表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
衝突
41/45

第二話

目を覚ました彼方に陽菜は泣きじゃくった顔をこすりつける。生きていた喜びだけが陽菜の胸に込みあがってきた。しかし、事態が改善したわけではない。

彼方は泣きじゃくる陽菜の耳元で力強くささやいた。


「陽菜、逃げよう。勝てる相手じゃない。時空の穴をこじ開ける力は残ってる?そろそろこの世界とのリンクが切れるころ、、げほっ!!」


その声を拾って、陽菜ははっと我に返る。そう、いち早くここからはなれなければならない。

「わかった。待ってて今開けるから!!」


陽菜は大急ぎで立ち上がって両手を正面にかざして力を込める。手のひらに魔力を集めて、波を発生させて、振動させる。徐々に魔法陣のようなものから、向こうの世界につながる穴が広がっていくのが分かる。陽菜は横目で彼方の方に目をやる。彼女は呼吸をするたびに苦しそうにせき込みながら、なんとか体を起こそうとしていた。


「無理しないでよ彼方、私が運んであげるから。ほら見て、なんとかなったみたい!!」


陽菜の目の前には、人が潜り抜けるのに十分な大きさの穴ができていた。この世界にきてからかなり時間が経っているため、そもそもまだとどまっている方が世界にとってはイレギュラーな状態なのだ。二人の帰還を後押しするかのようにいとも簡単に開いた。


陽菜は彼方を抱きかかえて穴に通す。少女の体は吸い込めれるように消えていった。陽菜も続けて飛び込もうとして足を止めた。まだ彼は戦っている。本来、民間人の命よりも魔法少女の命を優先することがあっていいとは思わない。でも。彼は特別で、強いのだ。きっと大丈夫。本当にそう言い切れるのか、そんな判断自分が助かりたいだけの逃げではないのか。


「でも、早く戻って彼方を助けないと、そもそも私がいったってどうにかなる相手じゃない。ごめん、君は自力で逃げて、、、」


人夢の救出を仕方なく断念して、脱出しようとしたその瞬間。竜巻が一気に吹き飛んで同時に曇が分散していった。陽菜が思わず振り返ると、そこにはすでに人夢の姿はなかった。


いたのは黒い影だけだった。その影は人型で、長い髪の毛も持っていた。そんな異質な容姿でふらふらとした足取りでこっちに近づいてくる化け物に抱く感情は恐怖だった。


「逃げなきゃ、、」


そう呟いた後の陽菜の姿は滑稽だっただろう。強い魔法少女でも頼れる委員長でもない。ただ恐怖に突き動かされて尻をふって逃げた。陽菜は穴に飛び込んだ後の記憶はない。














陽菜は森の中で目を覚ますと、すぐ横で倒れている彼方に気が付いた。ここから救急車を呼んでもどれだけ時間がかかるか分からない。陽菜は自らの姿の視認を妨害する魔法ロストサイトを使った状態で飛行しようかと考えたが、彼方がその魔法を使えない以上、少女が空を浮いている現象が周りに見られてしまうだけだ。本来、魔法少女の姿を現実世界で人前にさらすのはご法度であり、師匠からも教えを受けていた。


でも、今はそれしか方法はない。今は幸いにも外はすっかり日が落ちていたため、少しの間くらいなら問題ないだろう。陽菜は彼方を抱えて飛び上がって、翼を広げて一気に山を下降し、近くの大きな病院の近くに着地した。


陽菜だって心はズタズタに引き裂かれている。どういう選択が正しいのかを適切に判断することなんてできない。ただ、彼方を助けることだけを考えていた。変身を解いて、病院の正面玄関から彼方を抱きかかえた状態で入る。時間帯的にはもう基本的に見舞いなどは終了していて、ロビーに一般人は誰もいなかったのが救いであった。血だらけの少女を抱えて入ってきた陽菜に、一人の看護師が大声をあげて人を呼んだ。その後、数人の看護師が駆け寄り、奥から医者らしき白衣をきた男性が走ってくるのも分かった。


「君!!この子はどうしたの!!?」

「今すぐ担架を持ってきて!!?」

「君はなんともないのかい!?」



そんな大人たちの質問に陽菜は涙を流した。どうやって説明すればいい。こんな意味不明な状態の二人を。

陽菜はただ力なくこう言った。


「この子を助けてください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ