天より堕つ
白い光に包まれ、徐々に視界が無くなっていく
視覚が無くなったあとは次は聴覚が遠のいていく
次に感覚が何も感じなくなっていく
そして意識も…
「あっ、座標指定間違えた!」
しかし薄れゆく意識の中、爺さんのそんな声だけははっきりと聞こえた。
なんだ…?座標指定って…
ビュオオオオオオオッ!
耳をつんざく、空起きる音
やけに冷たい外気
クソッどうなってんだ?
目はまだ開かない。
ただ一つだけわかること、この感覚は浮遊感だ。
おそらく転移の過程か?
天国から地上に堕とされているのだろう。
そして地上に生まれるというわけだな
なんとか目の感覚が戻ってきた。
瞳を開ける
ビタビタビタッ
上昇気流でまぶたを閉じようとしてもこじ開けられる。
見えたのは、紺碧と純白
空の青さと雲の白さ
全身をくまなく空気で洗浄されているような気持ちよさ
一生に一度でいいからやってみたかったスカイダイビングの体験を今行っている。
こりゃハマる気持ちもわかる。
しかし落下の感動はものの三十秒で薄れていく
俺は今までのことを整理しはじめる。
おそらくだが考えられるのは二つ
一つは地上にある肉体に、魂だけの俺が天から落ちて行くことでスポッとはいること。
もう一つは神様が肉体を受肉している状態の俺を、転移させる際に誤って、空中に出現させたこと。
どう考えても後者だな。
「座標指定間違えた」と言っていたし
眼下の世界に目を向ける。
そこにあるのは悠然とした大地の緑と空とどうかしたような澄んだ海の青色
このまま落ちていけば、間違いなく死ぬ。
またあの爺さんはの所へ逆戻りだ。
あの爺さんはきっと面倒くさくなって、俺のことを削除するだろう。
あー、クソッタレ。
いやでも海に落ちればワンチャンあるか?
そう考えた俺は海を視界にとらえる。
よし!あそこめがけていけば!
落下の勢いは止まらない。
さっきまで小さかった大地は、よりはっきり見える距離になってきた。
クソッ早く海の方へ
しかし体はどんどんと大地の方へ向かっているように感じる。
どれだけ体を動かしてもがくとも意味はない。
当たり前だ、空中には触るものがない。
だからまっすぐ落ちる物体は気流などない限りまっすぐ落ちる。
もがいても、もがいても、落下の方向を変えられないと悟った俺は諦めて周りを見渡す。
雲、雲、雲、雲、城、雲、雲
ん?
城がある、それも雲の上に。地上から5000mほどだろうか。周りにプロペラのようなものがありそれで浮いているのか?それにしては小さすぎるプロペラだ。
その城は少なくとも十回以上の階層に別れており、巨大だ。まさに天空の城
あそこに行ったらどんな景色が見えるんだろうか、終わりゆく落下の旅を惜しみつつそんなことを思索する
眼下に目を戻す。
おいまじかよ、このままだと村に落ちる。
森の中にある小さな村、家の数はざっと30ほどだろうか。
どんどん落ちていく
どんどん落ちていく
もう村人の姿もうっすら見える。
何やら馬に乗った兵士たちにたいして、村人が皆土下座させられている。
すると森の中にぽつんと家があるのを見かける。
村から離れたところにひっそりとある館。
あんなところに住んでいる人間いるのか…
もう地上との距離はない。しばらく落下していたため感覚がおかしくなっているが
まるで腰から下が存在しないようだ。
あぁ、もうだめだ。はっきりと兵士の鎧すら見える。
これは、兵士たちの頭上に落ちる。
まさに人間爆弾。落下エネルギーを溜め込んだ俺の体が兵士にぶつかる。
俺も死ぬが、兵士も死ぬ。
「チクショおおおおおおおおお!!!」
声をあげる。
その声に反応して地上の人間は空を見る。
驚嘆の顔
直後、兵士と接触した俺は凄まじい勢い砂埃の中、意識を失うのだった。