第十八話 ダニーの挑戦状
カイルが風邪に倒れた後、四人のアバター達は村に急速に馴染んでいった。
それがアバター達が既にこの世界に慣れたからなのか、村に散々迷惑を掛けた結果なのか、カイルはベットの上でそれが気になっていた。
続・冒険譚~消えゆきし世界とそこに住まう数多のアバター達に捧ぐ~
「ほれ爺さん、アーン」
「アーン」
「なに気持ち悪い事やってんだおまえら?」
寝起きに見たくない光景を見て俺は一気に気分が悪くなる。
俺の声を聞いたジジイの口にスプーンを運んでいたハゲが、動きを止めてこっちを見た。
「年寄りに食事をさせる時にはこうするんだろ?」
イザネ同様に段とべべ王もメルルのおままごとに毒されていたようだ。
「寝たきり老人ならともかく、そんな死んでも勝手に蘇ってきそうなジジイにそこまで丁 寧に食事の世話する必要ねーだろ?」
「あー、言われてみれば確かにこのジジイならほっといても勝手に人の分の飯まで食いそうだな。」
そう言う段の横でべべ王はスープの皿をあっという間に飲み干していた。
できれば俺に言われる前に気づいて欲しかったのだが。
「それじゃあなんでお前さんはイザネに食わせて貰ってたんじゃ?」
くっそジジイめ、既にララさんからその事を聞いていたのか?
いや、イザネに直接聞いたのだろうか?
いずれにせよ誤魔化さなければヤバい。
「いや、あの時は風邪がひどかったからさ……」
咄嗟に出た言い訳がこれだったが、他に誤魔化しようなんてないよなあの状況だと。
「はい、カイルあーん。」
横からイザネが俺にスプーンを差し出す。
「いや、だからもう風邪もだいぶ良くなって来たから。
自分で食べられるから大丈夫だって。」
「なんだよつまらないなー。
メルルだったら喜んでのってくるのに。」
イザネはそう言いながら料理の皿を俺のベットの脇の机に置く。
そら、おままごとの相手に飢えてるメルルちゃんなら大喜びでのって来るだろうけどさ、俺がそれやってるとこを東風さんに見られたら修羅場になるんじゃねーのか?!
今は東風さんが出かけてるみたいで助かったけど。
「ありがとう。」
皿を運んでくれたイザネに礼を言い、俺は机から皿を手に取る。
(またララさんの料理か。
何時までも頼っては悪いし、こいつらにも自炊する癖を付けさせないとな。)
俺がまだ温かいスープを飲み始めるとイザネがドアの方に走って行くのが見えた。
「どっか出かけんのイザネ?」
「マーガレットさんに鶏の世話の手伝いを頼まれてんだよ。
あいつら結構かわいいんだぜ。」
雌鶏はともかく雄鶏は絞め殺して食肉にする事をイザネは知ってるのだろうか?
”かわいいんだぜ”とか言ってるけど……。
「じゃ、行ってくるぜ。」
『いってらっしゃい』
俺達の言葉を背にイザネはドアを勢いよく開けて行ってしまった。
「それにしても、おまえはなかなか風邪が治らねぇな。」
スープを飲む俺を見ながら段がつまらなそうに言う。
「そら、風邪のひき始めに悪化させちゃったからね。
それに、元はと言えばおまえらにうつされた風邪だぜ。」
「そうだったかあ?」
段がわざとらしくすっとぼける。
4人の風邪が一日でほぼ完治したのに対し、俺は既に3日間寝ていた。
その間、この4人が村のみんなに迷惑をかけていないかと俺は心配していたのだが本当に大丈夫なのだろうか?
「さて、カイルの風邪の具合も良さそうじゃし、わしらもそろそろ出かけるかの。」
先に食事を終わったべべ王が皿を持って立ち上がる。
「そういや、昨日もどっか行ってたけど何してんだ?」
俺はこいつらの事だからまた「冒険だー」「クエストだー」と騒ぎ出すのではないかと思っていたが、ここ数日そのそぶりがないので、逆に気になっていた。
「わしは村長の野良仕事の手伝いじゃ。」
「俺はゼベックのとこに拳闘を教えてもらいに行くとこだ。」
「もしかして東風さんも?」
「あいつはゲイルの狩りに付き合って森に行っとる。」
確かに段は歓迎会の席でも拳闘に興味を持っていたしゼベックとなら性格も合うだろう。
東風さんもレンジャーの技術に興味を持っていたし、狩りに行くゲイル君に着いて行くのは自然な流れだ。
まだ小さいゲイル君が一人で森に行くのは皆が心配に思っていた事だし、村長の家族も安心できる。
ただ……
「なー、べべ王って農業に興味があったのかよ?」
そう、この爺さんが野良仕事を嬉々としてやっている姿が俺には想像できなかった。
「ルルタニアに居た頃も、わしはガーデニングはしてたんじゃよ。」
「ガーデニングっつってもあれだろ?
マンドレイクしか育てられなかったし、ほぼ死にコンテンツだったじゃねーか。」
二人の話に俺は耳を疑う。
マンドレイクといえば根が人の形をしており、引き抜くと人が発狂する声を発する危険な植物。
薬の材料にもなるため限られた専用施設では栽培されていると聞くが、普通の人がガーデニングで育てるような物じゃない。
「なんでマンドレイクなんかを育ててたんだよ。」
「それしかドラゴン・ザ・ドゥームで実装されなかったんだから仕方ないだろ。」
「こっちの世界だと時間も手間もかかるが、いろいろな野菜が育てられて面白いんじゃよ。
ドラゴン・ザ・ドゥームの開発者も、この世界の開発者のようにまめな性格なら良かったんじゃがな。」
相変わらず半分以上言ってる事がわからないが、元々植物を育てる事に興味があるのならば納得がいく。
「そうか、なるほどな。
いつも食べてるララさんの料理もあの畑の作物が材料になってるんだし、自分で育ててみようって思うのは自然なのかもな。」
「よくわかっておるのうカイル。
自分の育てた野菜が、いずれあの美味い料理に変ると思えばやりがいもあるというものじゃ。」
食欲旺盛な爺さんだなこいつは。
「さて、わしらはそろそろ出かけるから、カイルは留守をよろしく頼むぞ。」
「おとなしく寝てろよ。
風邪が治ったらまた鍛えてやるからよ!」
「つまんねー事を言ってんじゃねーよジョーダン。」
ジョーダンは俺の憎まれ口をニヤリと笑い、べべ王と共に出かけて行った。
村の生活にこいつらも馴染んできたって事なのかな?
べべ王達を見送った俺は、食事の続きをするべく皿を手に取った。
* * *
「もう起きてもいいのか?」
久々にベットから抜け出る俺を見てイザネが声をかける。
俺の風邪が治ったのは、寝込んでから4日半経った後だった。
「ああ、咳もすっかり収まったしダルさも消えたからもう大丈夫だろ。」
イザネ以外はもうみんな出かけていた。
みんなが村での生活に慣れてくれたのは嬉しいのだが、同時に東風さん以外の3人が村に迷惑をかけてはいまいか、ベットの上で俺は心配していた。
多少無理にでもベットから起きて、早く俺はそれを確認したかったのだ。
「なら付き合えよカイル。」
「マーガレットさんのとこかい?」
「着いてくればわかるよ。」
俺はイザネが鶏小屋に世話をしに行くものと思っていたが違うようだ。
「なんか企んでのか?」
「んな訳ないだろ。
ちょっと相談したい事があるんだ、
ほら、行くぞ。」
家を出ると、イザネは村の門の方に向かう。
門番をしているダニーとクリスに用事があるのだろうか。
「こんちわイザ姐!」
「あれ?カイルさん風邪治ったの?」
俺達が来たのを見てダニーとクリスが声をかける。
にしても今ダニーの奴”イザ姐”って言わなかったか?
「今日治ったとこだよクリス。
ところでダニー、イザ姐って……どうしたんだよ?」
「二人とも俺に弟子入りしたんだよ。」
胸を張るイザネを見て俺は混乱する。
え?
なにがあったんだこれは?
俺が寝てる間にこの二人に何があったんだ?
「相談したいってのはこの事かイザネ?」
「ああ、二人に稽古をつけてやりたいんだが門番の仕事もあるから結構厳しくてな。
三人でローテーションすれば門番をサボらずに稽古ができるだろ?」
なるほど、イザネが言いたいのは二人に稽古を付けたいから俺にも門番を手伝えって事か。
「別に門番を手伝うのは構わないけど、いつの間に弟子になったんだよ二人とも。」
俺の疑問にダニーが苦笑いで答える
「まぁ、いろいろあってな。
折角、剣の達人が村に居るんだから弟子入りしない手はないだろ?」
わざわざ詮索をするまでもなさそうだが、なにかあった事だけは察しがついた。
またイザネが変な事をやって二人に迷惑をかけていなければいいのだが……
* * *
「なぁ、あんたちょっといいか?」
村の門の近くを通りかかったイザネにダニーが声をかける。
「なんか用かい?
えっとダニーさんだっけ?」
マーガレットの鶏の世話も終え、暇を持て余していたイザネはダニーの方を振り向いて答える。
(本当にこんな小さな女が強いのか?)
ダニーは訝しむような目でイザネを見る。
スライム退治に出かけて泥まみれになり、おまけに間抜けをやって風邪で寝込む召喚勇者など聞いた事がない。
それ故ダニーはこの村の召喚者達の実力を疑い始めていた。
「ちょっと聞きたいんだが、あんたの特殊スキルってなんだ?」
ダニーは以前に剣の手ほどきを受けた戦士から召喚勇者の事を聞いていた。
だから召喚勇者はこの世界に来た時に特殊スキルや肉体の強化を受ける事も、そしてその力があるからこそ元の世界では平凡な人間でも超人的な能力を有する事も知っていた。
その事を知っているダニーからすれば、イザネの特殊スキルがたまたまスライム退治に向いていなかったのか、それとも役に立たないようなヘンテコな特殊スキルを得てしまっ た不運な召喚者だったのかが気になっていたのである。
だが、イザネの返事はダニーの予測を裏切るものだった。
「特殊スキルってなんだ?」
「え?あたしもこの世界に召喚された者は特殊スキルを得られるって聞いた事があるんだけど、なんで本人が知らないの?」
ダニーの隣に居たクリスもイザネに対して疑問を投げかける。
「へー、そんなもんが貰えるのか?
で、その特殊スキルってのはどうすれば使えるんだ?」
二人の話に興味を持ったイザネは二人の近くに歩み寄る。
「いや、俺達が知る訳ないだろ本人が知らないのに。」
ダニーの中で更にイザネへの疑念が深まる。
ダニーはべべ王という爺さんの特殊スキルは周囲を守る結界、段の特殊スキルは雷を操る能力、東風の特殊スキルは自在に爆発を起こす事だと勘違いをしていた。
そして一人だけ特殊スキルを操れないイザネを怪しいとすら感じ始めていた。
「じゃあ、この世界に来てから身体能力で極端に上昇した事とか、なんかないのか?」
「ないよそんなの。
ルルタニアに居た時のままだぜ。」
「えええ?
あなた本当に召喚者様なの?」
ここまでくると、クリスもダニーと同様の違和感を持ち始める。
(そういえば大猿を退治したカイルは、こいつ等に貰った装備が滅茶苦茶な性能だったって言っていたな……。
だとするのなら、こいつは装備が極端に強いだけなのか?)
ダニーは召喚勇者に対していい感情を持ってはいなかった。
第一に、この世界に呼ばれたというだけで大きな力を得る事のできた者への嫉妬。
第二に、その召喚勇者によって平和な世界が訪れていないどころか、むしろ益々剣呑な世界へ変わっている事から生じる不信感がその原因であった。
召喚勇者達はこの世界にやって来てある時は窮地に陥った国を守るため、ある時は凶悪なテロリストやゲリラ達を葬るために活躍をする。
だが召喚勇者達を敵に回してしまった国の方が一方的に悪いと言える訳でもなければ、テロリストやゲリラにしても彼等がそうならざるを得なかった事情というものもある。
表向きは悪を倒して平和が来たようにみえても、その実は目立った者を討伐して無理矢理力で押さえつけてるだけで、その根本原因は放置して更に悪化させるため後々それが新たな火種となってより大きな騒乱を起こし、またそれを力づくで召喚勇者が戦い押さえつける。
そんな悪循環が続いているのだ。
異世界から来た者が何の努力もなく理不尽な力を手に入れ、そして偽物の正義の仮面を 被って自分たちの世界を壊していく。
かつて剣を教えてくれた戦士の考えの受け売りではあるのだが、ダニーはそう考えていた。
イザネがそんな召喚勇者の仲間であるのなら、自分の手で叩きのめして憂さを晴らしたい。
半ば無意識にではあるが、そんな欲望がダニーの中に目覚めていた。
(試してやる。)
ダニーは門の傍に落ちていた木の枝を剣で同じ長さに切ると一本をイザネに投げてよこした。
「ちょっと、俺と勝負してくれないか?」
ダニーはそう言うと枝を剣にみたてて構えた。
特殊スキルも肉体の強化もないならば、召喚者であろうと一般人と変わりない。
持っている武器が桁違いに強いにしても、お互い木の枝で勝負するなら関係ない。
お互い純粋に剣の腕だけで勝負するならば、ダニーには負けない自信があった。
が、ダニーの思惑を他所にイザネは枝を拾いあげるとクリスの方に投げる。
「俺は素手でいいぜ。
どうせなら2対1でやろう。」
「え?あの、素手で2対1っていくらなんでも。」
クリスは思わず枝をキャッチしてしまったものの、突然勝負を持ちかけられて戸惑う。
「ちょっとアンタ、俺達を舐めすぎじゃないか?
俺もクリスも剣術はできる方なんだぜ。」
が、イザネはダニーの言葉を耳に入れる様子もなく間合いを詰める。
「どうした?
無防備なまま剣の間合いに入ったのに仕掛けないのか?
おしゃべりに夢中になってみすみす先制攻撃の機会を逃すようじゃ、折角の剣術の腕も泣くんじゃないか。」
その瞬間ダニーの顔は一気に赤く染まり木の枝がイザネに向かって振り下ろされる。
いや、正確には振り下ろす事すらできていない。
ダニーの木の枝を握った両手は、まだそれがダニーの頭上にあるうちにイザネの右手によってその上から包み込むように掴まれ、同時に右にねじられ、更に同時にイザネの左手がダニーの肘関節を捕らえる。
たまらず姿勢を崩しバランスを完全に失ったダニーをイザネはコントロールし、クリスの足元へと放り投げる。
ドサッ……
クリスの前進を止めるようにダニーがその足元に自ら転ぶような動きで転がり、ダニーの手を離れた木の枝は地面に落ちる。
まだ戦う覚悟も決めていなかったクリスではあったが、倒れたダニーの向こうからイザネが容赦なく距離を詰める。
「やっ!」
クリスは手にした枝で咄嗟にイザネを突こうとするが、ダニーが足元にいるため踏み込む事ができない。
結果上半身のみを前に伸ばすようにして不自然な突きを放ったのだが、そんな中途半端な突きがイザネを捕らえられる筈もなく、木の枝を持ったままイザネの前に差し出した手首は当然のごとく掴まれて腕を後ろ手にねじ上げられ、そのまま起き上がろうとするダニーの上に折り重なるようにうつ伏せに組み伏せられる。
「ぐあっ」
クリスの体重が上からのしかかり、下敷きになったダニーが呻く。
ダニーはクリスの下から脱出しようともがくが、上に乗ったクリスの腕をイザネが捻り上げてコントロールし押さえつけ、その動きを封じてしまう。
「痛い!痛いってば!」
腕をねじられたクリスが悲鳴を上げるとイザネはクリスから手を離し、ダニーがその下からはい出るのを待った。
「もう少し続けてみるかい?」
地面に手を突き起き上がろうとするダニーを上から覗き込むようにしてイザネが尋ねる。
「うるせぇ!」
頭に血が上ったダニーがタックルするように背を水平に低い姿勢のままイザネに掴みかかる。
が、イザネの胴を捕らえようと伸ばした両腕は宙を舞い、ダニーの背の上に片手をついたイザネはダニーの後ろへとそのまま飛び越えていた。
「くそっ!」
イザネが自分を飛び越えた事に気づいたダニーは、自身のタックルの勢いを制する事ができないままよろめきながらかろうじて振り返る。
が、その振り返った瞬間を狙ったようにダニーの顔を片手でイザネが掴む。
ダニーは自身のバランスを立て直す間もなく、イザネによって地面に後頭部をそのまま押し付けられてしまった。
「どうする?
もう少し遊ぶか?」
「いや、もういい。」
ダニーはあっさりと自分の負けを受け入れた。
既にクリスは戦意を喪失しており、へたり込んでいる。
(こりゃ、特殊スキルでも肉体強化でもないな……)
武術・武道の技術でイザネが自分の遥か先にいる事も、イザネがその気になっていたのなら素手で自分を殺す事すら容易いのもよくわかった。
顔を掴まれた後、地面に後頭部を勢いよく叩きつけられていたのならダニーは確実に命を落としていただろう。
そして、例えザネが召喚者として特殊スキルや肉体強化の恩恵を受けていたとしても、今の勝負にそれを使った様子はない。
「よっと。」
不意にダニーの肩が上に持ち上がる。
イザネが放心状態だったダニーの肩を掴んで立ち上がらせたのだ。
「おまえちょっと剣を構えてみな。」
「え?なんで?」
「いいからやってみろよ。」
戸惑うダニーだったが、イザネに押し負けて言われるままに剣を構える。
「なんだそら?
姿勢曲がってんじゃねーか。」
イザネはダニーの後ろにまわり、両手でその頭を押さえて半ば強引に背を伸ばさせる。
「そのまま背にまっすぐ揃えるように剣を振り上げて……振り下ろす。」
イザネはダニーの横からダニーの腕を支えて正しいモーションで剣を下ろさせる。
「今の感覚を忘れんなよ。
でたらめな姿勢で剣をやみくもに振り回したって勝てる訳がないだろ。」
「あ、ああ……」
予想もしてなかったイザネの行動にダニーはあっけにとられ、ただただ流されるままにうなづく。
「次はおまえの番だな。
剣を構えてみな。」
クリスもイザネに言われるがまま、渋々剣を構える。
「腰が引けてんじゃねーか。」
クリスの構えを見たイザネは呆れるようにそう言い放つと、クリスの腰を後ろから押す。
「きゃっ」
「変な声出してんじゃねーよ。
今の姿勢ならちゃんと腰が入ってるから、そのまま振り下ろしてみな。」
ヒュン
クリスの剣が勢いよく振り下ろされるとイザネは満足そうな笑みを浮かべる。
「おまえらさ、剣術をやるならもっと真面目にやんないともったいないぜ。
今のままじゃ、やり込みが足らな過ぎて勝負になんねーよ。
じゃあな。」
イザネは呆気にとられる二人を置いてその場を去って行った。
ダニーとクリスがイザネに弟子入りを申し出たのは、その直後の事だった。
* * *
「じゃあ、早速カイルから稽古をつけるとするか。」
「ちょっとイザ姐、カイルさんはまだ病み上がりなんだから無理させちゃだめだよ。
また風邪がぶり返しちゃうよ。」
俺を稽古に誘うイザネをクリスが引き留める。
この様子だと俺が風邪で寝込んでいる間に、随分と仲良くなっていたようだ。
「そうか、やっとカイルの稽古ができると思ったんだが仕方ねぇな。」
クリスの意見に従い、稽古をつけてやろうと張り切っていたイザネが俺を開放する。
確かにクリスの言う通り、今イザネの稽古をうけて無事でいられる自信はない。
それに俺にはまだ気になる事が残っているし、そういう事ならそっちを済ませておくとしよう。
「じゃ、そういう事なら俺はべべ王とジョーダンの様子を見て来るよ。」
「ララさんもイザ姐も風邪の治りが悪くて心配してたんですから、無理しないよう気を付けてくださいねカイルさん。」
クリスに言われて俺はイザネの方を見る。
俺の前でイザネがそんなそぶりはしてなかった様に思うのだが。
「ホントに心配してたのイザネが?」
「ああ、なんかよくわからないけど、お前の風邪を治すために神秘の薬草を取りに行こうとか言ってたな。」
ダニーの発言にイザネが頬を赤らめる。
「いやだって、俺達が一日で治ったのにカイルだけ何日も寝たままなんだから気になるじゃねーか!
そこまで心配っていう程の心配はしてなかったと思うぜ。」
まだそんな事を言ってたのか。
確か百年に一度しか咲かない薬草だったっけ?
それに心配していた事をそんなに照れて誤魔化す事もないだろうに。
見た目はともかく中身は本当にお嬢様なんだよなイザネは。
「ま、とにかく心配してくれてあんがとな。
無理はしないから安心してくれ。」
俺はそう言うと、村の門を後にした。
ミンミンと 地に降り注ぐ 師の骸




