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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
夢と現実
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第六話

「まず、俺がこの世界に来るための条件は俺が現実世界で眠ることだ。つまり今頃現実の俺は呑気に寝てるって訳だ」


春の横に腰掛けた人夢は、真剣な表情で話し始めた。

「そしてこの世界は、現実世界に並列する世界だ」


人夢は難しい話を言葉を選んで説明する。

「つまり、私はワープゲートみたいなものを通ってこの世界に来たってことなんだね」


春は人差し指を口もとにあてる。


「春、時空の穴を知っているのか?」


「私この世界に来る時、何かを通り抜けるような感覚があったのを覚えているの。このくらいの大きさの」

春は自分の手で大きな円を描いて見せた。


「ああ、そのくらいの穴だよ。だったら話は早い。ここから抜けるのにもその穴を使う。ここからしばらく移動したところに発生するはずだ」

洞窟の外から大きな遠吠えのようなものが聞こえてきた。


「この世界にはいろんな生き物がいるんだね。今の声は何?」

「ここは今より遥か昔の世界なんだ。今では絶滅しちまった古代生物達が過ごしている。俺はそういうの詳しくないから名前まではわからない」

「あの白衣のやつが言ってたこと聞いてたか?」

「人夢くんと話している時、あの黒い古代生物を繁殖させているって言ってたね」


あいつらのことを思い出したのか、春の手が震えだす。人夢は春の手を握る。女の子の手を握ったことなんてなかったシャイボーイなのだが、恥ずかしさはなかった。ただ、こうせずにはいられなかったのだ。


「ああ、俺はあいつらを絶滅させるために戦って来たんだ。あのブゼリアンとかいう古代生物は時空の穴が開くと現実世界から人間を連れてくるんだ。」


ブゼリアン。白衣の男が繁殖させているかつて絶滅した生物。その見た目は真っ黒で赤い目をしている。


「初めてこの世界に来た時は俺はただの夢だと、憧れたヒーローになれたんだと襲ってくるあいつらを敵役だと認識して殺していた。でもある日から……」


過去のことを思い出して人夢は涙を流し始めた。

「悪い……泣きたいのは春なのに。だらしない姿を見せて。思い出したらつい…」

握っていた手を逆に春に握りかえされる。温かい手に人夢は少し心を落ち着かせることができた。


人夢は涙を流しながら過去のことを話し出した。














初めはどうせ夢の中だ。自由に動けるのなら楽しく過ごそうと思っていた。現実世界での嫌な出来事もここでなら忘れられる。


「今日は新しい技を覚えた、、!その名も爆炎弾!!こいつを使えばあいつらも瞬殺瞬殺。」

陽気に口笛を吹きながら人夢は未知の世界を冒険していた。見たことのない動物と走り回ったり、綺麗な大自然を見て思わず深呼吸したりしていた。

「この世界は美しい!他に口を出してくる人間もいないし、縛られるルールもない。最高だ!」







喉かなある日。


横から突如登場したブゼリアンには目を向けることなく掌を出す。


「爆炎弾。」


激しい炎の球がブゼリアンの体を焼き尽くす。


「ぐあぁぐがぁ!!」


その悲鳴を聞いて人夢は笑った。


「最強のヒーロー様にそんな不意をつく真似をするから悪いんだ。よっと。」


足を回してブゼリアンを蹴り払う。

それが滑稽で人夢は腹を抱えて笑うっていた。








その時、前方に紫色がかった穴が見えてきた。不思議に思った人夢は走って近づいていくと、その周辺には大量ののブゼリアンがいることに気づく。


人夢は木陰に身を隠し、様子を伺っていた。どのブゼリアンも手を叩き、キャンプファイヤーの周りを踊る小学生のようにはしゃいでいた。


ブゼリアンが取り囲む穴が光り始めそこからブゼリアンとその手に抱き抱えられた男の子が目に見えた。


「この世界に、俺以外に人間がいるのか?」


人夢はしばらくその様子を息を潜めて見守っていた。

男の子は気絶しているのかぐったりとしていて、首には虫取り籠がかかっていた。


中央に寝かされた男の子の前に一体のブゼリアンが立った。


そのブゼリアンは他の個体とは明らかに違っていた。手には指がついていて、足も人の足に酷似していた。


その特異なブゼリアンがしばらく眠っている男の子を観察した後、口を開いた。


「コイツ、コロス。」


人夢はゾッと鳥肌が立つのを感じた。背筋に何か冷たいものを感じるような錯覚。



それが号令になったかのようにゾロゾロと他のブゼリアン達はその場から離れていった。

「喋った、、、だと?」


そのブゼリアンは首に手を当て回転させコキコキと音を鳴らす。


その人間のような仕草がより恐怖感が込み上げてくる。






周りに他のブゼリアン達がいなくなると、人の言葉を話すブゼリアンは男の子の腹に軽く足を乗せた。


そのタイミングで男の子は目を開く。


「あれ?ここ、どこ?え?誰、、、」

「シネ。」


短い言葉。人夢は恐怖で硬直し、木陰から出ていくのが遅れたが、足に思い切り力を込めて飛び込む。


「まて、、、、‼︎‼︎」

人夢が飛び出したときには遅かった。男の子の腹はブゼリアンの足が勢いよく食い込み、口から血が飛ぶ。

「やめろぉぉぉぉ‼︎‼︎」


人夢は無我夢中で剣を抜き、ブゼリアンに斬りかかった。


だが、そのブゼリアンは普通ではなかった。夢の世界での人夢の目に見えない速度で人夢の真横に移動し、足を振り上げる。

人夢の腹にひざが食い込む。


鈍い音と共に、体をくの字に曲げてその場に倒れ込んだところをすかさず蹴り飛ばされ、近くの木に激突した。

「ゴホッ!ゴホッ、、、かはっ!」


なんとか肺に呼吸をいれ、剣を地面に突き刺しよろよろと立ち上がろうとして再び倒れる。


前を見ると、男の子は人夢の方を見て泣いていた。


「痛い、、、痛いよ、、、がっ!、、」


ブゼリアンの足は一瞬で男の子の首の骨が折られた。だらんと垂れ下がった頭を掴み、時空の穴へと放り込む。


ザッパーンという音ともに男の子の姿はなくなった。


人夢は目の前の出来事に唖然としていた。一つの命が怪物によってあっけなく潰された。


その怪物が一歩一歩こちらへ近づいてくる。


人夢は最後の力を振り絞って勢いよく立ち上がり、掌に炎を灯す。しかし、発射の直前で手から炎が消えた。


炎が放たれるよりも先にブゼリアンの腕が人夢の胸を貫いていたのだ。


ブゼリアンはそのまま腕を引き抜いて、心臓を潰され、完全に意識を失った人夢の頭を掴む。


「シタイハ、ゲンジツセカイニカエシテヤル。」


ブゼリアンは軽々しく人夢を穴に投げ入れようとした。










しかし、バチィ!!と音がして人夢の体は穴に弾かれた。

同時に人夢の体が光り始める。


「バカナ!!ナゼハジカレタ!!」


ブゼリアンが人夢をもう一度穴に押し込もうと頭を掴もうとしたがすでに、人夢の体は光に包まれ、消えた。


































人夢の話の間に焚き火が燃え尽き、リスもうとうとと眠り始めていた。

「その日からこれは遊びでやってる場合じゃないって気づいた。この世界は夢の世界ではない、実際に存在する世界。そして、目的こそ分からないがあいつらは人間を拐い、殺している。」


「苦しかったんだね、、一人で戦い続けてたんだね。ありがとう。」

春は優しく人夢の顔を抱き寄せる。

あの日からあの特殊なブゼリアンを恐れながらも時空の穴に寄り付かないよう一人でブゼリアンと戦ってきた。

確かにこの世界では人夢は強い。でも、力を使えば疲れるし、怪我をすればその分の痛みを味わう。


「今でも俺、、、あの男の子のこと思い出して泣く日があるんだよ。現実世界には俺は記憶を持っていけない、、俺は、、、!何も知らずにただ毎日を適当に過ごしているんだ!」


「私、もとの世界に帰れたらちゃんと両親ともう一回話し合ってみるよ。私の悩みなんて人夢くんに比べたらとんでもなーく小さなことだって分かったから。」


人夢が顔を上げると笑顔の春の顔があった。そして、自分が今女の子の胸の中で泣きべそをかいていたことに気づき、咄嗟に離れる。

恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしていることに気づき、立ち上がる。


「さ、さぁ!そろそろ気を取り直して時空の穴まで行こう。」



























「許さない、あのクソガキ!僕の顔に傷をつけおって、、、この痛み決して忘れはしない。」

白衣の男は、人夢に殴られ、壊れて完全に使い物にならない眼鏡をかけたままコンピューターと向かい合っていた。


「あと少しで完成だ、、後もう少しで完成する!!僕の最高傑作が!人類の知能とブゼリアンの秘めた力のハイブリッド生命!」

ゴポゴポと横の透明なガラスに覆われた装置から呼吸が聞こえ出す。


ブゼリアン達はその中の生命に怯えている様子で、その部屋から離れていく。


「あと必要なのは人間のメスの血液!時空の穴から人間を引っ張ってこれるブゼリアンは少ない、、、コストを考えてもあのメスを逃すわけにはいかない、、、」


白衣の男は椅子を滑らせて、一つのコンテナの前に座り、ボタンを押す。

プシューという音ともに冷気が放出される。冷気の中から入り口を五本指の黒い手が掴み、握ったところが大きく歪む。





「長い髪の人間のメスを血液採取後葬れ。ついでに、、、最近ブゼリアン達を襲っている少年を殺してほしいのだ。カイよ、貴様になら造作もない仕事のはずだ。」



カイ、と呼ばれた生物は白い冷気の中から返答する。



「リョウカイ、ニンゲンノメス、ケツエキ、ショウネンコロス。」




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