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異世界BSS  作者: 寝取られ先生
14/17


街を出ると日が傾きかけていた。


「こりゃ、街に着くのは日が暮れてからか?」

隣で頭を抱えながら、レオが呟く。


「それよりレオ様、何か武装をなさってください。行きのように魔獣が出てくるかもしれません」


「それもそうだな」


そう言って、レオは近くに落ちていた木の棒を拾う


「剣になれ」


木の棒はみるみる形を変え、刀の形へと変化する。


木片から鉄の塊である刀が出現するとは…


このお方を『神』であると認める所以はこの術だろう。


錬金術


物質の形質を変化させ、事象に干渉する力。

学校では、どれほど高位の魔術師でもなしえなかったと教わる究極の魔術。


それを行使できる存在が、自信を『神』と名乗ったのなら信じないわけがないだろう。



「よしっ、エクスカリバー三号機完成」


主人は作成した刀を腰に携え歩き出した。






街を出たところの草原地帯を抜け、森へ入る頃には日はすっかり落ちていた。


「道を照らせ、ウィスプ!」

火の玉が四つほど出現し、あたりを照らしながら追随する。


「そんな、便利な呪文があるのか…」

初級の簡単な呪文にさえ唸っている主人を見て、思わず苦笑いする。


「レオ様は本当に異世界から来たのですね」






森へ入った途端、悪寒が走る。

別に索敵などの特殊能力はないが、それでもわかる。何かがこちらを見つめている気がする。


「ルイン、感じるか?」

主人も気がついたようだ。


「レオ様、武器を構えてください。いつ敵に襲われてもおかしくありません」

武器を構えながら慎重に歩く。


「いや、まだ道は長いんだ。消耗しながら進むぐらいならこちらから仕掛けるぞ」


主人の言葉は一見暴論に見えて、確かに正論だった。

こちらがいつ襲われるかと神経をすり減らしながら歩けるほど村までの道は短くない。


ならばここで殺気の正体を断つことが、ベストな対処だろう。


「ルイン、ここ一体の木を魔法で薙ぎ倒せ」


「はい!」


攻撃魔法にはある程度適性がある。

特にその中でも攻撃手段として用いることができるほど高威力で出力できるのは通常の人間で一つ、才能があっても二つ。

俺の適性は『爆』の魔法のみ。


範囲爆撃などの、高等魔術は使えない。


はずだった。


しかし蠍座の一味との戦闘後、レオ様に目を治していただいた時から、明らかに自分の能力の上昇を感じていた。


今の状態なら、範囲爆撃魔法もいけるかもしれない、試してみるか。







目を閉じ、周辺の木々の下にターゲットを置くイメージをする。


そして周辺の木々に魔力を流し込むイメージをつける。


いつもなら、魔力量が足りないはずの工程


範囲内の木々の下から緑色に発光する光が上る。


発動できる!



「攻撃性高等魔術式!爆!」


バゴォォォ!!!


周辺の木々は根本からの猛烈な爆風による土壌の崩壊で吹き飛ぶ




凄まじい爆風と共に、木々の中にいた存在が次々と姿を表す。


撃ち漏らしたか!


目の前に現れたのは黒い瘴気に覆われた犬型の魔獣、見慣れたハウンド級に見えた存在だった。


だが確実にハウンド級とは違うと言える。


「なぁ、ルイン。このハウンド級おかしくないか?」




姿だけ見たら、大型犬が黒い瘴気を纏った普通のハウンド級だ。


しかし奴は、いや奴らは背中から生えた昆虫のような羽でホバリングしている。


そんなバカな…、飛行できる魔獣など聞いたことがない。


ブォーンという凄まじい羽音が四方から聞こえる。


「数はざっと40ぐらいか…」

レオは周囲を見回し、冷静に分析をしている


このまま襲われては、無事ではすまない。

しかし逃げ道も周囲を囲まれているため閉ざされている。



「ルイン、逃げるぞ」


「しかしレオ様、周囲は囲まれております」


するとレオは天を指差しつつ


「まだ上があるだろ」




睨み合いの膠着が崩れたのは、レオとルインが空中に浮遊してすぐだった。


「ルイン!急げ、追いつかれるぞ!」


急げと言われても、飛ぶこと自体初めてなのだ。必死に主人の後を追う。


「イメージだけすればそんなに難しいことじゃない!

とにかく早く村へ、着くことだけ考えろ!」


ルインのすぐ後ろには大量の空飛ぶハウンド級がブォーンと羽音を撒き散らしながら迫ってくる。


「クソ!ルイン、俺がお前を誘導するからお前はあいつらを撃ち落とせ!」


そう言うとレオはルインの襟を後ろから鷲掴む。


後方を向いたルインの視界には大量のハウンド級がヨダレを蜘蛛の糸のように、後方へ垂らしながら迫り来る景色が映る。


剣を一番近くに迫り来る相手に向け、照準を合わせる。

「爆ぜろ!」


ギャン


ゴム毬のように弾け飛ばされた魔獣は姿勢を崩し、下方の森の中へ落下する。


村の中の1匹がやられると、魔獣の群れは咆哮し弔い合戦とばかりに激しく羽を動かす。


「爆ぜろ!爆ぜろ!爆ぜろぉ!」

次々と撃ち落としていくが、数が減っている気がしない。


明らかに40体以上、100体単位で存在する。


「ルイン、あと少しだ!耐えろよ!」


振り向くと、マユニ村の明かりが見える。

一体どれだけの速度で飛んできたのだろうか。


マユニ村までつけば、魔術師の高等結界で魔獣は弾かれるはずだ!



その時、手に鋭い痛みが走る。


痛みに顔を歪めながら振り向くと、剣を持つ手に、魔獣が噛みついていた。


通常なら腕を欠損していてもおかしくない顎の力だ。


「クソっ離せ!」

振り解こうとするも、中々離れない。


魔獣の歯の隙間から血が滴る。


「ルイン、門に突っ込むぞ!」


その声と共に姿勢が傾く。


この勢いのまま、村の門を通るつもりなのだろう。



ならば、この手に食らいついて離れない魔獣ごと結界に突っ込むまで!


魔獣の瘴気の隙間から見える耳を力の限り握りしめる。


「離れるなよ、お前は今から結界に突っ込むんだ」



バリバリッバンッ


門を突き破り、降下の勢い余って派手に転げる。


バンッバババババン!!!


結界に他の羽魔獣が衝突する音が聞こえる。


そして衝突を回避した残りの羽魔獣は、結界内に入れないと気づくやいなや、ブォーンという羽音ともに闇の中へ消えていった。





「大丈夫か⁉︎」

倒れているルインのもとにレオが駆け寄る


「ルイン、お前その左手のやつ…」

主人は驚きの表情で俺を見下ろす。


「えっ?」

恐る恐る羽魔獣の耳を掴んでいた左手を見る。


ギッギィッ


そこにはまだ息のある魔獣の頭部があった。


しかしハウンド級特有の大型犬のような頭部の半分の肉が削げ、頭蓋骨のあるはずの場所から脳漿にまみれた巨大な昆虫の頭部が露出している。


「うわっ!」

思わず頭部を投げ捨てる。


放られた頭部は、転がりながらハウンド級の肉をドロドロと撒き散らしながら、最終的に完全に昆虫の頭部だけになった。



「どうやらこの魔獣は、寄生型の虫っぽいな」


レオは落ちている昆虫の頭部を拾い考察する。



「ルイン、外にある他の死体も集めよう」


ルインは主人の無茶な要求にしぶしぶ頷くのであった。







アクロバットな村への帰還から息をつく間も無く、魔獣の死体集めをさせられたルインはようやく集まった死体をレオに渡し死にそうな顔で帰路につく。


仕事を辞め、レオについたことを少し後悔しつつ身の回りで起きた事件を思案していた。


掃討されたはずのハウンドタイプの出現に、蠍座の一味の襲撃。


そして新種の魔獣、寄生型昆虫魔獣。

宿主に飛行能力を授けたと考えると非常に厄介な魔獣である。


一番小型のハウンド級への寄生だから良かったものの、人型のグール級や熊型のグリズリー級に寄生したらと思うと恐ろしいことになる、一刻も早く政府に伝えねば。


ガチャ

泥と疲労と倦怠感に塗れた体を引きずりながら自宅の扉を開ける。




「お!よくぞ帰ってきた我が友!」


散らかった部屋の中で突然のようにくつろぐムサクがいた。




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