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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
夢と現実
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第四話

階段を降りると、開けた空間が広がっていた。洞穴というレベルではない、研究室がそこにあった。見る限り、電気も通っているし、至る所に機会が置いてある。


人夢は奥にある二つの影を見つめた。そこには手を鎖で縛られた女子高生の横に眼鏡をかけた白衣の男が立っている。


「その子を放せ!!!!!」


人夢は剣を構えて叫んだ。白衣の男は両手を上に挙げて笑う。


「こちらに戦闘の意志はないさ。むろん、君から仕掛けてくれば……」


女子高生の首元にカッターナイフを近づける。


人夢は剣をしまう。相手が何を考えているかわからない以上、むやみに手を出すのは危険だ。

「あんたも人間のようだが、なぜこの世界にいる?」


白衣の男は笑いながら答えた。

「ははっ。君、どうやら迷い込んだタイプの人間ではないようだね?しかも、ここまで入るのに私の子供たちを何人も相手してほとんど無傷とは……ふふ。面白いねぇ……いいだろう。その質問、答えてやる。まずは、あれを見たまえ」


白衣の男は自身の右を指さす。人夢が指さされた方向を向くとそこには無数の培養器があった。


小さな機械音を時々中のゴポゴポという水中の中の空気が音を立ててかき消している。


その中身は、知っているものよりサイズは小さいが間違いなくこの世界で人夢が殺してきた黒い生物だった。


「嘘だろ……なんでこんなものが…」

培養液の中から赤い目がギロリとこちらを睨んでいる。


「何でこんなもの作ってるんだよ!だから貴様は一体だれなんだ!!)


「僕はただの研究熱心なだけの普通の人間だ。そして、彼らは僕が繁殖させている生物。普通の人は知らないだろうが、昔、人類の祖先に滅ぼされたブゼリアンと呼ばれる種族がいた。単純な力こそあったが、なにせ知能が低い。しかもその繁栄数は少なく、すぐに絶滅の道を辿ったのさ。」


人夢はあの生物の恐ろしさを知っている。この世界の状態の自分でなければ、一撃食らうだけで、何本の骨が砕け散るかわからない。


「どうして、、いったいなぜこんな生物を増やしている!?」


「黙れ!!!!!」

男の落ち着いていた話し方が一気に荒くなる。

「クソ人類より全然マシだろう?変に知能が発達し、悪知恵しか働かんようなゴミより断然よいではないか!?ブゼリアンの方が優れていることは直ぐにわかる。」


男は鎖に繋がれている女子高生の胸ぐらを掴む。女子高生は苦しそうに足をばたつかせる。

「う、うぐぐぐっ」


白衣の男は徐々に怒りの形相へと変貌していく。

「ああ!人間を見ていると腹が立つ!!今にも……今にも今にも今にも!殺してしまいそうになる!!!」


女子高生は、恐怖で涙が溢れる。その顔を見て、男に襟を掴まれる力はますます次第に強くなる。

「やめろ!!!」

咄嗟に殴りかかろうとする人夢の行く手を後方から出て来た、数多のブゼリアンに囲まれる。


研究所の外にいたブゼリアンはここの見回り隊でもやっていたに過ぎないのだろうか。外よりも多くのブゼリアンが行く手を挟んでいる。


(無闇に爆炎弾を使えばあの子に被害が及ぶ可能性がある。どうする?どう切り抜ければいい!?)

「君にどんな力があるか知らんが、流石にこの数を相手するのは無謀ではないか?」

「きしゃしゃしゃ!!!」 

ブゼリアンは奥からどんどん現れ、赤い目がいたるところからこちらを覗く。

このままでは少女を助けるどころか自分まで殺されかねない。


そもそも自己防衛で一体一体処理していては時間がかかりすぎる。

短期決戦。優先順位の1番高い人命救助だけに集中する。この男には聞きたいことがあるし、こんな施設は崩壊させておいたほうがいいだろう。


だが、今目の前に泣いている人がいるのが耐えられない。きっといつかここに戻ってきて全てを終わらせる。


人夢は深呼吸し、自分に暗示をかける。

「この世界では、、俺はヒーローなんだ‼︎人を一人救えないでどうする‼︎」

足に思いきり力をこめる。

「神速‼︎」


足で地面を蹴った瞬間、人夢はブゼリアン達の中を一気に飛びぬけ、白衣の男に顔を出す。目と目が合う。


「馬鹿な!あり得ない!このクソガキがぁぁぁ‼︎」

男は手に持っていたカッターナイフをかざすが常人では"夢の世界での人夢"の速度には間に合わない。


男が回避しようとする前に人夢の右の拳が顔面に炸裂する。男の眼鏡が曲がり顔に食い込み、その衝撃で男は後方に軽く吹っ飛ぶ。

「ぐぼぉおがぁぁ!!」

人夢はその隙に鎖に剣をしまうと、涙で顔がぐちょぐちょになった女子高生を抱きかかえる。体温は低下し、力も入っていないようだ。恐怖で怯えきっていた少女に、人夢は笑いかける。


「大丈夫、もう少しの辛抱だから。」

二人の行く手を、怒り狂ったブゼリアン達が立ち塞がる。

人夢は炎を足にまとわせ、蹴飛ばす。

「爆炎脚!!!!!」


ブゼリアン達が仰け反る。

その間を潜り抜け、階段を駆け上がる。もうすでに息が上がり、かなり無理をした足にも痛みがではじめる。慣れない行動をすれば体に大きく負荷がかかるが、今は足をもいででもここから遠くに離れる必要がある。


入口は幸い開いたままだったため、勢いよく光が差す外に出る。

「神速!!!」

外にでてからもできるだけ離れる。それしか頭になかった。洞窟の入り口付近には何体かブゼリアンがいたが相手をしている余裕はない。痛みが走り、今にももげそうな足で野原を駆けていく。

移動の途中、女子高生がまだ恐怖で震えながら尋ねる。

「あなたはいったい、、、何者、、何ですか?」


人夢は痛む足を必死に堪えて、精一杯の笑顔で恥ずかしそうにこう言った。

「俺は正義の味方…最強のヒーローだ。」













どれだけ離れたか分からないが、広いスペースの洞窟を見つけ、身を隠すことにした。


周りにブゼリアンがいないことを確認し、枝を拾ってきて人夢が火をつけて、ようやくお互いの顔を認識できるようになった。


少女は、明るい綺麗な髪がどろどろになっていた。制服は人夢が知っているものではないため、あの事件が起きた場所、人夢が住む街が地元というわけではなさそうだ。



「口に合うかはわからないけど、これは、飲めるジュースだ」

人夢は穴があいた大きな果実を手渡した。少女はそれを受け取って口に運ぶ。


「甘くて、、、美味しい」

「それは良かった。ここに置いてるから好きな時に実に穴を開けて飲んでくれ」


人夢は少女が落ち着いたのを確認して、これまでの経緯を聞いてみた。


「まずは自己紹介だね。私、如月春。昨日両親と進路で喧嘩しちゃって、、、電車に乗って如月まで行ったの。別に特に何か目的があったわけじゃなくてね、、ただ遠くまで行きたかったから、自分の名前と同じだなぁ、なんて思って適当に降りてみたの」


洞窟にいたリスが焚き火の炎に怯えて春の足に寄り添う。


「それで、如月に着いた如月さんは…ってなんかややこしいな」

人夢は頭を抱える。

「ふふふっ。じゃあ春でいいよ、あなた名前は?」

「野上人夢だ。人に夢で人夢」

「人夢くん、ね。うん、すごくいい名前」


人夢は照れて赤くなって小枝を炎に投げ込む。


「それで、、、春さんはどうやってこの世界に連れてこられたの?」


春は足元のリスを優しくなでながら答える。


「駅から出て、ボーッと歩いてたらさっきの黒い生物に出くわしちゃって。あ、これが噂のUMAだ、って思ったらすごく怖くなったの。一歩も動けなくなって、、たぶん気絶しちゃったんだと思う。気づいたら歪んだ空間で必死にもがいてた。次に目を覚ましたら、あの眼鏡をかけた白衣の人がいて、私、すごく怖かった、、、、ありがとう、助けてくれて。」


春はははっと笑う。その顔は辛そうだった。確かに安堵の笑みを溢しているが、それは心からの笑顔でないことは分かった。


人夢はただ悔しかった。自分がこの世界で早くあいつらを消し去ってしまっていたら、現実世界の人が、春みたいな普通の高校生が連れてこられるなんてことはなかったのだ。」


ありがとうの言葉をどうしようもなく申し訳なく感じ、胸が痛む。

「あいつに何かされなかったか?」

「実験室のようなところに寝かされていたけど、、、思い出せない。表に出ろって引っ張られて、、、必死に叫んでたら人夢が来てくれた。」




あいつらがなぜ現実世界から、ここへ人をさらってくるのか?


行方不明者は一体あいつらになにをされたのか、今どこにいるのか。


確かめたいことは山積みだ。



でも、、、、、、


「春……俺が戻ってくるまでここで隠れていてくれ。俺がこの世界にいられる時間のタイムリミットが近づいてる。絶対……戻ってくるから。」


すでに足元が光って薄くなっているのを目にした春は、不可思議な出来事を目にしているにも関わらず、人夢に質問することはしなかった。


今、自分が質問してもこの今の現状が変わるわけじゃない。そして、ただ一言。

「わかった。待ってるね」


心配させないためか、春は笑顔で手を振っていた。片方の手はリスを撫でているふりをしているが、小刻みに震えている。


「悪い……すぐ戻る!!」


人夢は勢いよく洞窟から飛び出し、走っている間に光に包まれて消えた。


制限時間。夢は目覚めれば覚めてしまう。人夢が見ている夢の世界は終わりを告げる。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いきなりヒーローを名乗って無双する、なろうらしさがあり、バトル描写が多いことは好感が持てます [気になる点] 超能力の中身の説明が欲しいと思いました 急に能力を発揮しても、なんだなんだ?っ…
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