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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
悪夢の始まり
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第四話

岩陰に身を隠しながら霧ヶ峰彼方は回復しようとリラックスしていた。そうは言ってもこの場所がよく分からない以上、油断は禁物だ。眠ることで大幅に回復することができるが無防備になるのは危険だ。

「あんまり長いこと居座ってるわけにはいかないよね。陽菜と合流することが第一だもんね。あんなドジっ子でも意外と頼りがいがあったんだって。今こういう状況になって身に染みて感じるよ」


彼方は幼い日々の陽菜を思い出していた。









陽菜と彼方は本当に幼い時から、物心つく前から一緒にいた。

「カミルンはね!!凄くかわいくて強くてかっくいいの!!!」

二人が幼い時に、昔流行したアニメがリメイクされて放送された。陽菜はその第一話をたまたま見ていた。それまでは無口だった陽菜がカミルンの話になると止まらなくなった。彼方はその時、普段自分が一人で喋っていることが多かったため、陽菜のその変化は嬉しかった。


でも、幼稚園では相変わらず無口だった。彼方は男女問わず楽しく遊んでいたが、対照的に陽菜は一人でいることが多かった。よく先生にカミルンの話をしていた。


「陽菜ちゃん。先生よりも友達とお喋りしてきたらどうかな?カミルンが好きな子いっぱいいるよ?」

「いいもん。どう話していいか分からないし」


陽菜はプイっとそっぽをむいて動かなくなった。お昼の外で遊ぶ時間。外からの日差しが教室に差し込む。そこには陽菜と先生だけが二つの影をぽつんと作っていた。


「彼方ちゃんにいったら仲間に入れてくれると思うよ?」

「いい。先生が忙しいなら一人で遊ぶ」


そんな調子で陽菜はなかなか幼稚園に馴染めていなかった。





休日の日。彼方は陽菜の家でごろごろしていた。

「ねぇねぇ。陽菜はなんでみんなと遊ばないの?」

「だってみんなもう仲良しの子がいるし、私なんていらないもん。」

「そんなことないよー陽菜。めちゃくちゃ面白いのに、今度一緒にお昼に遊ぼうよ」

「もう。ほっといて。私、友達なんていらないから!」


陽菜は大きな声をあげる。


「じゃあ私は?私も陽菜にはいらないの?」

「彼方。全然私のことわかってない。そんなの友達なんかじゃない!!」


「わかった」


彼方は短く呟くと立ち上がって部屋をでた。その日の陽菜はカミルンを見てもいつものようにはしゃぐことはなかった。


「”一人じゃできないことも力を合わせればきっとできるよ!!私は一人じゃない!!みんなの願いに支えられてるから!!”」

いつもならカミルンコールを送っている陽菜だが、今日ばかりはボヤかずにはいられなかった。


「私は一人でもいいもん。カミルンがいればそれでいいもん。」







次の日、陽菜が幼稚園に行って教室に入ると何やら騒ぎが起きていた。


「彼方!こんな足遅いやつと一緒に鬼ごっこしても面白くないからやめようぜ」

「何言ってるの!そんなこと言うなんてひどい、そんな仲間はずれするの駄目!!そんなこと言うの許さないよ!!」


男子と女子の言い争いに入ることなく、陽菜はゆっくりと椅子に腰掛けた。


「じゃあ今日は違う遊びにしよう。カミルンごっことかどう?」

「そんなの面白くないし!あんな弱そうなキャラクター面白くもなんともないし」

その一言に陽菜はイラっときた。でも蚊帳の外の陽菜は何か言えるわけでもない。


そこに先生が慌てて入ってきて、ひとまず事態は収拾した。


しかし、男子たちの不満は残ったまま。陽菜はその日、さっきの女の子の悪口を何度も耳にした。

そんなもの聞いても気持ちのいいものではない。もちろんその子とは仲がいいわけじゃない。ただ理不尽な悪口や態度に腹が立っていた。でも、嫌われるのが嫌で、友達とのいざこざに首を突っ込むなんて絶対に嫌だ。きっと彼方が何とかしてくれるだろう。

(彼方に任せておけば安心だよ。だって私には彼方が....)

そこまで心の中で思ってお絵かきしていたクレヨンの手を止める。そういえば昨日、彼方と喧嘩していたのだ。それを思い出してものすごく寂しい気持ちがこみ上げてくる。

「知らない!私は一人でいいもん...」



昼休憩の時間、いつもみんなで楽しそうに外で遊ぶ声が聞こえてくるはずなのに今日はどうも静かだと感じていた。いつものようにジャングルジムのてっぺんまで登って彼方はみんなをまとめている。前に先生に危ないから降りなさいと注意されたばかりなのに彼方は平気でてっぺんに立っている。


そんな様子を陽菜は一人でカミルンの絵を描きながら眺めていた。しかし、実際には教室にいたのは陽菜一人ではなかった。そのことに気づいて教室の隅、ドアの近くに膝を抱えている少女がいたのだ。陽菜はその子の泣き声で初めて存在に気づいた。

(あの子、今日の朝いじめられてた子だよね。)


その子は一人が嫌いで、さっき仲間外れにされたことがかなりショックなのだろう。自分とは違って一人に慣れていないんだと幼いながらも理解できた。余計な事はしたくなかったが陽菜自身も一人は寂しかったのだ。


「ねぇ。こっち来て一緒に遊ぼう。お絵かきとかしない?」

「え?陽菜ちゃん。いいの?」

「今日先生忙しくて、ここにいないからつまんないの。一緒に遊ぼ?」


こんなセリフ普通は言わなかっただろう。しかし、目の前に泣いている子がいるのに無視してお絵かきするのも気が引けた。



「上手だね、これカミルンだよね。私カミルン大好きなの」

その一言に陽菜は目の色を変える。

「本当に!?どのお話が一番好き?」

「私は熊さんとお友達になる話が好きなの」


陽菜は思わずその子の手を取る。

「そうそうあそこのカミルンのセリフがかっこいいの!!”見た目で判断しちゃだめ、どんな人とも仲良くなることを頑張ろう”って。やっぱりカミルンはかっこいいなぁ」

「陽菜ちゃんも凄くカミルン好きなんだね。私、この前お母さんにフィギュア買ってもらったよ」


「本当に?えっと桜ちゃんだよね。今度見せてよ!私まだ買ってもらってなくて」

「いいよ。私の家すぐ近くだし。幼稚園終わったら遊びに来ていいよ」


その後二人で一緒にカミルンについてお話した。二人で絵を描いて、変身を真似したりなんかもした。先生は話相手になってくれることはあっても、そうだね、と相槌を打つばかりで陽菜は自分一人が楽しんでいる気がしてならなかった。でも今は違う。


「陽菜ちゃんはカミルンになりたいの?」

「そう!大きくなったら悪いやつらぶっ飛ばしてね。弱い人を助けるの」

陽菜はカミルンの決めポーズを取ろうと足を動かすと、そこにあったクレヨンを踏みつけてすっころんだ。

「いてて。びっくりした」

陽菜はゆっくりと体を起こす。


「ぷっ。あははは!!」

「もう、そんなに笑わなくてもいいのに」

陽菜はぷくっと顔を膨らませる。


「ごめん。ずっとこわい子だと思ってたけど陽菜ちゃんすごく面白いから」

陽菜は人づきあいが得意じゃなくて話しかけられてもすぐにどこかへ行ってしまっていた。そんな一匹狼のような陽菜を見てみんな近寄りがたくなっていたのだ。


桜が笑ったのを見てつられて陽菜も何かおかしくなって笑っていた。

















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