第八話
「嘘だろ、、、こんなのありかよ。」
絶望。かつて殺された敵に再開してしまった。いつかまた出会うだろうと心の準備はしていたつもりだ。
「なんで今なんだよ!あと少しで、、、時空の穴が開くってのに!」
剣を振り抜くとともに身を翻しす。普通のブゼリアンと違う、その人に近いシルエット。体の大きさだけで見れば小柄な方だがその異様さが何とも言えない恐怖感を与える。
「ヤメテオケ、ナンドヤッテモオナジ。」
「確かに俺はお前に手も足もでずに殺された。でも、俺だって今日まで戦い方を研究してきた。」
掌に炎を灯して、後ろにいる春に言った。
「少し下がっててくれ。絶対勝つ。」
「うん、待ってる。」
春は笑顔でそういうと、花畑に入り身をかがめた。
「オレハ、シオミカイ二、ツクラレタ、セイブツヘイキ、、、カイ、、、、」
「カイ?それがお前の名前か、それにシオミカイ?あの白衣の男の名前だな。そこまで情報を俺に与えてどうするつもりだ。」
カイは首に手をあててコキコキと音を鳴らしながら答える。
「オマエハココデ、、シヌ。コロサレタアイテノ、ナマエクライ、オシエテヤル。」
(間違いない、こいつの知能指数は他の個体よりも高い、、それにこいつには人ににた感情がある。)
確かに自分はあの日から今日までいかに素早く正確にブゼリアンを仕留めるかを追求し、自分の力を把握することに努めてきた。
(こいつに、通用するのか?)
また無様に敗北し、激痛を味わうことになるのか。そして、、、また誰かを死なせてしまうのか。
「嫌だ、、もう迷わない。ここで、、俺はお前に勝つ!絶望を繰り返さないために!」
掌だけでなく、両足にも着火させ爆発させ、一気に距離を詰める。
カイの懐に入り込み、燃えている右足で蹴り上げ、浮き上がったカイの体にすかさず爆煙弾を叩き込む。
爆煙弾は手から離れ、カイの体にあたる直前で爆発した。
その爆風は離れた場所に身を隠している春の髪の毛を揺らす。
「人夢くん、、、お願い!勝って!!」
春は大きく叫んだ。
爆発とともにカイの体は大きく舞い上がる。
「コノ、、チカラハ、、!?」
以前戦ったときより格段に速くなった攻撃に不意を突かれたカイだったが、空中で回転し着地ーーー。
しかし、人夢の勢いは止まらない。地面に残った左足一点に力を込める。
「神速‼︎」
目と目が合った。高出力を出した人夢の全力の攻撃。
これで決める。
腕をたたんで、剣に炎をまとわせる。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
懐に入り込んだ人夢は剣を体の左側から一気に振り抜く。
「爆煙剣!!!」
轟音とともに爆風が吹き荒れ、周辺の草原から草が飛び散り、舞い上がる。辺りにとまっていた鳥や周辺の動物達は、その勢いに一目散に逃げ出した。
しかし、人夢の体制は静止したままだった。全身から汗が吹き出し始める。左側から振り抜いた腕は今、右側に振り切っていなければならない。つまり。
「そんな、、最大出力だぞ!?」
見つめる剣先の横にはバチバチと音をたてている光の壁が人夢の剣をしっかりと受け止めていた。
壁にピキピキとヒビが入り、砕け散って光となって消えていくと同時に人夢の剣が砕ける。人夢の手には消え去った剣の持ち手しか残っていない。
「イマノハ、、アブナカッタ。」
恐る恐る顔を上げると、そこには何食わぬ顔でこちらを見つめる赤い目があった。圧倒的な力の差。
ガシャンと人夢は剣の持ち手を落とした。
人夢が一歩引いて体制を立て直そうとしたその隙をカイは見逃さなかった。
人夢の体がくの字に曲がる。カイのひざが腹に食い込み内臓が悲鳴を上げる。
冗談抜きで意識が飛びそうな感覚を味わう。
えづく人夢の首を掴み持ち上げる。
呼吸ができない。
「ぐごぉ…ぐぎ…やべぇ…死ぬ……!!」
人夢は足に炎を充填しカイに向かって爆発させ自らを吹っ飛ばす形で空に投げ出された。呼吸をすることに精一杯で、受け身も取らずに地面に落下する。
地面にあたる衝撃で体の中のこもった空気が一気に外に出て、その後なんとか酸素を取り込む。
あの時と同じ。
まったく歯が立たない。
他のブゼリアンとは格が違う。
単純に力を振り回すだけでなく、使い方を知っているのだ。
人夢は空手や柔道をやっていた経験はないし、殴り合いの喧嘩すらしたことはない。
まともにやりあえば、待っているのはあの日と同じ、、完全敗北。
「駄目だ、、、俺はあいつを、、春を元の世界に返すんだ!!」
力強く立ち上がった人夢は天に手をかざすと、手元が光始め、砕かれてしまったはずの剣が出現する。
「オモシロイ。」
カイは首を大きく手を広げる。
「ドコカラデモ、コイ。」
どうやら本気で戦いを楽しんでいるようだ。やはり容姿や力だけではなく、他の個体とは根本的に何かが違う。
絶対的な自信がある、最後まで抗ってみな。とでも言わんばかりのその行動。
「アノメスハ、オマエガタオシタアト、シッカリシマツシテヤル。」
にやりと憎らしく笑い始めた。
「アノトキノ、ガキノヨウニ、、、クビノホネヲオッテヤル。サラニ、カラダヲグチャグチャ二キリキザンデ、、、、」
カイの言動に怒りが抑えられなくなった人夢は剣を握りしめ飛び出した。
「だまれ……黙れぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」
剣は光輝きだし、その周りを炎が絡みついている。体中からバチバチと火花を散らしている。肉体へのダメージを完全に無視した全力解放状態。
人夢は普段、異能の力、魔法を使う時には頭の中でイメージを固め、少量の出力を積み重ねることで操れるようになる。
爆炎や神速だって、何度も繰り返し使うことで汎用できるようになったのだ。
しかし、今は違う。目の前の敵を倒すための自分の力を解放することだけを考えていた。具体的に何かをイメージするわけでも、計算するわけでもない。
(痛覚が麻痺して痛みを感じねぇ、、かなりやばいがこれで全力を出せる。一か八かの作戦だ。)
カイは前方に光の障壁を複数出現させたが、人夢の剣は先ほどとは段違いの威力で一瞬で破壊していく。
「ヤハリ‼︎‼︎イカリコソチカラ‼︎」
しかし、障壁が増加していく度に剣は綻び始め亀裂が入る。自分の力を上げることに精一杯で剣の強度を上げるところまで手が回らないのだ。
「うぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎」
最後の障壁を砕くと同時に剣が壊れる。
目と目が合う。無関係な命を奪われたあの日の絶望を繰り返すわけにはいかない。
バチバチと音を鳴らし、痙攣する拳を握りしめ、炎をまとわせる。
離れた場所から春は叫んだ。
「人夢くん‼︎勝って‼︎」
カイは殺意剥き出しで現れた人夢に対して、親が子を迎えるように大きく前方に手を広げる。
「くらいやがれぇぇぇぇ‼︎‼︎」
ドゴォォォォォォォォ!!
大爆発。その風圧は必死に地面にしがみ付いていた春の髪飾りを吹っ飛ばした。
遠くの方で鳥達が羽ばたき、花畑の花びらは地面から離れて広大な丘の上に吹き荒れた。
バキバキボキ‼︎
腕の骨が粉砕したのを聴覚で確認した時には、腕はぶらりと垂れ下がり血がボタボタと落ちていた。
そして、目の前には焼け焦げた野原が写った。縁を描くようにそこには何もなかった。燃え尽きるというよりも消滅したという表現の方が正しいだろうか。
「粉々に消し飛んだのか?いや、、、。」
(確かに全力の一撃だったが、あの怪物を跡形もなく消し去るほどの威力だとは思えない。)
仮にもしそんな威力がでていたら人夢も同じように燃えかすになっていただろう。
「まさか、、、、。」
全力の攻撃だった。確かに殴った感触はあったはずだ。
「コレガ、イカリノチカラ、、、タイシタモノダ、、、ダガ、、、」
人夢が振り返るとそこには、横腹の辺りを押さえたカイが立っていた。
「まさか、あの状況で直撃しなかったのか、、、!?」
そう言いながら、人夢は無意識にカイと距離をとっていた。
なす術がない。
「イカリヲブツケ、、フリマワスダケデハ、、、、」
カイがそう言うと同時にグシャァァ‼︎人夢の体内から血が吹き出し、全身から力が抜ける。砕け散った骨では体を支えることは出来ず、地面に崩れ落ちる。
地面に到達するまでが無限の時の様に感じられた。いきなり電源プラグを引き抜かれたように一気に脱力する。
「ナニモスクエナイ。」
全身に痛みが走る。口から血を吐き、呼吸が困難になる。うつ伏せの状態からなんとか顔を上げ、呼吸する。
「ショセン、チカラヲテニシテモ‼︎フリマワスコトシカデキナイ‼︎、、、ショセン、、ニンゲンハ、、ソウイウイキモノダ!!」
カイは足を上げて、人夢の頭上に構える。太陽の光が遮られ、人夢の視界は暗くなる。
「シネ、ニンゲン。」
カイが容赦なく頭を踏み潰そうと足を振り下ろそうとしたその時。
突如として、少女の声が静寂を裂いた。
「やめて‼︎今すぐ人夢くんから離れて!」
人夢が声の方向を見ると、春が走ってきてここに向かって来ているのが見えた。
「やめ…ろ……くるな!!」
人夢の言葉は声にはならなかった。
しかし、春は例え聞こえていたとしても止まることはなかっただろう。
春は震える足を強引に押し殺して、必死に走る。このままでは人夢は殺されてしまう。
自分には何もできない、なんて考える余裕なんてなかった。
「今すぐその足をどけて!!」
春はカイに殴りかかろうとする。
しかし、春の手が届く前にカイの手は春の首を掴んでいた。
声を出せなくなり、息もできなくなった春は、恐怖と痛みで涙をこぼす。
「ヨクミテオケ、、ニンゲン。コレガ、、、、スベテノニンゲン二、、、」
カイは首を締める力を強め、左手の爪を尖らせてそっと春の腹に当てる。
「オトズレルミライダ。」