第一話
ここから本当に僕が書きたかった展開になります。次回からもお楽しみに
黒い竜巻のもとに一足先に着いた陽菜は驚愕の景色を目の当たりにしていた。その目はその竜巻の八再現を見つめているわけではない。少し離れたところに、真っ赤な血に浸ったもう一人の魔法少女、霧ヶ峰彼方が横たわっていた。
「嘘でしょ、彼方、、彼方ぁぁぁぁぁぁ!!」
陽菜はすぐに彼方のもとに飛び立って抱きかかえるようにして体を起こす。体を揺すっても、目を閉じたまま何の反応もなかった。
「そんなわけないもん、死んじゃうことなんてないもん。彼方、彼方ぁぁ!!」
ボロボロと大粒の涙を流しながら大声で泣き始めた。
追いついた人夢はその光景を見て、歯が砕けそうになるほど歯ぎしりする。拳を硬く握り、ゆっくりと黒いエネルギーの放出元に目をやる。
バチバチと音を立てながらその場に存在していた。その中に人影を見つけた。真っ黒な髪の毛に真っ黒の肌、赤い目がこちらを覗いている。
「ふざけるなよ、、、お前。なんでお前みたいな怪物に友達が殺されないといけないんだよ、、、」
エネルギーの中の怪物が叫び声をあげながらさらに出力を上げる。渦の中に雷が鳴り響き、周囲に風が吹き荒れる。その付近で陽菜は彼方を抱えながら上を向いて泣き叫ぶ。
人夢には大地が揺れる音よりも、怪物の唸り声よりも、稲光を発しながら発生する雷よりもその少女の叫びが痛い程に刺さる。
「霧ヶ峰さんはな、どんな相手にも優しくて、みんなから慕われてたんだ。それでも特に赤崎さんのことになると夢中になるような人だったんだ。俺だって全然付き合いがあるわけじゃないけど、霧ヶ峰さんは、ほとんど話したことのない俺なんかにも明るく接してくれた....」
彼方と過ごした放課後を思い出しながら人夢の頬にも涙が流れる。
「俺たちを....人間をなめるなよ、ブゼリアンッ!!!」
人夢は流れる涙を一度だけ腕で拭うと、大声をあげながら、竜巻に飛び込む。
竜巻の中に入ると、すぐにその回転に巻き込まれて目の前が真っ暗になる。ドスグロい何かが体の中を侵食してくる。
「うぁぁぁぁぁぁ!!!」
吐き気と頭痛に襲われて意識を持っていかれそうになる。ぐるぐると竜巻の中を回りながら、如月春の涙を思い出す。
「あの時と同じ、何もできないなんて馬鹿なことは言わないよな野上人夢!!」
自分で自分を鼓舞して気持ちを高ぶらせる。足に力を込めて効果力で爆発を起こす。一回の爆発力では脱出することはできなかったが連続でエネルギーの放出を続ける。
足が痺れ麻痺しそうになりながらもなんとか竜巻の中心に転がり出る。
周りは暗闇で時々光る稲妻が眩しい。こんなところをぐるぐるまわっていたかと思うと身の毛がよだつほどの闇。酸素も薄く、
「そこにいるんだろ、降りて来いよ!!ブゼリアン!!」
人夢は上に浮いている黒い影に呼びかける。呼びかけられた影は、人夢に気づいて目線を下す。
「お前を殺す。例え何回殺されても、何度でも立ち上がってやる!!早く降りてきやがれ!!」
人夢は指を指して宣戦布告する。
その影はゆっくりと地面に降り立ち、顔をあげた。降りてくる最中に人夢は何も攻撃しなかった。正体が分からず怖かったからではない。その姿に目を奪われていた。
片目は赤く、髪は黒く染まり、片腕はごつごつした筋肉質な腕に変化していたものの、人夢はその正体にすぐに気が付いた。
「なんで、春がここに、それにその姿は、、?」
人夢は頭の中がぐちゃぐちゃになった。どうして生きているのか、どうしてここにいるのか、どうしてこうなったのか。
「人夢くん、だよね、思い出した、よ?私のヒーロー....」
春は全身から力が抜けて地面に倒れそうになる。でも人夢がその華奢な体を受け止めていた。さっきまで殺してやると思っていた相手を優しく受け止めていた。
「春、だよな?なんでこんなことになってんだよ!!?意味わかんねえよ!」
「春?そうだ、それが私の名前だったっけ、そんな気がするよ」
竜巻の外側、彼方を抱きかかえて泣いていた陽菜の手をそっと握る手があった。
「陽菜、よかった無事だったんだね?」
陽菜が目を開けると、口から一筋の血を垂らしながら微笑んでいる彼方の姿があった。




