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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
夢と現実
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第九話

人夢の顔にべっとりとしたものが飛ぶ。それが自分のものでない血液だと気づき、人夢は情けない声を上げる。


「あ、、ああ、、、。」


目の前にだらんとした春の体がぶらぶらと揺れているのが目に映る。


カイの腕は目の前の春の体を完全に貫通してしまっている。


「痛い、、痛いよ、、、、、。」


春は自分に何が起きているのか分からなかった。口から血がこぼれ、体に力が入らず何も出来ずにただだらりしているしかなかった。



「ケツエキサイシュ、カンリョウ。アトハ、、、」



近くに時空の穴が開く。現実世界とのリンクが高まる時間が来たのだ。空間に突如、光とともに現れた。


本来は、、、上手くいっていれば、ここを通って如月春は帰るはずだった。人夢が帰してやるはずだった。


「アトハ、、テキトウニホウムロウ。」


カイは右手で春の、左手で人夢を掴み、力のない二人はされるがまま一斉に持ち上げられる。


そこで向かい合った二人はお互いの無残な姿を目撃する。改めて春の姿を見て、気がおかしくなりそうになった。かける言葉がなかった。帰してやると約束したのに、カイに無様に負けてしまった。




人夢は涙を流す。



自分が情けなく、信じてくれた春に申し訳ない。


ボロボロと涙を流して血と混ざりあった顔はさぞ気持ち悪かったろう。


ぐしょぐしょな顔で泣くことしか出来ない惨めな姿。





















しかし、春は笑っていた。



体中が痛むはずだ。


口からこぼれている血から見ても、意識を保ってるだけでも相当な精神力だろう。


それでも人夢に笑いかける。


どこまで強いんだよ。と人夢は思った。


何の力もないただの女子高校生なのに人夢よりも何倍も強かった。























カイは二人を時空の穴の近くにある花畑に投げ飛ばす。


その空中にいる時間がまるで無限の時ように感じた。



(ああ、また負けたのか。今回は出し惜しみなしだった。本気の力を出し切った。自分の全てをかけた一撃だったのにな。)



人夢は人生で初めて走馬灯を見た。



両親の顔、初めてこの世界に来た時、あの日、男の子を救えずに殺された時、坂上と2人で呑気に飯を食った昼休み、クラス委員長の陽菜の後ろ姿、



そして、、、、、

























「ーーー元の世界に帰ったら両親と話し合ってみるよーーー」



この世界での春との会話。





























ドサリと花畑の上に2人は転がる。



人夢の起こした爆風が花を吹き飛ばしたため、ぐちゃぐちゃになっている上、2人の血が草を赤く染め始める。



日が沈み始める。


辺りは静まりかえり、風の音だけが周りを支配していた。


カイは森に向かって叫んだ。


「キシャシャァァァァァ!!」




そこから2体のブゼリアンが出てきた。



奇妙な笑みを浮かべながらふらふらと近づいてくる人夢はブゼリアン達に気づく力も残っていなかった。


「アトハ、マカセタ。、、、、マタアエタラ、、、マタタタカオウ、、ヒトム。」


カイはその場を後にする。







人夢が目を開けるとそこには春がこちらを見て笑顔で泣いていた。


堪えきれなかった涙が溢れてきたのだろう。


「ごめんな、、、お前を帰してやれなかった。」


泣いて詫びることしかできなかったそんな人夢に、春は力なく小さく首を振った。


「そんなことないよ。人夢くんかっこよかったよ。あなたは全力だった。全力で戦ってくれた、、、、、私にとってはヒーローだったよ。」


人夢はすぐに反論した。


「結果、、俺は何もできなかった。だったら意味なんか、、、ないじゃないかよ、、」


春はゴホッと血の塊を吐き出して声を出した。


「だったら、諦めないで、、、、。私の家族や大切な友達には、、、こんな目にあって欲しくないから。」


そこで春は涙を流しながら続けた。


「あと、、ひとつ、、。お願いがあるの、、、もしあなたがこのことを思い出して私の親に会うことがあれば、、大好きだった、わがまま言ってごめんなさいって伝えてほしい。」





ドスドスと足音を鳴らしながら近づいてきたブゼリアンは春を担ぎ上げ、時空の穴へと近づく。


「キャシャシャシャ!!」




人夢の体は消え始めていた。必死に手を伸ばすが届かない。


あの日と同じ結末。



「またこいつらに奪われる命を、、、救えなかった、、、」



ブゼリアン達が春を時空の穴に放り込む。続いてる先は現実の世界。きっと向こうについても見つかったときには死体になっているだろう。




力なくゆっくりと消えていく春に人夢は最後の力を振り絞って叫んだ。


最後の春の願いが人夢にそうさせたのだろう。


「俺、、、、諦めないから!!絶対みんなを守るから、、、そして、お前のことは絶対に忘れない!両親にお前の言葉を絶対伝えてやるからな!!」


必死の叫び。


人夢には穴の向こう側で春が笑顔で笑っている様な気がして、少しホッとした気分になれた。







そして春は時空の穴に飲まれ、そして人夢は不思議な光に包まれ、2人は互いに消えていった。














































人夢は自室で倒れている事に気づき起き上がった。この硬い感触は、たぶん背中の裏はベッドではない。




体中が少し痛み、頭もボーッとする。


自分はどれくらい眠っていたのだろう。




時計を見上げると五時を指していた。チッチッという掛け時計の音が鮮明に聞こえる。


外からの光を見る限りおそらく午後五時だろう。




ゴホゴホと咳を出し、喉がかなり乾燥している事に気づく。


ふらつく足で立ち上がると、コップを取り出して水道を捻って水を入れて何杯か飲み干す。


「プハァ、、、生き返る、、、」


人夢は机の上に置いてあるスマホを取り、今がいつなのかを知る。


その日付を見て愕然とする。


「月曜日?嘘だろ俺は丸二日寝てたのか、、、。」


頭がズキズキと痛み、頭に手を当てる。はぁはぁと息が荒くなっていることも考えると、体調を崩しているのは間違いない。


 



「俺は確か、、テレビで赤崎を見て、、、その後風呂から上がって、、そこから意識を失ったのか。」



スマホには不在着信が何通か来ていた。通知を切った覚えもないし、着信音が鳴っても全く起きないほど深く眠っていたのだろう。


「学校からか、、、てか、無断欠席はまずいよなぁ。まぁ事情を説明したら何とかなるだろう。後は、、、、、坂上からか。」



人夢が坂上の携帯にかけ直そうとした時、コンコンとノックする音が聞こえて来た。


「おい、野上!!大丈夫か!?いるんだろ?」



自分の家に来てくれる人間なんて限られている。



「今開ける、、。ちょっとまってくれ。」




人夢はゆっくりと玄関に向かい、扉の鍵を開ける。覗かせた顔はなぜかとても懐かしさを感じさせる少年の顔だった。



クラスメイトの坂上だ。そもそもクラスのやつで自宅を教えているのは坂上しかいのだが。



「野上、お前、顔色が悪いぞ。やっぱり風邪か。学校に連絡くらいしとけよ。先生も心配して、、、」


坂上は心配そうに声をかける。


「悪い、、丸二日寝ちまってた見たいなんだよ。ははは、、。」



「まじかよ、、大丈夫か?いちよう今から病院行くぞ。肩貸してやるけど、歩けるか?」


坂上は手を差し出した。


「ああ、大丈夫。悪いな坂上。」


二人は家を出て、ゆっくりと近くの病院へと足を運んだ。











































病院での診察を受けて、処方箋を貰って2人は歩いていた。


「良かったな。ただの風邪で。お前腹減ってるだろ。コンビニで何か買って帰るか。これは貸しだからな。」


ぐりぐりと頬をグーで押し付けてくる坂上。それに人夢は笑顔で答えた。


「ありがとう坂上。今度ラーメンでも奢るよ。」





その日の夕日はとても綺麗だった。













 






二人は人夢の家に着き、机にコンビニで買ってきた晩ご飯を並べ、コンビニのおにぎりを手に取って食べ始めた。






しばらく食べ進めている内に坂上が口を開いた。


「あれから、警察の人から連絡があってな。」


坂上の顔が真剣になる。



「あの女の子を襲ってた女性は本当に無意識だったって主張を曲げてないんだ。警察は何かの催眠にでもかかっていたんじゃないかって捜査を始めてる。」


坂上は大きな口を開け、一気に口に放り込む。


人夢は答えた。


「あの女性は確かに普通じゃなかった。俺も催眠とか、薬とかそういうのの力で動いてたんじゃないかと思う。」


人夢は、なぜか見覚えがある気がしてきた。


(夢にでも出てきたのかな。あの恐怖は初めて感じたものな気がしなかった、、、)




「まぁ今日はゆっくり休め。そして体調が戻り次第学校に来い。明日お前がこなけりゃ、あんまりがらじゃないけどちゃんとノート取っといてやるからさ。」







いつもおちゃらけてる坂上だが、こういう時本当に頼りになるやつだ。


「わかった。今日は本当にありがとうな。」



「ま、俺とお前の仲だ。気にすんな。さ、とっとと食おうぜ。」


人夢も腹を空かせていたので、おにぎりにかぶりついた。









次の日は学校に連絡して大事をとって休む事にした。


人夢は、一人きりの久しぶりの休日をだらだらと過ごした。





























そして次の日、目覚めのいい朝だった。いつものだるい感じがなく、スッキリした朝を迎えるのはいつぶりだろうか。



テレビを見ながら、ゆっくりと朝食をとり、制服に着替える。


"緊急ニュースが入ってきました。今日未明、如月市の山奥で女子高生の遺体らしきものが発見されました。高いところから落ち遺体はかなり損傷しており、転落の可能性が高いとしていすが、不審な点が多く、警察は調査を続けています。"





「まじかよ、、かわいそうに、、、。」


そう言いながら、人夢は番組表を開く。


「お、今日あの深夜バラエティがゴールデンタイムにやるのか。楽しみだなぁ。」


人夢はテレビの電源を消して、家を出た。







































学校で一限目、二限目と退屈な時間が過ぎるのをペン回しをしながらボーッと待っていた。


窓の外には、ニュースで言っていた山が遠くの方に見える。


「人夢くん、、、、、。」



どこからか声がした気がした。優しい声。懐かしい声。美しい声。


人夢は勢いよくペンを落とす。ペンをは床の上にバウンドし坂上の元へとコロコロと転がった。



「何やってんだ人夢、ほい。」


落ちたペンを坂上が机の上に乗せた時、人夢の様子がおかしいことに気づいた。


「春、、。」


一人の少女の名前を呟いた。


「何言ってんだ。今は秋だろうが、、っておい、どうしたんだよ人夢。人夢?」


クラスメイトの視線が集まる。


野上人夢は泣いていた。


目を開けたまま泣いていた。


「何で、俺泣いて、、、、。」


涙が止まらない。


坂上は人夢を保健室に連れて行った。


その様子をクラス委員長の陽菜は心配そうに見つめていた。


「野上くん、、、。」






保健室までの道の途中、いつのまにか涙はとまっていたが、坂上が教室に戻ると、ベッドに横になった人夢は、わけもわからないまま一人でまた泣いた。





第一章はこれで終わりです。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。






第二章は委員長の陽菜のエピソードになっていきます。人夢とどう関わっていくのか、そして陽菜はブゼリアンについて何を知っているのか。


これからも応援をよろしくお願い致します。




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