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異世界BSS  作者: 寝取られ先生
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新世界の神となる。

雑踏を行きかう靴。

底のすり減った革靴、ゴテゴテとしたスニーカー、くすんだパンプス。


少年は行き交う人たちを、淀んだ瞳で見つめている。

骨と皮だけの身体、風呂に入ってないのか、髪には埃がまとわりついている。


道の端に座り込み、行き交う人たちの同情の成果物を持ち帰る。

これが少年に与えられた役割だった。


ときおり小銭や食料、中には万を超える金を入れてくれる人がいる。


「君、名前は?親はいるの?」


顔をあげるとそこには青い制服を着こなす大人。

少年のボスからは、その服の人間はケーサツカンといって、少年の生きる居場所を奪おうとする悪いやつだということ。そして出会ったらとにかく逃げろと伝えられていた。


カゴを抱え少年は走り出す。


「お、おい!ちょっと待ちなさい!」

後ろから声が聞こえるのをよそに、その小さな体をうまく使い大人たちの間をすり抜けていく。


「誰か!その金髪の少年を捕まえてくれ!」

だがまわりの大人は誰も捕まえようとはしない。

少年はそのことを誰よりもよく知っていた。


ボスに見捨てられたら死ぬしかない、だってこの世界の大人は、僕のことを育ててくれようとはしない。

同情こそしても、優しく抱きしめてくれる人さえいないのだ。


少年は大人の群衆の中を抜ける。

しかしまだケーサツカンは追うのを諦めずに、群衆の中をかきわけて来る。


走らなきゃ!走らなきゃ死ぬ!ボスは僕を見捨てる!

走れ走れ走れ!


足が痛い、体に力が入らない。

徐々に息があがってくる。


ハァ…ハァ…。

苦しい苦しい!


でも足を止めるな


足よ止まるなぁ!!!









バサッ!

「ハァ…ハァ…。クソッ、夢か…」

じっとりとした汗をかいた体が気持ち悪い。


硬めの布団で寝ていたせいか、体が痛い。

ツギハギの毛布、穀物の入った皮袋の枕

明らかに現代の物ではない。


部屋の扉がガチャっと開く


そこにいたのは、くすんだ緑色のワンピースを身にまとった茶髪の少女だった。

年は17そこらだろうか、だが年頃の少女にしては化粧っ気が無い。それに染めたような茶髪ではない、きれいに色の抜けている茶髪だ。

おそらく地毛だろう。


少女はこちらを見て目を大きく見開き


「…………!…!」と階下に向かって何やら呼びかけている。


しかしその言語は日本語ではない。

聞き取れない言葉だ


階下からドタドタとした足音が聞こえる。一人、二人ではない5人以上いそうだ。


「……!……!!!」

「…!………………。」


大の男たちが、なにやら大声で叫んでいる。

ベッドの前まで来た男たちが俺の体を掴んでくる。


抵抗しようにも、長らく眠っていたせいかうまく力が入らない。

なし崩れるように、ベッドから引きずり降ろされる。


二人の男に両手を捕まれ、デカイ髭面の男が前に出てくる。


「……!…!」

背中に大きな斧を背負った髭面男は何か大声で怒鳴ってくる。

しかし言語が通じない。一体なんて言ってるんだ?


すると髭面男の後ろから

「……、……!」

なにやら焦ったように眼鏡の男性が走ってくる。


そして髭面男に「……!」となにやら説得をしたあと、こっちへ向かって


「すみません、あなたは異世界人ですか?」

なんと日本語で語りかけている!


やっと言葉が通じる!


「あぁ!そうだ!」

嬉々として答える。


「そうですか…」

気弱そうな眼鏡男は、下を向いたあと髭男に

「……。」

何かを報告する。


髭面男は何やら激昂する

俺の手を掴んでいる男たちに何かを指示する。


どういうことだ?


眼鏡男が部屋から出ようとする。

「おい!あんた、待ってくれ。これからどうすればいい!?」


眼鏡男は俺を冷たい目で見て

「あなたは、何もしなくて結構です」

と冷たく言い残し部屋から出ていった。


髭面男と部下たちに無理やり、部屋から連行される。


階段を降りると居間のような空間にさっきの少女がいた。

幼さと大人っぽさの両立した少女は怯えた目でこっちを見てくる。


少女のことを見ていると、後ろから「……!」と言われ背中を押される。

さっさと歩けと言っているのだろう。


そのまま家を出る。

空中で見た通り小さな村だ。


てか俺、空中から落ちたのに生きてるのか…。

今更のことだが、信じられない。

当たりどころが良かったのか、俺。

それだけでも神に感謝できるな。


村の広場に連れて来られる。


広場の中心

巨大な穴が空いている。

おそらく俺が落ちてきた穴だろうか。


その周辺には、麻袋に何かが包まれている。


だがレオはそれが何かわからないほど純真ではなかった。 


幼少期から何度か見たあの大きさ、シワのより方、袋に滲んだ赤黒いシミ。


死体だ。

それも10袋以上、つまり10人以上が死んだということだ。

おそらく俺の落下の衝撃で…。



この男たちがなぜ俺に怒り、連行しているのか察せないほど馬鹿ではない。

おそらく俺は今からその責任を取らされる。


前世で寝取りの責任を取らされ死に、今世では落下の責任を…

いや、落下はあの爺が悪いだろ!俺悪くねーだろ!


そんな思いと裏腹に髭面男が俺を台に連行する。


座らされ、首を差し出すような姿勢をとらされる。


まずい!これ絶対処刑される。

おい!弁護人を呼べ!そんな言葉が口をついて出そうになるが、もうこの人たちの顔を、見ると聞く耳を持ってくれそうにない。


村人が集まってくる。広場の台の周りはあっという間に人だかりができる。


「…………!………、……。」

髭面男が高らかに村人に語りかける。

おそらくこれから俺の処刑を執り行うことを宣言しているのだろう。


村人の顔を見る。

怯えや、怒り、好奇の眼差しを感じる。


ヤバイな、どうにかしないと。村人の顔を、見回す。 


あっ、あの眼鏡男!日本語を話していたやつだ。


「おい、あんた!俺の言葉がわかるんだろ?冤罪だって言ってくれないか!」

語りかける。


しかし眼鏡男は無視をする。


「おい!無視すんな、確かにお前らの仲間を巻き込んじまったことは謝るがあれは他のやつのミスなんだよ!」


眼鏡男はうるさそうな顔を向ける。


「……!」

髭面男に顔を叩かれる。


おそらく黙れということだろう、でも黙れるか!

こちとら魂の存続がかかってんだ!


「おい!俺だって空中から落とされただけなんだ!冤罪なんだって「黙れ!!!」


眼鏡男が声を張り上げる。周りの視線が一気に集まる。


「あなたは、何か勘違いをしている。あなたの罪は僕らの村人を死なせたことだけじゃない!」


「じゃあなんなんだ!」






「異世界人だからだ!!!」



…。は?

異世界人だから…?


「異世界人は、ラーヤ神の定めた秩序を乱す!奇妙な技術で世界を乗っ取るつもりだろうがそうはいかないぞ!」



「いっ、いや誤解だ!俺は確かに異世界人だが「だから異世界人は帝国から即時処刑しろと言われている!」

言葉を遮られる。どうやら俺に弁護の余地はないらしい。


「………!…!」


腕を掴んでいるやつに髪を捕まれ首を伸ばされる。


髭面男が背中の巨大な斧を振りかぶる。


髭面男の太い腕に血管が浮かび上がる。力を込めているんだろう。


この巨大な斧で首をかられたら、間違いなく即死だ。


「やめろ!俺は被害者だぞ!ふざけんなぁ!!!」

転移後二度目の死の迫る経験に、理不尽さが止まらない。


がそんな俺と裏腹に斧は振りかぶられる。


ビュオッ、斧の空を切る音がする。


ヒッ 口から声が出る、死ぬのが怖い。

瞬間に備えて目を瞑る。


バキンッ


首に鈍い痛みが走る。



あのマリー・アントワネットは斬首後に数秒間生首で何度かまばたきをしたという話を、元カノのマキちゃんと話した記憶が不意に蘇る。

マキちゃん可愛かったなぁ、もう一度だけ話したい。

まぁ、浮気しちゃって別れたんだけど


俺の首も空中を待っているんだろうか?



しかし俺の視界は変わってない。相変わらず群衆の姿がまっすぐ見えている。


あれ?


群衆の目が明らかに変わっている。

さっきまでの怒りの目ではない。


それは畏れの目だ。


化物を見たときの目、常識を壊されたときの目。


恐る恐る顔をあげ、髭面男を見る。





砕けている、斧が。


え?何で?

髭面男は斧を見たままフリーズしている。

そらそうなるわ。


その時、ふと頭の中に記憶が蘇る。


転移前の神と話をしていた空間。

あそこで俺は最後、自分の情報を書き換えた。


パラメーターを全てマックスに。

そして特記事項を




神にした。




「フッフフフフフフフッ。アーハッハッハッハ!」


笑いがこみ上げる。


思い出した、あの群衆の目。あの畏れの目。


俺が寝取った女の旦那の目だ。


自分より格上の相手を前にしたときの、絶望の目だ。

俺はこの世界で全てのものより優れている。


なぜなら…神だから。



「おい、そこの眼鏡男!今から俺の言う言葉をこいつらに伝えろ」

俺は近くで放心していた眼鏡男を呼びつける


さぁ、今こそ高らかに宣言しよう。

俺は搾取される側の雑魚じゃない、俺は虐げれる側の弱者じゃない。


理不尽に凶暴に残酷にすべてを奪いさる。

そこに一切の躊躇なく、そこに一切の妥協点無し。


「我は『神』だ!お前ら全員、この俺に従え!!!」








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