第四十三話 ジョージ家の日常
呑気に段がグリムとカームと麻雀卓を囲んでいるのと時を同じくして、ロジャーの報復が始まろうとしていた。
~消えゆきし世界とそこに住まう数多のアバター達に捧ぐ~
「ローン!」
グリムが勢いよく些末な木製の牌を倒す。
牌の裏に分厚く塗られた黒い塗料が机に沈むように視界から消え、表面に描かれた模様が露わになる。
「おいおい、役がないじゃねーかグリム。」
「役なしで上がれるのはリーチをかけた時だけだって、さっき説明したばかりだろ。」
グリムと共にカームの部屋で卓を囲んでいた段とカームが一斉に不満を口にする。
「えー、だってドラは3つもあるよ。
ほら。」
倒した牌を指さしてグリムは弁明するが、二人は更に呆れかえる。
「ドラがあっても役がなけりゃ上がれないんだって。」
「グリムは頭悪いからなー、たぶん役もまだ殆ど覚えてないぜ。」
グリムに対して辛辣なカームに段は驚く。
「そうなのか?
ジョージの銅板を売れる場所をすぐに見つけてくれたし、俺はてっきりグリムは頭がいいのだと思ってたぜ。」
「そんな訳ないじゃん。
どーせ、”天使が彫ってあったから教会行けば売れる”とでも考えたんだろ。」
「でへへ、せいかーい。」
自身が小バカにされているのに、笑ってグリムは答える。
「マジかよ。
たまたま当たりを引いただけだったのか?!」
「さ、続きをやろうぜ。
グリムのチョンボからな~~~。」
カームが机の上の牌を手で崩し、段もそれに続く。
グリムは渋々二人に支払うチョンボ代の点棒を数え始めた。
「なにをしているっ!」
部屋にジョージの怒鳴り声が響き、3人が同時にそちらを向く。
カームとグリムはジョージが来た事に慌て、カームなどは椅子からずり落ちそうになっているが段はお構いなしにジョージに話しかける。
「麻雀だよ麻雀、昨日グリムが買ってきたんだ。
ジョージも一緒にどうだ?
本来4人でやるゲームなのに3人しか面子がいなくてサンマ(三人麻雀)になっちまってたんだ。
ジョージが混ざるなら、やっと本来のルールで麻雀が楽しめるぜ!」
段はウキウキでジョージに話しかけるが、ジョージの顔は益々険しくなる。
「こいつは没収だ。」
そう言うや否や、ジョージは麻雀牌を何枚か鷲掴みにしてポケットに入れる。
「おいおい、何すんだよ!」
抗議する段を無視してジョージはカームとグリムを睨む。
「仕事の手伝いもせずに何をやっている!
とっとと仕事場へ来いっ!
手伝いをサボらなければそのうち返してやるが、それまでこれは俺が預かっておく!
いいなっ!」
『ふぁーい……』
グリムとカームは不服げに机の上の牌を片付け始めるが、段は尚もジョージに食い下がる。
「そりゃねーだろジョージ、折角みんなで楽しもうと買ってきたのに……」
「だったらお前も手伝え!
今朝さっそくヴォレウカーコ派から注文があって、俺はとても忙しいんだ!
この仕事が終わったら返してやってもいい!」
「マジかよジョージ~~。」
巻き込まれてうなだれる段を見てカームとグリムがクスクス笑い出し、その後ろからバンッとカイルの家の玄関ドアが勢いよく開かれる音が響いく。
「今帰ったぞ~~!
早くわしにも麻雀をらせてくれーっ!」
何も知らないべべ王が失望するのは、その直後の事であった。
* * *
赤猫亭の脇の壁には不自然に酒樽が積みあがっていた。
カイルはその酒樽の隙間から壁面を覗き、先日に付いたばかりの焦げ跡を見物する。
(これが東風さんの言っていた放火未遂の跡か……。)
それはカイル達の追う仇が目と鼻の先にいる証拠でもあり、敵が近くに潜んでこちらを狙っている証拠でもあった。
カイルはその壁を離れ赤猫亭のスイングドアを押す。
正午前の酒場は早めの昼食を取る僅かな客しかおらず、閑散としていた。
カイルは酒場のマスターの姿を確認し、カウンターの席に座る。
「東風さんからの伝言なんだけど……」
「お客さん、ご注文は?」
カイルは慌てて壁にかかったメニューを見渡す。
なんの注文もせずにマスターと長話だけして帰る客など、不自然極まりないのだ。
「エール酒を一杯。」
マスターが黙ってグラスを取るのを見ながらカイルは思う。
(昼間から酒ってのは抵抗あるけど、ミルクは好きじゃないんだよな。)
音も立てずにグラスがカイルの席に置かれると、カイルに顔を近づけたマスターが口を開く。
「それで伝言の内容は?」
「ソフィアさんに今日の夕方に会いたいそうです。」
「今日であれば問題ないでしょう。
もしなにかあれば、カイルさんですよね?……」
カイルがうなずくのを待ってマスターは言葉を続ける。
「あなたの家に使いを出します。
それから……」
マスターは更に声をひそめる。
「……つけられてるぜ!」
カイルがギョッとして赤猫亭の入り口の方を見ると、物陰から店を覗いていた一人の男がサッと顔を引っ込めるのが見えた。
(しまった!
まだ尾行に気づいてないフリをしておけばよかった!)
後悔するカイルがカウンターに視線を戻した時、マスターは既に奥で皿を洗っていた。
カイルはグイッと一気にグラスの酒を煽る。
「ここに置いとくぜ。」
カイルは数枚の鉄貨をカウンターに置いて赤猫亭からそのまま出る。
(尾行に気づかれた以上、もう隠れている必要はないって訳か……)
カイルが店の左に視線を向けると4人の武器を下げた怪しげな男達が自分に向かって歩いて来るのが見えた。
カイルは右を……自分の家に帰る方向を向き、彼等に背を向けて歩き始めた。
今、赤猫亭が店を構える裏通りにカイルと彼等以外の人影はない。
(ここでやる気だな。)
カイルは歩きながら背負っていた魔導弓のカバンを降ろしてその蓋を開けた。
(挟まれた……全部で7人か。)
前方から歩いて来る3人の男を確認したカイルは魔導弓をカバンから取り出しながら狭い路地裏に飛び込む。
「馬鹿め!そこは行き止まりだ!」
カイルを追っていた7人の男たちは路地の入口を塞ぐように囲むが……
「うわっ!」
先頭の男が路地裏からこちらに向かってマジックアローを構えるカイルを見て飛び退き、後ろのの男と衝突し、仲間を巻き込みながら転んだ。
カイルは魔導弓を下に向けるとそのマジックアローを自身のももに打ち込んでほくそ笑む。
(もしこの連中が金で雇われただけのごろつきなら、これで奴等の勝ち目は完全になくなったな。)
太ももで光るアタックアローが、自身の筋力を既に大幅に向上させているのをカイルは感じていた。
「なんだ、能力向上のためのマジックアローかよ脅かしやがって。
諦めな、どの道お前に勝ち目はないぞカイル。」
カイルの正面に立ったリーダーと思しき男がカイルに語りかけ、その後ろではカイルのマジックアローに腰を抜かした男達が仲間によって助け起こされている。
「何者だいあんたら?」
魔導弓を脇に抱え、短槍として使う構えを取りながらカイルが訪ねる。
「何者だと思う?」
もったいぶる男を見て、カイルは悩む。
(ロジャーに雇われたならず者か、それともフレイガーデンの刺客か?
……いや、どっちでも同じか。)
ニッと笑いながらカイルは男を睨む。
「いや、何者でも構わないよ俺は。」
言った瞬間、カイルは裏路地の入口を固める男達との間合いを詰めていた。
「殺すなよ!大事な人質なんだからなぁっ!」
リーダーの男が仲間に向かって叫ぶが、その前に既に先頭に躍り出た筋肉質の男がロングソードを接近したカイルに対して反射的に振り下ろしていた。
ガッ!
だがロングソードの刃は裏路地の壁に埋まりカイルに届く事はない。
(素人かよ!
狭い場所で戦った経験すらないのか、この筋肉だるまがっ!)
ドゴォッ!
カイルはロングソードが壁から抜けずに動きが止まった男の腹を蹴飛ばした。
男は勢いよく吹き飛び、後ろにいた仲間を巻き込んで倒れて地面を転がる。
「貴様!何をしたっ!
そのマジックアローの魔力なのかっ!」
腹を手で押さえたまま起き上がるそぶりも見せない仲間を見て男達のリーダーが慌てるが、カイルはお構いなしに更に前へと歩を進める。
カイルの後方では壁に突き刺さった男のロングソードがたゆみ、フィンフィンと音を立てて未だに揺れている。
「何をしたと思う?」
「ヤロォッ!」
路地裏の前で余裕を見せるカイルの態度にブチ切れた一人の男がナイフを手に躍りかかったが、すぐにナイフを放り出してその場に寝転がる。
そのナイフが届く遥か前にカイルの魔導弓の先端が音もなく、男の太ももに吸い込まれていたのだ。
「ちっちくしょおぉぉっ!
よくもっ……がっあぁぁぁぁっ!」
太ももを押さえて地面を転げて苦しむ仲間を見て、残る5人が青ざめる。
「何をしている!
4人で一度に襲い掛かれば負ける訳がねーんだ!
ビビッてないでやっちまえ!」
リーダーの号令と共に4人の男が一斉にカイルを襲うべく距離を詰め、飛び掛かるタイミングを測るが、カイルはすぐに裏路地の中に後ずさって逃げ込んでしまう。
「うらあぁぁぁっ!」
「舐めるなクソガキィッ!」
狭い路地裏には複数人が一度に襲い掛かれる広さはないのだが、一斉に飛び掛かるつもりで距離を詰めていた男達は急にそれを止める事ができなかった。
お互いの肩がぶつかり武器も満足に振るえぬまま1人は腕を刺され、1人はショートソードをカンッという音と共に弾き飛ばされ肩を魔導弓で貫かれて地面に転がる。
「おい邪魔だどっげふぅ……」
仲間の背中が邪魔で裏路地に入れずに手をこまねいていた男が、首筋に仲間の影から振り下ろされた魔導弓を叩きつけられ意識を失い崩れ落ちた。
「残り2人か。」
カイルは路地裏の入り口に横たわる3人の男達を踏みつけながらそこを出た。
ガチャン
カイルに向けて剣を向けていた男は、その剣を地面に放り出して掌をカイルに向けて後ずさりそのまま逃走する。
「あとは一人。」
1人は逃げ、5人は地面に転げて呻き立ち上がる様子もない。
カイルの言う通り、残ったのは男達のリーダー1人であった。
「くそっ!」
リーダーの男は逃げ出そうとするが、カイルにあっという間に追い付かれて襟首を掴まれて引きずり倒される。
アタックアローによって足の筋肉も強化されているカイルにとって、この男に追い付く事など造作もなかった。
「何者だ、あんたら?」
カイルは魔導弓をドスッと地面に突きさすと、腰に下げていたショートソードを男の喉に突き付ける。
(強力な魔法になればなるほど、その効果時間は短い筈なのになぜだ?!)
男は地面に尻をついたまま忌々しそうにカイルの太ももで未だに光を放つアタックアローを見る。
イザネの作った魔導弓によって強化されたその魔力の矢は、その強い魔法の光を少しも衰えさせようとしていなかった。
ザシュ
地に伸ばして上半身を支えていた男の手の甲をカイルはショートソードで十字に裂いた。
「グッ!」
男は右手を押さえるが、傷は浅い。
「答えろよ。
ロジャーに頼まれたんだろ?」
「他に心当たりでもあるのか?」
男の言う通りカイルには他にも心当たりがあったが、フレイガーデンの刺客であるならばもっと良い武装を揃えて襲撃を仕掛けてくるであろう事は、ベンの盗賊団を相手にした経験から察していた。
「お前の名は?」
「マイケルだ。」
(”マイケル”ね。
どうせ偽名なんだろ?)
再びカイルはマイケルと名乗る男の喉にショートソードを向ける。
「なぜ俺を狙った?」
「お前の家族はハゲ頭の男が護衛してたし、冒険者ギルドで騒ぎを起こした化け物4人組を相手にする程俺達もバカじゃねぇ。
新米冒険者のお前が無警戒に1人になったから、仲間を集めてさらっちまおうって話になったんだ。
ジョージやあの4人組にお前の指を1・2本切り落として送ってやれば、簡単に脅せるだろうからな。」
マイケルはニヤリと笑みを浮かべる。
先ほどカイルに腕を刺された男がカイルの後ろに立っていたのだ。
男のカイルに刺された右腕はだらりと力なく下げられたままだったが、その左腕はショートソードを振りかざしていた。
男の気配に勘づいたカイルが振り返ると同時にその背に向かってショートソードが振り下ろされる。
カンッ
「バカなっ!」
カイルは小指でそのショートソードを受け止めていた。
(2度と同じような真似をしないように脅すつもりでやってみたけど、いくら防御の指輪の力で無傷だと分かっていても心臓にはよくないなこういうのは。)
カイルは心の中で冷や汗を流す。
男は慌ててショートソードを引っ込めようとするがカイルはその刃を鷲掴みにして離さない。
メキィッ
「アガアアァァァッ!」
カイルは男の足の甲を踏み砕いてからショートソードの刃から手を離し、マイケルの方に向き直る。
カイルの後ろでうずくまる男は、既にショートソードから手を離し砕かれた足を両手で押さえて呻いていた。
カイルは呆気に取られて座り込んだままのマイケルの事を安心させるかのようにゆっくりと自らのショートソードを鞘に納めた。
「”俺の指を切り落とす”だって?
酷い事を考えるよなお前等。」
ガッ
カイルは一瞬気を抜いたマイケルの右頬を軽く蹴飛ばすと、先ほど地面に突きさした魔導弓を引き抜いた。
「ムゴォォォッ!」
頬を押さえ声にならない声を上げて悶えるマイケルに背を向けて、カイルはその場を後にした。
* * *
カイルが赤猫亭に続く裏通りを抜けて大通りに戻ると、見覚えのある後姿が前を歩いているのが目に入った。
(あれイザネだよな?)
カイルの目に写るイザネの姿は、どこかウキウキしているようでリラルルの村にいた頃のような印象を受けた。
「よおっ!」
声をかけたカイルに気づいたイザネが振り返る。
「カイル?何やってんだこんなところで?」
「東風さんに頼まれて赤猫亭に連絡しに行ってたんだ。」
カイルはイザネの歩幅に合わせて歩きながら今しがた通って来た裏通りの方を指さす。
「ソフィアに頼み事か?」
「後でべべ王達から詳しく聞くと思うけど、帰り道に変な騒動に巻き込まれちゃってね。
その裏の情報を調べるのに東風さんだけでは手が足らないみたいなんだ。
そっちこそ何があったんだよ?
随分時間が掛かってたみたいだけど、ギャレットとの話はついたのか?」
「話したというより、あいつの話を聞いてやったって感じかなぁ?
俺はあんまり話さなかったし。」
イザネはどう説明したらいいか分からない様子で迷いのある話し方をする。
「喧嘩売られたんじゃなかったのかよ?
本当に話しただけなのか?」
「そうだぜ。」
意外そうな顔をするカイルにイザネは素直に答えた。
だが、カイルはその答えが腑に落ちず眉間にしわを寄せて首を捻る。
「んん~~?
で、ギャレットの奴はどんな話をしたんだ?」
「冒険に失敗した話とか、子供の頃の話とかいろいろ……まぁ、子供時代がない俺にはよく分かんない話もあったけどさ。」
「はぁ?
なんであいつがイザネにそんな話をするんだよ?」
イザネの話にますます訳が分からなくなったカイルは髪を手でかきむしる。
「さあな……でも、よっぽど寂しかったんじゃないかアイツは?」
イザネはギャレットがパーティが解散した後に、仲間から見捨てられた話を聞かされたのを思い出していた。
そして、その孤独はカイルにとってもよく分かる話だった。
なぜならカイルはギルドの訓練生時代にギャレット達のグループによって仲間外れにされ、虐められ、それを味あわせられていたからだ。
それもまだ数週間しか孤独を味わっていないギャレットと違い、カイルは何カ月もの間それを味あわされていたのだ。
「寂しかった……か。」
イザネの言葉を反芻するようにカイルはその言葉を口に出す。
過去の恨みを込めて”ざまあみろ”と心の底から思えたならばスッキリしたのかもしれないが、同じ苦しみを味わった者としての同情も相まってカイルは心を決めかね、迷い、混乱していた。
「オイッ!
どうしたんだよそれっ!」
思い悩むカイルの服をつまんで突然イザネが大声を上げる。
見るとそこには、先ほどのカイルが叩きのめしたゴロツキ達の返り血が僅かについていた。
「ああ、これか。」
何事もなかったかのように、カイルは平然と話し始める。
「さっき、ロジャーの雇ったゴロツキ達が襲ってきたんで返り討ちにしてやったんだよ。」
「怪我はないのか?」
いつになく心配そうにカイルの顔を覗くイザネに違和感を覚えながらカイルは答える。
「これは奴等の返り血だよ。
今の俺がロジャーが金で雇える程度の用心棒にやられる訳ないだろ?」
「そうか、……確かにそうだ、な。」
イザネはそうは言ったものの、心の奥から不意に湧き上がった不安感が何なのか分からずに戸惑っていた。
* * *
「なぜじゃー?」
べべ王が麻雀牌を没収された不満をぶつけるかのようにグリムに尋ねる。
「今までも何度も仕事の手伝いをサボって、いろいろな物を没収されとるんじゃろ?
なんで懲りんのじゃー?」
「だって、すぐに遊びたかったんだもん。」
だが、グリムの答えにべべ王は逆にその疑問を深めるばかりだった。
「すぐ遊べばすぐに没収されるじゃろーが?」
「えー?
でも、すぐにやりたい気分だったし、見つからないかもしれないじゃん。」
「いつも見つかっとるんじゃろ?」
「でも父ちゃんの方が忘れてて怒られない事もたまにあるよ。」
「なんでそんな薄い確率に懸けられるんじゃー?」
「その時は確率なんて考えなかったんだよ。」
「どうしてじゃー?」
「じいさんしつこいーーっ!」
グリムが悲鳴を上げるが、べべ王にはグリムの常軌を逸した短絡思考がどうしても理解できない。
「カームとグリムは、やりたい事があると後先考えず、すぐにやろうとするんだよ。
特にグリムは酷くてね。
部屋の中で焚火しようとした事があって以来、部屋のドアを外してるんだ。
目を離すと何をしでかすか分からなくてね。」
昼食を机に並べるメアリの話を聞いてべべ王は再びグリムに尋ねる。
「なぜじゃー?」
「だってあの日はとても寒くて、すぐに温まりたかったんだもん。」
「だからって部屋の中では怖くてできんじゃろ?」
「ちゃんと火事にならないように大きな皿の上で燃したんだよ。」
「はぁーー???」
「ほら、蝋燭だって部屋の中で火を点けるじゃん。
だから蝋燭より大きな火を部屋の中で焚こうとしただけだよ。」
「どうしてじゃー?」
「このじいさんイチイチしつこーーーいっ!!」
再び悲鳴を上げるグリムを助けるかのように、台所の床の影が持ち上がり東風が姿を現した。
「おいアンタ!どっから入って来たんだっ!」
べべ王達と一緒に台所の席に座っていたジョージは驚いて椅子から滑り落ちそうになりながら叫び、カームは憧れの目で東風を見る。
「詳しい説明は後程。
急いでパーティで相談せねばならない事ができました。
ジョージさん、今から仕事場を借りてもようございますか?」
「あ、ああ。」
切羽詰まった様子の東風の問いに椅子に座りなおしながらジョージが答える。
「イザ姐とカイルさんの姿がありませんが?」
「あいつ等はまだ帰ってないぜ。
どうする?」
麻雀がやれなくなったショックと、ジョージの仕事の手伝いでぐったりして机に突っ伏していた段が答える。
「止むを得ません、お2人が帰る前に先に説明を……。」
「あの2人なら今帰って来たようだよ。」
外の物音に気付いたメアリが東風に告げる。
「ありがとうございますメアリさん。
昼食は後で頂きます。」
そう言うと東風は再び影へと沈んむ。
イザネとカイルを出迎えに行ったのだろう。
「なぁジョーダン!
あれどうやるんだ?!
あんな事ができるなら、スカートの中を覗くも女風呂に忍び込むも自由自在じゃねーか!」
「知っててもお前にだけは絶対に教えねー。」
段は目を輝かせるカームに呆れかえってそう言うと、ダルそうにべべ王と共に台所を出て行ってしまった。




