第七話
魔法少女の二人はすでに爆音と閃光の中、すでに戦闘を始めていた。穴から世界を移動したかと思ったら運悪く群れのど真ん中だったのだ。
「ありえない!確実に数がおかしい。それに種類が色々増えてる気がするんだけど!!??」
陽菜は前方のブゼリアンを蹴り飛ばし、空飛ぶブゼリアンを魔法で撃ち落とす。しかし、群がる数はその勢いを落とさない。蹴り飛ばしたすぐにブゼリアンがむくりと体を起こす。
「陽菜!!それだけじゃない!!一体一体の力も上がってる。明らかにタフさが今までとは、、きゃあああ!!!」
翼を生やして空中戦を行っていた彼方の下方から、地上にいたはずのブゼリアンが飛び上がってきて、そのまま蹴り飛ばされる。翼に力を込めてなんとか体制を整えて下を見ると、飛び上がってきたブゼリアンは仲間に見事にキャッチされていた。
「まさか、あいつら空中に仲間をぶん投げたっての?そんな連携するなんて今までじゃ考えられない。陽菜!!このままじゃまずいわ!!一気に仕留めよ!!」
「わかった!!」
陽菜はブゼリアンを踏み台にして高く飛び上がって翼を生やす。その背後に空中部隊が襲い掛かるが、彼方がすかさず上から撃ち落とした。
「集中して陽菜。なるべく小さなエネルギーで決めよう。集中して」
「わかった。」
陽菜はうなずくと彼方と背中合わせになる。正直力の加減をするのには慣れていないが、前回のように魔力が尽きていいことなどない。
二人は両手をかざして魔法陣を描く。その異様な文様にブゼリアン達が飛んでくる。しかし、彼らは進めない。二人を中心にエネルギーの防壁ができていたのだ。ブゼリアン達は不思議そうにその壁を叩く。
「彼方。ちょうど集まってくれたみたいだね。。もういける?」
「大丈夫。さて、息を合わせるよ!!」
「「シューティングバレット!!!」」
次々に流れるエネルギー弾をよけようとブゼリアン達は一斉に飛び散るが、二人の攻撃は容赦なく体に叩き込まれる。一度おおざっぱでも対象を決めれば追尾し続ける少女向けアニメ、カミルンの技であるシューティングバレットをまんまパクった技である。この世界で魔法を使うときに大事なのはイメージ。頭のきれる彼方と違って不器用な陽菜が具体的に金や銅といった物質を空想することができない。
「どう、彼方。やっぱりカミルンは偉大だよね。」
ブゼリアン達が殲滅した後、でこぼこに穴が開いて静まり返ってから陽菜が背後の彼方に聞いた。
「まあ。カミルンの技が強いのは認めるよ。なんだかんだで私達が使ってる技は大抵カミルンのイメージだからね。それをすぐに完璧に使いこなせるのは凄いところだよ。本当に。」
「まあ、カミルンが使う技限定だけどね。師匠が教えてくれた魔法は全然使えないし、全体的に威力の調節とかできないしね」
陽菜は笑いながら答える。
「ところで、陽菜。今までとは比較にならないブゼリアン達の成長をどう思う?」
「わからない。確かに頑丈さとか力が上がっただけなら、手に負えないことはないけど」
「チームワークね。仲間を上に運んだのもあるし、時々息を合わせるような連携もあった。簡単にいうと人らしくなったってところかな。」
二人の知る限り、知能指数の低い生物ではないはずだ。それがゆえに人間との生き残り戦争に負けたのではないかと二人の師匠も言っていた。
二人は近くを探索し始めた。
「穴の反応は特にないか。それにしても、ブゼリアン達の姿がないのが気になるね」
彼方は辺りを見回しても特にこれといった影はない。リスがどんぐりを頬張って走っていくのが見えた。
「ひょっとして、さっきのでここらのブゼリアンは全部だったのかな。ねぇ彼方。ちょっとお腹減ったからあの果物食べてもいいかな。彼方もいる?」
陽菜は一本の木を指さす。
「あの実は師匠が食べてもいいって言ってたやつだね」
「そうそう。私達が初めてこの世界で口にした思い出の果物だね。あの甘さが病みつきになるんだよ」
彼方はきによじ登って実に手を伸ばしている陽菜を見て、師匠のことを思い出していた。
「---陽菜は危なっかしいやつだ。でもお前にないものを持ってる。私は君たちが力を合わせればできることは何十倍にも何万倍にもなると思っている。あいつを支えてやれるのはお前だけだ。頑張れ。----」
(師匠は私達二人にこの世界での生き方、魔法少女としての生き方を教えてくれた。本当にいろいろなことを.....)
「待って、確か師匠がブゼリアンのことについて言ってた。神山って科学者はブゼリアンの実験に人体実験をしてる可能性があるって、人の遺伝子を使っている可能性があるって、まさか神山は人体実験のために?いや、師匠も確かな情報じゃないって言ってたし、まさかね。」
そんな残酷なことを考えたくなかった。人間があんな黒い怪物の実験台にされているなんて。
(でも、最近増えた行方不明者やブゼリアン達の変化の理由すべてに辻褄があってしまう。もしかしたら私たちが倒してきたブゼリアンの中には人間の遺伝子があったとしたら?いや、そもそもその人間だったとしたら?)
「はい、取って来たよ。疲れたし食べよう。」
顔をあげると頭の上に葉っぱをのせた陽菜が果実を差し出していた。
「陽菜、頭に蜘蛛がついてる」
「嘘!!早くとって彼方ぁぁ!」
陽菜は頭を振り回すと頭から葉っぱが落ちる。
「嘘だよ。蜘蛛なんていない」
「ちょっともうやめてよ...はっはっへくちっ!!」
落ちてきた葉っぱに鼻をくすぐられてくしゃみする。彼方はそれを見て、涙が出るほど笑っていた。
「もう!先食べるからね!」
陽菜はそういうと手に持つ果実にかぶりつく。
「ん~甘い!!やっぱりこれほんとにおいしい」
陽菜が止まらぬ勢いでおいしそうにかぶりつくのを見て、彼方は目をつむって首を振る。
(変なこと考えても仕方ない。私の、いや私達のすべきことはブゼリアン達を殲滅してみんなを守ることなんだから....)
彼方は陽菜の取ってきた果物にかぶりつく。最初は甘く、師匠と陽菜の三人で食べたのをぼんやりと思い出したが、まだ熟していなかったのか、後味がものすごく苦く感じた。




