酒池肉林、始動
言葉通じない設定は厳し過ぎました、ごめんなさい…。
いい匂いだ…、手作りの匂い。
野菜や肉を火にかけている匂い。
コンビニのごはんは美味しくなかった。
米は固まり、粒同士が潰れあって油の味がした…。
夕方になると住宅街から流れてくる匂いが、羨ましかった。一枚壁を隔てた向こうに食べたことない味がある。
その味を始めて知ったのは、十七の時。
俺を拾ってくれた女が作ってくれたシチュー。
ブロッコリーやコーンが入っていて、ジャガイモの皮を剥き切れていなかったりと、完成された味とは程遠かったかも知れない。
でも食べた時思わず涙が出た。
愛情の味…。この世のどんな高い飯よりも栄養があって、そして温かい味がした。
朝起きると、掛け布団を抱きしめながら泣いていた。
いい匂いがする。あの匂いは夢じゃなかったのか…
コンコンと部屋の戸を叩く音がする。
「すまない、ちょっと待ってくれ」
身支度をして扉を開ける。
「おはようございます、レオ様」
表情一つ変えない冷たい顔だ。
またその少年のような顔に似合わない眼鏡をかけている。
「あぁ、朝からすまないな。ルイン」
体裁を繕った営業スマイルで接する。
階段を降りると村長の家族がいた。
髭面で大男の村長
ふくよかな村長の妻
そして昨日俺が目覚めた時に出会った素朴な美少女
どうやら俺の朝食を用意してくれたらしい
ま、それは建前だろう。
本音は、今日俺が村民を集める理由を探りたいのだろう。
ルインとともに席に座る。
机の上には雑穀のパンとスープ。
美味しそうなスープだ。
見たところ、玉ねぎと鶏肉か。
これだけ技術が遅れているように見えるこの世界で、この食事は贅沢なのだろう。
スープに手をつける、村長たちはそんな俺をじっと見ている。
食べ辛え。
「なぁ、村長。無言での食事もなんだ、自己紹介をしてくれないか?」
ルインが訳す。
村長は、面食らったようにいそいそと話し始める。
「………。」
「彼の名はテオドル村長、このマユニ村の長です。
そしてこちらが奥さんのレオノーラさん」
「そして一人娘の「ユキナです」
驚いた
「ユキナさん、君も日本語が話せるのかい?」
すると少女は言いづらそうに俯いた。
?
「レオ様、実は日本語はこの世界では最近、学習を行う義務があるのです」
代わりにルインが告げる
「そうなのか?それは嬉しいことだな」
「いえ、それは異世界人の転移、転生を防ぐためなのです」
ルインの説明によると、現在この世界は太陽神ラーヤへの信仰を誓うラー帝国により支配されている。
そしてある時、ラー帝国の宰相が異世界人は秩序を乱す存在として見つけ次第殺すよう指示を出したのだという。
そこで帝国の宰相は、日本語の教育の義務づけと異世界人を見つけ次第抹殺する役人を派遣したのだという。
その役人がルインだ。
「ルイン、俺のことは国に報告しなくていいのか?」
「レオ様は異世界『人』ではないですからね。あれだけの奇跡を見せられては、神様だと確証できますよ」
「そうか」
スープを食べ終える。
一つ驚かせてやるか
俺は頭に手を当てる。
【神】の力は万物万象に干渉できる、それは俺すらも同じ。
「言語を変換せよ」
『承認、言語をコグドロラ人に適応させます』
「どうだ?」
全員の顔が困惑の表情に変わる。
当然だ、今話したのはコグドロラの言葉。
「どうやって…!」
ルインが席を立つ。
「安心しろ、お前らが危惧するほど俺は悪い人間じゃない。外に人を集めてくれ」
さて、昨日の晩に考えた計画を実行するか。
町の広場に村人が集まる。
広場の台を登りながら、俺は反芻する。
人は目に見えるものが好きだ。
地球では近年、写真を投稿するSNSが流行っているが、あれが顕著なものだろう。
友人、恋人、ブランド、食事
全ては自分を飾るための物に過ぎない。
だから人から信頼や尊敬を勝ち取るには、目に見える形での『価値』を示す。
台の上に立つ。
昨日は俺の首を斬首するための台だったが、今日はこの上に立って村人に権威を示す。
生きてる速度が早過ぎて笑えてくる。
「おはよう、親愛なる村民たち」
彼らの表情は曇っている。
それもそうだろう、今は恐怖で抑えられているのだから。
さらに昨日までの異世界人が突然流暢に言葉を使っているのだ。
俺は続ける。
「昨日も言った通り我は神だ。
だが、悪い奴ではない。
今からその証拠を見せてやる」
俺は腰に携えた剣を持つ。
村民に緊張が走る。
「コンボAを実行」
頭の中に機械音が響く
『コンボAを承認、実行します』
直後俺の背中がボンっと膨らむ。
村人たちがどよめく。
そのまま背中は膨張し服を突き破る。
背中から大きな白銀の翼が広がる。
そして俺は足元から宙に浮き村人の頭上まで、移動する。
村人たちは目の前に起こっていることに整理がつかず、口を開けて俺を見上げている。
俺はそのまま剣を天に向かって、力の限り投げる。
剣は宙を舞い、そして最高点に達すると同時に眩い光ともに、砕け散る。
その欠片が村人の頭上へ降りかかる。
「きゃあああ!」
「やめろぉぉ!」
村人は皆、避けきれずその場にかがむ。
コツン、コツンと輝く欠片は村人にぶつかる。
敵意を持った攻撃にしては、弱すぎる感触に村人たちは恐る恐る目を開ける。
「おい!これ宝石だぞ!!!」
「ほんとだわ!こんな上等なものがなぜ?」
「美しい、まさに神の奇跡だ…」
「さぁ、親愛なる我が友よ!
今の奇跡を見た上で答えてくれ!
お前らの神はラーヤ神か!それとも俺か!
この場で、俺に忠誠を誓えば、さらに宝石をやろう!
さぁ!どうする!!!」
村人は初めこそ沈黙していたが徐々に声が聞こえてくる。
「おっ、俺はレオ様を信じる!」
はじめの一人が出れば後は簡単だった。
気づけば全ての村人が俺の名を呼んでいた。
「レオ様!万歳!」
「助けてくれない、ラーヤ神なんて知るか!おれはレオ様を信じるぞ!」
「レオ様ー!」
「アッハッハッハッ、決まりだな!それくれてやる!」
さらに宝石を降らせる。
村人たちは狂喜乱舞、必死になって地面に落ちた宝石を拾う。
よし、これで村人はもう俺のいうことに従うほかないな
「さて!親愛なる村民よ聞いてくれ!
俺は今から三つの要求をお前らにする。
一つ!この俺を信仰する教会を作ること
二つ!俺に衣食住を提供すること
そして三つ目!」
これが俺の1番の目的…
「毎晩、この村の娘を一人ずつ。俺の宿に寄越せ!」