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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
悪夢の始まり
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第五話

彼方は一人でいる時の陽菜を見ていつも我慢出来なかった。一人で平気だ。カミルンさえいればいい。そんな風に言っているが、そうは思えなかった。だからいつもちょっかいを出したくなるし、何かあれば話しかけに行っていた。本当は面白い子なのに、人づきあいが苦手なのだ。


「私がお世話ばっかりするのがいけなかったのかな。今の陽菜本当に楽しそうだし、桜も私達といた時より楽しそう」



陽菜が桜に話しかけて二人で遊ぶようになってからしばらくして事件は起きた。彼方は桜を無理に引き戻そうとはせずに、陽菜ともほとんど話していなかった。


昼休みになると彼方はみんなを引き連れて遊びに外へ出た。いつものようにドッジボールを始めると、男の子の投げたボールが女の子の顔に勢いよく当たり女の子は涙をこらえるも泣き出してしまった。泣き声を聞いて先生が駆け寄ってきた。それを見て男の子がポツリと呟く。

「何か面白くないな。女の子と遊んでても」

その言葉を聞いて、他の男子たちも続けた。

「だよな、ちょっと顔面にボール当たっただけで泣き出すし、勝負しても俺たちのほうが絶対勝つし」


続々と遊び場である園内の広場から男子たちが出ていった。彼方はその中で一番体の大きい男の子の手を掴んで言う。

「ちょっと!!鬼崎!いきなり何よ。まず謝りなさいよ」

しかし、彼方が立ち塞がっても無視して、手をふりほ出ていく。


「女の子とやっても面白くないって言ってるんだよ、そもそも女の癖にスポーツなんてするから悪いんだ」


彼方はすぐにも一発ぶん殴ってやりたかったが、そこをぐっとこらえて、先生の隣で泣いている女の子にかけよった。

「大丈夫?ちゃんとあいつらには謝らせるから」

「ごめん。彼方ちゃん、私がこんなことで泣いちゃうから」

「いいってどうせすぐ戻ってくるし、男の子に負けないように一緒に練習しよう?」

「ありがとう彼方ちゃん」


先生は座り込む女の子の膝に手を当てて、出血しているのを確認した。

「こけた時にすりむいちゃってるみたいね。消毒しに行こうね。立てるかな?」

「うん。大丈夫」

先生は手当のためにその子を事務室へと連れて行った。


「みんな!今度男子を見返してやろう。女の子は男の子なんかに負けないって」

彼方がボールを掴んで掲げるとその場の女の子たちは一致団結してドッヂボールを始めた。

彼方のカリスマ性はこの時からあったのだろう。








男子たちは手を洗って、教室に向かう。この幼稚園は男子よりも女子の方が多い。必然的に遊びの主導権は女子になってしまい、広場で遊ぼうと思ったら女子と一緒になってしまうのだ。

「彼方のやつ。ちょっと自分ができるからって調子に乗ってるよな」

「そうそう普通はスポーツなんて男がやるものなのに」


文句を言いながら教室のドアを開ける。そこには、二人で楽しそうに絵を描く陽菜と桜がいた。

「そういえばあいつらさぁ。なんか最近楽しそうだよな。何かいらいらするな」

「鬼崎くん。でもあの子たちは関係ないよ」

「何だ?俺に命令するのか?先生に怒られるのが嫌ならお前たちはそこで見とけって」


鬼崎と呼ばれた男の子は体がみんなよりも大きく力が強いため、みんなには鬼崎くんと呼ばせているし、文句を言うやつはすぐに暴力で解決していた。


「おい桜。楽しそうだな何してんだよ」

「鬼崎くん。私、今陽菜ちゃんとお絵かきしてて...」

「何だよ。俺たち裏切ってこんなぼっちと遊んでんのかよ」


陽菜はたまらず鬼崎を怒鳴りつける。

「何よ。あなたたちが桜を仲間外れにしたんでしょ!?」

「うるさいな。関係ないでしょ、ぼっちには。絵、描いてたんだろ?ちょっと見せろよ」

鬼崎は強引に桜からスケッチブックを奪い取る。そこには、二人で考えたカミルンの衣装の絵が描いてあった。

「だっせ!なんだこの落書き。おいお前らも見てみろよ」

鬼崎は他の男子たちのところに取り上げたスケッチブックを店に行こうとした。


「鬼崎くん!!やめて!返してよ!」


桜が鬼崎を背後から押し倒してスケッチブックに手を伸ばす。

「いってーな!!なにすんだよ!!」

鬼崎の振り回した腕が桜の頬に当たる。桜はその勢いで横に倒れこんだ。


陽菜はそれを見て怒りを抑えられなくなった。鬼崎は女の子を殴ってもなんとも思わないのか。なんて自分勝手で腹立たしい。


「鬼崎ぃぃ!!」


陽菜は鬼崎に拳を固めて殴り掛かった。しかし、鬼崎はいとも簡単に陽菜をはじき返す。よろけた陽菜はそのまましりもちをついた。


そのまま上を見上げると、一回り以上の対格差の鬼崎が立ち上がり、陽菜を見下ろしていた。

そして、鬼崎は桜にスケッチブックを投げ捨てる。放り投げられたそれは桜の顔に当たってパサリとページが開いた。


「こんなゴミいらないっての」


陽菜は鬼崎に再び殴かかる。しかし、鬼崎は今度は容赦しなかった陽菜の腹に思いきりけりを入れたのだ。たまらず陽菜はお腹を支えて倒れこむ。


「陽菜ちゃん!!」

駆け寄った桜は泣きながら陽菜の背中をさする。


「女が男に勝てるわけないってことだよ」

その鬼崎の一言に後ろにいた男子たちも賛同する。

「そうだ!俺たちの方が強いんだ..」

「いつも女子だから殴られないと思って、いつもうるさいんだよ」


(そんなの私達には関係ないことじゃない。私も桜も二人で教室で遊んでただけなのに)

でも痛い。お腹に蹴りを入れられたことなんて今までになかった。ボロボロと涙が零れる。


「どけ桜。陽菜には男子の方が上だって教えてやらないとダメなんだ」



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