第十二話
陽菜と人夢の二人は、ブゼリアンの群れを切り抜けた。二人には疲労の色は全く見られない。普段一人で戦っている人夢にとって、一人多く仲間が多いだけでここまで違うのかと驚いていた。一緒に戦っているのがあの赤崎陽菜なのだ。彼女の能力に謎な点が多いものの心強くないはずがない。
「何か異様にジャクティスに戦い方が似てない?いや、もはやテンプレじゃないの?包み隠さずに言わしてもらえば、パクリじゃないの?」
陽菜は一段落してから急に変な話を切り出した。
「ま、まぁね。参考にはさせてもらってるよ。俺だって戦いなんて全く分からなかったんだ。教科書がそれしかなかったんだよ」
人夢は恥ずかしそうに指で頬をかきながら答える、自分では分かっているものの、いざ第三者に言われるとかなり恥ずかしいものである。
しかし、人夢は腑に落ちなかった。
「なぁ、じゃあこっちも言わせてもらうけど、そっちこそカミルンそっくりじゃないか!戦い方もそうだけど、その、衣装とかさ」
人夢がそういうと陽菜は目を輝かせて人夢に迫る。
「本当っ!?ほんとに言ってる?私カミルンみたいになれてる!?」
自分とはテンションがまるっきり違う。陽菜は生粋のカミルンファンなのだ。その勢いに人夢は圧倒されて思わず一歩退きながら答える。
「ああ。似てる似てる。似てます、可愛いです!!」
「ふぇ」
陽菜はぽかんと口を開けて人夢と目を合わせる。お互いに恥ずかしさが急に込みあがってきて背を向け合う。陽菜は横髪を指でこねるようにいじる。今ままでも何回も男子にかわいいなんて言われることは結構あった。
「なんでこんなに気にしちゃうんだろう」
陽菜は自分が見ず知らずの少年を気にしていると認めたくはなかった。そういえば、あの日助けられてから時々この人のことを思っている。それは未知の人物への興味ではなく。
「やっぱり私この人のこと,,,,」
少女がゆっくりと振り返ろうとした時、いきなり大地が震えだした。気を抜いていた二人は足をすくわれて倒れそうになる。人夢はすぐにその黒いエネルギーを察知して思わず陽菜をかばうようにその震源地に体を向ける。陽菜は何が起こったか分からないまま気づけば人夢の背中にしがみついていた。密着する陽菜に、いつもの人夢なら慌てて飛びのいていただろう。
しかし、今はそんななんてことのない、(いつも)とはかけ離れていた。逆に人夢は陽菜を抱き寄せる。全てを飲み込むような黒いエネルギーが竜巻のように発生している。人夢はその時、この子を失いたくないと思った。あの時のように、如月春を助けられかった時のようにまた失うことが怖かった。陽菜も意中の相手に思い切ったことをされてドキドキするなんて思考はなかった。
ただ人夢が怯えていることに気づいた。ブゼリアンが現れても冷静に対処できて、巨大なブゼリアンに対しても恐れることなく、圧倒的な強さで倒している姿しか見てきていない。
そんな彼が震えている。それだけで陽菜はそのエネルギーがいかにやばいかが伝わってくる。
「ねぇ、大丈夫。震えてるけど」
陽菜の呼びかけにはっと我に返った人夢は心配そうに見つめる陽菜の顔を見つける。
「嫌な予感がする。君はここで待っててくれ」
人夢は陽菜から離れてその黒いエネルギーのもとに歩き出す。
(同じ感じがする、カイとかいうあのブゼリアンと同じ何かがある)
「待ってよ!!私も行くから、そもそも私から見ればあなたのほうが民間人だからね。命令する権限はこっちにあります」
この少女が頑固なのは知っている。こんないかにもやばそうなところに見ず知らずの人を送り出すわけがない。でも、人夢はこの世界で死んだとしても何度も蘇れる。現実に目覚めたときに体の調子を崩して寝込む程度で済む。しかし、彼女のいう魔法少女はそんな機能があるとは思えない。
肉体が現実の体と同じの彼女は無事に帰れるとは思えない。
「ダメだ!危険すぎる。連れていけない」
「だったら勝手にいかせてもらうわ!!」
陽菜はむかついた。頼りにされていないんだとそう感じて、翼を生やして一気に人夢の横を通り過ぎた。
「待て!!危険すぎる!!」
一歩遅れた人夢はすぐに陽菜を追いかける。
脳裏にあのカイというブゼリアンの姿が浮かぶ。ずきずきと頭が痛くなってきた・
「気のせいだ、きっと大丈夫なはず、、赤崎さんも霧ヶ峰さんも絶対に元の世界に返すんだ!!」




