第八話
現実世界とは別の世界。どこかの薄暗い研究室。
ピピッピピ
機械の電子音が鳴り響いていた。赤青黄色と点滅を繰り返している。
人夢が襲撃したのは研究所の内の一つでしかなかった。本拠地の場所は地下に眠っているため地上をどれだけ探索しても見つけることはできないであろう。
そんな地下深くに眼鏡をかけた白衣の男は大きな培養液の横でかたかたとキーボードを打ち込んでいた。神山昇。この世界でブゼリアン達を繁殖させる科学者。
「カイよ。ついにお前を超える個体ができるかもしれない。これほどまでに知能指数を高く記録したのはお前以来だよ」
カイと呼ばれたブゼリアンは培養液に入っている生物をちらりと横目で見る。そこにはぷかぷかと両腕で足を抱えて赤ん坊のように安らかに眠っている姿があった。その容姿をカイは無視することができなかった。
「ドウイウコトダ。コノスガタハ...」
培養液に入っている生物の姿は完全に人間だった。きれいな肌色に明るい髪の毛をした女の体。カイはその少女に見覚えがあった。
「そうだ。ただブゼリアンを作っても強力な個体を生むのは難しい。お前のように突然変異する場合もあるがそう何度もあるケースではない。なら人とブゼリアンの遺伝子を混ぜ合わせて強制的に突然変異を起こしてやればいい。」
非人道的な行いであることは間違い無いが、倫理観はおろか人間性すらもずたずたに引き裂かれた男は躊躇わない。自分の研究目的のためなら平然と人の死もブゼリアンの死も利用する。
「当初はブゼリアンに人間の遺伝子を取り組んでいたが、ブゼリアンは人間の遺伝子を拒む。だから、何度も失敗した。だから逆にしたんだよ。母体を人間に設定し後からブゼリアンの血を入れてハイブリットを作る。だがこれも何度も失敗した。」
神山は試験管に入った真っ赤な血液を見つめる。
「ブゼリアンの遺伝子は人間の精神部分を急激におかしていく。僕はそれに適合できる個体を探していたんだ。そしたらあの憎たらしい女が適合するとは!!」
その人間は、ブゼリアンは培養液の中でゆっくりと目を覚ました。最初に自分が水中に浮かんでいることに気づく。音は何も聞こえないが、ぼんやりと視界が開ける。
中に浮かぶ生命体が目覚めたことに気づいていない。
「これで最近現れた謎のガキと、いつまでも人のテリトリーに邪魔をする魔法少女もすべて潰す。ふはははっ!!はーっははははははは!!!」
その目は赤く、爪がとがっていた。しかし、他の部分は完全に人間だった。
「人夢くん、、、」
ポツリと呟いた。その生物はなぜその名前を呼んだのか分からない。
そしてその生物は生まれて初めての疑念をいだいた。
「私は.....誰?」
野上人夢にとって、最悪の展開が幕を開ける。
師匠って誰なんだよって話ですが、前日譚は書こうと思っております。ぜひ、ご期待ください。




