フルールの街
高く積み上げれた巨大な石壁は、外からの襲撃を拒むと共に、この街が重要な都市であることを証明している。
「レオ様、これがフルールの街です」
フルールの街
ラー帝国における主要な都市の一つであり、
衣類、雑貨、食物の都
「まずは、金だな。この宝石を換金しに行くぞ」
袋に詰まった宝石、村を出てくる前に作ったものだ。
「ならば知り合いの商人を紹介します」
ルインに連れられ街の中へ入る。
フルールの街はその名に恥じぬ花の都だ。
建物の入り口に色とりどりの花が飾っているうえに、人々もオシャレで華やかだ。
美しい女性も多い、もし女性と関係を持てないなどというふざけた制約がなければ確実に声をかけている。
門近くの、4丁目を抜けて3丁目の花屋と雑貨屋の間、奥まった場所に商人はいた。
「おい、これを売りたいんだが」
宝石の入った袋を差し出すと男は無言で受け取る。
そして宝石の袋入っていた袋に金貨を詰めて渡してきた。
無骨な男だ。金貨の入った袋を受け取り、店を後にする。
「おい、あいつちゃんと相場通り換金したのか?」
「口は下手ですが、信頼は確かですよ。
ところで、なぜこの街に?」
「そんなもん、服買いに来たに、決まってるだろ」
見た目は人が思っている以上に大切だ。
人間は相手のことを見た目で8割を決めつける。
有名ブランドの白シャツが、うん万もするのはそれだけそのブランドは白シャツを着た人間の見た目の印象を良くする寸法を研究したからだ。
ただ着れるだけの白シャツと、ブランドの白シャツにはそれだけの差がある。
「ルイン、お前は服がよくない。いつもそんな安い服を着ていたら、ユキナは振り向いてくれないぞ」
まずは、トップス
次にボトム
装飾品
店を回って買っていく、幸いルインは顔は悪くない。
黒い髪に幼さの残る顔立ちは、嫌いになる女性の方が少ないだろう。
また、普段から体を鍛えているからか細身だが筋肉もほどよくついている。
その上、生真面目な性格だ。
この時代の男としては申し分ないハイスペックだ。
ユキナと付き合える可能性は十分だ。
「ま、こんなもんか」
なかなか様になっている。
この街を歩いているオシャレ番長と比べても遜色ない。
「あとはそのセンスのないゴテゴテメガネだな」
ルインの眼鏡を取ろうと手を伸ばす。
サッと避けられる。
「なんでだよ」
「いえ、この眼鏡がないと物が見えないので」
「それもそうか…まぁ、眼鏡はいいや」
この世界にはコンタクトもなさそうだしな。
「目的も果たしたし帰るとするか」
踵を返し、歩き始める。
「レオ様、少し寄りたいところがあるのですがよろしいでしょうか」
「おぉ、なんだ」
「職場に寄りたいのです」
フルールの街の中央、他の建物よりも1.5倍ほど縦にも横にも大きい。
どこの世界でも、どうして役所というものはこんなに大きいのだろう。
ルインに外で待っているように言われたので、役所の入り口にあるベンチに腰掛ける。
行き交う人や建物に目を向ける。
この世界の人間は、俺が知っている日本の人とは少し違う。
なんというか温かみがあるのだ。
それは人と関わろうという意思であり、柔軟である証でもある。
ルインだってそうだ、突然空から降ってきた俺に、半ば無理矢理とは言っても従っている
前いた世界の人なら通報して終わるか、脱走するだろう。
俺が男とここまで関わるなんてな…
女をめぐる敵でしかなかった男と、恋愛相談をされ、服を買いに来ている。
もしかしたら同性の友達と呼べるものは初めてかもしれない。
向かいの建物に、次々と人が入っていくことに気づく。
その建物はこの役所と匹敵するぐらいの大きさであり、華麗な彫刻によって女神の姿が象られている。
あれが噂のラーヤ神の教会か?
興味の惹かれた俺は入ってみることにする。
門番とかは特におらず、誰でも入れるようになっているようだ。豪華な外装に恥じない派手な内装。
そしてズラっと並んだベンチ
キリスト教の教会に昔は行ったことがあるが、まさにあんな感じだ。
俺の後ろからもぞろぞろと人が入って来る。
老人から美女まで様々な人がいる。
何食わぬ顔で入り、後方のベンチに座る。
間も無くすると人の入りもなくなり、皆一様に紐で縛ったノートとペンを取り出す。
「皆さん、ごきげんよう。本日のよき日に、我々が集えたことをラーヤ神に心より感謝しましょう」
前方の演台に立った司祭が、胸の前で指でばつ印を作り「ラーヤの加護を」というと
皆一様に、胸の前でばつ印を組み
「「「「ラーヤの加護を」」」
流石に100人をゆうに超えるこの人数が同じ行動をしていると奇怪である。
俺の周りに座っている者は、全く動きについてこれない俺を怪訝な目で見ている。
司祭の話は退屈だった。
天地創造の話から現代の我々はいかに汚れているかを、そして汚れを落とすには教会を支えよという話だ。
話の最中に、皆がお金を乗せたトレーが回って来る。
隣のおっさんが、トレーの上に金貨を乗せて俺に回して来る。
(金出せってことだよな…)
しぶしぶトレーの上に金貨を一枚乗せ後ろへ回す。
周りの同調圧力に屈したとは思われたくないが、この教会の集金システムには興味がある。
だがトレーの上にある金を見ると、マユニ村の人の顔が思い浮かぶ。
ボロボロの服を着た村の人間と、ここで富を差し出す人々。
ずいぶんうまく搾取のシステムを考えたな、清貧を主軸とすることで人々の持つ富を、教会に差し出させる。
人々は金を差し出すことで、汚れを落とし女神の寵愛を受けられる(そんなものはあるか分からないが、少なくとも幸せにはなるのだろう)
教会は清貧さえ説いておけば人々の富を吸い続けられる。
そして最終的に富の行き着く先は…
「それでは登場していただきましょう!帝国宰相リカルド様です!」
逞しい体つきをした男が現れる。
どうやら今回の説教の特別ゲストらしい。
「ラーヤの加護を」
「「「「ラーヤの加護を」」」」
今度は完璧に合わせられた。
リカルドは教会に捧げられた寄付は、ラーヤの信仰を守る帝国に使われること。
帝国の圧倒的軍事力は信者の寄付によるものだと説いた。
上手いな。
確かに飢えに苦しむほど村人は困窮はしていないし、帝国のおかげで争いが起こることもないのだろう。
しかしどうだろう、確実にこの国は見えない格差がある。
貧しき者は貧しいままで、豊かなものはさらに豊かに。
そして帝国の栄華は盤石なものに。
もしこの国を変革する者が現れるとしたら…いやそんな者は出てこないだろう
結局どこの世界も強者が弱者を喰らうのは変わりないな。
帝国宰相の話も程々に、教会から出ていく。
途中退出をするのは俺だけだったので宰相に睨まれている気もしたが…。
役所の前に戻るとちょうどルインが出てきた。
「レオ様、お待たせしました」
「おぉ、ルインは何してきたんだ?」
「仕事、辞めてきました」
マジかよ。
仕事を辞めろと俺が言ったが、まさか本当に辞めるとは。
「お前のその選択、後悔はさせないぜ」
この世界で初めての仲間と呼べる存在の覚悟に答えてやらないとな。
「おーい、ルイン。お前、辞職願い出したんだって?」
建物の中からからかうような声が聞こえる。
声の主が建物から出て来る。
肌の良く焼けた筋肉質な男が満面の笑みで近づいて来る
(コイツ色んな意味でやり手そうだな)
「お堅いお前らしくないじゃないか」
ルインの肩に手を回し、ルインにからんでいる。
「ムサク、お前には関係ないだろ」
「冷たいじゃないか!ルイン!養成学校時代の中じゃないか」
肌の良く焼けた筋肉質な男はムサクというらしい。
「で?なにがあったんだよぉ?新しいビジネスか?そこの金髪の兄ちゃんと」
うわー、このテンションのやつ、ルインもきついだろうなぁ。
ルインも助けを求める目をしている。
「ま、ルインはこの俺とデカいビジネスをするんだ許してやってくれ」
ムサクの肩を叩いてルインを連れ戻す。
てか、こいつの髪の毛テッカテカだなぁ。
たぶんポマードのつけすぎ、ジェル固めすぎだな。
抱いてる女は海外留学するようなゴツい女か?
「おっと、悪い悪い。ルイン!今度飲み行こうぜ〜じゃあな!」
颯爽と建物中に戻っていく。
「お前ってあんな奴と仲良いんだ」
「その認識は勘弁してください」
ルインは頭を抱えていた。