寝取りは最大の罪
ったく、天界入り率24%だと!
ヘルメスの奴め、とんでもない世界を残していきおったな!
こんな老人に最新型の部屋はあわんというのに、罪を量る天秤もないじゃないか!
声が聞こえる。
脇腹…まだ痛むな。
目を開けるとベッドの上だ。
白く明るい光で照らされた円状の広い部屋の中央に置かれたベッドと、何やら壁のモニターを見て憤慨している老人がいる。
「あの…」
声をかけると老人がふり返る。
「む、いかんいかん」
老人が振り向く。
ツルツルの頭に大きな髭。小柄な体だが、手には体より大きな杖を持っている。
「もうはじめの魂が来おったか」
老人が近づく。
「ここは?」
「ここは、死後の世界。お主の次の行き先を決める部屋じゃ」
髭を触りながら話す老人は、穏やかにだがうちに力強さを秘めている。
「あなたは?」
「神じゃ」
まじかよ、死んだとは思ったが早速神様とご対面とは
「次の行き先?」
「なんじゃ、そんなことも習っておらんのか。信仰が薄いのう、いやヘルメスの世界設定が間違いか…こんなつまらん世界に落とされて可哀想に」
「よいか、次の行き先には大きく分けて3つある。
まず天界じゃ。これは天国とも呼び、生きている間に素晴らしい行いをしたものや、その世界を変えてしまうほどの偉業を成し遂げたものが行く世界。次の神候補の世界じゃ。
2つめは異世界じゃな。これはあまり良い行いのできなかったが、更生の見込めるやつを送る世界じゃ。
そこでもう一度人生を行い、天界か異世界のどちらかにまた行けることを目指す世界。
3つ目は無じゃな。更生の見込みないものを存在ごと消すだけじゃな。まぁ、よっぽど酷い奴じゃなきゃこんことはせんよ。安心せい!
さてでは見るとするかのう」
「ちょっ、ちょっと待って!」
え?今から何?俺裁かれんの?
てかどう考えても俺3つ目だよね?
無にされるよね?
脳を高速回転させる。
「なんじゃ、じれったいのう。次の死者も来るのだから早めにな。まったく…。心配するなお主の生きてきた世界は特別設定がハードじゃ。
まだ一人も削除されてないと聞く、あのナチスですらな」
まじか、ナチスのヒ○ラーでさえ許されるなら俺なんて軽くね?
「ニーチェだって可愛かったぞう!ワシの前で『神は死んだ』とか言い出しおったからな!信仰薄き事などかわいいもんじゃ、お主らは次の神候補。子供同然じゃ」
あれ、これ行けるぞ?俺の女泣かすぐらいかわいいもんだな!
「すみません!はい受けます!生まれ変わりたいです!」
「ホッホッホッ、天界へ行きたいではなく生まれ変わりたいとは。お主、さては両思いってわからないと告白しないウブ系男子ぞな?志は高くな〜?」
いえ、神様。完全に大人の火遊びしてました。
「では見るとするかの、スタートアップ!」
神様と俺の間に半透明な板が見える。
そこに俺の顔写真が現れると
「えーと、どうするんだったかの?閲覧/編集を許可と書いてあるところを押せばよいのだな」
爺さんは手に仕様書のようなものを持ちながらヨタヨタと操作する
本名 〇〇 レオ (名付け親不在のため愛称のみ)
身長 185.2 体重82キロ
のように様々な情報が現れる。
「ふむふむ、幼少期。かなり苦労したようじゃな、親もおらんとよく育ったもんじゃ」
待て、俺の履歴まで見られるのか、やばくないか?
「少年期、ふーむ町の人から半分物乞いのようなことをしていたのか。保護者も反社会的な人物だから国期と頼れないと…涙ぐましいではないか」
待て!思春期からはやばい!!!
「思春期に、ふむふむ、なんと!窃盗に恐喝!恐ろしいのう、これも一重に愛情不足じゃな。このときはもう自立していたのか偉いのう。街の水商売の女性のところに転がり込んでは食わしてもらっていたのか…生きるための知恵じゃな」
あれ?窃盗と恐喝許された?これいけるくね?
「ふむふむ青年期…………。」
神の口が止まる。
無言、気まずい…。
「青年期の特徴は特に、交際中の女性とみだらな関係になり、交際相手とその周辺の人生を破壊することを最高の喜びと……。」
ひぇぇぇぇ
「なんじゃ?これは?」
「いえ、なんというか、その」
「交際中の男女に手を出し、関係を破壊する。この罪をなんというか知っておるか?」
「いえ…。」
「エヌティーアール!!寝取りじゃーーー!!」
先ほどまで淡々と話していた知的な老人とな思えないほどの大声に怯んでしまう。
「あぁ、恐ろしいこの時代にそんな悪魔のようなことを、更に遊びで喜びとして行うとは、ギリシアの神々だってドン引きするわ貴様のようなやつなんぞ!」
「神の裏切り者、不埒者、サタンも恐れる凶行、ルシフェルすら今なら許せるわ!」
凄まじい勢いで罵倒される。
「もう、決めた!貴様の魂を削除し、そして二度とこんなことが起きないよう地球は滅ぼしておこう!」
「おい、まじかよ!」
やっぱ最悪だー!ヒトラー、ニーチェはよくてなんで俺だめやねん!!!
「ではすぐに魂の削除に取り掛かる!ヌンッ!!!」
体が光に包まれる、あっこれ消されるやつじゃん。
かくなる上は!
「あの!」
聞く耳を持たない
「情状酌量の余地ありありだろ!」
聞く耳を持たない
クソッ、やばいぼーっとしてきた。
もう、いいや。こんなクソな世界!神様すら、ちゃんと機能してないのかよ!もういいたいこと全部言ってやろ!
「ダーッ!このわからずや!ハゲ!無能!てかまともな人生のハードル高すぎんだよ!女に愛されなきゃ生きていけなかったんだから、そうなるのしかたねーだろ!もっと楽に人生させろーこのタコハゲ!!!」
ピタッととまる。
えっ?
「神への口の聞き方がなっておらんようだの」
やばい、怒らせたか?明らかに爺さんのオーラが変わる。
髭がバチバチと音を立てて逆立っている。
「貴様には削除では生ぬるい、純愛を否定する貴様への罰を言い渡そう」
「異世界への転移を許可しよう。ただし異性との愛を育む可能性がある場合、世界システムにそれを拒否、否定させよう」
「異世界への転移の許可…まじで?ありがとうございます!」
「何を言っている?」
神が不敵に笑む
「貴様は転生ではない転移だ、その世界に生まれるのではなく、その容姿、記憶、すべてを持ってワープする。異性との姦淫でしか生きていけないお前は、愛されない悲しみを知るだろうハハハ」
神とは思えない邪悪な笑いをしたあと、神は壁のモニターに向かって歩き出す。
「今から転移の準備をするからしばし惰眠でも貪っておれ」
あぁ、絶望だ。どうしよう。ようは女の子とそういうことできないってことだよな…。
「えー、世界名『コグドロラ』世界意思へのアクセスは…パスワードはえーっとカミセブンっと」
神の爺さんは何やら苦戦している
だが、女の子に寄生することでしか生きていけなかったからな。ずっとヒモで学校に行ったこともないし何か生きていく力がないとな。
目の前に浮かんでいる自分の情報を見る
ふーんと思いながら、下の方へスライドすると
パラメータ
PHY 9
PAC 6
wca 0
特記事項
無し
と書いてある。
へぇ、パラメータとかあるのか。
でもPHYとかPACとかよくわからないな。しかもwcaに関しては無いし。
と思って画面に触ると
PAC変更 1~99999999まで
なんだこれ…。
入力できるのか…?
そういやさっき、爺さん編集許可押してたな。
爺さんはずっと壁で人差し指で何かをぎこちなく操作してる。
とりあえずなんの項目かわからんけど
PAC 99999999
PHY 99999999
wCA 99999999
まぁ、数は多くて困る事ないだろ
特記事項かぁ、これも編集できそうだな
「さて、あとは承認をおして送信したら終わりじゃな」
まずい!バレちまう
えーとえーと、早く書かなきゃ!
俺が知ってる言葉の中で一番凄そうなやつ。
特記事項
神
おし、これでいいだろ。
神なら多分何でもできるはずだ。
あとはバレないように上にスクロールして隠しとくか。
「さて、お主よ。最後の休息は終わったかの?」
神が聞いてくる。
「ええ」
「そうか、そうか。ちなみに良いことを教えてやろう」
「なんですか」
「異世界へ転移して、死後。魂が削除される確率86%、言葉も常識も通じない場所への転移はあまりに苦しすぎて人格すら壊れるということだ」
神は楽しそうに顔をゆがめている
「さて、時間じゃ。愛されない孤独ですぐ死なんようにな」
体が光に包まれる。
機械音声のような声が聞こえる。
対象の転移を開始
対象の情報編集を確認、適用。
世界コグドロラへの変更を確認、適用。
転移開始
目の前が真っ白になる