第四話
陽菜は病院に泊まろうかと思ったが、彼方の両親が付き添うと言ったので邪魔にならないように病院を後にした。
電車に揺られながら、これからのことを考える。彼方はしばらく戦える状態ではないだろう。しかし、目に見えてブゼリアンの恐怖は迫っている。果たして本当に自分一人で対処できるのか。
電車がブレーキを踏み、力が抜けきっていた陽菜はトンと隣に座っていた小さな女の子に肩をぶつける。
「あ、すみません」
陽菜はそのまま体制を立て直して横に座ろうとした時、その女の子が持つスマホが目に入った。
少女はアニメ魔法少女カミルンを見ていたのだ。
「あ、カミルン」
陽菜は反射的にボソッと声を漏らす。しかし、少女はイヤホンを着けていたため、陽菜の声が聞こえることはなかった。小学校低学年くらいだろうか、目を輝かせながら画面に映るヒロインを見つめていた。陽菜はついつい、悪いとは思いながらも横目で少女のスマホに目をやる。
カミルンはどれだけの敵の攻撃を受けても立ち上がっていた。表情を歪めながらも足に力を入れて立ち上がっていた。
陽菜はいつもカミルンの真似をしていた、今だって魔法少女になった時に使う技は、ほとんどカミルンのものだ。でも、これは所詮作り話だ。制作側はいきなりこんな状況に立たされた普通の少女を理解しているのか。本当に命を懸けて戦うことの恐ろしさを理解しているのか。
(彼方、ごめん。やっぱり私はカミルンにはなれないよ)
陽菜は小さい時に交わした二人の約束を思い出して溢れる涙を堪える。
次の駅でその少女は降り、終電の車内は陽菜だけになった。
「彼方のこと、親になんて言えばいいのよ」
その足取りは重かった。夜遅くに出歩いていることを陽菜の両親は、特に母親はよく思っていなかった。正直なところ、最近関係が上手くいっているとは言えない。
なんて言われるだろうか。怒鳴られて、叩かれるのだろうか。何も言い返すことなんて出来ない。世界の危機のために戦ってましたなんて言えるわけがない。
現実の赤崎陽菜と向こうの世界での赤崎陽菜。完璧に両立なんて出来るはずがない。
陽菜は自宅に着くと、ゆっくり扉に手をかける。
ガチャリと音がして、ドアが開く。真っ暗な玄関にリビングから光の筋道が出来ている。




