
「しかし船長、あの様子を見ても明らかでは・・・」
「ああ、以前より急激に活動が活発しているな」
ここ宇宙ステーションには選抜された各界の既得権益者のみが生活していた。
人々は地球を脱出することにより生きている。
エゴの塊と化した人類の生き残り。
この次の生活拠点について議論を繰り返している。
「君、どう思う?」
「このステーション船の能力としては30年位は飛び続けることが出来るでしょう。しかし問題はそこまでの自給生活が不可能と言うことです」
「というと?」
「この規模の船には地上に居るとき同様な生活環境を構築できるメカニズムがあります。適切な酸素濃度を保ち、生物環境同様に食糧自給できるシステムが満載されています。しかし地上と異なるのは重力及び様々な免疫を司れるだけの環境が整わないことに起因しています」
「というのは?」
「教授、アナタもご存知でしょう?「宇宙病」です」
「そうか、発生者は?」
「それとみえる発症者数は乗員の1/3に登っています」
「まさか、次の星まで間に合わないのか?」
「今此処から移動しようとも到底地球環境に叶う星の発見すらも不可能です」
「発症のスピードからすると絶滅は免れないと言うのか!」
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Scene.04 更に数か月後
私は生きるすべを失っていた。
これまで生き残れることは出来たのであるが、「宇宙病」の急激な発症者数によって乗員は既に1/20にまで減少している。食料及び酸素量は十分に賄えるだろう。だが、私にはもう生きる理由など浮かばないで居るのだった。
「君、僕らは何のために生きているのかねぇ」
「教授、しっかりして下さい。アナタの嵯峨として今までの学識研究を昇華するのがアナタの存在意義ではなかったのですか?だから私はあなたにお供してきたのですよ」
「それについても、こうまでして私自身が生きている意味など何なのだろうね」
「それは・・・人々のためです」
「そうかなぁ。であれば私ではなくてもいいのではないかい?」
「そんな・・・」
「既に君には研究指標は全て託しているから問題は無かろう。後は君が引き継いでくれれば」
「いいえ、生きるのです。人として」
「人?既に僕らは地球人では無いのではなかろうか。そして誰に何を伝えることに意味があるのだろうか」
「私達がこの宇宙空間の中の最高度文明者である使命として生き残った暁に新しい文明を構築し・・・」
「それもそうかもしれないが、本当にそう思う?」
「と、申しますと?」
「今の話、誰が決めた?」
「と、申しますと?」
「地球人が決めたのだよねぇ。或いは正しい歴史の中で伝承された内容だとされて入るものの、そうではない可能性は無いかい?捏造とか?」
「は?考えても見ませんでした・・・教授からそんな言葉が出るなんて」
「考えても見たまえ。高度文明とか言ってメカやAIは進化したかもしれない。しかし誰が私達が生きている間に地球があんなことになるなんて予測しえたと言うのだ」
「しかし・・・では何を信じればいいのでしょう?」
「「信じるものは救われる」かい?それは宗教だね。そもそも宗教は誰が作ったのかね?」
「人類だと思いますが、救われている人も実際には居る訳で」
「私も古代文明の研究の中で残された様々な古文書を紐解いて神の存在以外の「何か」を求め続けてきたのは君もご存知だね。その研究過程で何をしていいのか解せない日々を送り続けてきたのだ」
「はぁ、しかし様々な研究成果はあったかと」
「ところが、それって私達のエゴによる解釈ではなかったのではないだろうか」
「と、申しますと?」
「僕らの知識の範疇で、あくまでそれによって導いた解釈に相違ないのさ」
「すると、違う解釈の仕方が?」
「それは今から起こりうる宇宙の神秘に答えが隠されているのかもしれない。実は・・・私は未だ君には説明してこなかったのだが、既存の文明様式とは違う解釈で無いと成り立たない文面が存在しているのだ!」
「ということは・・・」
「それは未だ謎である。私も歳だ。体力的にはもう後が無い。それどころかこの殺伐としたステーション内の出来事に翻弄されきっている。人々は死に続けている。私の精神状態が持たないのだよ。ナティス君。だから君にこの古文書データを託したい!」
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