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異世界BSS  作者: 寝取られ先生
15/17

村の朝


「遅かったじゃないか、我が友よ」


よく焼けた肌から真っ白な歯を出しながら、ムサクは無理矢理肩を組んでくる。


「なんでお前がいるんだよ、てかここ俺のうちだからな…」


「なんだよルイン、元気ないなぁ。そんなんじゃこっちまで暗くなるわ。ハイ!元気を出して元気元気!」


相変わらずうるさくてムカつく奴だ。


「なんでお前がここにいるのかを聞いてるんだよ!」


「そんな怒るなよ〜!フルール土産の花まんじゅう買ってきたぞ!食え食え!」


そう言いながらムサクは下駄箱の上に置いてある包みから、まんじゅうを口の中へ押し込んでくる。


あー、本当にイライラする。こっちの都合も考えずにズカズカ入り込みやがって。


てか俺まんじゅう嫌いだし。


「そんなことよりお前メガネはどうしたんだよ〜!あっ、まさかイメチェンだな!そうだな!」


こいつはいつもこうだ。空気が読めない上、人の話を聞かない。



「とりあえず風呂入るからどいてくれ…」


「本当だ!お前泥だらけじゃーん、うえ〜触っちまったー!」


はぁ、本当にうるさい。

ただでさえ厄介ごとのオンパレードに疲れ切っている心身にこんなウザいやつまで、つくづく己の不運を呪う。


相変わらず、体についた泥で大騒ぎしているムサクをよそに風呂に入る。





体についた土汚れを洗い流し、石鹸を使い髪と体を洗い流す。



炎魔法で温めた湯を浴びながら、唯一の癒しであるユキナのことを考える。


あの晩に青いドレスで着飾ったユキナを見た時、これが本当の美なのだと思った。


彼女の光を浴び、煌めく茶髪。

程よく筋肉のついた体に引き締まった腰。

薄い化粧に映えるような赤い口紅。


そして家族を大切に思い、覚悟を決める人間性。


その全てが、とても美しかった。


あぁ、なんと言って話しかけたら良いだろう。何という言葉を彼女は好むのだろう。


そして、あの髪飾りを渡したらどういう反応をするだろう。


『ありがとう、ルインさん…。大事にするね』


優しく微笑むユキナの顔がありありと浮かぶ。肩の長さまでの髪をピョコっと揺らしながら、はにかむように笑う彼女の顔が浮かぶ。

全てが愛おしい…






まだ話しかけてすらいないのに、ここまで想像できるのも我ながらキモいなと少し自己嫌悪に、陥りつつ風呂を出る。


洗面台からタオルを出し、体を洗い。

髪に香油を…


あれ?

いつも使う香油だけは切らしたことがないというのに、香油を入れているビンを振れども振れども一滴も出てこない。


おかしい、つい最近取り寄せたばかりなのに…まさか。


タオルを腰に巻き足速にリビングへ出る。


「おい、ムサク!この瓶の中の香油使ったか?」


ムサクは布団にくるまり、菓子を貪りながら書物に目を落としている。


食べカスが床に落ちるのを黙認しつつ確認を取る。


「あー、俺が風呂に入らない時に使ったやつか。ごめんごめん、体に塗ったら無くなったわ」


「な!体に⁉︎ これは金貨5枚もする髪用の香油だぞ!体は銅貨8枚で買えるこっちの瓶のやつだぞ⁉︎」


「え、そうなの?どうりで少ないと思ったわ、ごめんなー」


再び顔を書物に落とし、「これおもしれー」などと言いながらゲラゲラ品なく笑っている。



あぁ、こいつと一緒なんて地獄だ…と頭を抱えた。





「で?お前は何でここにいるんだよ」

髪をしぶしぶ安い香油で整え、水を飲みながらムサクに尋ねる。


「何でって、お前の後釜だよ」


なるほど、俺が辞職したことで俺のポストが空いた。

そこに偶然ムサクが入ったのか…


全く災難なことである。


「そうそう!明日集会があってさー、挨拶しなきゃならないんだよね」


あっけらかんとムサクが言う。

口の中見えてんだよ、食いながら喋んな。


「まぁ、俺もお世話になった挨拶はしないといけないからな。明日の集会俺もいくわ」


「お、マジで。じゃあ明日起きるためにもう寝るか!」


そういってムサクは部屋を照らすウィスプ(火の玉)を持っている本で叩き消す。


「危ない!お前火事になったらどうすんだ!」

思わず声を荒げる。


「うるせーな、ウィスプいちいち解除すんのめんどくせーだろ。ったく神経質だな」


クソっ!マジで殺してやりたい、しかも歯も磨かずに寝るとか正気じゃない!


洗面台で歯を磨いた後、大いびきをかくムサクを見下ろし、これ俺の布団なんだけど…

と思いつつ布団の端を枕に眠った。







顔の左側に、何か砂のようなものがくっついている感覚で目を覚ます。


外はやっと日が上りかける頃で水色の空が広がっている。


隣でいびきをかくムサクを起こさないよう小さくウィスプを灯す。


ぼんやりとしたオレンジの光で、さっきまで寝ていたところを照らすと


食べカスだった。

ルインは、少し潔癖までにゴミには気を使うので溢れやすいものを食べるときはゴミ箱の上で食べる。


ムサクの野郎…!


ここまで人をイラつかせるのもある意味才能だと思いながら、風呂をウィスプで温める。


温まるのを待っていると、日がだんだんと上り、早朝から朝の時間帯に入る。


ムサクが突然ガバッと起き出す。


「おはよう、親友よ!」

どんだけ朝強いんだよと思いつつ、またこいつに親友と呼ばれる不本意さに苛つきつつ、適当に挨拶を返す。


「俺は風呂入るけどお前は?」


ムサクに尋ねると、ムサクは己の体をクンクンと嗅ぎ、「いい匂いがするから大丈夫!」

と答えた。


そりゃ髪用の高級な香油使ってたらそうだろうな!

少しイラつきつつ風呂に入る。






風呂から出て、体の水気を取り服を探す。


フルールの街でレオ様が選んでくださったものがあったはずだ…


服を取ろうとすると、鏡の前で短い短髪を一つにまとめようと、ポマードを使うムサクが目に入る。


その服には見覚えがあった。


「ムサク、お前その服どこから持ってきた…」


するとムサクは櫛を使って髪を整えながら、「えっ?お前のカバン中だけど?少し小さいけど中々のセンスじゃないか」


悪びれる様子もなく言い放つ。


「それは脱げ、それはレオ様が俺に買ってくださった服だ。お前のではない」


「レオ様?あぁ、あの金髪の兄ちゃんか。俺、ああいう奴苦手なんだよなぁ。なんか自分に自信溢れてそうで」


っ!


思わずムサクのもとへ行き胸ぐらを掴み持ち上げる。


ムサクの体など、なんなく上がる。


「お前、レオ様を馬鹿にするなよ…。あの方はそこらの人間とは違うんだぞ」


「あが…!」


ムサクが苦しそうな顔を見せたので解放してやる。



ムサクはしぶしぶ服を返し、代わりに正装を貸してやった。

それでも十分だと思えよ。






「俺はレオ様のとこへ挨拶をしてくる。集会までには間に合わせるから」


そう言って家を出る、ムサクは相変わらず鏡の前で髪を整えている。


さて、問題は山積みだ。

特に魔獣の問題、それはこの村の存続にすら関わる重要な課題だ。


レオ様に昼は集会に出る報告をしなければ…


家を出て、村長の元の家であり現在はレオ様が使っている家まで歩く。





道中、村長が住んでいる離れを通る。


朝早くから洗濯物を干している人の姿が目に入る。


ユキナさんだ…。


白いワンピースを着た女性は、その体より一回りも大きい布団を干している。


その女性はこちらに気がつくとニコッと微笑んだ。


その笑顔に胸を貫かれ、心臓の鼓動が速くなる。


あぁ、可憐だ。今日は何てラッキーな日なのだろう。


彼女の方に、ペコっと頭を下げて、足早に主人の家の扉まで来る。


あー、もっときちんと挨拶すれば良かった。

無言で頭下げるだけとか印象悪いよなぁなどと後悔しつつも、扉を叩く。


「レオ様、入りますよ!」


返事はない。


おかしい、この時間なら朝食を作る婦人がいるはずだ。

いつもは主人は寝ていても、朝食を作っている婦人が扉を開けてくれる。


3日ほど村を開けてはいたが、その決まりは無くなってないはず。


なにかあったのか?

恐る恐るドアノブを捻り中に入る。





リビングの壁に婦人が張り付けにされていた。


「大丈夫ですか⁉」


婦人のもとへ駆け寄る、婦人は半透明の糸のようなもので壁にくくりつけられている。

長い間、張り付けられていたからかぐったりとしている。


「今、糸を切りますから!」


ルインが腰に携えている剣に手をかけるも、剣は鞘から離れない。


「あれ?なんで抜けないんだ!」

何度試しても剣は鞘からピクリとも動かない。

よく見るといつの間にか、剣と鞘が半透明の糸で固定されている。


「お客様、武装までされて何用でしょうか?」

ルインの背後から冷たい女性の声がする。


恐る恐る振り返ると、メイド服に身を包んだ細身の女性が立っていた。


誰だ?この村にこんなメイドはいなかったはず。


「っ!」

声が出せない。それどころか体がまるで銅像のように動かせなくなっていた。


「無理に動いたら、身体に傷がつきますよ」

メイドがクスッと微笑みながら、近づいてくる。  


距離が縮まり気づいたが、その女は黒い瘴気を体に纏っていた。 


黒い瘴気、こいつは魔獣か!


しかしおかしい、人型の魔獣であるグール級は知性を持たない。

つまり昨日の昆虫型と同じく新型…

それに今までと比べ物にならないほど強力な新型だ。

 

「さて、ご主人様の館に無断で立ち入り武器まで所持している…。どのように処分しましょうか」

メイドの顔が眼前まで迫ってくる。

切りそろえられた黒髪がルインの肌に触れる。



ガチャッ

階段から見慣れた顔が、降りてくる。


「あれ?お前ら何してんの?」

主人がはねた金髪を手で抑えながら、目を丸くしていた。








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