第二話
海に顔面ダイブした陽菜はばちゃばちゃと水の中で手足を必死に動かして必死にもがく。それが余計に体を沈めているのだと彼方に何度も注意してもらったが、やはり怖いものは怖い。しかも普通の状態でも泳げないのに、今はさっきのブゼリアンの攻撃によって腕を中心に体を痛めている。呼吸のために顔をあげるのにも一苦労の状態でこのままいくと溺れ死ぬのは時間の問題だろう。
「げほっ!!ごほごほっ!!!やばいっ!!」
陽菜はなんとか魔力を使って翼を展開して水の中を脱出する。そのままふらふらと腕を抑えて低空飛行を続けながら最寄りの陸地に近づいていく。
「もうちょっと。あそこに何とかして着地を、きゃっ!!」
体制を崩して水面に足が触れる。最後の力を振り絞ってなんとか上昇するも、すぐに翼が消えてなくなり波打ち際に滑り込むように着陸した。ざざざーっとヘッドスライディングのように滑り込んで服はもうドロドロの状態だ。
「何とかなった、けど回復には時間がかかりそうね。」
よろよろと立ち上がって周りを見渡すとかなり閑散としている場所だった。ブゼリアンどころか鳥一匹の声もしない。陽菜は大きな木の根元に膝を抱えて座り込む。まだ腕の骨が痛む感覚が残っていた。以前戦ったものよりもかなり巨大なブゼリアンの破壊力はエネルギーシールドをいとも簡単に砕き、陽菜をここまで吹っ飛ばした。
陽菜は自分が飛んできたであろう方向も分からないがそれでもかなりの距離を飛ばされたのは間違いないだろう。あれほど巨大な影がどの方向を見渡しても見えてこない。
「彼方,,,。お願い無事でいて」
陽菜は思わず肩をすぼめて目をつむる。彼方は自分とは違って賢い人間だ。きっとうまく切り抜けているはずだ。そう信じることしかできなかった。しかし陽菜は身をもってやつらの恐ろしさを思い知った。あの状況を切り抜ける術が彼方にあったとはやはり考えにくい。
この魔法少女の活動が死と隣り合わせなのは知っている。現に陽菜と彼方は目の前で魔法少女の師匠が死んでいったのを見ているし、これまでも何度か危ない時があった。
「私を一人にしないでよ。彼方...」
瞼が重くなる。体力の回復だけでなく外傷の回復も魔力があれば徐々に直していくことができる。今できることはしっかり休んで彼方と合流することだ。陽菜は独りぼっちのまま眠りについた。この世界で離れ離れになるのは初めてのことで、恐怖もあった。しかし、陽菜は折れていなかった。
「一人で泣いてたら、彼方に馬鹿にされるもんね。」
陽菜が吹っ飛ばされて、何とか窮地を脱していた時、彼方は巨大なブゼリアンに挟まれた状況の中何とか体を起こして立ち上がっていた。いくら変身していた状態とはいえかなりの高度からの落下だった。回復にはそこそこ時間がかかる。通常サイズのブゼリアンたちはぺしゃんこにされるのを恐れたのか一匹も見当たらなかった。
「陽菜は大丈夫だよね、ていうかまずは自分のことだよね!!!」
敵は目の前の巨大なブゼリアン4体。正直倒すのは難しいが窮地を乗り越えて脱出するだけならなんとかなるかもしれない。息を吐いて、彼方は電気をバチバチと全身に纏い、光る翼を生やして飛び上がる。しかし、それを目がけて東西南北それぞれの方向から巨大な腕が彼方を襲う。
「そんなんじゃ追いつけないよ!!私の本気見せてあげるから」
だがブゼリアンの攻撃は木を揺らし、大地を叩くだけで少女にあたることはなかった。彼方は繰り出されるごとにどんどん腕を交わしていく。彼方は飛行に関しては、速度も技術も自身があった。陽菜に合わせて飛ぶ必要はない。どこからか突然現れた彼方の容赦ない電撃がブゼリアンの目に流れる。
「ぐがぁあ!!」
よろけたブゼリアンの足元にさらに電撃をまとった剣で切りつける。そのまま次々と低空飛行しながら足元を切りつけていく。足元を攻撃され手ブゼリアン達は目から光線を放とうと構える。
「エネルギーバレット!!!」
下を向いたところを目がけて背中を地面すれすれにしながら翻って狙い撃つ。命中力こそ散漫だが確実に何発かは目を叩いていた。
四体のうちの三体が地面に倒れこみ、残ったブゼリアンは地面に着地した彼方を警戒するように身構えている。倒れた三体も致命傷を受けたわけではない。徐々に視界を取り戻していっているのだろう。いくら飛行技術が高いからと言ってこのサイズのブゼリアンを戦闘不能にするのは容易ではない。
「ったく。今まではがむしゃらに突っ込んでくるだけだったのに。こっちの出方をうかがってるってわけ?本当に気味の悪いやつら」
彼方は剣を構えて地面を蹴って飛び上がる。それを見かねてブゼリアンは巨大な手のひらで押さえつけようとするが、彼方は後方へと翼を使って回避してさらに飛び上がり剣を振りかざす。
ブゼリアンは咄嗟に片腕を彼方の方へ伸ばす。
「そうやって手を伸ばすのを待ってました!!」
彼方は振りかざしていた剣を勢いよく体に引き寄せて前に突き出す。手のひらに思いきり剣が突き刺さり、彼方はそのまま前転するようにブゼリアンの腕に飛び乗る。
ブゼリアンが気づいたときにはもうすでに目と鼻の位置まで拳が迫っていた。
「ぐごぉぁ!!!」
ブゼリアンの顔面に彼方の本気の拳が突き刺さる。




