第二十話 村を囲む影
二度目の大猿の襲来から早くも10日以上の日が経っていた。
カイルの活躍により平和が戻ったかのようにみえたリラルルの村。
しかし、新たな脅威が人知れず村に迫ろうとしていた。
~消えゆきし世界とそこに住まう数多のアバター達に捧ぐ~
「はぁっ!」
村の門の傍でクリスの木剣が勢いよく木に藁を巻いた的に対して垂直に当たる。
カンッ
クリスは長い髪をたなびかせながら続けて二段目の突きを放ち、木剣を突き立てられた木の的が勢いよく揺れる。
「今のどう、イザ姐?」
「40点くらいかなー。」
近くで腕を組んでクリスを見ていたイザネが、苦笑いしながら応える。
「えー、厳しいよー。」
イザネは頬をふくらませるクリスから木剣を受け取ると、的から離れた位置に立つ。
「いいか、まず相手との距離によって踏み込みを変えなきゃ駄目だ。
相手が近い、あるいはこっちに向かって距離を詰めて来るようなら、後ろ足を引き寄せずその場で突きを放ってもいいくらいだ。
もしさっきのクリスみたいに敵との距離を考えずに思いっきり踏み込むと……」
イザネは一足飛びで木の的の目の前まで距離を詰める。
「相手との距離が詰まり過ぎて突きを放つ間合いが潰れてしまうし、突きを放てたとしても威力が殺されてしまう。
実戦では、相手も自分も動いている中で距離を目測で確認し相手の動きを読んで突きを放たないと駄目だぜ。」
「難し過ぎるよそれー!」
イザネは悲鳴をあげるクリスに木剣を返し、丸盾を持って構える。
「難しいから稽古して体得するんだろ。
俺が的になるからやってみなよ。
まずは、俺が踏み込むのをカウンターするように突きを放つんだ。」
「なぁイザ姐、俺にもそういう派手でかっこいい技を教えてくれよー。」
二人の後ろで素振りをしていたダニーが文句を言う。
「派手でかっこいいって”疾風二段突き”の事か?」
イザネが呆れたようにダニーを見る。
「そうだよ、技名までかっこいいじゃん。」
ダニーは素振りを中断して木剣を地面に突いてイザネの方を向く。
「なぁ、カイルにはクリスの技がどう見える?」
不意にイザネが、ダニーとクリスの代わりに村の門番をしていた俺に向かって話をふる。
俺は一時的に村の門から目を離して、イザネ達の方を振り向いた。
「確かにダニーの言うようにカッコいい技だけどさ、イザネらしくないんじゃない?
どちらかっていうとイザネの教えてくれる戦い方は守って勝つってやり方だし、隙を作るのを嫌うじゃないか。
なんでクリスには、一撃離脱で一気に勝負を決めるような戦い方を教えてるんだい?」
「流石にカイルはダニーの答えよりかはマシかな。」
「なんだよイザ姐、俺達を試したのかよ。」
地面に突いた木剣の上に手と顎を乗せて、ダニーがイザネに不満を言う。
イザネは、そんなダニーに一瞬からかうように笑顔を向けると説明を始めた。
「カイルの場合、本職はマジックアーチャーだし攻撃は魔法に頼った方が確かだろ。
槍状の弓を振るうのも、ショートソードで戦うのも敵の接近を許した場合の護身の手段に過ぎない。
だから護身術として教えているんだ。」
「ああ、なるほどね。」
イザネの言うとおり相手に接近された場合は、敵を怯ませて距離をとりマジックアローを放つのが俺としてもやりやすい。
一人で戦うのならともかくパーティで行動しているのなら、パーティメンバーからのフォローが入るまで敵の攻撃を凌げればマジックアーチャーとしては充分なのだ。
「でもクリスの場合は前衛ジョブなのに力がないから、ちょっと特殊なんだ。
クリスが守る戦いをした場合、軽装の敵ならともかく鎧を着た敵や防御力の高いモンスターが相手だと致命打を与えるのが難しいんだ。
後衛ジョブなら一時的に凌ぐだけで問題ないが、前衛ジョブなら凌ぐだけでどうにかなるってものじゃない。」
「だから一撃離脱戦法なのか。」
ダニーが感心したように口を開く。
「ダニーはさっき、”疾風二段突き”が派手に見えるって言ったろ。
派手に見えるって事は、それだけ動きが大きいって事だ。
一撃離脱戦法だと更にフットワークを使うから動きが大きくならざるを得ない。
そうなると守りを固める戦法に比べてスタミナも多く消費する事になるんだが、そんなクリスを戦いの場でフォローするのは誰がやるべきだと思う?」
イザネはダニーの方に振り向いて問いかける。
「そりゃ、イザ姐がなん……ってぇ」
問いに答えようとしたダニーの頭をイザネが軽く小突く。
「バーカ、クリスの相棒はお前だろ。
お前がクリスをフォローするんだよ。
ダニーなら力があるから一撃離脱戦法をとる必要もないし、クリスを庇いながら守って戦う事だってできるだろ。
いくらかっこいいからってお前まで一撃離脱戦法してたら、クリスを守る奴がいなくなるじゃねーか。」
「え、ダニーに庇ってもらうの、あたしが……」
照れるクリスにイザネが呆れたように言う。
「お前も照れてんじゃねーよ。
パーティを組むってのはそういう事だろ。」
やり取りを聞いていて、イザネが本気で二人を育てようとしているのが俺には理解できた。
しかし、イザネがそのつもりであるのならば……
「なぁ、イザネ。
ダニー達をクランに誘わないのか?
クランに入るのなら、俺のような装備を二人に渡す事だってできるんだろ?」
「ああ、それな。
誘ってみたんだけど断られたよ。」
「え、なんで?」
驚いてダニー達の方に振り向いた俺に二人が答える。
「だって、そのクランっていうのは冒険者じゃないと入れないんでしょう?
冒険者になるなんていったら、母さん泣いちゃうわよ。」
「俺だって、そんな事を言ったら親父と喧嘩になると思うぜ。」
ああ、そういえば……。
二人の言葉に俺も思い当たる節があった。
「俺も冒険者になるって言ったら親と喧嘩になったっけ。」
そして、その結果俺は家出同然の形で飛び出して冒険者になったのだ。
「なんだ、カイルのとこも一緒なのかよ。」
ダニーが俺の言葉に同調し、イザネが困ったように頭をかく。
「どうして、この世界の冒険者ってのはこんなに評判が悪いんだよ。
まあ、クランに入らない以上はクランの素材を使った武器を渡す事はできないんだ。
今ゼベックとジョーダンが二人に合うようにもっと良い剣を新しく作ってるから、それで我慢してくれ。」
確かに俺がクランから与えられたような武器を、誰彼構わず渡してたら収集がつかなくなる。
クラン員以外には渡せないという規則は致し方ない物なのだろう。
「我慢だなんて、あたし達のために剣を作ってくれるのにそんな事思う訳ないじゃない。
イザ姐には本当に感謝してるんだから。」
「クリスの言うとおりだ。
俺もイザ姐のおかげで随分強くなれた実感があるぜ。」
イザネは困ったような顔をしてもう一度二人を見る。
「今のダニーくらいの剣の腕前で強くなった言われても、不安になるだけだぜ。
生兵法は大怪我の基って言うしな。」
「ひっでーなイザ姐。」
ダニーが少しむくれながら言う。
イザネはまだまだ不満のようだが、ダニーとクリスの成長はめざましいものだった。
初めて二人と会った時には俺の目から見ても素人丸出しだった二人が、半月足らずの期間でそれらしく見えるようになってきている。
ギルドの訓練所と比較するなら雲泥の差だ。
「でも、二人とも駆け出しの冒険者と比べても引けを取らないくらいには強くなってるぜ。」
「え、それじゃあ私でもゴブリン退治に参加できる?」
俺がそう言うと、クリスが目を輝かせて嬉しそうにその言葉に反応する。
「小さいゴブリンの群れならな。
ギルドの訓練所を卒業したばかりのファイタークラスを連れていくより、今のダニーとクリスの方が確実に頼りになるよ。」
これは俺の正直な感想だし、二人が自信をつけるのも悪い事ではないだろう。
ダニーは調子に乗り過ぎそうでちょっと怖いが。
「おおおおっ!それマジかよカイル!」
早速ダニーがガッツポーズをして大袈裟に喜ぶ。
わかりやすいなぁ。
「おーーーい。」
その時、俺の後ろからこっちを呼ぶ声が聞こえた。
(しまった、皆とのおしゃべりに夢中になって村の門から目を離してた。)
俺が慌てて村の門の方を向くと、森の方からこっちに歩いて来る東風さんとゲイルの姿が見えた。
なぜか東風さんは犬のロルフを抱いている。
「何があったんだ?
狩りから帰るにはまだ早い時間だし、ロルフの奴は大丈夫か?」
ダニーが不安げな声をあげた。
* * *
「でさ、ロルフは狼の臭いを嗅いだ途端に腰を抜かしちゃったんだよ。
情けないなぁ。」
ゲイルが東風に抱かれてハァハァ息をするロルフを撫でながら言う。
「犬は狼を恐れるからしかたないよ。」
訓練された犬や特殊な犬種ならばともかく、強さで勝る狼を恐れるの方が普通だろう。
ゲイルと話しながらふと隣に目をやると、イザネが東風さんからロルフを受け取ってニコニコしながら抱いている。
かわいいから抱いてみたかったのだろうが、イザネは中型犬のロルフが重くないのだろうか。
「マーガレット婆ちゃんが言ってたけど、何年か前に狼が鶏小屋を襲って大変な被害が出たらしいぜ。
また村に狼が紛れ込む前に退治してやらねぇ……あっこら……」
イザネがロルフに頬を舐められて顔を背ける。
「この世界では村の境界がそんなにいい加減なんですか?
確かルルタニアでは特殊なクエストでもない限り、村の中にモンスターが侵入する事なんてありませんでしたよね。」
イザネの話に東風さんが信じられない事を聞いたように驚いて言う。
「俺も初めて聞いた時は驚いたけど、この世界じゃそれが普通みたいだぜ。」
イザネが抱いたロルフのモフモフの首に顔をうずめるようにして言う。
「ならば、早く退治した方が村の人は喜びそうですね。
狼が相手とはいえ久々のクエストですから、クランSSSRみんなでクリアしましょう。」
東風さんがロルフの頭を撫でながら、イザネに返事をする。
ふと引っ張られたような感覚がして足元を見ると、ゲイルが俺のズボンを引っ張っている。
「なぁカイルの兄ちゃん、東風達は何を話してるんだ?
時々東風の言う事がさっぱりわからない事があるんだけど、俺がよくわからないだけなのかな?」
まぁ、普通はそう思うよな。
「俺にもよくわかんないよ。
東風さん達の世界の常識は、俺達の世界と全く違うみたいなんだ。」
俺はゲイルの耳に顔を近づけて小声で言った。
「ふーん。
あ、父さんだ!
おーい!父さん!狼だーっ!
狼がでたよーっ!」
ワンッワンワンワンワンッ!
俺達の前方に目的地の村長の畑が見えてきた途端にゲイルが駆け出し、イザネの腕から逃れたロルフがその後を追う。
足元でロルフにじゃれつかれた村長の脇で、こちらに気づいたべべ王が畑の中から手を振るのが見えた。
* * *
「今さら狼退治かよ。
デイリークエじゃあるまいし。」
段が相変わらずよくわからない文句を言う。
「そう言うな。
この世界に来てから2度目に受けられたクエストじゃぞ。」
べべ王は段とは反対に上機嫌だ。
「もしかして疲れてるのかジョーダン?」
俺は段に尋ねてみた。
段はゼベックを手伝ってダニーとクリスの新しい剣の制作中だ。
というより、段の持つルルタニアの技術を応用して性能の良い剣をダニーとクリスに作ろうと試みている途中と言った方がいいだろう。
材料はこちらの世界の物を使用しているため、俺の魔導弓のような桁外れの品質にはならないにしても、段の技術により今までの剣と比較するなら格段に性能の高い武器を作れる筈なのだそうだ。
そして、その剣の制作に時間が掛かるのか、段の帰りが最近遅くなっていたのが気になっていた。
「まあな。」
段は俺に短く答えて大きな欠伸をした。
やはり寝不足らしい。
「クラン拠点のクラフトルームと違って、ゼベックさんの鍛冶場ではクラフト時間短縮の課金アイテムも効果がありませんからね。」
東風が段を気遣うように言うが、べべ王はおかまいなしに段の肩を叩く。
「なら尚の事じゃ。
クラフトの気分転換にみんなで狼退治に行くぞジョーダン。」
「わかったよジジイ。
確かに久々のクエストだ!楽しまないとな!」
ようやくやる気を出したのか、段が杖を振るって気合を入れた。
「で、今回のクエストのノルマは何匹なんだ?」
イザネに尋ねられて、俺は答えに詰まる。
「ノルマって?」
「だから、何匹狼を倒せばクエストクリアになるのか教えてくれよ。
それともスライム退治の時のように敵を全滅させるタイプのクエストか?」
イザネの言う事を聞いて俺は覚悟を決める。
面倒だけど、そろそろ誤解を解いておいた方がいい。
「みんなのいた世界ではどうだったか知らないけど、冒険者への依頼は依頼者が何を望んでいるかを考えてやらないといけないんだ。
今回の依頼の場合、依頼者……つまり村長や村の人達の希望はなんだい?」
「村が狼に襲われない事?」
「じゃ、そのためにはどうしたらいいと思う?」
段が俺とイザネの会話に割り込む。
「狼を全滅させれば、村に狼が来る心配はないだろ?
だから全滅クエって事か?」
俺は段の方を向いて言う。
「間違いではないけど、正解でもないぜ。
狼が村の周囲からいなくなればもう狼に村に襲われる心配はないだろ。
だから、村の周囲から狼が逃げ出すようなら全滅させなくてもいいんだ。
普通は数匹倒せば、狼の群れは逃げ出すからそれで済むと思う。」
「なるほど、クエスト受注時に明確にクリア条件が提示されたドラゴン・ザ・ドゥームと違い、クリア条件をこちらである程度考えなきゃいけないのじゃな。」
首を傾げる段と違い、べべ王は俺の言う事を正確に理解ができたようだ。
「しかし、それを正確に判断をするにもこの世界の知識が必要となるのではないですか。
暫くの間はカイルさんに意見を求める必要がありそうです。」
東風さんが、俺の肩に手を置く。
「それじゃ、クエストクリアの条件もわかったことだし、暗くなる前に済ませちまおうぜ。」
冒険の準備を済ませたイザネが家の扉を開け、みんながその後に続く。
目指すは東風さんとゲイルが狼の足跡を発見した、村の北の森だ。
* * *
「おかしい、数が多すぎる。」
森に入り狼の足跡を確認した俺は、みんなに異常を継げる。
「多いって何匹くらいだ?」
段が俺の見ている足跡を一緒に覗き込む。
「狼の群れっていうのは多くてもだいたい10匹前後なんだ。
なのにこの足跡の数は、軽く20を超えている。
ありえないよ普通は。」
それを聞いて段の脇から足跡を覗いていたイザネが口をはさむ。
「でも、所詮は狼だろ。
あんな雑魚モンスターならいくら数がいても問題はないだろ?
スライムみたいにこの世界の狼が特殊能力持ってるなら話は別だけどさ。」
「いや、狼にそういうのはないよ。」
イザネの言う通り、戦いに勝つ事だけを考えるなら狼が何匹いようが問題なく勝てるだろう。
けれど、狼がこんな大きな群れを作るにはなにか理由がある筈だ。
その理由がなんなのかまるでわからない。
何かを見落としているような、もやもやとした感覚が俺を包んでいた。
「ま、気になる事なのかもしれんが、狼を追い払って村の人を安心させてから考えても遅くはないじゃろう。」
「足跡は向こうに続いているようですね。
下手すれば30匹近くいますよ。」
べべ王の言う通り、今は依頼を達成する事に集中すべきなのかもしれない。
俺達は東風さんの指した方向に向かって狼の足跡を追い歩を進めた。
少し進んだところで東風さんは足を止め、黙って前を指さした。
遠くの茂みの影に狼が見える。
(おかしい……)
狼の群れはいわば一つの家族だ。
オスもいればメスもいるし、子供もいるのが普通なのだがオスばかりに見える。
茂みの影になってるせいで正確な数もわからないが、こんな群れが自然にできるとは到底思えなかった。
「そんじゃ、行ってみっか。」
「オラッ!行くぞ狼ども!」
俺が異変の正体を確かめる間もなくイザネと段が一気に狼に向かって突っ込み、その後を追うように東風さんが無言で続く。
キャイン!キャイン!
茂みの向こうで狼の悲鳴が上がると、俺の事を気にしていたのか隣に残っていたべべ王が話しかけてきた。
「どうやら狼の強さに問題はなさそうじゃの。
わしも行ってくるとしよう。」
べべ王はそう言うと狼のいる方へと向かって行ってしまった。
イザネは狼に囲まれぬよう、狼たちをメイスで薙ぎ払いながら大きく円を描くように後ろに退がりながら戦っている。
東風さんに向かって行く狼は瞬時に首をはねられ、血しぶきと共に倒れる。
段は既に杖をほっぽりだし、向かって来た狼をパンチで薙ぎ払っていた。
恐らく段は習ったばかりの拳闘を実戦で試してみたいのだろう。
しかし、おかしい。
これだけの被害が出れば狼の群れは、群れの生存を考え逃げる筈だ。
メスの狼が我が子を守るため命がけで庇う事はありえるが、子の狼がいる様子もない。
全滅するまで戦う群れなど聞いた事もない。
ガルルルルルッ!ガウッ!
不意に俺の近くの茂みから狼がうなり声と共に飛びかかってきた。
俺は咄嗟に腕で頭を庇おうとし、右腕をに喰いつかれる。
「このぉっ!」
俺は狼の喰いついた右腕を、狼の飛びかかった勢いをそのままに木の幹に叩きつける。
キャイン!
悲鳴を上げて狼が腕から離れた。
防御力アップの指輪のおかげで、腕に殆ど痛みすらも残ってはいなかった。
もし俺がこの出鱈目な性能の指輪をしていなければ、きっと右腕を食い千切られていただろう。
(クソッ!
俺はこの指輪なしには、大猿どころか狼にさえ敵わないのか!)
俺は腰からショートソード引き抜く。
背のカバンから魔導弓を取り出す暇はない。
ガウッ!
「せいっ!」
大勢を立て直し、再度俺に飛びかかった狼の胸にショートソードが刺さる。
冷静に見れば狼の動きなど、イザネや大猿の一撃と比較するまでもない
ギャウッ!
狼はたまらず絶命し、俺は深々と刺さった血まみれのショートソードをその胸から引き抜いた。
益々おかしい。
この狼は明らかに孤立したパーティの後衛を狙って俺に攻撃してきた。
でなければ4人も前に出て狼の群れを蹴散らしているにも関わらず、俺の方に回り込んで来るなんてありえない。
俺はデニムと一緒にゴブリンの群れと戦った時に、回り込んだ数匹のゴブリンに狙われた時の事を思い出していた。
前方を確認すれば、狼の群れは半数近く被害が出ているにも関わらず引く様子がない。
(この狼達は人を襲うための訓練でも受けているのか?)
ピーーーッ!
その時森に口笛が響き、途端に狼達が散り散りになって逃げだして行く。
もう既に群れの大半はべべ王達によって打ち取られていた。
「『おん ころころ せんだり まとうぎ そわか!』そこだぁ!」
ズゴゴゴゴゴゴッ!
呪文を唱えた段が掌を地面につけると、地面がそこから一直線にめくり上がり森を裂いていく。
(段の奴、無暗に呪文を使って森を壊すなと言っておいたのに。)
心の中で毒づく俺の目に、めくり上がった土と一緒に上に吹き飛ぶ二つの影が飛び込んできた。
(あれは、ゴブリン?!)
上空に飛びあがった二つの影は既に絶命していたらしく、周囲の木々と共に力なく地面に落ちた。




