第六話
人夢が気づいた時には、とっさに春をかばっていた。正確に認識した時には背中が焼けるように熱かった。
結論から言うと、陽菜が近くに横になっていた春を見つけて瞬時に魔力をぶっ放したのだ。
「かはっ!」
背骨が嫌な音をたてたのがはっきりとわかる。殺意。今の一撃は、相手を痛めつけよう、倒してやろうというものとは違う、殺すための一撃。人夢は必至になって陽菜に吠える。
「待ってくれ!こいつは俺の知り合いなんだ!お前も知ってるだろ?如月春、ニュースで死んだことになってる少女だよ!」
それを聞いて特に驚く様子もない。というより話をまるで聞いていない。目の焦点は合わず、ふらふらと歩いてくる。
「だから何?どいてくれる?」
人夢としては、ここで、「どうしていきているのか」とか、「どうしてそんなことがわかるのか」とか何かしらの質問を受けると思っていた。
しかし、陽菜には届かない。ただ怒りの根源を、悲しみの理由をすっきりさせればそれでいい。その状態の陽菜を見て、人夢は嫌な汗をかきはじめる。
「まさか、もう一人の魔法少女は?君と一緒にいた、、、。」
「生きてるよ。命の心配はないわ。」
人夢はこの気の動転のしようから、てっきり霧ヶ峰彼方は死んだのかと思ったが、意外な回答が返ってきた。
「それなら良か、、、。」
「良くなんかないよ!!」
人夢が一つ安心してたまらず胸を撫で下ろそうとした時、陽菜の叫びが耳を叩いた。
「一歩間違えたら死んでたんだよ!?彼方は何も悪いことはしてない。私だってそうだ!なのに周りの、何も知らない人間達は私達の気も知らないで好き勝手文句言ってばかり!まだ、子供なんだから?笑わせないでよ、、どっちが無知なのよ!どっちが子供なのよ!そうだ、何もかもおかしいのはブゼリアンのせいだ。もう情けなんかない。これ以上私たちの根本的な部分を壊されるくらいなら!私は戦うことを選ぶ。いつか、また普通に暮らせるようになるまで!!」
陽菜が地面に転がる春に目掛けてステッキ片手に突進してくる。人夢は剣を抜き咄嗟にそれを受け止める。
火花が散って目が眩んだ後、陽菜の泣きそうな表情を目の前にして力が緩まる。剣が砕けてステッキが人夢の懐中に叩き込まれる。
「ごぼあっ!!」
かわいい見た目に騙されることなかれ。あれは武器であり殺すための道具だ。魔法少女を魔法少女たらしめる武器。
「戦う必要なんかない!話を聞いてくれ!」
人夢は腹を押さえながらふらふらと立ち上がる。しかし、そんな状態でも陽菜は容赦なくステッキを振りかざす。
「スピリットファイアぁぁぁあ!!」
全力の一撃。陽菜が最も得意とするカミルンの必殺技を模した物。
凝縮された光のエネルギーの周りを炎が覆い加速していく。
届くまで何秒もかからなかった。人夢は転がるようにして避けるが間に合わない。避け切れなかった左肩を貫いたかとおもうと、炎が腕を燃やし尽くす。
倒れ込んだ人夢の左肩は消失し、赤黒い血が溢れ出す。痛みはもちろん、そこにあるはずの物がないという気持ち悪さに吐き気が止まらず嘔吐する。
「ぐがっ!あ、、」
陽菜は自分がやった行動に震え上がる。
「いや、、、いやぁぁぁ!!あなたが邪魔をするから、私はっ!こんなことするつもりはなかった。」
しかし、人夢のこの体は実体ではない。もとに戻そうと思えば再生できるはずだ。しかし、それができる体力も魔力も残っていない。声を出すこともできず、口をぱくぱくさせながら陽菜に訴えかける。
「落ち、、つい、、て。はな、しを、、よう。」
小さなかすれ声は今の陽菜に届くはずはない。たとえ耳に入ったとしても認識してするかは別の話だ。
「あなたはそこで待ってて私はあの怪物を殺す。そこから治癒魔法をできる限りかけてあげるから。」
春は眠ったままだ。殺意剥き出しで近づいてくる敵に反撃する様子など微塵もない。まるで殺されることを願っているかのように。
陽菜はステッキをかざしてから改めて春の顔を見る。自分たちと同じような顔立ち、寝相。人間味溢れるその姿に惑わされそうになるたびに首を振ってもう一度その姿を見る。長い爪、巨大な魔力紛うことないブゼリアン外敵だ。
陽菜はステッキを振り下ろす前に、無意識に呟いていた。
「ごめんね。」
長らく最新話を更新できそうにありません。
申し訳ないです。




