ムサクの本能
ラー帝国には厳格な身分制度が存在する。
ラー帝国の始まりはラーヤ神と7人の賢者、14人の商人、28人の木こりが集い建国したという神話がある。
そしてその神話の通り
ラーヤ神の血を継ぐ皇帝
賢者の血を継ぐ7人の宰相
商人の血を継ぐ14人の侯爵
木こりの血を継ぐ28人の伯爵
政治は以上の血を継いだ各代の第一子のみ参加できる。
逆に言えば、その血がないもの、もしくは血を継いでいても第二子以降の人間はこの国では平民の域を出ることはできない。
しかし第二子でも華やかな世界の仲間入りを果たす方法がある。それは貴族の妻になること。
そのため、貴族たちは淡い希望をいだき第二子を仕込むのだ。老後の自分たちのために。
そしてムサク=ドレリオは伯爵家の第二子であった。
生まれたとき、父母は大きくため息をついたという。
そのまま養子へ出され、五人姉妹のいる家に引き取られた。
だがこの経験はムサクにとっては、最高の経験だった。
五姉妹はムサクより年上だったが、精神年齢はムサクより幼かった。そのため何か姉妹喧嘩をした時は次々とムサクの部屋に来て、慰めてもらいに来るのだ。
ムサクが10になる頃、一番年上の義姉の泣き顔を見ていると、なんだか無性に唇を合わせたくなった。
そして流れるままに唇を合わせると、短髪の義姉は驚いた顔をしたあと、急に大人びてムサクの手を柔らかな胸に当てた。そしてムサクはその日に交わった。
次の日は次女と追いかけっこをして、捕まえたときに唇を奪った。
その次の日は三女に、飴玉を上げるから30分僕のいたずらに耐えてみてと言い、体を重ねた。
その次の日は四女が夕ごはん用のスコーンをつまみ食いしたのを、黙っておいてほしいなら裸になってと言った。
その次の日には年の変わらない五女に良いものを見せて上げるといい、部屋におびき寄せ襲った。
その次の日からムサクは5人姉妹と毎日代わる代わる交わった。それはもう獣のように。
義父も義母もまさか自分の娘達がそんなことをしてるとは思いもせず、夜に娘達がムサクにちょっかいをかけていると思っていた。
ある意味娘達もその行為がそんな意味を持っていたことを知らなかったのかもしれない。
しかしそんな日々は長くは続かなかった。
一番上の姉が、隣町の太った商人と婚約し、家を出た年
ムサクは12になった。
12になるとムサクは帝国兵養成学校に入れられた。
全寮制である養成学校は、それまで毎日人のぬくもりを感じた夜とはかけ離れていた。
朝から夕まで、剣術から算術、馬術に魔術。
それまで本能のままに生きていたムサクにとって苦痛でしょうがない環境だった。
ただそんな中、常にどの授業でも1位を取り続ける男がいた。
細見の身体に黒髪で似合わない大きなメガネをかけた男
はじめは優等生なんて嫌いだった。
落ちこぼれの自分と比べてしまうためだ。
だがそんなルインが気になるようになったのは14の時、イベントの際ルインの家族だけ来ないことに気づいた。
体育祭、文化祭、魔術祭
どんなときもルインの親は来なかった。
ムサクはデリカシーが無いと思いつつも聞いてしまった。
「なぜ君の親は来ないのか」と
ルインは、眼鏡の奥の瞳を悲しそうに細めこう言った。
「俺は、ザルツバーグ家の第二子なんだ」
ムサクは驚いた。
ザルツバーグ家といえば帝国の宰相の一郭、7人の賢者の末裔。この国で皇帝を除けばトップの権力を持つ家だ。
だが自分と同じ第二子、しかし木こりの末裔と賢者の末裔。世間から向けられる目は大きく異なる。
木こりの末裔である伯爵家なら子を養子に出すというのはよくある話だ。
しかし宰相の家にはそんなことですら醜聞になる。
だから宰相の所の第二子がどうなるかは長い間噂にされてきた。
噂では養子に出さず、捨てもせず、厳しい教育を施しながら、家の座敷牢で飼い、長男に何かあったときの替え玉にするらしい。
ムサクは同じ第二子という境遇であるにも関わらず不憫で、その境遇を顔に出さずに努力し続けるルインを親友として一緒に過ごすようになった。
ルインと同じように時間を過ごすうちにムサクの実力は開花していった。
最底辺の成績だったムサクは気づけば学年次席の座まで上り詰めていた。
そしてある時の体術の試験
ついにムサクはルインより優秀な成績を収めた。
「お前に負ける日が来るなんてな」
試合の後、少し残念そうに手を差し出したルインの手を握ったときムサクはこの上ない優越感を味わった。
あぁ、そうか。俺は、ルインを友達にしたかったわけじゃない。第二子のクセに1人前の人間になれると真面目に努力し続けるこいつを…
否定したかったんだな。
宰相の息子でありながら、第二子として不憫にも懸命に生き続けるルインを、ムサクはどこか眩しく疎ましく感じていた。
その心に気づいてからムサクは己の行動に歯止めが効かなくなった。
ルインが努力している科目があれば必ずルインより努力し首位を阻止したり、ルインが表彰されることがあれば、それ以上の功績を挙げ、ルインより目立つようにした。
しかしその度にルインは、無策が満足するようなリアクションはしなかった。
俺はこいつの悔しそうな顔が見たいのに!
ムサクは手応えのなさに苛立ちながらも、ルインの前では仲の良い友人を演じた。
しかしそんなルインが唯一、心の底から悔しそうにしたことがあった。
それがカレンを孕ませたときだった。
ルインが学園一の美少女であるカレンを、チラチラと気にしているのに気づいたムサクは彼女に近づき先に彼氏になった。
ムサクは義理姉妹のところで磨いたテクニックでなんなくカレンを堕とした。
そして事故ではあったのだが彼女が身ごもったことを、ルインに相談したとき、あいつはなんとも言えない悔しさと怒りと失望が入り混じったような表情で、口元を手で抑えながら俺の話を聞いていた。
そのルインの顔を見たときの時の黒い悦楽は、ムサクがそれまで経験したどの体験よりも病みつきになりそうな本能感覚だった。
ムサクはルインの仕事の手ほどきを話半分に聞きながら、この村でその黒い悦楽を味わえることにニヤつきが止まらなかった。