表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
衝突
44/45

第五話

結論からいうと、陽菜は叱られた。我が子なのだから当然だ。しかし、陽菜には事情がある。誰にも話せない事情だ。いつものようにガミガミと説教をくらい、部屋に戻ると怒りが込み上げてきた。

「知らないくせに。」

陽菜はベッドに倒れ込んで、枕に顔を伏せた。色々なことが脳裏に蘇り、だんだん自分の感情が分からなくなり、髪の毛を掻きむしる。


「どうしろって言うのよ!私一人で!彼方でも勝てなかった相手に、どうやって!」


今まで魔法少女の活動方針はほとんど彼方がやっていた。どうすれば効率良くブゼリアンを倒せるか、どの道を行けば安全か。思い返せば陽菜が自分で選択したことなんてなかった。

「そうだ。」

「彼方が必要だ。」

「彼方は戦えない。」

「どうして?」

「負けたから。」

「誰に負けた?」

「あのブゼリアンに負けた。」

「よし、殺そう。」


陽菜はふらふらと立ち上がり、窓を開けて飛び降りた。着地した時の音はない。陽菜は隠すこともなく魔法少女な姿を夜の街にさらけ出していた。


「絶対に許さない。」


陽菜は目一杯足に力を込めて飛び上がり夜の街に羽ばたいて行った。













人夢は腕の中で今にも生き絶えそうな少女の冷たさを感じる。あの日の春とは別人のように疲弊しきっている。


「私、多分もう化け物になっちゃったんだ。」

どこを見ているのか、春の視線は揺らいでいる。


「化け物って、、まさかあいつらあの後、春を殺したんじゃなくて何かやばい実験のモルモットにしたってのか!?」


「違うよ。」


春は人間の叫びを短く遮る。


「モルモット、何かじゃない。実験動物っていうのはあくまでも実験に使われる道具。でも、私は違う。私を創り出すことが神山という男の目的だった。」


「創り出す?ふざけやがって!今までの人生を、歩んできたものを紡いできたものを!何だと思ってる!」


「私には何もないよ、私は生後数日の身だからね。」


「は?何言って、、」


「私は、如月春という少女は死んだの。文字通り。今の私は正確には如月春じゃない。見た目も記憶も人間性も如月春。クローン、って言ったら分かりますいかな?」


人夢が驚いたのはここにいる少女がクローンであるということではない。ニュースでも報道された通り、彼女が死んだのは間違いない。遺体も発見されているのだ。辻褄を合わせるという意味では、本当なのだろう。

「何でそんなに落ち着いてるんだよ。お前。」

「だって私は今ここで死ぬから。あなたの手によって殺されるから。」


今まで遠くを見ていた春の目はしっかりと人夢に向けられる。


「だって私は君のお友達を殺した化け物。殺さない理由がある?」

「でも、、!!」

「私は如月春じゃない。もう不安定な体を無理矢理動かされて誰かを悲しませるのは嫌、、だから、、」


春の全身から力が抜けて赤子のように眠り始めた。生命体としてはなんら赤ん坊と変わらない。そんな状態で無茶苦茶な力を暴走させて体がもつわけがない。


「殺してくれ、、か。」


人夢の膝の上で眠っているのはどう見ても無垢な寝顔をしている春だ。髪の毛は黒く染まり、爪は長く、身体には多くの血を浴びているが、確かに彼女は人間だ。


人夢は周囲を見渡す。草むらは風に乗って吹き飛び、岩は砕けて散っている。ぼこぼこと地面に穴が空いている以外、ここにはなにもない。


「赤崎さん達は無事に逃げたみたいだな。霧ヶ峰さんは大丈夫なのか、、?」

正直言って、素人目に見ても助かる状態ではなかった。魔法少女というものがよく分からないため、助かっている可能性もある。


「そういえば、まだ来ないのか?目覚めがここまで伸びるのは初めてだ。」

人夢は夢の中で活動している間、本体は眠っているはずだ。流れる時間にずれこそあるものの向こうでもかなりの時間が経っているはずだ。


「時間の限り考えるしかないか、春を救い出す方法を。」


人夢はごつごつとした石を足で払い除け、そっと春を寝かせる。


抱きかかえたままでは戦えない。


ぞろぞろといつもの赤い目の化け物達が辺りを囲んでいた。

「グギャァァァァ!!」


「お前らに付き合ってる時間も体力もない!!速攻でぶち殺してやる!」












ものの数分で当たりのブゼリアン達は生き絶えた。血で汚れた剣を鞘にしまい、人夢はその場にうつ伏せになってぶっ倒れた。


電池切れである。



















そこまで長くは眠っていなかっただろう。強大な魔力を感じて人夢は目を覚ました。すぐに春を確認するが、彼女はまだ眠ったままで、とくに力は感じない。


「じゃあ、このエネルギーの出どころは一体、、!?」


その力の方向に視線を向けると同時に素早く抜いた剣先も向ける。


「君、ちょっと聞きたいんだけど。さっきまで戦ってた化け物はどこ?」


力の発生源は赤崎陽菜。プレティーなひらひら衣装を纏った女の子。その衣装はアニメカミルンの主人公に酷似している。


「赤崎さん、、どうして泣いてるの?」


人夢は剣を下ろして問いかける。ゆっくりと歩くその少女は、端正な顔立ちを台無しにする形相で涙を流していた。


「聞いてる?あの化け物はどこ。」


その声のトーンは優しく、どこか冷たかった。事情を知らない人が聞けば友達の場所を尋ねる、そんな風に問いかけてきた。


「見つけて、どうする?」


人夢はそれだけ尋ねたあと、ごくりと唾を飲み込んだ。


少女は歩く速度を緩めることなく、人夢の目と鼻の先に詰め寄った。

「もちろん、殺す。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ